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21話 僕はノーマルです

「ぬむ〜……もしかして、ユキさんスト様に気に入られた〜?」

「うっ」


 みんなのとこに戻ったら、早速パフィンさんに尋ねられた。

 スト様って、ストゥルガノフさんの事かな……狙ってたみたいだし、当然聞いて来るよね。


 さて。どう説明するのがベストか思考をフル回転させて考える。

 こう言う時、漫画とかだと変にしらばっくれて険悪な雰囲気になったりするし、下手に言い訳しない方が良いかな。で、料理長さんには「極力」と言われたから……ふむ。


「えっとね……僕が成人したらツキアイマショウみたいなこと言われた」


 とりあえず話して問題なさそうな内容を断片的に伝える。


「マジ⁉︎ それ告白じゃ〜ん……うわ〜ん勝負する前に負けた〜……」

「パフィンさんは負けてないよ。僕は勝負の舞台に立つ気は無いからね」

「……んお?」

「まあ、だろうな。優輝はノーマルだからな」

「両性愛者の人からの好意は受け入れられない、という事かしら」

「確かに僕はノーマルだと思ってるけど、そういう性癖の人を否定するわけじゃないよ。僕はそれ以前に、料理長さんを恋愛対象として見れないってだけ」


 これは昼の時に山本さんにも言った事だ。その気持ちは料理長さんの恋愛観を知った今でも変わらない。


「んじゃあ、突然の小さい悲鳴とアクロバティック後ずさりは何なのん?」

「あれは……料理長さんにサディスティックな事言われて思わず。サドマゾとかなんか苦手なんだよね」


 会話の内容は直接話さない。それによって、聞いた人によってそれぞれ違う印象を持たせられるはず。


「おぉう……スト様、好きな相手にはS系男子になるタイプか〜……んふ、興味ぶか〜い」

「パフィンさんはSな方でも良いんですね。優輝さんは苦手、と」

「僕は、恋人とはやっぱり純愛系がいいかなぁ、えへへ……まあ恋人いた事ないけど」


 自分の恋愛観を言って、彼の恋人になる気がない事を強調する。ちょっと恥ずいけど我慢。


「うーみゅ……優輝はほんと可愛いねぇ」

「そだね〜……ユキさん相手だと恋愛勝負で勝てる気しないし、まっラッキーかな〜」

「さらに天然物って感じのあざと可愛さが良いんだよね〜。わざとらしさを感じないのがポイント高い!」

「ん―。自分の容姿が可愛い自覚はあるけど。あざと可愛いって言われてもピンと来ないなぁ」


 あざとい人って、あんまり好まれない気がするんだけど……まあアキの口ぶりから、悪い印象は持たれてないっぽいから、大丈夫なのかな。


「ところで優輝さんや。料理長さんっていう超優良物件を手放すなんて、どんだけ理想高いのよ」

「教室で質問責めにあった時にも言ったと思うけど、誰かに恋い焦がれるとか、まだよくわかんないんだよね。情報源は漫画とか小説とかだけだし」

「そ〜は言ってもなんかあるしょ。ユキさん、恋人はどんな性格の人がいいんかな〜? 興味ぶか〜い」

「う、うーんと……」


 むぅ……アキとパフィンさんにイジられ始めた。助けを求めるように視線を彷徨わせる。


「ふむ、そういえば、そういう話題はあまりした事ないな」

「優輝さんの理想の人……とっても気になりますっ」

「そういや、みんなに優輝さんの理想の男を聞いてきてくれって言われてたわ。せっかくだから聞かせてくれ」

「もう、みんなして仕方ないわね。あまりイジると優輝さんが可哀想よ……まあ気にはなるけど」

「うぅ……な、なんで僕の理想の異性の話になってるの?」


 とりあえず、計画通り料理長さんとの会話に関してからは話を遠ざけられたのはいいけど……なんでみんなして僕の「恋人の理想」を知りたがるのか。性癖聞き出されてるみたいでなんか恥ずい……って。


「……ふふへ」

「蒼月さん……ナニシテルノカナ?」


 蒼月さんが例のねっとり顔でビデオカメラを回していた。対象は……まあ、僕だ。


「恥じらう乙女の表情は、私に力を与えてくれます。それが好みの美少女なら尚更……! じゅるっ」


 うわーい。蒼月さんは何でこんな残念な美少女になっちゃえるのか、コレガワカラナイ。


『…………』


 姉さん以外の他のみんなも、なんか残念な人を見る目になってるし……あー、お陰でみんなの僕への関心が逸れたから……いやなんか納得いかない。


「ああ、その困惑した表情も素敵です……ふへへ、優輝さんはどんなお顔でも絵になりますわね……」


 うーん……こんな時どうすれば……あ、そうだ。蒼月さんと1番付き合い長い娘がいるじゃない。静か過ぎたのと、何故か気配消して傍観してたから意識から外しちゃってたけど。


「……ん(こくり)」


 僕の視線に気付いた月影ちゃんが、意を汲んだのか頷く。


「……ごにょ……」


 すっと静かに蒼月さんに近付くと、何やら耳打ちする。と、次の瞬間、蒼月さんは普段の柔らかな雰囲気の美少女顔に戻る。


「…………」


 蒼月さんは無言でゆっくりとビデオカメラを地面に起き、たおやかに地に伏した。

 その動作や体勢は、側から見たら三つ指をつく大和撫子系良妻と言っても過言ではないけど……けど、これは違う。これは、土下座だ。


「つ、月影ちゃん……何言ったの?」


 僕の質問に月影ちゃんは考えるように一時視線を逸らしてから視線を戻し、人差し指を立てて口横に持っていき、


「……秘密、です」


短く一言そう呟いた。その仕草可愛い。





       ――――――――――





「蒼月さん。あの時月影ちゃんに何言われたの?」

「……言わないといけないでしょうか?」

「僕の方は言ったんだけどな〜」

「……まあ、優輝さんは話して下さいましたし、いいましょうか」


 さて。月影ちゃんは何を囁いたのか。


「優輝さんを困らせているので謝罪を、と言われていました」

「…………」

「…………」

「え、それだけ?」

「それだけがどれだけ尊かったか!」

「うわびっくりした」


 唐突に目を輝かせ熱弁し始めた蒼月さん。


「月影はいつでも謙虚で他の方を立てる素晴らしい淑女なので誰かに指図するなど滅多な事では――」


 あー、またスイッチ入っちゃった。


「要するに、引っ込み思案な月影が自ら意見を言って来てくれた事に感動した、と言いたいんだな」

「バッサリ要約したね、姉さん。だいたい合ってるだろうけど」

「さて、またしばらく戻って来ないだろう。私は先に風呂に行かせてもらう」

「ん、了解。じゃあ僕は食器洗いしよ」

「優輝様、お手伝いが良いでしょうか、蒼月様のお相手が良いでしょうか」

「そうだね……食器洗い終えてもまだ続いてるだろうし、静海はしばらく話聞いてあげててよ」

「かしこまりました」


 静海は恭しくお辞儀をして、さっき姉さんが座っていた所に座り、無心で蒼月さんの話を聞き続けた。


(さて。明日の献立はどうしようかな〜)

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