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49話 魔獣討伐体験・守護者編

投稿予定曜日ギリギリになってしまい申し訳ありません。

「はい、猪が来ましたね。今から倒しますから見ていて下さいね」


 ドドドドドと地響きを立てながら咲さん目掛けてまっすぐ突っ込んで来る猪型。


「つ、ついに咲様の生戦闘が見られるのかぁ、感動だぜ!」

「うみゅ、マミヤ程興奮はしてないけど気持ちはわかる」

「咲様、どんな戦い方をするんでしょう。気になります」


 咲さんの戦い方に関しては、極力映像に残さない事になっている。今現在この星にいる守護者は咲さんだけだし、魔神もまだ封印中だからだ。


 咲さんは大戦時、魔神と直接対決していないらしく、封印中の魔神に咲さんの戦い方は知られていない。

 なので、復活した時に運悪く咲さんが不在で、その場で打ち倒せなかった場合、どこかで咲さんの戦闘記録の映像を見られてしまったら手の内や力量を知られてしまうかもしれないからだ。


 とまあそれが理由の一つ。けど一番の理由は。


「戦い方……戦い方ね」

「ん、優輝どしたの?」

「んー……まあ、咲さん見てればわかるよ」


 あえて説明はしない、見ればわかるから。


 守護者――超越者が、どれ程規格外なのかを含めて。


「はい、よいしょっ」


 咲さんが、真っ黒でトゲトゲの付いた、野球に使われるバットのような精霊具を片手で持ち上げ霊力を流すと、


ガアンッ!!


鉄と鉄を思い切り打ち合わせたような轟音が鳴り響き、サイズが通常の3倍位にまで巨大化する。


「おぉっあれが咲様の精霊剣か?」

「いや、あれは精霊剣ではない。ただ大きく硬くなるだけの精霊具だ。いや、特注の一級品ではあるから、だけと評するのは咲殿に失礼か」


 精霊具とは、精霊剣を含めた神霊石を使用した特殊な道具の総称だ。


 ただ単に精霊具と呼ばれた場合の精霊剣との違いは、心が生まれない事と、精霊剣固有の精霊術「剣精霊術」を持っていない事。


 多くの精霊具は、所持者が霊力を流し込むだけで効果を発揮し、精神が存在していないので契約する必要がない。つまり、精霊術士なら誰でも扱う事が出来る。


 咲さんが今持っている精霊具「黒鉄金剛くろがねこんごう」は、さっき姉さんが言った通り、一度に流し込んだ霊力量に比例して、ただひたすらに硬くするか大きくするかしか出来ない。

 けれど、その性能こそが、咲さんの精霊剣との相性が抜群に良いのだ。咲さんの特注だから当然といえば当然だけど。


「ふみゅ、じゃあ咲様の精霊神剣って?」

「咲さん、眼帯してるでしょ? その向こう側にあるよ」

「向こう側……もしかして目、ですか?」

「うむ。咲殿の右目と精霊剣『金剛こんごう』は、完全に融合している。そしてあの眼帯は、神話級の存在力をある程度隠す事の出来る精霊具「大樹之影たいじゅのかげ」だ」

「へーそーなのかー……それで、咲様の精霊神剣の能力ってなんだ?」

「それは……ん、咲さんが攻撃するよ、目を離さないでね」

「ああ!」


 猪型が咲さんの直前まで迫っていたので会話を打ち切る……雅のその質問も、多分見てればわかるだろうしね。


「あっ揺れるから気を付けてね」

『え』


 警告をするのを忘れてた、そしてちょっと遅かった。


「ふっ!」


 咲さんが片足を踏み込む、と、


ドゴッ!!


『うおわあっ!?』


直下型地震の様に地面が揺れる。友達3人は突然の縦揺れに少しよろめくけど、咲さんの動きからは目を離さない。さすがだ。


 ちなみに3人以外は慣れたもので、誰もよろめいてはいないし特に身構えてもいない。


 今の踏み込みで猪型のすぐ前の地面が盛り上がり、猪型はそれに足を取られて前方に転がる様につまずき一瞬宙に浮く。その体が地面に落ちる刹那に咲さんは飛び上がり、右手に持った黒鉄金剛を猪型の真上から突き出し、


ゴバジュ!!


再びの激震と、熟れたトマトを思い切り地面に叩きつけた様な音と衝撃音が辺り一帯に響き、しばしの静寂が訪れる。


『…………』


 おー、3人とも真顔になってる。うん、気持ちはよくわかる、僕も初見はそうだったし。


「あー……なあ優輝さん。猪どこ行った?」


 最初に口を開いたのは雅だ。


「あの小さなクレーターの中心あたりの赤黒いシミがそうだよ」

「……一瞬で猪がミンチより凄いことになるって、どういうことなの……」

「ミンチっていうか、ゼリー状みたいになってるみたいですね……あ、咲様の『金剛』の能力ってもしかして」


 おっさすがヒロ、この情報だけで気付いたみたいだ。


「はい、御察しの通り、『金剛』の剣精霊術は「身体能力の超強化」です。瞬間的に爆発的に凄いパワーが出せちゃいます。凄いでしょう?」


 いつもの優しげな声と笑顔で控えめに自慢する咲さん。可愛い。


「……なんか、咲様の戦闘映像を撮らない本当の理由、わかった気がします」

「えっ? ……あーそっか。情報漏洩防止もだけど、この風景見ても超越者以外参考になんないかもねぇ」

「うん? なんの話だ?」


 雅だけ理解出来ていないようなので補足する。


「咲さんの力が凄すぎて、映像を見ただけじゃ何をしたのかイマイチ伝わらないんだよ。リアルで見ても動きを見切れない人が大半なのに、映像じゃあなおさらね。だから、守護者候補生とかにこの映像見せても、魔獣との戦闘に関してまったく参考にならないわけ」

「はー、なるほどなー。やっぱ咲様スゲェ! ってことだな!」

「うん、それだけ理解出来てれば良いと思う」


 今はね。




 咲さんが黒鉄金剛に付着した赤いのを洗い流し終える頃、最後の犬型の群れが到着したので、駐在さん達の出番となった。


「あー、なんか見慣れた討伐風景って感じだな」

「そだねー、動画だとこうよねー」


 駐在さん達の戦闘風景は、座学の授業などで頻繁に見る魔獣討伐の動画内容そのものだった。これでも、映像で見るのとはやっぱり違う印象を得られるとは思うけど……


「でもまあ、やっぱり咲さんのを見ちゃうと、なんていうかインパクトに欠けるよね。参考にはなるんだけどさ」

「うむ、私には何をチンタラやっているのやらといった印象しかもはや浮かばないが、まあ初心者ならばな」

『…………』


 ……何故か生暖かい目で友人に見られてしまった。なんだろ?


「一応言っとくけどね。優輝と瑞希の戦い方もあたし達からすると、咲様程とは言わないけど参考にならないからね?」

「え、そうかな?」

「そうですね。お二人も凄すぎて、魔獣討伐の参考に出来る人は少ないと思います」

「だよなぁ。ま、それ以上に、対抗心も生まれたけどな」

「んにゅ、そだね」

「え、えっと……頑張りますからね!」

「あー、うん。ガンバレ?」

「うむ、ガンバレガンバレ」


 よくわからないけど、なんかやる気に満ち満ちてるようで何よりだった。



 ――こんな感じで、誰も大きな怪我をする事なく、友人達の魔獣討伐体験は無事に終了した。

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