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42話 水城 瑞希の貴重な気落ちシーン

今年最後の投稿となります。

「静海さん、ちょっと側に来てください」

「出来るならば、命令としてお願い致します。優輝様も、わたくしの主人マスターですので」

「えー……うーん。どうしても、ですか?」


 初対面の……えーと、まあ人型だから人で良いか。初対面の人にいきなり命令は、ちょっと気が引けるんだけど……


「…………」


 ……そこは譲れないとでも言うかのように、無言で僕を見つめ続ける静海さん。


「……じゃあ命令として言いますね、静海さん」

「口調とさん付けも変えて頂ければ幸いです」


 注文の多いメイドさんだなあ。考えを曲げない我の強さは、やっぱり姉さんが製作者ははおやだからかな。


「えっと……じゃあ静海、側に来て耳貸して」

「……了解しました」


 一拍置いてから、近くに来てくれる。砕けた話し方にしてみたけど、これでOKらしい。僕らのやり取りを見ながら、姉さんは満足そうに何度も頷いていた。


 さて、本題に入る前に少しあったけど。静海は答えてくれるだろうか。


 姉さんにわからないように口元を手で隠して、声量も絞って聞こえないようにしてから、静海の耳元でこう尋ねる。


「姉さんが静海を造るために使ったものに、姉さん自身の「血液」があるよね」

「はい、その通りでございます」


 答えは即返ってきた。


「……聞いた僕が言うのもなんだけど。そういうの、姉さんは秘密にしておきたかったと思うんだけど。答えちゃって良かったの?」

「優輝様から質問されたなら、包み隠さず全て答えるように仰せつかっておりますので」


 ……今回は仕方ないとはいえ、不用意に何か聞いたら、誰かのプライベートな秘密を知ってしまう事もあり得るかも、これ。気をつけよ。


 それはそれとして。続きを聞こう。


「その血液量ってどのくらい?」

「毎回の量でお答えした方が良いでしょうか、総量でお答えした方が良いでしょうか」


 そう来たか。んー。


「とりあえず、毎回の量で」

「約900mlです」

「えーと……」


 姉さんの体重は50k位だったはずだから……記憶が正しければ、一度の出血量でショックを起こさない限界は……多分、800mlが限界ギリギリ、体調次第では、それくらいでも出血性ショックを起こす恐れがある、かな。凄腕の治癒術士がすぐ側にいるなら、900mlでもショック死はしないだろうけど……


 うん。急激に頭が冷えて来た。つまり、今僕は、物凄い感情が昂ぶっているのだ。


 怒りで。


「ど、どうした優輝?」


 珍しく姉さんが狼狽えている。まあ当然か、僕がここまで怒りを覚えた事は、今までないはずだし。


 思考は冷静そのものだけど、怒りの感情が完全には静まらない。少し吐き出さないと。


「静海に聞いたよ。姉さん、かなり危険な事していたらしいね」

「むっ……」


 言葉に詰まる姉さん。やっぱり秘密にしておきたかったという事だ。


「姉さん、僕の事は必要以上に気にかけるくせに、自分の事は無頓着過ぎるとこあるよね」

「し、しかしそれはだな。私の行動のすべては優輝が何より大切だからでーー」

「それは知ってる。ありがとう、いつも感謝してる、心からね」

「うむ」

「でも、僕にも限界があるみたいだから。姉さんが秘密にして来た今回の事は、ちょっと簡単には許せそうにないよ」

「むう。しかしだな、静海は確実に、優輝の今後に役立つーー」

「僕はメイドさんが欲しいなんて言った事ない」

「…………」


 前回がいつだったか覚えてないくらい久しぶりに、しょんぼりする姉さんの姿を見た。


(……しまった、失敗した)


 間違った事は言っていない。けど、少し言い過ぎたかもと反省する。やっぱり、怒りの感情は制御しないとだなあ……


(あ。僕、静海に酷い事言っちゃったかも……)


 メイドさんを必要としていなかったのは確かだけど、彼女を否定したかった訳じゃない。


「ごめん静……あれ、静海?」


 謝罪をしようと振り返ると、いつの間にか静海の姿が消えていた。


 辺りを見回すと、少し離れたところに、早歩きで近付いてくる静海を見つけた。なんか缶ジュースらしき物を持っている。


「どうしたの、それ?」

「飲料の自動販売機に行って購入してきました。優輝様、こちらをどうぞ」

「え? あ、ありがとう」


 反射的に缶を受け取る……トマトジュースだった。わぁいトマト、僕トマト大好き。


「機嫌がよろしくない時は、好物を摂取するのが良いと教育されました。優輝様の好物はトマトという野菜だとうかがいましたので、すぐに入手可能なトマト製品を購入してまいりました」

「そっか……ふふっ。気遣いありがとね」

「ふむ……さっそく与えた知識を役立てたか。さすが、私の静海だ……」

「お褒めに預かり恐悦至極にございます」


 相変わらずの姉さんの態度に少しむっとしたけど、静海の気遣いを無駄にする訳にはいかない。まだまだ言いたい事はあるけど、感情が落ち着いて、情報を整理してからにしよう。


「……そろそろ良いかしら?」

「うん? あ、サチさん」


 サチさんが、こちらに歩み寄りながら話しかけて来た。一緒に鍛錬していて少し前に別れたばかりだけど、何かあったのかな?


「僕らに用事?」

「用事というか、ね。周りの人を見なさい」

「周り、の人?」


 言われて周囲の人……人だかりが出来ていた。


「あー……」


 ここが寮の目の前だと言う事を忘れて喧嘩していた。まあかなり怒っていたし、場所を忘れて言い争うのは仕方ない、と思おう。


 なんにしても。かなり目立っていたらしい……


「メイドだ」「メイドさんだ」「美人さんだ」「なめたい」「黒髪ロングメイドさんは正義ジャスティス」「水城さんちのメイドさん?」「水城姉妹にメイドさんをそえて」「やりたい」「絵になる3人だな」


……双子美少女に美人なメイドさんが揃っていたら、喧嘩とか関係なしに目立つか。


「教えてくれてありがと、サチさん」

「どういたしまして。みんな、彼女達は見世物じゃないわ! 解散しなさい!」


 サチさんの台詞で、野次馬さん達は徐々に散っていった。


「サチさん、…………ありがとね」


 つい、感謝の気持ちから「サチさん好き」とか「サチさん素敵」とか言いそうになったけど、それを飲み込んで、再び感謝だけを告げる。


「気にしないで良いわよ。それより、色々聞きたいところだけれど……瑞希の顔色がだいぶ悪いから、早く部屋で休ませなさいな」

「……そうだね」


 さっきは隈が酷いだけだったと思うけど、今は顔色からして貧血の人っぽい感じになっていた。まあ血を抜いてるらしいから、実際貧血なのだろうけど……さらに悪化したのは、僕からの精神攻撃が原因かな……反省。


「じゃあ僕らは行くね。っとその前に。静海、サチさんに手短に自己紹介して」

「了解しました。サチ様、わたくしは瑞希様と優輝様よりシズカと呼ばれております。お二方を主人マスターとするメイドでございます。以後お見知り置きを」

「シズカさんね、覚えたわ。私は塩谷 幸子、友人からは主にさっちゃんと呼ばれているわ。よろしくね」

「はい、よろしくお願い致します、サチ様」


 それに対して、サチさんも手短に自己紹介する……ちょっとおかしな部分もあるけど気にしない、たまに聞く台詞だし。


「……貴女もさっちゃんとは呼んでくれないのね」


 なんか呟いてるけどそれも気にしない、たまに聞く台詞だし。


「それじゃ改めて、行くね。詳細は夕食時にでも話すよ」

「ええ、わかったわ。瑞希、お大事にね」

「ああ……」


 そう言ってサチさんと別れ、寮の部屋に3人?で戻って行った。





 その後、夕方の食堂開放時間少し前に姉さんが起きたので、改めて静海に関する詳細を聞いた。


 静海は、姉さんが立ち上げた、精霊剣作成の計画『神話計画マイソロジープロジェクト』による産物であること、それは神話級精霊剣を作り出そうという計画だったけど、最上級の1級が限界だったこと、姉さんとの相性を最高のものとするために、自身の血液が大量に必要だったこと。

 ……他にも、常人が思いつかないような内容だったり思いついても実行に移すのにハードルが高すぎたり、とにかくとんでもワードがどんどん発せられて頭が疲れた。後でまとめよう。


「身内にも容易には明かせない国家プロジェクトに関わっていたのは十分に理解出来たし、姉さんのサプライズ精神はとっても嬉しいけどね。でもやっぱり、姉さんの命に関わるような計画なら、前もって相談して欲しかったよ……あんまり、心配させないでね」

「……うむ」


 出来るだけ穏やかな口調でそう言い聞かせたので、僕の心情は伝わったはず。


 ということで。姉さんが大きな計画を実行する場合のルールを決めた。


「僕のためでも、命の危険の伴う計画を勝手に計画・実行しない事。どうしてもしたいなら、必ず僕と相談する事。姉さんの事だから、リスクと同時に十分な保険をかけていたのだろうけど……それでも心配なんだから。ね?」

「ああ、了解した」

「後で父さんにも伝えないとだなぁ」


 ……思えば、首都から帰ってきた次の日の朝鍛錬に必ずと言って良い程参加しなかったのは、貧血でその余裕がなかったからなんだろうなあ。





 その後、夕食時にみんなにも静海を紹介した。


「静かの海で、シズカと申します。瑞希様と優輝様のメイドとして仕えせて頂いております。皆様、以後お見知り置きを」

「よろしくでーす!」

「よっよろしくお願いします! ……うわー美人さんだー……」

「ああ、よろしくな!」

「よろ〜」

「私も改めて。よろしくね」

「よろしくお願いしますわ……良いメイド服ですね、捗ります」


 とはいえ、さすがに友達でも、国家プロジェクトの内容を容易には明かせないので、当たり障りのない自己紹介をしてもらった。


 人型精霊剣であることは秘密。後は、静海は姉さんのとある計画に必要な重要人物という事にして置いた。あながち嘘でも間違いでもないけど。


「…………。よろしく、です……」


 ……なんとなく、月影ちゃんの妙な間と視線が気になった。もしかして、月影ちゃんは静海が人間じゃないって気付いたのだろうか。

 まあ、月影ちゃんが他人の秘密を言いふらす性格じゃないのは知っているし、計画の具体的内容はさすがにわからないだろうから、大きな問題は起きないだろう。





      ――――――――――





「だいたい思い出したけど。そういえば、あの時静海がトマトジュース買ってきたのって、姉さんの指示じゃないよね?」


 あの時の姉さんは、珍しく心身共に弱っていた(僕が原因な部分もあるけど)から、違うとは思うけど。


「瑞希様より、優輝様に関する情報、優輝様の趣味嗜好の情報は与えられておりました。それに、対人関係を良好にするための知識を照らし合わせ、行動した次第です」


 台詞は事務的な感じだけど。それは、相手を気遣う心を持っていないと出来ない行動だ。だから改めて、日頃の感謝も込めて。


「いつもありがとね、静海。大好きだよ」

「……勿体無きお言葉。心に刻み、未来永劫仕え続ける事を、改めてお誓い致します」

「こちらこそ。今後とも末永く、よろしくね」


 何年たっても、静海の声から読み取れる感情は、月影ちゃん以上にわかり辛いけど。言葉にして伝えてくれるから、それが嬉しい。


「うむ。良い」


 姉さんはそんな僕らのやり取りを見て、いつものように満足そうに頷いていた。

ミナサマ、コンゴトモヨロシク……

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