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25話 初めて寧さんに本気で怒られた

「でまあ……結局加減出来てなくて、彼はちょっと危険な状態だったんだけど……」

「何も問題はない」

「どう考えても正当防衛の範囲です」

「即答されると反応に困るなぁ」


 不法侵入されてるし、法律的にも正当防衛認定されるだろうけど。それでも、人を殺しかけた事に変わりはないし……うーん……今更ではあるけど、やっぱり複雑。


「ふ、優輝は優しいな。あまり気にするな、どうせすぐ治癒術で応急処置したのだろう? 次の日に普通に登校していた気がするしな」

「まあ、そうだけど」

「だから優輝さん好きですわ」

「……ありがと」


 2人の言葉に、ちょっとだけ気が楽になる。


「それよりもだ。朝のトラブルの続きを聞かせてくれ。まだあるだろう?」

「……むう」


 ……さすが姉さん、全部は話してないと気付いてたか。恥ずかしいけど、ここまで話したし。


「えっと……僕的には、こっちの方がショック度は大きかったんだけどね」

「ふむ?」





       ――――――――――





 僕はまだ15歳だけど、少なからず悲しかったりショックを受けたりした経験はある。

 その中でも、今回の状況は上位に来るくらいのショック度だった。


「優輝ちゃん、先生物凄く怒ってます」


 建物に雷が直撃したかのような……まあ大差ない事をしちゃった訳だけど、その轟音を僕の精霊術だと気付いたネイ先生が真っ先に駆けつけてくれた。


 飯屋峰君は、最初は僕が治癒術で治してたけど、僕は治癒術はあまり得意ではないので応急手当て程度しか出来ず、ネイ先生が来た時はまだ重症状態だった。

 ネイ先生は高レベルの治癒術が使えるので、交代したんだけど……治癒の最中、先程の一言を貰った。


(ちゃん付けされた……)


 ネイ先生は、おネイちゃんモードの時しか僕をちゃん付けで呼ばない……つまり、普段は意識して呼ばないようにしてくれている。

 そんな寧さんに、先生モードの時にちゃん付けされるのは初めてだった。多分、本当の本気で怒っている……それがショックだった。


 僕は昔から、怒られるのが極端に嫌いだった。まあ怒られたい人の方が珍しいだろうけど……僕は、どんな人とも仲良くしたかったからだ。

 だから、誰かの嫌な部分が見えたとしても考えすぎないようにしてきたし、逆にその人の良い部分に注目するようにして、極力嫌いにならないように努めてきた。


 とはいえ、完全に相手を理解する事は出来ない。どうしても怒ってしまう事はあるし、相手を怒らせてしまう事もある。

 それでもやっぱり、親しい人や尊敬する人を怒らせたくないと思うのはおかしな事ではない、よね。

 そして僕の中では、寧さんが「怒られたくない人」筆頭だった。もう1人の姉さんみたいで好きだから。


「……とりあえず、着替えて下さい。目のやり場に困りますので」

「……はい」


 ションボリした気持ちで部屋に行く……


「――ご馳走様で〜す」


……部屋に入る直前、寧さんの意味不明な呟きが聞こえたけど、なんだろ?





 数分後。私服に着替えて現場に戻ると、飯屋峰君はまた縛られていた。不法侵入者だし当然か。

 ちなみにまだ気は失ったままだ。顔色は悪くないので治癒は完了しているのだろう……一安心。


「さて優輝ちゃん。正座です」

「はい」


 指図通り即座にその場に正座する……うん、やっぱりまだ怒ってるよね。

 正当防衛の範囲かもだけど、咄嗟にとは言え人を殺しかけちゃったんだし、怒って当然だよね……憂鬱。


「…………」


 気落ちしつつ、じっと見つめて来る寧さんを見つめ返す。


「……はぁ〜」


 数秒見つめた後、ため息を吐かれた……あれ? 怒ってるっていうか、呆れられた?


「優輝ちゃん、私が何に対して怒っているか理解していませんね」

「それは……」


 すぐに答えようとしてとどめる。寧さんがそう言うなら、僕が今出している答えは違うものだろう。

 なら、寧さんは何に対して怒っているのか。少なくとも、僕に対して怒っているのは間違いないけど……


 とりあえず、今回の僕の失敗を確認しよう。

 飯屋峰君を攻撃してしまったのは、裸を見られまいとして咄嗟に、だけど……そもそも、彼が許可なく入室しなければ……いや。

 彼の性格的に、ピッキングしてまで入っては来ないだろう。つまり、僕が姉さんに言われていた通り油断せず、キチンと鍵をかけておけば……ふむ。

 ……答え合わせをしよう。


「彼が僕に好意を寄せていて、彼がこういう行動に出るのを予測出来たのに、油断して鍵をかけなかったから、です」

「ん〜……20点です」


 赤点だった。厳しい。


「そもそも、飯屋峰君が優輝ちゃんを好きになったのは、優輝ちゃんがとっても魅力的だったからです」

「はぁ。そう……なんですかね」

「それです、その曖昧な返事。ダメです」

「え?」

「優輝ちゃんは魅力的なんですっとっても魅力的なんですっ魅力に溢れまくってるんですっ」

「えっあっはい、ありがとうございます?」


 3回も繰り返し一所懸命な感じで褒められて、ちょっと困惑する。

 うーん。まあ確かに……不本意ながら、見た目が完璧に美少女だ。自身でも可愛いのだと理解してるつもりだけど、逆に言えばそれだけだし――


「優輝ちゃん。今、「自分の見た目は確かに可愛いけど、それ以外は特徴ない」とか思ったでしょう」

「うっ」


 考え事をズバリ当てられた。さすが寧さん。


「私が怒っているのは、そんな事考えちゃう優輝ちゃんの「自分の魅力への無自覚さ」に対してです」

「…………」


 ちょっと呆然とする。そ、そうなんだろうか。寧さんの身内補正が高いだけなんじゃ……うーん。


「今まで守護者目指して色々頑張り続けたつもりですから、ある程度自分に自信はありますけど。それでも僕は、寧さんが何度も強調するような魅力溢れる人じゃないです」

「自分の力に自信を持ちながら自惚れない所も魅力ですね〜」


 また褒められた。むぅ、ちょっとむず痒い。


「優輝ちゃんの魅力、挙げようと思えばまだまだありますよ〜? まあそれは置いといて……こほん」


 小さく咳払いっぽい事をしてから、言われた。


「自分の魅力を否定する事は罪です。それは時に他人を傷付けたり、間違った行動を引き起こさせることもあります」


 チラッと飯屋峰君を見る寧さん。


「まぁ彼の場合は、自意識過剰の結果ではありますが。というか優輝ちゃんの貴重な全……半裸を勝手に見るなんて、万死に値します」


 ……ん? なんか変な方向に話が……


「正直、瀕死状態の彼を見てスカッとしました。優輝ちゃんグッジョブです」


 おい教師。その発言はあなたのような立場の人が1番言っちゃダメな台詞でしょうが。

 思わずジト目を向けてしまった。


「ま、まぁ未遂みたいなので治しちゃいましたけど。とにかくっ」


 ビシッと僕に指を突きつけて、最後に教訓。


「これは、優輝さんが自分の魅力を全然理解できていなかったために起きた、不幸な事故です〜。これを機に、自分は容姿以外にどんな魅力があるのかを、じっくり考えてみる事をオススメします〜」

「……わかりました」


 普段のゆるふわ先生モードに戻ってそう言われると、なんだか安心する。自分の魅力、か。


「自分の魅力を知れば、それは武器にも防具にもなり得ます。自分磨きが趣味というなら、その点も留意して下さいね〜?」

「はい、ネイ先生」

「ふふふ〜、良い笑顔です。優輝さんの笑顔は魅力的で、大好きですよ〜」

「あ、ありがとうございます」


 いつも通り、優しい声でそう言うネイ先生。機嫌は完全に直ったようだ……良かった。


「あらら、思ったより時間経っちゃいましたね。私は飯屋峰君を彼の自室まで運ぶので、優輝さんは食堂へどうぞです〜」

「え? うわ」


 ケータイで時刻を確認すると、7時を回っていた。


「待たせちゃったかな、急がないと! 早速行きます!」


 駆け出そうとして、いったん止まり、ネイ先生に振り返る。


「貴重な朝の時間をありがとうございました。ご指導ご鞭撻、いつも感謝しています。それじゃっ!」

「はいはい〜、お気をつけて〜」


 感謝は大事だ。言うべき事を言って、今度こそ駆け出した。





「ごめんみんな、遅れちゃった!」

「ちょいと優輝〜遅いよ〜!」

「もぐもぐ……」


 少し遅れて食堂に着くと、ヒロが1食分食べ終えていたけど、他のみんなは食べずに待っていてくれた。

 申し訳ない気持ちと共に、なんか少し嬉しかった。やっぱり同年代の友達っていいなぁ。


 ちょっとしたトラブルで遅れたと短く言い、改めて謝罪してから、みんなと一緒に朝食の時間を楽しんだ。

 ちなみに今日に朝食メニューは、白米、お味噌汁、焼き鮭、味付き海苔、納豆とオクラの和え物だった。うん、美味しい。

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