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22話 おネイちゃん

「優輝さん、止めて下さればよかったですのに」

「あれ、戻るの早いね」


 食器を片し終えてリビングに戻ったら、蒼月さんは正気に戻っていた。


「本日2回目ですから、早めに戻れましたわ」

「早期復旧に回数関係あるんだ」


 僕が椅子に座ると、静海が役目を終えたとばかりに立ち上がろうとする。


「静海、姉さんがお風呂上がるまで付き合ってよ」

「了解しました」

「静海さんと優輝さん……改めて考えると不思議な関係ですわよね」

「そうだね、かなりね」

「わたくしのマスターはあくまで宇宙一の大天才たる瑞希様ですが、マスターの一卵性双生児の片割れである優輝様を、わたくしは瑞希様と同一存在と認識しております。ゆえに、優輝様は瑞希様なのでマスターになります」

「はー……わかるような、わからないような」

「僕ら双子は2人揃って1つの存在って事だね」

「そう、でしょうか」

「姉さんがいなかったら、僕は蒼月さんと……ううん、他のみんなとも友達にはなってなかったと思うよ。多分全然違う性格だっただろうし」

「……そうかもしれません」


 蒼月さんは寂しそうな笑顔で肯定する。

 あー……なんかまたしんみりした空気に。この空気苦手。思い出話を再開しよう。


「そうだ、蒼月さん的には料理長さんの性癖暴露がその日最後の衝撃的イベントだったかもだけど。僕ら的にはもうひとつあったんだよね」





       ――――――――――





「……んにゅ? 水城ズの部屋、確か電気消して出たよね」

「うん、間違いなく」


 僕らの部屋の明かりが灯っていた。鍵も間違いなくかけたから、誰かが無断で入った事になる。





 とりあえず自室の扉前まで来た。慎重に近付き聞き耳を立てる。


「……人の気配するね」

「うむ。しかもこの感じ、複数人だな」

「えっえっどうしよ? 水城さん達凄い可愛いから誘拐しに来たとかかも⁉︎」

「ヒロ落ち着いて、大丈夫だから」


 苦笑いしながらそう言う。大体誰がいるかは予想がついてるしね。

 とりあえずヒロを落ち着けるためにも説明しよう。


「まず、ここは星の運命を左右するかもしれない守護者候補生の住居だから、誘拐を企む不審者にとってリスクが大きすぎる」

「うみゅ、だよねぇ」

「何より、よからぬ目的で侵入したなら部屋の明かりは消すし気配も消す。つまり今部屋にいるのは、隠れる必要のない人。多分僕の身内だね」

「な、なるほど……え、多分なんですか?」

「部屋にいるって連絡は来てないしね。多分って言ったけど間違いなく僕達の両親だよ。過保護気味なあの人達が何も言わずに帰るとは思えないし」

「うーみゅ、信頼されてるんだかされてないんだか」


 まあ、自分でも未熟な部分があるのを否定出来ないし。僕としても親に「頑張るから期待してて」とか言いたかったし、来てくれたのはちょっと嬉しい。


「大方、ネイ先生に頼んで入れてもらったんだろうね。少なくとも危険はないから何も心配ないよ」


 そう言いつつノブを捻る。やっぱり鍵はかかってなかった。

 でもまあ何というか。身内とはいえ無断ではあるから、少しムカついてはいる。

 なので、特に声をかける事なくそのまま入る。と、そこには――


「かあさま〜、もっとぎゅ〜ってして〜」

「はいはい。くすっ、寧はいつまで経っても子供ね」


――何故か、咲さんに抱き付いて、小さな子供が甘えるような状態のネイ先生がいた。

 実家モードのこの姿は、村で通称「おネイちゃん」と言われて……あれ、ここ寮の僕らの部屋……


「私はいつまでも母様の子供ですも〜ん。それより聞いてください〜、新入生に1人、今までにない感じの困った君がいて〜……」

「ん? おぉ帰ったか我が愛しの優輝に瑞希!」

「お帰りなさい、お邪魔しているわよ」


 やっぱり父さん母さんもいた。父さんはいつも通りだけど、母さんは少し申し訳なさそうな苦笑いだ。

 まあ2人がいるのは予想通り。


「ああ〜優輝ちゃんお帰りなさ〜い、待ってましたよ〜。母様〜、優輝ちゃんは今日もとっても良い子で私嬉しくって〜えへへ〜」


 ネイ先生がちらりとこちらを見るも、すぐにおネイちゃんモードに戻る。

 ちなみに、ネイ先生にのみ、ちゃん付けを許している……訳ではないけど、何度言っても直らないし、おネイちゃん状態の時だけなので、半ば諦めている。

 それはともかく。一応ネイ先生がいるのも想定内、だけど。


「何してるんですか咲さん」

「今日一日頑張った娘を甘やかしています」

「そうじゃなくてですね」

「あなた達に入学おめでとうを言いたくて来ました」

「……ありがとうございます」


 素敵なサプライズではあるけど……電話だけでも十分嬉しいのに、まさか本人が来てるとは思っても見なかったので戸惑いが強い。


「優輝さん」


 咲さんが、片腕でおネイちゃんを抱き、髪を撫でながら、もう片方の手で僕を手招きする。


「咲さん、ここ学生寮なんですけど」


 少し文句を言いつつ、いつも通り近付いて頭を少し下げる。咲さんは僕にとってもう1人の母さんみたいな存在なので、なんか逆らえない。


「改めて、入学おめでとう。それと、今日も一日良い子だったわね。よしよし」


 まるで見ていたかのようにそう言い、優しく微笑み頭をナデナデしてくる。

 うぅ……嬉しい気持ちと人前でコレされる恥ずかしさで頭がふにゃふにゃして思考がまとまらな――


「2人共入れ、良いモノが見れるぞ」

「えっなになに〜?」

「お邪魔します……え?」


 姉さんが、ちょっと悪い顔でアキヒロを中に招いていた……2人がまだいるの完全に忘れてた。


「かあさま〜私もアタマの方ナデナデ〜」

「はいはい。あら、瑞希さんと優輝さんのお友達? ということは、寧のクラスの子かしら」


 ピクッと震えて笑顔のまま固まり、恐る恐ると言った感じでゆっくり振り向くおネイちゃん。アキヒロの2人は目が点になっている。

 言い訳しようかと考えてたけど、おネイちゃんの次の反応が気になるからとりあえず静観する事にした。


「え〜〜と…………こちら、私の母親です〜」


 何事もなかったかのような声色で、咲さんを紹介した……けど、ネイ先生の頭には咲さんの撫で続ける手がある。なかなかシュールな絵だ。


「初めまして。寧の母の珠洲野守すずのもり さきです。名乗らなくても知っていたかしら?」

『アッハイシッテマスデス』


 目を点にしていた2人がカタコトで返事する。


「くすっ、二人共そんな硬くならないで下さい。確かに私は守護者ですが、実際は偉い訳でも神様な訳でもないんですよ。何も怖がる事はありません、深呼吸してリラックスしましょう、ね?」


 優しく諭すように語る咲さん……うーん、相変わらずの凄まじい母性だ。彼女の放つ柔らかさに、アキヒロも自然と緊張した気配を和らげていた。

 ちなみに話している間も咲さんは僕とネイ先生をナデナデし続けている。なんだこれ。


「咲さん、さすがに友達の前でコレされ続けるのはちょっと恥ずかしいので……」

「あら、ごめんなさい気が付かないで。そうよね、恥ずかしいわよね」


 少し寂しそうながら、無限ナデナデから解放してくれる。

 ネイ先生を撫でるのも止めてしまったので、ネイ先生は数秒不満そうな顔になったけど、アキヒロの存在を思い出したのかそっぽを向いて何故か口笛を吹き出した。誤魔化しているつもりなのだろうか。

 僕らのその様子を見て、アキヒロが表情も崩した。


「初めまして珠洲野守様っ私は海老江 茜葵です! 今日水城ズとお友達になりました! 守護者目指して頑張りますっ!」


 最初に口を開いたのはやっぱりアキの方だった。実にアキらしく自己紹介した。


「えっと……お、お会い出来て光栄です、珠洲野守様。わ、私は鯨井 大と申します。あ、あまり自信はないですが精一杯頑張りますっ!」


 触発されてヒロも続く。緊張した感じは抜け切ってないけど、噛むことなく自己紹介し終えた。


「ご丁寧に有難う御座います。300年以上守護者として活動している先輩ですから、何か分からない事があったらいつでも相談して下さいね」

『はいっ!』

「くすっ、二人共仲良しさんね。あ、出来れば私の事は、名前で呼んでくれると嬉しいわ。苗字呼びは他人行儀みたいであまり好きではないの」

「はい! じゃあ咲様で!」

「わ、私も……あーでも恐れ多い気がするなぁ、いいのかなぁ」

「咲さん本人がそう望んでるんだし、遠慮とか恐縮とかしないであげて欲しいな」

「そ、そっか、そうだね。私も咲様って呼びます!」

「おばあさんの我儘を聞いてくれて有難う。それにしても、二人共元気で良い子ね。やっぱり若い子は元気でなくてはね」


 台詞こそ年寄りっぽいけど、見た目や声的に、少し年の離れたお姉さんが冗談言ってる感じしかしないから、なんか不思議な感じだ。


「母様、私だって元気いっぱいです〜。今期の生徒も立派に育てちゃうんですから〜」


 褒められたアキヒロに対抗してか、胸をそらしてそんな事を言い出すネイ先生……この人も300年くらい生きてるはずなのに、何でこう「大人っぽさ」がないんだろう。そこが魅力ではあるけど、不思議だ。

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