4話 上から来た友達申請者
「しかし優輝、よく覚えているな」
「姉さんが覚える気なさすぎなだけ……でもないか。僕も日記を見て、うろ覚えなとこを思い出しながら話してたし」
「ははっ、謙遜はするな。で、この後は……自由時間だったか」
――――――――――
「みなさんありがとうございました〜。ではホームルームはここまでで……1時間程、自由時間です〜……親睦を、深めて……くだ、くぅ……」
言いながら、教卓に置いたマクラに顔を埋め、眠り始めるネイ先生。みんなは戸惑っているようだけど、わりとよくある光景だ。
「えーと……自由時間で良い、のよね?」
数秒の沈黙後、塩谷さんの台詞をキッカケに教室が賑やかになる。
で。僕らは案の定、質問責めにあっていた。
「水城さん、好きな食べ物は?」
「えーと、トマトかな。姉さんはなんでも食べるからよく知らないけど」
「しかし、2人とも間近で見るとヘタな芸能人より可愛いわね……彼氏いたりする?」
「いません」「不要だ」
「水城さん髪綺麗だね〜。シャンプーは何使ってるの?」
「えっと、BRX社の太陽花って名前のだね」
「へ〜……私も今度試してみよ」
ちなみに姉さんは「私にしか答えられない質問でなければ優輝が」と僕に丸投げして静観を決め込んでいる。まあ予想通りだから大した問題はない。
「水城さん、好きな異性のタイプは?」
「うーん、考えたことないからよくわからない。とりあえず、飯屋峰君みたいな、相手の事を考えない強引過ぎる人は苦手かな」
その飯屋峰君はというと、気絶したまま椅子に縛られて教室の1番後ろに放置されている。縛るのはやり過ぎな気がしなくもないけど、さっきの件があるから仕方ない。
「水城さん、咲様と昔馴染みか〜。しかも直々に精霊術の手解き受けたとか、羨まし過ぎる! リアル咲様ってどんな感じなんだ?」
「咲さんは穏やかですごく優しいよ。なんていうか、もう1人の母さんみたいな存在かな」
「じゃあネイ先生は?」
「うーん、先生は……基本優しいけど、ちょっと子供っぽさが残るお姉ちゃん、かな」
「というか、2人共……特に眠り姫は名字も名前もミズキな訳だし。えーと……水城の妹さん、下の名前で呼んでいいか?」
「……。うん、まあ、それでどうぞ」
「よし、じゃあ優輝さんで!」
妹……まあ、だよねえ……
「優輝は史上最高に可愛いからな」
「むぅ……」
僕の考えてる事を読んで、ドヤ顔で言う姉さん……さすがに今のはちょっとだけイラっと来た。思わず軽く睨む。
「おまっ間崎! なにいきなり抜け駆けしようとしてんだ!」
「え、なにが?」
「ああ、天然入ってるのかこいつ……ともかくっ! 俺達も水城さん達のこと名前で呼んでもいいよな?」
「うん、いいよ。みんなもご自由にどうぞ」
「むぅ、出遅れた……近付けない。席が離れてたから仕方ないけど」
「凄い人気だね、水城さん。それに、男の子にあんなに近付かれてるのに堂々としてて……可愛いけどなんかカッコイイね」
「ヒロはもう少し男子耐性付けようね? まあ今はともかく……ふみゅ。上が空いてるか」
「ふえ? 上って……あ、アキちゃん!」
「上から来るぞ、気を付けろ」
姉さんからの突然の警告。さらっと言ったから、僕以外は意味わかんなかっただろう。
「うん? あー、わかった」
「え、何の話?」
視界の端に、助走を付けて駆け出した女子を確認。あれは……海老江さんだったっけか。周りのみんなに警告は……遅いか。
「ちょいと失礼! ほっ!」
「ぐあ! 俺を踏み台にした⁉︎」
僕の周りに集まっていたクラスメイトのうちの男子1人(佐藤君)を踏み台にして宙を舞う海老江さん。さすが、運動好きと言っていただけあって軽やかだ。
(着地予想地点は僕の机。手で持って固定してあげよ……って!)
落下の慣性でふわりと海老江さんのスカートが上にめくれ……慌てて下を向く。
「みずいろか」
「……報告しないでいいってば」
まったく姉さんは……わざわざ下向いて見ないようにした意味ないじゃないか。
「10点!」
ガタッと、思ったより小さな衝撃。綺麗に着地成功したらしい。
「待ってたらいつになるかわかんなかったんで跳んで来ましたっ! 海老江 茜葵だよ!」
「そ、それはどうも……水城 優輝です」
顔を見ようとするとスカートの中見えちゃうと思うので、海老江さんの脛に挨拶する。というか周りの男子の視線からして絶対見える。
ええと、とりあえず……
「みんな、海老江さんの降りられるスペース空けてくれる? あんまり長時間晒し者にしたくないし」
「えっサラシ? してないよ? ブラならしてるけど……ていうか、お話するなら顔見て話そうよ〜」
「いやだから、その……姉さんバトンタッチ」
すぐに台詞が出てこなかったので姉さんに任せた。
「男子の獣の眼光が海老江 茜葵の淡い水色パンツを凝視しているぞ」
「やめたげてよお!」
説明する人選を間違えた気がする!
『…………』
姉さんのオブラートに包まない直球の状況説明でようやく理解したようで、手でスカートを抑える海老江さん。男子は気まずそうに視線を彷徨わせ、女子の非難するような視線が男子に集まる……不可抗力もあるしちょっと可哀想かな。
「ほら男子! とっとと水城さんの席から離れる!」
塩谷さんの台詞で空間が少し空く。
塩谷さん、委員長タイプだなぁ。塩谷さんに説明頼めば良かったのかもしれない。
「……踏み台にされた俺は許されるよな?」
「有罪よ」
「理不尽だ!」
佐藤君と塩谷さんの痴話喧嘩(仮)が始まったところで、海老江さんがゆっくり降りてきた……顔がすごい真っ赤だった。可愛い。
「んもうっ! もっと早く教えてよ〜水城さ〜ん!」
「女の子だろう気にするな」
「女の子だから気にするんだよ⁉︎」
「ごめんね海老江さん、恥かかせちゃって。咄嗟に上手い言葉が出てこなくて」
「ん〜そっか。なら仕方ないね!」
「……切り替え早いね」
まあいつまでも根に持つ人よりはよっぽど好感が持てるけど。
「それよりなにより! 水城ちゃんズにお話があります!」
「……ズ?」「む、私もか」
「そう、2人!」
言いながら僕らの手を取り自分に引き寄せ、
「あたしとお友達になってください‼︎」
笑顔満面でそう叫ばれた。
「ふむ……面白い奴だな、気に入った。まあ、優輝の返答次第だが」
おっ……姉さんが積極的に他人を受け入れようなんて珍しい。
「どきどき」
期待の眼差しで、声にまで出してどきどきされると、さすがにちょっと気恥ずかしいけど……姉さんが受け入れ姿勢なら、僕の答えはひとつだ。
「うん、いいよ。これからよろしくね、海老江さん」
「アキって呼んで! さん付けもなしね?」
「えっ、んっと……じゃあアキ、僕も優輝でいいよ。えへへっ」
「うんっ! えへへへっ」
「照れ顔の優輝さん、めちゃくちゃ可愛いぜ……」
「騒がしさが目立ってたけど、海老江さんも結構可愛いよな……ここに百合の花を咲かそうぜぇ」
「うむ、優輝は世界一可愛いからな。だが優輝の可愛さポテンシャルはこんなものではないぞ」
「さっきから気になってたけど……瑞希さん、優輝さんのこと大好きなのね」
「当然」
「……顔が瓜二つの双子の妹が好きってとこはノーコメントの方が良いのかしら……」
「というか、ミズキ……お姉さんの方はなんて呼ぼう? 名字も名前もミズキだし……ミズミズ?」
「姉さんにその呼び方は合わないかな……」
「学園の素敵な天才美少女瑞希お姉様でいいぞ」
「長っ! ていうか天才?」
「私は天才だからな」
「普通に瑞希だけで良いからね」
「ん〜、よくわかんないけどわかった」
「……優輝のイケズ。まあそこも好きだが」
「あ、そうだ。アキさんに聞き」「呼び捨てで!」「あ、つい。それでアキ、みんなを跳び越えてまで僕らに友達申請に来たのには、なにか特別な理由でもあるの?」
「あー、んっとね……前から双子の娘と友達になりたいな〜って思ってたんだよ。理由はそれだけかな〜」
「ふーん、そっか」
んー……なんか気になるけど……まあまだ友達になったばかりだし、深くは聞かないことにしよう。
登場人物紹介
海老江 茜葵
容姿:赤髪ロング 右サイドテール 可愛い
身長:157cm
性格:明
好物:美味しいもの
嫌い:特になし
趣味:運動 料理
属性:火
騒がしい系女子。一人称はあたし、私。
思いついたことは即行動に移す積極性を持つ。それゆえに相手の地雷を踏みかけることも。それなりに空気は読めるので、完全に踏み抜くことはあまりない。
運動神経抜群で動きも口も騒がしいが、趣味のひとつは料理。美味しいものを求めているうちに自分でも料理するようになり、気付いたらハマっていた。
昔から『双子』に強い感心があり、芸能人やアニメ、漫画などで双子が出ていると思わず熟視してしまう。リアルで近い年齢の双子に出会えたら友達になりたいと思っていた。