16話 自称?天才
「ところで、1つ気になっていたんですが」
「んむ?」
「入学当初の料理部の人員不足、何が原因だったんですか?」
「ん……こくこく」
焼きメレンゲで甘ったるくなった口内を紅茶で中和してから答える。
「えーと確か……料理長さんかな」
「料理長? というと、ストゥルガノフ様ですか。問題を起こすような方ではなかったと思うのですけど」
「うん、あの人が直接問題を起こしたとかではないんだよ。さっき話してた、入部試験のお菓子タイムの時に聞いたんだけど……」
――――――――――
「部員が2人しかいない理由か……情けない話なんだが、聞きたいかい?」
「はい、話して問題ないようであれば」
「なんというかね……今の料理長が素晴らしい料理長だから、だね」
料理長さんが素晴らしいせいで部員が少ない?
「んにゅ、どゆこと? なぞなぞ?」
「そういうわけではないんだけどね。彼は本当に魅力的な人なんだ」
料理長さんが魅力的な素晴らしい料理長だから部員が少ない……んー?
「それは彼が、料理長として素晴らしいということですか? それとも人間的に?」
「両方だね。しかも男女共に受けが良い」
「んー……」
答えが出そうで出ない感じ。モヤモヤする。
悩み始めたところでサチさんがさらに尋ねた。
「男女共になんですか? 今日の昼の反応的に、男子には受けが悪いように感じましたが」
「そういえば、なんか男には舌打ちされてたな〜」
「はは、確かに彼は物凄いハンサムだからね。でもしばらく接すれば、男女関係なく守護者候補である生徒を、心から気遣ってくれている人だと気付く筈だよ。よほど性格が捻くれていなければね」
料理が上手くて気遣いが出来て男女から親しまれていて……なにその完璧超人。
まあ真に完璧な人なんていないし、なにかしら欠点はあるんだろうけど……それはともかく。
「なんとなく、わかったかも」
「おぉっさすが優輝。で答えは?」
「女の子からは、優しくて料理上手な素敵過ぎるイケメン。男子からは、優しくて料理上手な頼れるアニキ。そう見られていたんだとすると……料理が本気の趣味でない人以外、わざわざ部活でまで料理しようとは思わないんじゃないかな、と思う」
あくまで予測だけど。さて、正解かな?
「うん、だいたいあってるね。運悪くというかなんというか、ストゥルガノフさんという素晴らしい料理人がいる上で料理部に入るほどの料理好きは、ここ数年片手で数えられる程度しかいなかったらしい」
「んまぁ仕方ないよね〜。お昼のミニパフェもチョ〜美味しかったし! 少なかったけど!」
「ミニだからね」
パフィンさんが指先をペロペロしながら話しに割り込む。
ちなみに愛称呼びは彼女からの要望だ。キッシェンの響きがあんまり可愛くないから、らしい。
「そんなことより、ユキさんとアキちゃん入部するんしょ? ならあたしも入る〜」
パフィンさんは親しくなった人を、男子以外はちゃん付けで呼ぼうとする。僕もちゃん付けされだしたんだけど……
「ごめんほんとダメ。ちゃん付け恥ずいからダメ」
「恥ずかしがって顔真っ赤な優輝めっちゃ可愛い!」
「アキちょっと黙って」
「えっあっはい」
ちょっと強めの口調で頼む。これだけは本気で我慢できないから、茶化されるのも嫌だ。
「え〜なんで? ユキちゃんチョ〜可愛いんだもんいいじゃんか〜」
「慕ってくれるのは良いが、優輝はちゃん付けだけは本気で嫌がるからな」
こういう時、姉さんがフォローをしてくれる。姉さん好き。ただ……
「やめないとお前の口にハバネロソースブチこむぞ」
……年々内容が過激になってきてるのが気になるけど……まあいいか、実行したことないはずだし。
「んぐ……か、辛いのは平気だし」
「ほう、そうか。では……濃縮したセンブリ――」
「わかりましたミズ姉さん」
真顔で了承するパフィンさん。辛いのは耐えられても苦いのは無理らしい。
そういう感じで、僕と姉さんだけはさん付けだったりする。と、話を戻そう。
「パフィン君は先程料理は面倒と言っていたが、作れはするのかな?」
「ホットケーキ粉買って焼いたことはありま〜す。でも写真みたいに上手く膨らまないんよね〜。んで、作るんは飽きちゃった〜」
「あ〜、あれはちょっとしたコツがあるからねぇ」
「ふむ、料理音痴ではなさそうか……ならまあ及第点か。他の入部希望者はどうかな?」
「私は優輝とセットだ」
「わ、私もゆ……じゃなくて、アキちゃんとセットみたいな? です」
「僕は料理が出来るかどうか聞いているんだが……」
「い、一応、炒め物とかオムレツとか、簡単なのは出来ます」
「へえ、オムレツ作れるなら基本は十分だね」
「私は……必要なかったから作ったことはないな」
そういえば、確かに姉さんが料理作ったの見たことないなぁ。料理してるのを眺めていることはよくあったけど……ああ、それなら。
「でも、姉さん作れるよね」
「まあ、やろうと思えばな」
「作ったことはないのに作れるのん?」
アキが当然の疑問を出す。
「姉さんは、僕や母さんの料理してるとこを見てたからね。だから作れるよ」
「う〜みゅ……」
腑に落ちないと言った顔をするアキ。なんか前からの友達な気がしてきていたけど、やっぱりまだ出会ったばかりなんだな、と思った。
「見ていただけで作れる訳はない。それは料理好きの君ならわかるはずだけど。その君が作れると断言する理由がよくわからないんだが」
まあ言いたいことはわかるし、常識的に考えれば誰もがそう言うだろう。けどそれは、姉さんには当てはまらない。
姉さんを知らない人からしたら、ただの身内贔屓にしか聞こえないだろうけど……こういう時、一言で表すなら。
「姉さんは天才なので」「私は天才だからな」
姉さんと台詞が被った。ちょっと嬉しい。
『…………』
その場にいたほとんどの人に、「え、本気で言ってるの?」な顔をされてしまった。
うんまあ……予想はしてたけどちょっと悲しい、というよりスベったみたいでちょっと恥ずい。
「そうなのか〜! さすが水城ズだな!」
「……ありがと雅」
「ふっ、当然だ」
唯一、雅だけは驚きと賞賛を送ってくれた。雅のそういうとこ好き。
「とはいえまあ、皆がそのような顔をするのも当然ではあるか。言うは易く行うは難しと言う言葉もある。つまり、先程の優輝とアキが行なって見せたように、私も同じ事をすれば良いだけだな」
「え、姉さん料理するの⁉︎」
「……なんで妹の優輝さんがそこまで驚いてるのよ」
「いも……いや、姉さんが料理することなんて一生ないと思ってたから」
「まあ、このような話の展開にならなければ一生しなかっただろうな」
「どんだけ料理したくないのよ……」
「それは少し違うな。私にとって優輝の料理以上の食物はないから、私が料理する意味がないというだけのことだ」
「あー……」
何故だかサチさんに同情の視線っぽいのを送られてしまった。姉さんがそう思ってくれてるのは、僕としてはただ嬉しいだけなんだけどね。
「まあ今日はもう無理だが」
「え、なんで――あ」
姉さんの一言で気付き、ケータイの時計を確認する。時間は――
「3時29分」
「ケ〜〜〜〜〜〜キ‼︎」
「うわビックリした」
パフィンさんが悲鳴を上げる。お菓子作ったり食べたりで満足してたから油断してた、色々と。
「落ち着け。ケーキの配布は、わざわざ教師から伝えられた情報だ。全員確実に食べられるだろう」
「数種類あるかもじゃん! 人気なのはすぐ無くなっちゃうかもじゃん‼︎」
「と言っている間に30分になったな」
「んお〜〜‼︎」
愉悦顔でパフィンさんを煽る姉さん。
「すいません桜部長さん、食堂でケーキ頂くので今日はこれで。入部届は地曜日に持って来ますね」
「ああ、了解したよ」
「ユキさんハリーハリー!」
「うんわかってる。お騒がせしましたー」
「うん、待っているよ……女の子はやっぱり甘い物に目がないな……」
最後に一言、寂しそうな呟きが聞こえた。
その呟きに対して、僕は心の中で一言呟いた。
(……性別は関係ないと思います)
舞台となっている精霊国の曜日は……
月曜が地曜日 火曜が火曜日 水曜が水曜日
木曜が風曜日 金曜が雷曜日 土曜が闇曜日
日曜が光曜日
……となっています。
全て精霊の属性から取られています。




