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47話 魔獣討伐体験

 次の日は、いつも通り朝鍛錬をして、家で母さんとアキとで料理を教えあったり村をざっと回ったり、まあ概ねのんびりと過ごした。



 そうして、村に帰って来て3日目。咲さんが首都から帰って来たので挨拶に行き、二言三言話した時だった。


『偵察隊より入電。観測所より、北東約10キロ地点にて、魔獣と思われる動物を発見。タイプは、犬型5・6体、大型熊が1、中型熊が1となります』


 魔獣発見の村内放送が鳴り響いた。


「おっ!? おー予想はしてたけど、ついに来たのね!」

「あらあら、またタイミングが悪いわね」


 放送を聞いたアキと咲さんが声を上げる。


 ちなみに、魔獣発見時にこうして速やかに報じられるのは、学園の座学で学んだし、村に着く前にもアキたちに伝えてあるので、三人共驚いた様子はない。


「あ、そうだ、良い事を思いついたわ。せっかく栄陽学園本校の守護者候補生が来ているのだから、体験討伐してもらいましょう。魔獣を殺すことが出来るかは、早めに知っておいた方が良いですからね」


 と咲さんが提案し出した。


「そうですね……」


 動き回る生物を仕留めることと、魔獣化しているとはいえ生物を殺すこと。二つの意味でそれが可能かは、早めに判明させておいた方が良い。自分の進路を決めるためにも。


 特に、二つ目。現代人が生物を自ら手にかけられるかどうか、そして、事後平静でいられるか、すぐ平静を取り戻せるかどうかは、とても重要な事だ。


 僕らは経験済みだけど、やっぱり良い気分はしなかったし、ある程度慣れた今でも、本当は殺したくはない……姉さんは銃使いなのもあってか、あまり気にしてない様子だったけど。いや、どっちにしても姉さんなら平然としてるかな。


 とにかく。生き物を殺すという事には、ある程度強い精神力が求められるのだ。お肉になった豚を切るのとお肉にするために豚を切るのとでは、大きく意味が違うのと同じで。


「でも、学園に無許可で参加させて大丈夫なんですか? 学園に入る前に討伐に参加していた僕が言うのもなんですが」


 学園生になった身で、授業外で魔獣討伐に参加なんかしたら、何かあったら責任問題は学園に問われると思うのだけど。


「大丈夫大丈夫、私は守護者だから。私がいれば万に一つもないわ」

「そうだな、咲様がこう言ってるんだから船乗りだぜ!」


 あ、これ多分ダメなパターンだ。ていうか雅、もしかして大船に乗るって言いたかったのかな?


 ノリノリな咲さんと雅の姿と、それをまったく気にした風もなく傍観している姉さんに、軽く頭痛を覚える。

 アキヒロはしょうがないなぁとでも言いたげな困り顔だから、軽くで済んだけど……とにかく。


 僕は僕で、冷静に判断して動かないと。


(んー、こういう時は……まあ、学園に勤めている人に聞けば確実、かな)


 まだ遠いとはいえ、魔獣が発生したのだ。手早く決めて、話す。


「というわけで」

「ということで?」

「ネイ先生に聞いてみよう」

「うみゅ、そだね」

「それが良いと思います」


 早速ネイ先生のケータイにコールする。




『ダメですね〜』

「ですよね……咲さん、ダメだそうですよ」


 事情を手短に説明したら、即却下された。


「あらあら、寧ったら意地悪ね。私がいるから万に一つもないわよ?」

「うーん。確かに僕も、万一もないとは思いますけど……」

『いえ、母様でも、億一くらいならあり得ますから〜……それと、私の一存では決めかねますし。というか私に相談してるから私の責任問題になっちゃうんですよねー……』

「あ。なんかすいません」

『いえいえ、優輝さんの判断は的確だと思いますよ〜』


 良かれと思った判断が、ネイ先生の迷惑になりそうだった。


「うーん……そうだ! みんなに素振りをしてもらいましょう!」

「唐突ですね……どういう意図ですか?」

「みんなの動きを見て、討伐に参加しても問題がない実力があるかどうかわたしが見極めて、大丈夫そうなら参加させます。それで万一は絶対にありません」

「……と言ってますけど。ネイ先生、どうしましょう?」

『ふ〜む……優輝さん、守護者と電話を代わってください〜』


 守護者呼び……なるほど。


「わかりました。咲さん、ネイ先生が代わって欲しいそうです」

「あら、何かしら」


 咲さんに僕のケータイを渡す。

 二言三言の会話の後、咲さんは送話口に、さっきみんなに告げた提案を再び話し始めた。


「優輝さん、どういう話の流れですか? 」

「ネイ先生、咲さんの言質を取ってるんだよ。何かあっても私は責任を負いませんって証明するためにね」

「あー……」


 察したヒロが、微妙な笑顔になる。


「さっきの提案を大きめの声で復唱させてるから、多分咲さんの声を録音してるんだと思う」

「うむ、だろうな」

「ワーオトナキタナーイ」

「ふむ、そうか? 必要最低限の処世術だと思うが」


 固まった笑顔と棒読みでそう言うアキ。でもまあ、僕も姉さんの意見には賛成だし、ネイ先生の立場を考えたら仕方がない処置だろう。


「あー。結局、討伐には参加出来るのか?」

「出来るよ、多分ね」

「おっそうなのか。なら良かったぜ」


 雅だけは、イマイチ状況を掴めていなかった。でもまあ、その純粋さは貴重だ。成人してもそのままの雅でいてね。





 というわけで。咲さんは無事?娘さんに許可を得られたので、僕らは素振りを披露した。


 でまあ、一応みんな合格した。


「瑞希さんと優輝さんは、やっぱり良い動きをしますね。日々上達しているようで嬉しいわ」


 今回も守護者(咲さん)から高評価を得られた。鍛錬怠らないで良かった……


「雅さんと茜葵さんの動きは昨日も見せて貰ったけれど、二人共まっすぐで素敵ね」

『ありがとうございます!』


 雅とアキも高評価。


 で。最後にヒロの評価だけど……


「大さんは力がとても強いし、技術もそれなりにまとまっているわ。けれど、「恐れ」と「躊躇」が棍の扱いから感じ取れました。恐れは力に変えられるから、気を付けるべきなのは躊躇の方ね」

「は、はい……わかりました」


 咲さんは優しく諭すように助言するので、それほどショックを受けた感じは見られない。多分、ヒロ自身自覚があるのだろう。

 けど――


「今回は私が一緒出来るから参加させてあげます。けど、私が同行出来なかったら……私の判断としては、大さんはお留守番ね」

「っ!」


――さすがに今の台詞は堪えたらしく、悲しげな顔で俯く。


 そんなヒロを優しげに見つめ続けながら、咲さんは話を続ける。


「大さん。あなたは強くなれます。今の弱さを克服出来たら、そして神話級と契約出来たら……私以上に強くなれる可能生を、あなたに見ました」

「……。へ?」

「頑張ってね、大さん。くすっ」

「は、はぁ……わかりました?」


 低評価からの高評価に、何言われたのかすぐに理解出来ないヒロ。


 というか、僕も結構驚いている。確かに、ヒロの潜在能力には眼を見張るものがあるとは思っていたけど、咲さんがここまで高く見るのはさすがに予想外だった。


「な、なんか、私なんかがこんな、咲様に……嘘みたい……」

「咲さんお世辞も嘘も苦手な人だし、ネイ先生以上に潜在能力を見抜く目に長けていると思うから、ヒロの可能性は本物だよ。ふふっ、ちょっと妬けるかな?」

「さっすがヒロ! あたしが見込んだだけあるわ〜!」

「咲様にあんなに評価されるなんて、すごいじゃないか! おめでとう、ヒロさん!」

「うむ。まあ、お前の実力が開花した時の事を予測するなら、咲殿の評価は当然のものだな」


 みんなしてヒロを褒めそやしたからか、真っ赤になりながらも満更でもない照れ顔になるヒロ。可愛い。


「まっまぁ? 腐っても栄陽学園本校に入れた訳ですし? 当然の評価と言えなくもないですけどねぇー! ふ、ふふふふふ……すいません調子に乗りました自重しましゅっ! うー……」


 珍しく少し調子に乗った発言をしだしたと思ったら、自分の発した台詞に恥ずかしがって台詞を噛んだ。慣れない事しようとするから……可愛いけど。




 一人でワタワタしてたヒロが落ち着いてから、魔獣討伐の準備と注意事項を確認する。


 まず、魔獣を倒しに行くのだから、当然武器が必要だ。僕と姉さんは、低級だけどすでに精霊剣を所持していたりする。


 僕の精霊剣は、第7級・大剣型『遠雷えんらい』、姉さんのは第7級・拳銃型『浅海せんかい』だ。

 低級だから、意思はなんとなく感じる、という程度だ。初めて契約した剣だから愛着はあるけれど、静海とは違い当然会話なんて出来ないから、今となっては物足りなく感じたりもする……まあ静海と比べるのは酷か、神話級一歩手前だし。


 ちなみに友達には、静海は姉さんの助手的な人で戦闘能力自体は人並み、という事になっているので、家でお留守番だ。姉さんといえど、まだ国家機密である精霊剣を気軽に戦闘に参加させられないらしいから、仕方ない。というかヒロあたりは鋭いから下手に使ったらバレる恐れがある。


 静海に関してはそんな感じで……今回初参加の友達3人、特に武器に関してだけど。当然精霊剣なんかがその辺に転がってる訳ないし、手に馴染んでいる武器と言えるものといえば、各個人が所持している訓練用の模擬武器だけだ。


 つまりは得物はそれと、各自の戦闘用精霊術を駆使して戦って貰うことになる。


「大丈夫、模擬武器でも、殺す気で使えば生き物は死ぬわ」

「指揮下にいない魔獣は、いわばゾンビーのようなものだ。野生動物時に比べ、身体能力が上がっていて厄介ではあるが、噛まれたらゾンビーになるなどもないし、強化術で身体強化した私達なら、その差も気にするほどではない。介錯するとでも思って躊躇なく殺れ」

「僕も初めての時は怖かった、というか今でも怖くない訳じゃないけど……まあ、慣れるよ」

「慣れますか……」

「うんまあ、ね。姉さんが言った通り、ゾンビみたいなものだから」


 こんな感じで経験者から助言をしたり、座学で学んだ魔獣との戦闘の際の注意点を復習しながら、現場へ向かった。





「お待ちしていました、咲様。水城ツインズは久しぶりだね」


 観測所に着くと、黒髪長身のイケメンが話しかけて来た……一応知り合いだ。名前は菱形ひしかた 年三としみさん。確か、今年で24歳だったっけ。


「はいお久しぶりです菱形さん。と言ってもまだひと月ちょっとですけど」

「君達、特に優輝君がひと月も村を離れた事はないだろう?」

「そうですね。お勤めご苦労様ですではこれで」

「も、もう少しゆっくり話さないか? あーほら、ホームシックとかにはなっていないかい?」

「大丈夫ですお勤めご苦労様ですではこれで」


 悪い人ではない、というか基本的には好青年だとは思うけど……あまりこの人と長時間話して、というか近くにいたくない。


「……優輝はなんであのイケメンから離れたがってるのん?」

「アイツは外面は良いが野獣だ、直に触れると性別関係なく妊娠する」

「なにそれこわい惑星外生命体か何か? ……で、具体的には?」

「優輝にいつも色目を使ってくる、とにかく優輝の体を触ろうとしてくる、隙あらば優輝を押し倒そうとする」

「……瑞希さん、今までよくあの人をSATSUGAIしませんでしたね……」

「うむ、優輝が止めるので仕方ない」

「……なんか物騒な会話してるけど。一応僕以外を相手してる時はマトモな人だからね……というか今はともかく数年前は僕らと互角だったくらい戦闘力高い人なんだよ、あの人」

「さらっと自分たちの方が今は強いって言ったな、優輝さん。なんかかっけぇな、そういうの」

「ありがと雅……やっぱり雅が最初の男友達だよ、僕にとっては……ははは……」

「いつでも優しい優輝に闇を感じるんだけど……これ以上この話しない方が良い気がする……」

「そ、そだね……」


 はぁ……なぜか気分が盛り下がってしまったけど。それはともかく――


「咲様到着少し前から進行速度を上げていた魔獣、目視しました!」


――魔獣は待ってはくれない。

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