39話 ズッ友
「あなた、水城……水城 ミユキだっけ?」
なんか姉さんと混ざってる。のはともかく。
何か仕掛けて来そうだから、ちょっと意識を逸らそう。
「水城 優輝です。なんか姉さんと名前混ざっちゃってますね」
とりあえず、今後の信用問題として嘘はつかない。
「あ、ごめんなさい。それで、」
「それで、髪が短い方が姉さんです」
「あっそうなのね。で、」
「ちなみに双子です」
「へぇーそうなのね。あー、確かに似てたわ」
「一卵性なので、顔は瓜二つですよ」
「へぇー!」
「髪の長さを同じくらいにすると、多分見分けつかないくらいだと思います。瞳の色は違うので、目をじっと見つめれば判るんですけど」
「ほぇー。あーじゃあ、見分けつくように意図的に髪の長さ変えてるのね!」
「はい、そうです」
「一卵性って言うと、やっぱり性格とかも瓜二つだったりするの?」
「うーん、自分としては、真逆かなと思ってますね。でも他の人から見たらーー」
……意識逸らし成功。
うん、会話が弾んできて思ったけど、やっぱり悪い娘ではないね。わりと好き。
このまま良い雰囲気で雑談し続けられれば仲良くなれるかも、とは思うけどーー
「最戸さーん、ガツンとってなんだっけ?」
「ーーはっ⁉︎」
「水城さんの方が、精神的に上手、多分」
「くっ、私としたことが!」
ーー予想通り、後ろの2人に止められた。まあでも、敵意はない旨は伝わったと思うし、まったくの無駄ではない、はず。
「あーもう面倒だわ! 水城 優輝!」
「あっはいなんでしょう、顔近いですけど」
今度はずいっと顔を急接近させて来た。何をするつもりかな?
「一発ひっぱたかせて!」
直球も直球、豪速球で来た。
「え、イヤだけど」
「よねー」
はなから無理だと思ってたのか、即答する最戸さん……けど、表情も声もまだ諦めてない。
「あなた、気に食わないわ。今はなんかその、しかたなく引くけど、そのうちガツンと一発食らわすから。覚悟しときなさい」
「うーん……僕としては、出来れば仲良くしたいんだけど」
「……ふんっ、良い子ちゃんぶっちゃって。とにかく、おぼえときなさい」
そう捨て台詞を言ってから、少し離れる最戸さん……んー。
「2人とも、日を改めるわよー」
くるっと回転して後ろの2人に告げ
「ーと見せかけて!」
ながら回転は止めず振り向きざまに平手を振りかざして来た最戸さん――
ガシッ
――の手首を頬にぶつかる直前で掴んで止める。
「えっ嘘⁉︎」
「ごめんだけど。理不尽に叩かれるのを黙って享受するほど、僕は聖人君子じゃないから」
途中から声の感じに強気度が足りなくなっていた気がしたけど、やっぱり日を改める気はなかったらしい。
「おぉ、今のビンタをあとから動いた感じなのに止めちゃいましたね?」
「うん、素直に、すごい」
……後ろの2人、マイペースだなあ。まあ最戸さんに加わって3対1になられても面倒だから良いけど。
「ぐぅぅ〜〜う・ご・か・な・い〜っっあなた意外と力強いわねっ⁉︎」
「鍛えてるからね」
まあ理由はそれだけじゃないけど。とはいえ、ずっと掴んだままはさすがに疲れるから、早く諦めてほしいところだけど、どうだろ。
「往生際の悪いっ潔くぶたせなさいっ!」
「痛いのイヤだから、お断りします」
お前が言うな的な台詞を返したくなったけど、あくまで波風を立てないスタイルは曲げない。
「往生際悪いのは最戸さんの方じゃ?」
「王様に見染められるだけの実力、十分以上にある、みたい。素直に引いた方が、良い、かも」
「うー! う〜…………そう、ね」
意気消沈した感じの声で呟き、力を抜く最戸さん。
「今度こそ引いてくれる? 手を離した途端ぶとうとしない?」
「その手があったか!」
「……その諦めない精神には敬意を評するよ」
「さっきも不意打ちな感じだったけど? また防がれる未来しか見えないよ?」
「うん、そうなる、多分」
「言ってみただけっやらないわよっ! けど……うーー! こんなはずじゃあーー‼︎」
とりあえず、今度は本当に引いてくれそうなので、手を離してあげる。と、そだ。
「最戸さん、手首結構強く掴んじゃってたんだけど、大丈夫? 痛かったりアザになってたりしてない?」
「えっ? ……あー、うん、ちょっと赤いけど、たいして痛くはないから大丈夫でしょ」
「そっか、よかった。一応治癒術かけるね、あんまり得意じゃないけどやらないより良いし」
「あ、ありがと」
許可を得られたと判断して、治癒術するため近付
「ってウガーーーー!!!!」
「え、どうしたの?」
こうとしたら、突然雄叫びを上げた。なんだろ?
「最戸さん、完全敗北って感じだね?」
「水城さん、全てにおいて、格上ね」
「うーーっっ!!」
なんか傷に塩を擦り込むように味方のはずの2人が最戸さんを煽る……実は仲悪いんだろうか?
「まあまあ、とりあえず落ち着いて。そしたら話し合お?」
「うー……さっきからなんなのよあんたっ! キングに愛されてるんだからもっと上から目線で来なさいよっ! でないとその……きっ嫌いになれないじゃない!!」
「えっと、今はそれで良いんじゃないかな」
僕としては敵対したい訳じゃないし、飯屋峰君に愛されてる以外はなんの問題も感じない。
というか、その台詞で思い出したけど、最戸さん達は彼と僕を無理矢理くっつけたかったんじゃないのかな?
「そうじゃなくてっ! う、うーー! あんたなんか……あんたなんかっ! キングに渡さないんだからーー!! バカヤローー!!」
ちょっと意味がわからない捨て台詞を叫びながら、1人トイレを飛び出す最戸さん。せわしない人だなあ。
「最戸さーん、なんか言ってる事ブレブレだよー? ……聞こえてないかな?」
「王様を想う気持ちと、水城さんを嫌いになれない気持ちが混ざっての発言、多分」
「……なんか、さっきから2人は冷静だね」
「うーん、最戸さんの突飛な行動には慣れてるから?」
「まあ、よくある、うん」
ふむ。もしかしたら仲悪いのかなとさっきは思ったけど、なんだかんだ3人は仲良いみたい。
「最戸さん行っちゃったので、私達も行きますね? あ、私、遠木です。また会いましょ?」
「私、大城。お邪魔した」
「あ、ご丁寧にどうも」
そう言い残し、最戸さんを追って行った。
(楽しい人達だったなあ……飯屋峰君関係でなければ、普通に仲良くなれそうだけど)
キーンコーン……
休み時間終了を告げるチャイムが鳴った……会話してると時間の感覚が鈍るね。急いで教室戻らないと。
教室に小走りで向かい――半ばで思い出した。
(僕おしっこしてないじゃん!)
ビックリしておさまってたし、もともと漏れそうな程ではなかったけど。授業中、持つかな……
案の定、授業終了10分くらい前という微妙な時間にさっきより強い尿意が襲って来て、しばらくもじもじする事になった……ちょっとだけ、最戸さんをうらめしく思った。ちょっとだけだけど。
――――――――――
「ふむ。凡人ファンの面白トリオとの最初の接触は、そんな感じか」
ちなみに、姉さんの言った「凡人」は、飯屋峰君の事だ。
「えー、その覚え方はあんまりじゃない? 3人とも個性的で可愛いのに」
「といいますか瑞希さん、優輝さん以外の方にあまり興味を示さないですが、その3人の事をよく覚えていましたね」
「優輝に危害を加えるために近付いて来た連中を、私が忘れるとでも?」
「……なるほど、確かに」
「そこで納得されると困るんだけど。だいたい、明確に悪感情を抱いて迫って来たの、今話した最初の時だけだったし」
「うむ、そうだと思ったからな。その後優輝にちょっかいかけてきた時は、私はイジり役に徹していた」
「……優輝さんに半端な気持ちで悪戯は出来ませんわね。瑞希さんと親友になれて良かったです、本当に」
「ふむ。蒼月とも、出会いの仕方が違えばここまでの同士にはなっていなかったかも知れないな」
「それはどうでしょうか? 私、優輝さんには遅かれ早かれ一目惚れしていましたよ? ええ、間違いなく」
「ふむ、そうか。では今の関係は必然か」
「ええ、必然です!」
……美しい友情だとは思うけどね。着せ替え人間の前でそういう会話を嬉々としてしないで欲しいなあ。
「それで、その3人組とはその後どういった関係に?」
「うーん。多分友達未満、な感じだったかな。一応僕1人……1人に見えるとき限定で、たまにからまれてたよ」
「1人に見える? ……ああ、瑞希さんが影にいたんですね」
「うむ、2回目以降の接触には気付いていたからな。傍観したり妨害したりイジったり論破したりと、色々と楽しませてもらっていた」
「……えー……えーと……」
すぐに言葉が見つからないのか、ほうけ顔で斜め上を見ながらつなぎ言葉を発する蒼月さん。まあ、リアクションに困る台詞だったしね。
「……今更ですが。優輝さん、ご苦労様でした」
「察してくれてありがと。出来れば今も昔も僕を着せ替え人形扱いしてる件についても察ーー」
「ところで瑞希さん、そのような接し方をしていたのなら、特に最戸さんという方からは良く思われていなかったのではないでしょうか?」
露骨に話題を変えられた。まあ、僕も言ってみただけだけど。
「ふむ。そういえば、こんなやり取りをした事があったな」
――――――――――
「斉藤だったか?」
「最戸よ!」
「うむ、最戸か。貴様、優輝の事大好きだろう」
「なぁっ⁉︎ そそっ、そぉんな事あるわけないじゃない! とっ友達になりたいなんて、こここれっぽっちも思ってないんだからね⁉︎」
「そうか。ちなみに私の事はどう思う?」
「大嫌い」
「ははは、そうか」
「何が可笑しいのよ!!」
――――――――――
「ツンデレですわね……優輝さんに、ですが」
「うむ」
「そっかー……飯屋峰君のファンじゃなければ、やっぱり友達になれたかもしれないなあ」
「……前から思っていたんですが。優輝さんは友達100人でも目指していたんですか?」
「そんなことはないよ。ただまあ、味方は多いに越したことはないでしょ?」
「優輝はお人好しで誰にでも優しいが、休日を共に過ごす程の友人はそれ程作らなかったな。学生時代では、いつもの7人だけだったか」
「確かに、学生時代の親友と言えるのは、7人だけだね」
そう言いつつ、蒼月さんにウィンクしてみる。
「あー……め、面と向かって言われると、なんだか気恥ずかしいですわね」
いつもは僕をイジる側の蒼月さんが、照れて赤面した。可愛い。
「ふふっ」
「ふっ」
「ふふふっ」
なんだか嬉しくなって、3人で微笑み合う。
……こうして友達がどうとかの思い出話をしていたら、ふと思った。
学生時代だけでも、実に様々な人との出会いがあった。
親友になれた人でも、もう会えなくなった人がいる。親友と言える程仲良くなれた訳ではない人でも、時折連絡を取り合う人がいる。
「ん?」
「優輝さん、どうかしましたか?」
そして今、すぐ側で雑談する事の出来ている親友の1人、蒼月さん。生まれる前から共にあり続けてくれた、大好きな姉さん。
「唐突だけど。今のこの幸せな時間に感謝したくなったから、言うね。姉さん、蒼月さん。これからも末永く、僕と仲良くしてね」
「ふふふっ。はい、こちらこそ、よろしくお願い致します」
「うむ、当然だ」
大好きな人達がいるこの世界を、いつまでも守れますように。
キングファン3人娘の名前ですが
トウキョウビッグサイト
遠木 大城 最戸
です。
最初に最戸さんの名前を付けて、他2人はなんとなくでそれに合わせたので、特別な理由はありません。




