1話 入学式
プロローグ的なのが投稿してあります。先にそちらをお読み下さい。
「1ページ目は入学式当日の……確か、家を出る直前に書いたんだったかな」
「ああ、そうなのか……ん? 出かける前ということは、朝書いたのか」
「うん」
――――――――――
「んー……こんな感じかな?」
初めての日記1ページ目を試しに書いてみた。
「……普通日記というのは、1日の終わりに書くものじゃあないか?」
「っ!」
突然の声に小さくビクつき、すぐ後ろを振り返る。
「初めてだから練習も兼ねて書いたんだよ。今日の終わりにも書くけど……それより」
一拍置いて、いつの間にか部屋にいたその人を軽く睨む。
「日記を許可なく読むのはプライバシーの侵害だと思うな、父さん。気配まで消して」
「う、それは――」
「それは、なに?」
言い訳を始めそうな父親に、にっこり。
「すいませんそんな顔しないで死にたくなります」
「……ぷっ、ふふっ。大げさだなぁ。ん、許します」
綺麗な謝罪のお辞儀に苦笑しつつ、日記を鞄にしまって椅子から立ち上がる。
「もうすぐ出発の時間だから呼びに来てくれたんでしょ? ほら、頭上げて。行こ?」
「ああ、そうだな」
そう言って、父さんが先に部屋を出る。僕も続いて出よう……の前に、さっと姿見で服装の乱れとかないか確認する。
鏡に映ったのは、セーラータイプの制服に身を包んだ、多分可愛いらしい少女の姿。
「んー……よし、見た目は異常なし…………はぁ」
小さくため息。ちょっとだけ悲しくなったけど、あまり時間もない。早く父さんを追おう。
車で運ばれる事約4時間。途中休憩を挟んだとはいえ少しお尻が痛くなってきたところで、ようやく到着。
「姉さん起きてー、着いたよー」
隣で熟睡していた姉さんを揺さぶる。
「む……ふあ……んむ、そうか……」
あくびを噛み殺しながら車の扉を開ける姉さん、続いて僕も反対のドアから出る。
『んん〜……』
長時間同じ姿勢だった身体をほぐすように伸びをする……姉さんもまったく同じように動く。姉さんとは、たまにこんな風に同時に同じ動きをすることがある。やっぱり姉さんとは双子なんだなぁと思う瞬間だ。
「……ふふっ。なんだか懐かしいわね」
「そういえば私達が出会ったのは、美奈の卒業式の帰りだったか」
父さんと母さんが校舎を眺めながら昔話に花を咲かせ始めたのを眺めながら、僕も辺りを見回す。
(やっぱり無駄に広いなぁ)
僕達家族が到着したのは、姉さんと僕が今日から通う事になる学び舎。精霊国最大の都市、学園都市栄陽の中心にある、国立栄陽学園本校だ。
「――というわけで、来るべき魔神との対決に備えて、歴史に名を残すつもりで、各人努めるように願います。最後に改めまして。皆さん、ご入学おめでとうございます」
「学園長のお話でした。以上をもちまして入学式を終了します」
(ふう。学園長のご高説はためになるけど、ちょっと長いなぁ)
前に座ってる姉さんはまた寝てるし……というか僕の近くに座ってる人達、寝ぼけ眼かやっと終わった〜的な雰囲気……あれ? 真面目に話聞いてた人って、もしかして少数派?
「新入生の皆様は、各クラスの担任教師が案内に来るまでそのまま待機していて下さい」
司会の人がそう締め、式は完全に終了となった。
待つ事10分弱。案内順は最上位クラスのSから始まりABCDと続くので、僕達が割り振られているクラスDは一番最後だった。
「みなさんおまたせしました〜。私がクラスDの担任教師です〜」
間延びした独特の喋り方の女性……見ためは10代後半くらいにしか見えない彼女が、これから3年間お世話になる担任の先生。まあ僕らからすれば、すでに3年なんてものじゃないんだけど。
「ではでは〜。さっそく教室に向かいますので、あわてず着いてきてくださいね〜」
喋り方もだけど、先生が持っている物に、僕と姉さん以外のクラスのみんなは間違いなく気になって仕方がなかっただろう。
((なんでマクラ持ってるんだ……?))
――――――――――
「うん? この時もう先生きていたのか」
「姉さん寝ぼけてたからね。起きたの、クラスのみんなが自己紹介始めた時くらい?」
「はっきり記憶があるのは、優輝が自己紹介を始めた時くらいからだな」
「えぇ……」
――――――――――
「さてさて〜。まずはみなさん、ご入学おめでとうございます〜。これから3年間、よろしくお願いしますね〜」
教室に着き、みんなが席に座ったのを確認してから、どこか眠気を誘う声と雰囲気を振りまきながら綺麗なお辞儀をする担任の先生。
「3年間というそれなりに長い期間お付き合いするわけですから、みんな仲良くいきたいですよね〜。というわけで、お互いを知ることから始めましょ〜」
「はいセンセイっ!」
しゅびっという感じで手を挙げたのは、長めの赤毛を右サイドテールにした、活発そうな印象の女の子。
「はいはい、どうしました〜?」
「どうして先生はマクラを持ち歩いてるんですか⁉︎」
いきなりそこツッコむんだ。かなり積極的な娘だ。
「マクラは寝るために使うものです〜。つまり、眠りたい時にいつでも安眠できるように、です〜。あ、授業中に眠り始めたりとかはしないので、ご安心ください〜」
「はあ、そですか」
「それとですね〜……マクラは優しく衝撃を受け止めてくれるので、投げつけてもわりと安全です〜」
「え? 投げつけ……?」
「あ〜、先生のマクラの紹介が先になってしまいましたけど、先生の自己紹介をしますね〜」
マクラの話はここまでというように話の流れを戻す先生。黒板に向き、自分の名前を書いていく。
「先生の名前は珠洲野守 寧です〜。どこかで聞いたことある名前かもしれませんが、まあそういうことです〜」
その名前、というか名字を聞いて、当然教室はザワつきだす。
「珠洲野守……珠洲野守⁉︎」「守護者と同じ名字、だよな?」「あれ、珠洲野守の名字って、1人だけなんじゃ……」
やっぱり一般的にはこの反応だよね。僕と姉さんは、昔からネイ先生のこと知ってるから驚きはないけど。
「はいセンセイっ! 守護者 珠洲野守様とはどのような関係なんですか⁉︎」
「珠洲野守 咲は、私の母親ですよ〜。家族構成まで公にはしてないですし、知らないのが普通じゃないですかね〜」
「つまりは娘様、ですか!」
「様付けは不要ですが、その通りです〜。堅苦しいのは苦手なので、気軽にネイ先生って呼んでくれると嬉しいです〜。あと目立つのも苦手なので、先生の名字は言いふらさないでくださいね〜」
「はいっわかりました!」
「元気な良い返事です〜。ではでは、自己紹介を続けますね〜。私の好きなことは、自己鍛錬です 〜」
『…………』
数秒の沈黙。うん、まあ、みんなが考えてることは予想出来る。きっと、
((寝ることじゃないのか……))
だろう。
「自己紹介はこんな感じで、みなさんのフルネームと、好きなことや好きなものをひとつ、あげて下さ〜い 。ではでは」「ネイ先生っ! もうひとつ聞きたいことがあるんですが!」
サイドテールの子、すごい積極性だなぁ。見習えるところがあるかも。
「はいはい、それで最後ですよ〜」
「はいです! えーと……守護者の咲様は300年以上前から守護者ですけど、娘のネイ先生の年」
あ、それはダメなヤツだ。
「それは秘密です」「齢……えっあの」「それは秘密です」「せっ」「それは秘密です」「ハイ、ワカリマシタ」
秘密で押し通した。
「え〜と、自己紹介はこんな感じで、みなさんのフルネームと、好きなことや好きなものをひとつ、あげて下さい。ではでは、出席番号順でいきましょ〜」
さらに直前の話題なんてなかったことにして無理やり話を戻した。
(ははは……ここでもネイ先生はネイ先生だなぁ)
クラスD生徒名簿 出席番号順
天井 氷
海老江 茜葵
刑部 美湖
ニック・カルパチョフ
北 礼雄
パルフェ・キッシェン
鯨井 大
佐藤 真
塩谷 幸子
ジェイ・チェーン
エミリー・ナナセ
西川 シュン
羽山 知世
アゼリア・ホリイ
巻 癒円
間崎 雅
水城 瑞希
水城 優輝
飯屋峰 王者
山本 摩耶
登場人物紹介
水城 鷲王
容姿:赤茶短髪ダンディ系
身長:177cm
性格:良
好物:家族とする食事
嫌い:特になし
趣味:家族との時間 優輝を愛でる
属性:雷
優輝と瑞希の父親。自他共に認めるレベルの家族溺愛系親父。
国防に関わる仕事に就いているため家に長期間いられないが、家族を大切に想っており、定期的に(多少無理をしてでも)帰っているので家族仲は良好。
瑞希と一緒に優輝を愛でるのが生き甲斐。
水城 美奈
容姿:焦茶髪ロングポニーテール凛々しい系
身長:163cm
性格:良
好物:特になし
嫌い:酒
趣味:家族との時間 我が子を愛でる
属性:火
優輝と瑞希の母親。2人が栄陽学園に入るまでは美奈が小学校分の基礎教育を施していた。鷲王程おおっぴらにはしないが、美奈も家族を溺愛レベルで大切にしている。
2人が生まれる前のとある事故により利き腕を損傷しており、治癒術が間に合ったので日常生活に支障はない程度まで回復したが、激しい戦闘等は出来なくなってしまった。
栄陽学園本校の卒業生であり、文武両道の才女で次世代の守護者最有力候補と有望視されていた。
珠洲野守 寧
容姿:藍色髪ロングひとつ結び 可愛い
身長:150cm
性格:遊
好物:甘いもの
嫌い:辛いもの
趣味:自己鍛錬
属性:風
1- D担任教師であり、水城家のご近所さんであり、守護者の娘であり、300年以上生きているわりに子供っぽさの残る年齢聞かれたくない系女子?である。
いつでも眠れるようにマクラを持ち歩いているが、寝るのが好きと言うわけではなく、特別な理由がある。詳しく記すと長くなるので省くが、突然眠くなって勝手に体が寝落ちしてしまう体質故である。
一応、ある程度眠気をコントロールするすべを会得しているので、大事な場面で寝落ちたりはしない。多分。
明日の夕方、次を投稿する予定です。