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34話 友情破顔件

サブタイが適当になって来た気がするけど気にしない。

(んー。まあこれかな)


 訓練の時は、学校側が用意した訓練用の模擬武器を使う。

 僕は、いつも使っている精霊剣に1番近いサイズ――用意された模擬剣の中で最大の物を手に取る。


「え、優輝さん大剣使うのか」「1番扱い辛そうなのに、大丈夫かな」「魔獣倒した事あるって言ってたけど」「美少女に大剣はロマンではある」


 そんな声が聞こえて来た。大丈夫、大剣は使い慣れてますから。


「……これで良いか」


 姉さんはショートソードを選んでいた。普段姉さんが使っている精霊剣は銃だけど、模擬銃は用意されていないらしい。

 後から聞いた話だけど。銃型の精霊剣は近年開発された新たな形状であり、性能もピーキーで使い手がまだまだ少ないので、模擬銃は個人のオーダーメイドになってしまうらしい。


(みんなの武器は、と……)


 クラスにいる友達は何を選んだだろうか。


「海老江さんはナイフか」

「手数とスピードが私のバトルスタイルだからね!」


 アキは、両手にナイフを持っていた。


「鯨井さんのその武器、なんだ?」

「こっこここんですっ」

「こっこん?」


 ヒロは刃の付いていない、細長い棒状の物を持っていた。確か棍使いと言っていた気がする。


 サチさんと雅は太刀だ。まあ、剣術部に入った訳だし、やっぱり刀だよね。


 パフィンさんは姉さんと同じショートソードを持っているけど、姉さんが選んだのを見てから手に取っていた気がする。もしかすると、本来の武器も姉さんと同じく銃なのかも。


(ちょっと遠いけど、クラスSは……)


 んー……あ、いた。うん、やっぱり蒼月さんは弓か。

 月影ちゃんは……ロングソード、かな? 月影ちゃんちっちゃ可愛いから大剣持っているように見えるけど、多分ロングだろう。


「みなさん、武器は持ちましたね〜?」


 ネイ先生はみんなを見回し、全員模擬武器を持っているのを確認してから、訓練の内容を告げ始めた。


「さてさて。みなさんには2人組になって貰いましたが〜。いきなり初日で他のチームと対戦とかは、厳しく感じるかと思います〜。なので今日は、今組んだ相手と組手稽古をする事とします〜」


 ふむ。つまり今日の訓練相手は姉さん、て訳か……いつも通りでちょっと新鮮味が足りないかなー。

 あーでも、今日の姉さんはいつもと違って剣持ちだし。銃持ちなら互角位だけど、短剣なら僕の方が有利かな? まあ姉さん(天才)だから、油断は出来ないし手も抜けない……抜いたらすぐバレて怒られるからしないけどね。


「対戦相手女の子かあ」「なんかやり辛いな」「鯨井さんと協力プレイ出来ないじゃないか……」


 一部不満を呟く人がいた。戦闘訓練がはじめてな人もいるだろうから、ネイ先生の判断は悪くないと思うんだけど。

 まあ、全員が納得のいくようになんて難しいか……団体の訓練は大変だ。


(長年お疲れ様です、先生)


 ネイ先生の苦労に、心で労いを呟いた。





「はいはい。では今から3分後に、天井君と海老江さんの組手から始めます〜。各組の制限時間は3分。その間にKOか、戦闘続行不能なダメージを受けるか受けると判断した時。最後に、タイムアップ時に優勢と判断された方が、勝ちとします〜。次の対戦者以外のみなさんは余所見せず、しっかり各組の戦いぶりを見て、自分の糧として下さいね〜」


 さて。出席番号順だから、僕らの出番は最後から2番目だ。みんなの戦いをじっくり見させて貰おう、


「あ、そうそう忘れてました〜。今日の優輝さんと瑞希さんの組手はエキシビション扱いで、最後に行います〜」


と考えていたら、最後に回された。まあ1組ずれるだけだから大差ないけど。


「実戦経験のある2人の対戦なので、他のみなさんの得られるものは、かなり大きいと思います〜。なので、このカードは刮目して見るようにっ。ですよ〜」

『はーい』


 そんなこんなで。いよいよ組手稽古の始まりだ。





「ホラホラホラホラ‼︎」

「ぬっぐっ!」


 アキが飛び跳ね飛び込み宙を舞い、ほとんど休みなく天井君に襲いかかる。天井君はロングソードを構えて何度も受け止め受け流ししているけど、最初から防戦一方だった。


 天井君はアキの初撃を受け止めてからほぼ同じ位置から動けていない。体力の消耗的にはアキが圧倒的に多いけど、天井君は攻撃らしい攻撃を1度も出来ていない。精神的にそろそろ限界かも。


「ホイっ!」


 体重を乗せて天井君に両手のナイフで上から斬りかかり、天井君はそれを下段から受け止める。


(あ、決まったかな)


と思った次のアキの動き。斬りかかった勢いを使って体を押し込み、反動でさらに上に飛び上がり、


「ぐうっ!」


天井君の頭部にアキの踵が落とされる。天井君は首を逸らしギリギリ頭への直撃は避けたつもりのようだけど、肩で受け止め苦悶の声を上げる。


(アキは予想通りの強さだけど、天井君もなかなかやるなあ……けど、やっぱりアキの方が上手かな)


「ふいっと!」


アキは、頭に直撃しないと咄嗟に判断したようで、踵を叩き込む直前少し足の向きを変えており、実際は足の裏で肩を蹴りつけていた。

 そしてそのまま蹴り飛ばし、天井君の背後に着地する。その衝撃で彼は前につんのめり、完全に倒れ込まないように足を踏ん張る。


(あー、この場合はそのまま倒れ込んだ方が良かったかな)


 無理に踏ん張ってしまい、硬直して無防備になる天井君。


「ハアッ‼︎」


 作った隙を見逃さず、アキが振り向きざまに右手のナイフを振るい、


「そこまで!」


 ネイ先生の制止の声が上がる。アキは無理には制止させずナイフの軌道を逸らして振り抜く。


「…………」

「……――ふあっ」


 天井君は無言で立ち上がり、アキは振り抜いた姿勢で一拍制止し、思い出したかのように息を吐き出す。


「俺の負けだ。速いな、海老江さん」

「ふぅっ……はぁ〜。ま、ね。ふぃ〜」


 さすがのアキも、あれだけ動き回れば息も絶え絶えだ。天井君はあまり動けていないから息切れしていないけど、精神疲労はアキ以上だろう。


「勝者、海老江 茜葵さ〜ん。う〜ん、初戦から見応えのあるカードでした〜。では、1分のインターバルを挟んで、2戦目です〜」





「アキ、お疲れ様」


 組手を終えたアキが、自身に治癒術を使いながらこちらに近付いてきたので、労いの言葉をかける。


 ちなみに、模擬武器とはいえ防具をしていない人がほとんどなので、まともに当たれば怪我をするし、場合によっては大怪我もあり得る。

 ので、訓練の教師は治癒術に長けた人が務めるか、高レベルの治癒術が扱える保健医を待機させておく必要がある。


「んにゅ、疲れた!」


 元気に疲れたと言うアキ。可愛い。


「声が全然疲れてるようには感じないけど?」

「まっ、確かにまだ余裕あるけどねん」


 自信たっぷりな顔でそう言う。確かに、すでにアキの呼吸はだいたい整っている。


「それにしても、アキの戦い方は見ていて楽しいね。あの動きを真似出来る人はそういないだろうから、みんなの戦闘スタイルの参考になったかは微妙だけど」

「簡単に真似されちゃあたしが精神的にダメージ受けるわっ」

「ふむ…………」


 姉さんが何か言いかけたけど、僕を見て止めた。多分、「参考になった」とか言おうとしたんだろう。僕の意見に気を使って口を閉じたと思われる。


「なによ瑞希その反応……えっ。もしかして、真似出来ちゃう、とか」

「いや、さすがに今すぐヤレと言われても出来ないだろうな」

「そ、そっか……そっかぁ」


 それを聞いて、アキが微妙な表情になる。まあね、要するに「練習すれば出来る」と言ってるようなもんだし、そんな顔にもなる。

 僕を気遣っての言は止められたのにアキへの一言は止められなかったあたり、姉さんにとってのアキは「優輝の友人だから親しく接しよう」くらいなのだろう。


(親しくしようと思ってくれてるし、あんまり僕が口を出す訳にはいかないよね)


 姉さんの行動の動機のほとんどは、「優輝に有益と思われる事をする」で占められている。それ自体は有難いし、僕が姉さんを大好きな理由だけど、そのせいで多少空気が読めなかったりするのが困りものだ。


 ちょっと歯痒いけれど、これでも小さい頃に比べたらだいぶ丸くなっているのだ。あんまり多くは望んじゃダメだよね。


 とはいえまあ。そんな姉さんだけど、


「案ずるな、アキ。私ほどの天才でさえ容易には真似出来ない。自信を持て、その戦闘スタイルはお前の唯一無二のものだ」

「へ?」


まったく空気が読めないわけではない。


「……優輝優輝っ。もしかして瑞希デレた?」

「デレじゃないかなあ」

「違うかーざんねーん」


 残念そうな苦笑いで、でもどこか嬉しそうにも感じる声でそう言った。


「デレじゃないけど。友達なんだから、友達の良い所を褒めるのって普通じゃない?」

「うむ」

「…………」


 僕らの意見を聞いたアキは、数秒ほうけた顔をして、


「うへへ……」


 にへらぁと破顔した。可愛い。


 その後アキは、ヒロの組手が始まるまで終始にやにやと嬉しそうに笑っていた。

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