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52話 父の秘密とオネダリ

 静海に関する疑問の答えは、だいたい聞き終えた。聞きたいことはあと1つ。


「そう言えば。新たな神剣は見つかった?」

「いや、特に新情報はないな」


 父さんの守護省での主な仕事は、まだ未発見の強力な精霊剣の探索だ。咲さんから前に聞いた、現在確認されている精霊神剣の情報にも、父さんが関わっているらしい。


 まあ、今本当に聞きたいのはその事じゃない。


「そっか。じゃあーー父さんが今隠してる神剣については、何かわかった?」


 ……この事については、静海の事以上に他の人に伝わらない方が良いと思うから、さらに声量を抑える。


「……気付いていたのか」

「父さん、僕に対してはガード甘いからね。多分姉さんも気付いてないかもね」


 何かしら勘付いてはいるかもだけど。


「いつ、どんな状況で気付いた?」

「母さんに、父さんの書斎の掃除を任された時にね。なんか気配を感じたんだよ」


 数ヶ月前に気付いた事で、前から聞きたいとは思っていたのだけど。父さんの仕事が忙しかったり、僕自身受験で精神的余裕がなかったりで、聞きはぐっていたのだ。


「ああ、そうか。美奈には優輝なら、私の許可なく入っても良いと言ってあったな……それで?」

「最初は、父さんの契約している剣の気配かと思ったんだけど……」


 父さんも、精霊剣と契約している。第2級長剣型『賢者』だ。

 とはいえ、その日父さんは仕事に賢者さんを所持して出勤して行っていたから家にはいなかったし、賢者さんは何というか……いつも探るようにジロジロ見るような視線?というか気配というかを、こちらに向けてくる。


 けど、その日感じた気配は、


「なんていうのかな。声は聞こえなかったんだけど、穏やかで眠たげで、暖かく見守るような気配を感じたんだよね。それとーー鳥肌がたった」


 唐突に説明できない鳥肌が立ったのなんて、1度だけだ。それはーー咲さんに頼んで、『金剛』さんの神性に触れさせてもらった時。


「ふむ……」


 考え込むように目を閉じる父さん……数秒後、


「もしかしたら、優輝と相性が良いのかもしれんな」

「相性?」

「うむ……時が来たら、家族には真っ先に伝えようと思っていたのだが」


 父さんが居住まいを正して、真剣な顔になる。


「私がまだ若い頃に発見した精霊剣でな。眠っているような状態で、これまでほとんど何の反応も返ってこなかった。現時点でわかっている事は、神話級の力を秘めていることくらいだな。時折短時間ではあるが覚醒している事も確認されていたが、それは寝ぼけた状態のようなもので、今まで意思の疎通は取れなかったーー私が知っている情報はこのくらいだな」

「……思ったより少ないね」

「うむ、まあそんな訳でな。優輝の言う「見守るような気配」は、今まで観測された事がない。だからアレは、優輝に何か惹かれるモノを感じたのかもしれん」


 それってつまり。父さんの隠し持っている神話級精霊剣と、契約出来るかもしれないってこと、だよね……


「……っ」


 っと、だめだ、嬉しいけどまだ笑うな僕。あくまでかもしれない、だし。未定の未来を確定であると判断しちゃうのはいけない。


 今はそれよりも。何故父さんが、神剣を隠し持っているのかだ。


「ところで、「時が来たら」って事は、咲さんにも国にも、父さんの神剣の事は伝えてないの?」

「ああそうだ。あの剣に関しては、色々と複雑な事情があるのだ。国にも報告出来ない、複雑なものがな」


 ……ふざけた感じはない。大真面目なようだ。


「それは、魔神を討つ以上に重要な事?」

「それは否だな。アレを見つけ出したのも、魔神への対抗手段を探す途中で偶然、だからな。ただこれは、私個人の問題ではなくてな……すまないが今は、家族にも、これ以上は言えない。時が来るまではな」

「そっか……ならこの事に関しては、僕からは聞かない。けど、いつか絶対話してよねーー手遅れになる前にね」


 魔神が復活して、好き勝手し出してからでは、流石に遅い。


「当然だ、それでは本末転倒だからな」

「……ありがとう、父さん」


 なんとなく、感謝を述べたくなった。


「うん? 何故感謝なんだ? 私は家族に話せない隠し事をしているのだが」

「それは、僕らにとって不利益な事?」

「そんな訳ないだろう。私にとって今、一番守護したいものはお前達以外に存在しない」


 父さんは姉さん同様、時々困った言動し出すけど、それは家族愛からのお茶目だというのは気付いている。

 それに、お酒で少し口が軽くなっているとはいえ、かなり話し辛い事を聞いた訳だし。


「なら、ありがとうだよ。「いつも」を付けた方がわかり易かったかな、ふふっ」


 心から信頼している想いを込めて、笑顔でそう伝える。


「……その顔は狡いな。今なら、さらに我儘を言われても応えたくなるじゃあないか」


 ……あ。ワガママといえば。


「アキヒロ雅、ちょっとこっち来て〜!」

「んにゅ?」「おっ、なんだ?」「おいひいですよ〜」


 ヒロだけ返事が変だけど、こっち来てくれたからまあいいや。


「む……何やら、嫌な予感がする。口を滑らせたか……?」


 父さんがなんか呟いてるけど気にしない。思い掛けずだったけど、言質は取っちゃったもんね。


「ふふふ。みんな、ちょっと耳貸して?」

「ほい」「おう」「な、なんでしょう?」

「ごにょごにょごにょ……という訳で、ごにょごにょごにょ……まあ、そんな感じでね」

「にゅふふ、優輝もなかなか強かだねぇ」

「それでいけるのか?」

「というか、ほんとに良いんでしょうか……?」

「言質は取ったし、多分大丈夫!」


 さて。父さんに向き直り、早速ワガママを実行する。


「父さん、オネダリしたいんだけど、いいかな?」

「お、お強請り?」

「友達全員に、精霊防具をプレゼントしたいんだよね。出来れば僕らのと同じ、彩光精霊石を使用した最高のものをお願い! ね?」

「おっ「「お願いしまーーす!!」」しゅ!」


 僕が「ね?」と言ったらみんなもオネダリするよう、指示してみた。かなり無茶なオネダリなのは承知だけど、父さんはこれでだいぶ心が揺らいでるハズ。


「あーいや、それは……滅多にない優輝の我儘だから応えたいところではあるが。彩光精霊石は流石に難しいな……優輝と瑞希の時ので、かなり無茶したしな」


 まあ、そう言われると思ってた。難しいと言われるのも予想済み。


「どうしても、ダメ?」


 コテっと首を少し傾げ、困り眉笑顔で一押し。


「はうっ!」


 胸を抑える父さん。なんか良い笑顔だけど。


「わ、わかっ……いやいやいや。優輝、申し訳ないが、無い袖は振れないのだ」


 うんまあ、さすがに無理だよね、わかってた。なので次の段階だ。


「とまあ、全力のワガママはここまでにして……オネダリの内容は確かに僕の本心ではあるけど。でもまあ、最初から難しいって言われるとは思ってたよ」

「そ、そうか」


 僕の一言に、当てていた手で胸を撫でる。


「だから僕のオネダリは、「友達に、高品質の精霊防具をプレゼントたいから、可能な範囲で構わないから協力して」、だよ」


 精霊防具のオーダーメイドは、普通の服と違って精霊石を使用する関係から、最低でも10万はかかる。フルオーダーなら、さらに10万単位でかかるし、彩光精霊石を使用しないとしても、高品質を要求するなら……一人当たり最低でも40万、かな。


「ぬむむ……」


 このオネダリもかなりのワガママだけど、父さんのお仕事(国家公務員)的に、決して不可能な金額では無い。それに、僕や姉さんは今まで、個人的な理由でのお金のかかるワガママは、した事なかった筈だ。

 だから父さんには、かなりの貯蓄ポケットマネーがあると予想している……というか、ワガママ自体あまりした覚えがない。


 というわけで。今までしてこなかったワガママ分をここで全力投球すれば、父さんなら、


「……うむ。可愛い優輝の希少な我儘だしな、引き受けよう。それに、友人達の身を案じての我儘なのだ、お前の優しさに応えられなくては私のプライドが許さん」


ニッと笑い、了承してくれた。


「ワガママ聞いてくれてありがとね、父さん」

「「「ありがとうございます!!!」」」


 アキヒロ雅も、僕に習って感謝を述べる。


「なにやら面白い交渉をしているな」


 姉さんが来た……あ、ちょうどいいや。


「姉さん、今の父さんのセリフ、聞いてたよね?」

「うむ。友人達、全員分の、高品質かつフルオーダーな精霊防具を作らせる、だな」


 さすが姉さん、僕のしたオネダリに関して正確に理解している。


「うむ、そうだが……な、なにやら読点が多くないか?」

「というわけで!」

「ということで?」


 僕も父さんをマネて、ニッとカッコよく笑ってみる。


「優輝、親父殿の笑顔を真似ているつもりだろうが、圧倒的に「可愛い」が優っているぞ、というか超可愛い」

『わかる』


 ……妙な所で息の合ったツッコミをみんなにされた。というか話の腰折らないで。


「こほんっ……てな訳で父さん、お願いね!」

「ああ、私に二言はない。すべて任せなさい!」


 三度の言質いただきました。


「友達5人分のね!」

「……、は?」


 学園で特に親密になれて頻繁におしゃべりする友達は、7人。内二人、月影ちゃんはすでに精霊防具を持っているし、蒼月さんも作製中らしいから、後はサチさんとパフィンさん。


 今いる3人と、今ここにはいない残り2人で、計5人分だ。


「父さんが承諾したの、姉さんも聞いたよね?」

「ふふ、録音もバッチリだ。故に取れた言質は揺るがぬものだ、親父殿」


 小型のレコーダーを顔の横にかかげてそう追撃する。姉さんの十八番、「いつのまにか録音」が発動していた。さす姉。


「いやいや、ここにいる全員、ということではないのか!?」

「先程声を出して確認しましたよね、親父殿。友人全員分の、と」

「くっ……そういう事か。しかし3人なら余裕があるが、5人分はギリギリ……むうう」

「ああ、ちなみに鷲王さん。すでに私は了承しましたよ?」

「み、美奈?」「母さん?」

「つい先程ですが、母殿と、ついでに咲殿とは交渉済みです」

「くすっ、瑞希さんも丸くなったものですね。嬉しくなって了承してしまったわ。優輝さんと瑞希さんの戦闘着のようにふんだんに、は難しいけれど、少しは彩光精霊石を融通できますよ?」


 ……どうやら、さっき姉さん達が真面目な顔で話し合っていたのは、姉さんも友達の精霊防具についての交渉をしていたようだ。


 僕の方は、たまたま思い出したからだけど……申し合わせた訳でもないのにこんな風にやる事がかぶると、姉さんとの双子の繋がり的なのを感じる。なんか、妙に嬉しい。


「あなたもですか……ふっ。本当に我が子達は、色々と強く優しくなったものだな。まあなんにしても、二言はないと言ったしな……改めて、任せなさい!」

「やった!」

「うむ、計画通り」


 パシンッ


 自然と姉さんと目が合い、自然とハイタッチしていた。ふふふっ。


 こうして、父さん達との交渉は無事終わった。





 連休が終わる前に学園に戻らないといけないので、明日の昼頃には遅くとも出たい。名残惜しいけど、家でゆっくり出来るのは今日までだ。


 でもまあ、十分以上に羽を伸ばせたし、友達との絆もだいぶ深まったし、色々と情報も聞けたし……今回の連休は、実に有意義に過ごせた。大満足である。


 さて。アキがお風呂に入ってる間に、荷造りしとこっと。

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