18話 仲良し双子
良いサブタイが思いつかない……
「――チョコケーキを初めて食べた時の月影の表情は一生忘れられません私が映像に残した中でも1番な程で宝物で今でも定期的に最低月1回は鑑賞しています勿論映像データは大切に厳重に保管してありますしバックアップも7重にしてありますがやはり現実の月影が1番ですけど無い物ねだりしたところで仕方ないので映像を見るしかないですが私の渾身の出来の衣装を来た映像での――」
現実でも、蒼月さんの月影ちゃん可愛い自慢(重症ver.)が始まっていた。というか前より酷くなってるなぁ。
まあ、月影ちゃんはいないから仕方ないね……蒼月さんとは違うけど、月影ちゃんがいない寂しさは僕も理解できるから、あまり中断はしたくない。
「優輝、蒼月の発作が自然に治まるまで最低でも20分はかかるだろう。話の続きでもして待とう」
「……そうだね」
さて。ティータイムまで話したから……
――――――――――
楽しい時間というものは、あっという間に過ぎる。
だったら何度でも繰り返せば良い。心から楽しいと思える事は、何度繰り返しても飽きない。
そして、嫌いなモノや人が少なければ、いろんな出来事を楽しめる機会は増える。だからあまり「嫌い」は増やしたくない、んだけど。
「我が嫁優輝よ、先程の我の行動は貴様達への配慮に欠けていた。この場で詫びよう」
「お詫びの気持ちがあるなら嫁呼びをまずやめてほしいな」
「ふむ、それもそうか、まだ籍を入れていないしな」
「そうじゃなくてね」
「とりあえずその尊大な態度をやめろ。偉ぶるなら最低でも優輝レベルの天才性を見せてからだ」
「はははっ、生れながらの王者たる我が尊いのは当然だろう。当然のことを言うとは、瑞希は面白いな」
ダメだ、彼と話が噛み合う気がしない。僕の台詞に対しては特にそうだ。なんて迷惑な。
「全然反省の色ねぇなコイツ……優輝、頑張れよ」
「あ、はは……ありがと山本さん」
金堂先輩はまだ話が通じるタイプ(多分)だけど、飯屋峰君は完全に自分の世界を形成してしまっている。迷惑度はこっちの方が上かも。
あえて良い点を挙げるなら、飯屋峰君の嫁達にサチさんが含まれてないことと、金堂先輩が一途で僕に害が出ないことかな……問題の解決にはなんの意味もないけど。
何が言いたいのかと言えば。どうにも、飯屋峰君だけは好きになれそうにない。
ティータイムが終わって、現在4時35分。入学式の時と同じくクラスSから順に案内されているので、少し待たされる。
当然食事の時と同じテーブル、つまりは出席番号順なわけで……待ち時間に、こうして飯屋峰君に話しかけられている。
はぁ……先生まだかなー……
「おまたせしました〜。本日最後の案内です〜」
待ち始めてから約15分。どうやって極力穏便に飯屋峰君を黙らせるか電撃がやっぱり1番有効かなとか考え始めたところで、ネイ先生がやってきた。
「最後は、学生寮の案内ですね〜。ではっ早速移動しましょ〜」
「はい、到着で〜す。ここが、皆さんがこれからの3年間住むことになる、学生寮ですよ〜」
食堂棟を出て通路を進み、徒歩約2分。位置的には食堂棟の背後の方に、学生寮はあった。
ここは学園都市。教職員用のアパートや外来用の宿泊施設、都市部で働く人用の集合住宅は学園都市内にあるが、普通の一軒家はない。つまり、基本学生は全員この寮に寝泊まりする事になる。
「寮の注意事項のうち、重要な点をいくつか挙げますね〜。細かい規則とかは、寮案内のパンフレットで各自確認して下さ〜い」
そう言ってから、入学前に郵送されていた寮パンフを掲げるネイ先生。
「はいはい、よろしいですか〜? では言いま〜す」
……少し長いので、告げられた内容を掻い摘んで記そう。
寮内放送で起床ベルが6時に鳴る。寮の門限は22時で、寮内完全消灯時間が23時半。
大浴場の使用時間は17時〜23時。自室のバスルームは特に時間指定はない。
食事は、基本朝夕は食堂棟で全員同じメニュー、時間は朝が6時半〜8時、夕が18時〜20時。
昼食は自由。食堂棟でランチセットを頼むも良し、購買でパンを買うも良し、調理室や寮の自室で個人的に作って食べるも良し。ただし、調理室を使う場合は、料理部に入るか事前の許可が必要。
外泊の際は必ず届出をする、別の寮生の部屋にお泊りする場合も同様。
こんなとこかな。食事に関するとこだけ詳細に書いた気がするけど、まあ気にしない。
「あと最後にひとつ。異性交遊は禁止されていませんが、学生らしく守護者候補生らしく、普通の交際を心がけて下さいね〜……ぶっちゃけちゃうと恋人との夜の営みオーケーですが、さすがにデキちゃったら退学です。みなさんわかりましたか〜?」
『……は〜い』
まばらに返事が上がる。まあ反応に困る内容だったしね……
はい。教師が堂々と生徒に不純異性交遊を許可するのは異常だと思うでしょう。うん、それは精霊国の一般常識的に言って正しい。けどここ、栄陽学園はかなり特殊だったりする。
この学園では『守護者候補』を育成することを目的としている。それは実情、世界を滅ぼしうる一騎当千の猛者を大量に生み出しているようなものだ。
ただしそれは、他国に侵略するためではない。自国を――いや、世界を守護するためだ。
守護者の咲さんと守護省の発表によると、かつて世界を窮地に陥れた『魔神』の封印が、10年以内に効力を失うらしい。
封印されている2人の魔神。咲さん曰く「直接戦ってはいませんが、おそらくどちらも今の私と互角かそれ以上」らしい。
咲さんが神性全力解放すれば、国を物理的に消滅出来てしまうらしいので、それが2人……と考えれば、戦闘をこなせる守護者候補や精霊剣士は1人でも多いに越したことはない。
とはいえ、神性全力解放はデメリットが大きいらしく、魔神でも滅多な事ではしないらしいので心配しなくて良いらしいけど。
まあそんな訳で。守護者候補である生徒には、極力ストレスフリーでいてもらいたいというのが学園の指針らしい。
そのため、学園都市内の娯楽施設はかなり充実しており、男女交際等も常識的な範囲で許可されているのである。
「は〜い、これにて本日の予定は全て終了です〜。何か不明な点、不安な点ありましたら、気兼ねなくネイ先生に言って下さいね〜。では、解散で〜す」
「はぁぁ〜……疲れたぁ。主に精神的に……」
寮の自室に入って早々、椅子に座りキッチンテーブルに突っ伏す。今日から3年間過ごす部屋なんだーとかの感慨は取り敢えず湧かない、ほんとに疲れてるからそれどころじゃない。
「お疲れ様だ」
姉さんが短く一言労ってくれる、のは嬉しいけど。
「……今日の僕の精神疲労、半分位姉さんが原因なんだけど」
ジト目で軽く睨みながら皮肉で返す。
「理解しているさ。その上で優輝が私の趣味嗜好に合わせてくれていることが何より嬉しい。大好きだぞ」
「……どういたしまして。喜んでくれて何よりだよ」
むぅ……その笑顔はやっぱり卑怯だ。本気で嬉しい時の裏表のない笑顔だと知っているから、アレを見せられるとつい許してしまう。
ちなみに、寮は基本2人一組の相部屋で、僕のルームメイトは姉さんだ。事前に申請していれば相方は決められる形式らしい。アキとヒロも事前に申請していたらしく、ルームメイトだそうだ。
「あ、大丈夫だったとは思うけど、一応姉さんの意見も聞くね」
「ん?」
テーブルから起き上がり、居住まいを正してから姉さんに問う。
「僕、どう見ても女の子だったよね?」
「可愛い女の子に見えない奴が居たら精神異常か眼の病気の疑いがある程の超カワイイ美少女だぞ」
自信満々ドヤ顔で、親指を立ててそう評価されてしまった。
「あはは……ありがと……うん、ありがと……はぁ」
小さくため息。なんか朝にも、姿見で自分を見て似たような反応した気がする。
ちゅっ
「……突然何?」
するりと近付いた姉さんが、頬にキスして来た。
「うむ、感謝の気持ちと応援の気持ちだ。まだ1日は終わってないぞ」
「ん、そだね」
夕食はまだだし、お風呂もまだだ。なんにしても、就寝にはまだ早い。
「就寝前、部屋の鍵をかけるまで油断は禁物だ。優輝の尊い着替えシーンや入浴シーンを覗きに来る不届き者がいないとも限らんしな」
「自室のお風呂使うし、そこまで警戒しなくてもいいんじゃないかな? それに、姉さんが見張っててくれるんでしょ?」
「それは勿論。だが、入浴中のリラックスしている瞬間は、私と言えど多少は気が緩む。優輝も気を抜きすぎない事だ」
……ん?
「姉さん、僕と一緒に入るつもり?」
「当然だ」
「えぇ……うんまあ、家ではいつもの事だけどさ。学生寮でも一緒に入浴するのは……」
「ふふふ……仲の良い百合姉妹という噂が広まると良いな」
「良くないよ⁉︎ そもそも百合じゃあ……というか、姉さん広めるつもりなんじゃ」
「そんなつもりはないが、噂というものは何気ない事がキッカケで生まれ、広がるものだ。大浴場に一度も行かず姉とだけ入浴を続ければ、そう妄想する者は必ず現れるだろう」
「必ずなんだ……」
「うむ」
えー……うーん、じゃあどうすれば……って。
「いやいや、そもそも姉さんとお風呂一緒しないといけない決まりなんてないじゃない」
「……チッ、さすが優輝、ラブコメ漫画の主人公のように鈍くはないな」
あれ? なんか本気で悔しがってる?
「もしかして、お風呂云々本気で言ってた?」
「ははは、冗談に決まっているだろう?」
「ああそう……」
どうやら半分位真面目に言ってたらしい。
「実際問題、風呂に関しての諸々はどうするつもりだ? アキの奴なんかは間違いなく大浴場に誘って来るぞ?」
「だね。まあそれに関しての言い訳は――」
コンコンコン
「瑞希に優輝〜、遊びに来たよ〜ん!」
噂をすれば、アキが来た。




