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48話 魔獣討伐体験・実戦編

「後方から犬型の新たな群れを確認、数5。さらに中型猪1を確認しました」


 続報があったけどまだ距離が離れているから、とりあえず目の前の魔獣に集中して問題ない。とはいえ猪は当然足が速いから、ゆっくりは出来ないけど。


「さて、久しぶりの魔獣討伐だが」

「そうだね。前回は入学準備とか色々あったから……二ヶ月前くらいかな?」

「ふむ。優輝、何も問題ないだろうが、一応気を付けろ」

「姉さんもね」


 姉さんと短く激励し合い、それぞれの討伐対象に向かって進む。


 今回の各自の割り当ては、姉さんが犬型の群れの第一陣全部を一人で担当。僕は大型熊一体担当。小型熊を咲さんの監督の下、アキヒロ雅が迎え撃つ。

 後方から来る新たな犬型の群れは、菱形さん含む駐在さん達が処理する。

 猪は、その猪突猛進さから小型熊より危険度が高めなので、咲さん一人で対応する。守護者がどれ程の実力を持っているか、僕の友人達に見覚えてもらう目的もある。


 さて。僕の担当の大型熊だけど……咲さんに夢中なようだ。存在力の高い者ーー守護者の咲さん目指して進んできたのだから、当然といえば当然だけど。


「つれないね、こっちを見なよ」


 バチッと「遠雷」から放電させると、僕の方も脅威と認識したのか、こちらを見て咆哮を上げる。基本存在力の高い者に襲いかかる魔獣だけど、自分に明確な敵意を持つ者がより近くにいた場合は、そちらを優先する傾向がある。


 大剣型精霊剣「遠雷」は低級精霊剣ではあるけど、精霊属性と同じく希少な雷属性の神霊石を使用した雷属性の大剣で、僕と相性が良いし、契約期間も5年以上だ。なので僕は、下手な中級剣の使い手にも負けない自負がある。


 「遠雷」を振り上げ、肩に乗せる。いつもの構えだ。


 僕の魔獣討伐時の戦闘スタイルは、一撃必殺。強化術で身体強化し、さらに雷属性の近接戦用精霊術「迅雷」を纏い、稲妻の如く移動し、強烈な一撃のもと屠る。


「っ」


 友達の内の誰かが息を飲む。僕と姉さんが倒し終えるまで、友人3人は見学だ。その間小型熊は咲さんが抑えている。

 咲さんにとってこの程度の魔獣なんて、一人で全部鼻歌を歌いながらでも軽く倒せるから、何も心配はないけど。あまり手間はかけさせたくないので、手早く済ませよう。


「てやっ!」


 雷を纏い、稲妻になって文字通り一瞬にして相手との距離を詰め、肩に乗せた「遠雷」を勢い良く振り抜き袈裟懸けに熊型を斬り裂く。


「ゴ……」


 電撃を纏った大剣で斬り裂かれ、煙を上げて棒立ちになる大型熊……けど、体色はまだ真っ黒だ。


(判断ミスったかな。全力じゃなくても一撃で仕留められると思ったんだけど。もうちょっと雷撃強めにしとけば良かったかも)


 魔獣討伐の心得。魔獣化した動物は体色が異様なまでに真っ黒か真っ白になり、身体維持が出来なくなるまで損傷、つまりは生命活動を停止すると、動物はその生物本来の体色を取り戻す。

 この大型熊は、普通の動物なら致命傷なほど斬り裂かれながら、未だ体色は真っ黒だ。事切れるまで時間の問題だろうけど、一回くらいは攻撃してくるかもしれない。


(少し離れて色変わりするまで観察するか、もう一撃食らわせて完全なトドメを刺すか。ん、もう一撃食らわそう)


 刹那迷ったけど、間を置かず振り抜いた剣を翻してトドメの一撃を放とうとした、次の瞬間、大型熊の墨汁で染めたような真っ黒な体色が普通の熊の体色に変わり、その場に倒れる。


(んー。予想よりわずかに生命力が高かったからか、当初の予測より活動停止するまで一瞬長かったね)


 一応一撃で倒せたし、まあ結果オーライかな。体色が完全に変わり終えるまで油断せず視線を逸らさなかったから、咲さんからの駄目出しはない……といいなー。


 パンパンパン!!


 僕が構えを解くと同時、銃声が6回響く。姉さんのものだ。

 ……3回にしか聞こえない? 強化術使ってない状態ならまあそうかも。でも間違いなく6発撃っている。だって、6体いた犬型の体色が、普通の犬のものになっているから。


「ふむ。まあ、この程度だな」


 殲滅完了を確認してから、羽織った白衣からハンドタオルを取り出し、銃を拭く。


 銃型の精霊剣は、精霊石を使用した特殊な弾丸を装填し、弾丸に自身の霊力を流し込んでから放つと、弾丸に使われている精霊石の質や精霊剣の等級・術者の実力で威力にかなり幅があるけど、拳銃とは思えないくらいの破壊力を叩き出せる。今まで記録された拳銃型の最高威力は、確か……レールガンに匹敵する威力とスピード、だったかな。

 ただ、その分かなりピーキーで、霊力の調整を誤ると高確率で暴発する、未だ扱いが非常に困難な精霊剣なんだけど……とまあここまでが、市場に出回っている銃型精霊剣の話。


 姉さんの拳銃……リボルバー型精霊剣「浅海」は、姉さんのオーダーメイドで、属性も姉さんの精霊属性と同じく水属性。

 市販の銃型精霊剣用の弾丸を装填しての銃撃も可能らしいけど、姉さんは弾丸として、自らの精霊術で凝固して作った水の弾丸を装填している。

 この弾丸なら霊力の続く限り装填し放題な上、水の精霊術で直接シリンダー内で弾丸を作り出しているため、リロードのためにシリンダーを開ける作業を省けるため隙が出来ないらしい……うん、普通の銃の常識ぶち壊してるけど、こんな芸当は多分姉さんにしか出来ないから、あまり深く考えてはいけない。


 簡単に言うと。あれは姉さん謹製の精霊水鉄砲だ。相手を殺せる威力が出せるけど。

 欠点は、装填するたびに銃身が結露するくらいかな。なので姉さんは、発砲後は毎回必ずハンドタオルを取り出して水滴を拭っている。


「なんか二人共あっさり倒し終えてるけど、これ絶対学園入学して一か月の新入生が出せる実力超えてるよねぇ」

「す、凄いです……特に優輝さん、相手と対峙した時の雰囲気、いつもと別人って感じで、なんていうかそのっ、か、カッコイイです!」

「だよな、歴戦の戦士って感じが痺れるぜ」


 う……こうも褒められると、ちょっと照れる。


「そ、そっかな? うん、あ、ありがと……あーちなみに、姉さんの雰囲気は?」


 気恥ずかしさを紛らわすために、とりあえず思いついた事を反射的に聞いてみた。


「えっ? えーと……うーみゅ」

「その……銃の腕前は恐ろしく早くて凄すぎて、なのですが……雰囲気はいつもと変わらずで、何というか、つまり普段から凄い? ……何言ってるのかわからなくなってきました……」

「……うん、僕も微妙な質問してごめん」

「要するに、いつもいつでも平静でいられるって事だよな。うん、俺も見習わないとだな……」

『…………』


 だいたい天然発言で返す雅が、珍しく一人だけまともな感想を述べ、思わずみんな黙ってしまった。まあ、ある意味天然だから出てきた言葉なのだろう。


「そちらは終わりましたね? では茜葵さん大さん雅さん、交代です。先程の私の指示通りに戦ってみて下さい」


 咲さんが、小型熊の攻撃をスイスイ躱し続けながらこちらと話す。あぶないあぶない、雑談始めちゃうとこだった。


 というかやっぱり守護者の体力って凄いなあ。咲さん、今まで休まず避け続けてたのにまったく息切らしてないんだもの。




 交代した友人3人と、小型熊との戦闘は、だいたい3分位で終わった。

 戦闘の内容としては、雅が相手の攻撃を引きつけ、アキが素早い動きで翻弄・撹乱し、二人が作った隙にヒロが強烈な一撃を叩き込む、という戦法だ。授業ではまだツーマンセルの戦い方しか学んでなかったけど、守護者の指示があったとはいえさすが友達同士、ぶっつけ本番でもなかなか良い連携だったと思う。


「みんなお疲れ様ー」

「うむ、まあ初戦であれだけ動ければ問題ないだろう」

「んふふー、まっ当然!」

「咲様の指示も心強かったしな!」

「戦う前は、ちょっとヒロが心配だったけど。良い動きだったよ」

「は、はい! 事前に咲様と瑞希さんからアドバイスされていたから、なんとか行けました!」

「ふむ、大した事を言った覚えはないが。まあ、なんとなくした助言で相手のやる気を引き出した私はさすがだな」

「ですが、まだまだ荒削りです。日々精進です、これからもこんな感じで頑張ってね」

『はいっ!』


 友達3人の良い返事が響き渡ったところで、今回の討伐体験の実戦編は終了となった……


「あ、そう言えば優輝さん。ほんのちょっと油断しちゃったわね」

「う……は、はい」


……と思ったら、最後の最後に駄目出しされた。


「野良の魔獣程度だから全然問題はないのだけどね。魔神の指揮下にあった場合は、万が一もありえたから。気を付けてね」

「はい。アドバイス、ありがとうございます」


 うん、反省……もっと頑張らないと。


「……えっと。あたしには、何も問題なかったようにしか見えなかったんだけど……」

「ああ、俺もそう思う……けど、咲様がああ言ってるしなぁ」

「強さの次元が私達の数段上だからかなぁ……追いつきたいね、アキちゃん、雅君」

「んにゅ、そだね。友達なんだし、やっぱ肩を並べたいとこよね」

「おう、頑張ろうな」

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