14話 友達が増えるよ!
「剣術部の色欲猿か、そういえばそんなのもいたな」
「というか、先に蒼月さんが出会ってたら、もしかしたら惚れられてたんじゃないかな。見た目はすごい真面目そうだし」
「なんだかひっかかる表現ですが……それはない気がしますわ」
「というと?」
「私は幸子さんほどあらゆることに生真面目にはなれないですから。ただ私は……自分の身近な幸せを守るので精一杯です」
「……そっか」
「ところで、その後はどうなったんですか? 幸子さんは本当に生真面目な方でしたから、思い詰めて体調でも崩してしまいそうですけど」
「うんまあ、そうだね。放っておいたら最悪、四方さん2号になってたかもね」
――――――――――
「……大丈夫、大丈夫……精神鍛錬だと思えば……」
額に手を当て、ブツブツ自己暗示のようなことを呟く塩谷さんと一緒に、部活棟付近まで戻って来た。
「塩谷さん、大丈夫?」
「何⁉︎ ……あっ。ごめんなさい優輝さん、つい怒鳴っちゃって」
「いや、別に気にしてないけど」
うーん、ちょっと見ていて痛々しい。生真面目なのは塩谷さんの良いところだけど、今回はそのせいで思い詰め過ぎてるよね。何かしてあげたいけど……
「……ふみゅ。良し決めた。塩谷さん!」
「ぅえ⁉︎ あ、ああ海老江さん、何かしら?」
何やら思案顔だったアキが大声で塩谷さんを呼んだ。何か良い案でも思いついたのかな。
「今日から塩谷さんのあだ名は委員長だ!」
「ええと……確かに小学校の時クラス委員長していたけど……え、あだ名?」
「そんでアタシとお友達になろう!」
「はあ、友達……え? 今なんの話をしているの?」
アキの言いたいことがわからないらしい。僕もまだ全部はわからないけど……アキが友達想いな良い娘なのは知ってる。
「アキはこう言いたいんじゃないかな。「悩みや愚痴があるなら友達に打ち明ければ楽になる。だから友達になろう」」
「うんっそんな感じ!」
「あ、あたしも、アキちゃんのそういうところに助けられてるから……塩谷さんも、1人で考え過ぎない方がいいよ?」
「…………」
塩谷さんが呆然とした顔で僕らを見つめる。
「……そ、そういえば私、今まで愚痴を零せるような友人いたかしら。佐藤は間違いなく違うし……」
……なんか悲しい独り言を言い出した。
「おぉっじゃあ私が友達1号だったり? ヤッタ!」
逆にアキはポジティブ全開だ。可愛い。
「ふふっ、じゃあ僕は2号かな」
「えっと、さ、3号になります?」
「立候補した順なのか? まあとりあえず俺も。4号だっけか?」
「ふむ、なら私は……1.5号だな」
「なぜに1.5?」
「優輝が2号らしいからな」
「……ぷっ。ふふっふふふふふっ!」
突然塩谷さんが笑い出した。僕らも顔を見合わせて笑みを浮かべる。
「なんか悩みなんかどうでもよくなってきたわ……ありがとう。今から友達としてよろしくね」
そう言い、素敵な笑顔で了承する塩谷さん。
「うん、良い笑顔。せっかく美人さんなんだから、難しい顔よりその方が似合ってるよ。可愛い」
「優輝さん……あなた、間崎君とは別方向で天然ね」
「あっ私もそれ思った」
「優輝だからな」
「え、どういう意味? ……ヒロわかる?」
「えええっと、えっと……みみ、雅君、どういう意味なんだろね?」
「俺に聞かれてもなぁ」
なんか訳知り顔の4人と、頭にハテナを浮かべる僕と雅。うーん……可愛いと思ったから可愛いって言っただけなんだけど。
「よくわかんないけど……友達記念として、塩谷さんも一緒に部活見学行こ?」
「ええ、喜んで」
「ところであだ名だけど。委員長はちょっと」
「ふみゅ、お気に召しませんか。んじゃあ……幸子だからさっちゃん、はちょっと合わな――」「それでお願い」「えっでも――」「むしろそれが良いわ」
ちゃん付けが気に入ったらしい。
「まいっか。さっちゃんって呼ぶね〜」
「俺は、さっきまで通り塩谷さんでいいかな」
「私はそうだな。サチと呼ぶか」
「僕は……うーん。年下っぽくもないのにちゃん付けは抵抗あるかな。サチさん……は、さすがにダメか」
金堂部長と同じ呼び方はさすがにイヤだろう。
「……不思議ね。呼び方は同じなのに、優輝さんだと自然に受け入れられるわ」
「じゃあサチさんで良い?」
「ええ、それでお願い」
「わ、私はどうしよ。さっちゃん、塩谷さん、サチさん……うーん」
「好きに呼んでくれて構わないわ、出来ればさっちゃんが良いけど」
「さっちゃんそれ実質一択に狭めてない?」
真面目一辺倒かと思ったら、意外とお茶目な部分あるなぁ。色々吹っ切れたのかも。可愛い。
「うーん……」
ヒロはまだ悩んでいた。どれも許可は得てるんだし、自分の好みで選べば良いんだけど……ふむ。
「今のから選べないなら、いっそ別の呼び方にしてみるとかどうかな?」
「別の……えっと……」
僕の提案を数秒考え、ぱっと表情が華やぐ。
「ひねりとかないけど……幸子さん、で良い?」
「くすっ、無理にひねらなくていいわよ。ええ、それでよろしくね、鯨井さん」
「は、はいっ、よろしくですしお……幸子さ――」
「んも〜さっちゃん! 友達になったんだから名前は下の方で呼ぼうよ〜」
ヒロの台詞の途中で、我慢出来ずにアキが割り込んだ。
それに対してヒロは不快な顔はせず、しょうがないなぁとでも言いたげな表情だ。友情の深さが垣間見えて、なんか嬉しい気分。
「なるほど……いかにも友達って感じで、なんか良いわね」
「あっちなみに間崎君はマミヤってあだ名あるから」
「アキが勝手にそう呼び出したんだけどな。まあ好きに呼んでくれ」
「そう? それじゃあ……アキ、ヒロ、瑞希」
と、サチさんがひとりひとり顔を見てから名前を呼び始めた。
「間崎君がマミヤ君。優輝さんが……えーと……」
何故か僕だけ長考する。
「……優輝さんは、優輝さんで」
「マミヤは男の子だからまぁいいとして、優輝だけなぜにさん付け?」
「な、なんとなく、そう呼びたいと思ったのよ」
自分でもはっきり理由がわからないようで、若干困惑したような表情を浮かべるサチさん。なぜかヒロも同意するように何度も頷いてるし……なんだろ?
「……ふっ」
「……姉さんはなんでちょっとワルそうな顔してるの?」
「さて、何故だろうな。で、この会話はいつまでしているつもりだ? もうすぐ2時だが」
「あれ、もうそんな時間? 漫研とかも気になるけど、3時半のケーキを考えるとちょっと厳しいかな」
「そだねぇ。まっとりあえず、料理部に直行だ〜!」
「いつもありがとうございます、純さん」
「いえ、シンさんが持ってきたのを使っているのだから、何も問題はありませんよ……暇ですしね」
「新入生、2人は入ってくれると良いですね」
料理部の部活案内の所にたどり着いたら、剣道部副部長さんがいた。やたらガタイが良くて超長身な厳つい顔の男子から、持ち帰り牛丼のようなものが入ったビニール袋を大量に受け取っていた。
近付いてみると、その男子は遠目の予想よりかなりデカかった。2mはさすがに無いと思うけど、190cm以上はありそう。
「シン先輩、さっきぶりです。まさかすぐに会うとは思いませんでしたけど……(キョロキョロ)」
「そうだね塩谷さん。アレは近くにいないから安心していい」
「そうですか……良かった」
「ところで! なんかすっごい良い匂いしますけど、持ってるビニール袋の中身なんですかっ⁉︎」
「カツ丼だよアキちゃん」
なぜかアキの質問にヒロが確信のこもった声で答えた。確かにそんな感じの香りだけど……ヒロの食に対するセンサーが凄い。
「正解。こちらの、見るからに男らしい素敵な男性、料理部の部長の桜 純さんに、食材を渡して作って貰ったモノ」
……あー。四方さんの声の雰囲気とかが柔らかい。多分料理部部長の彼が、彼女の恋人なのだろう。
「はじめまして。今紹介された、料理部部長の桜です。四方さんに渡したのは、剣術部から依頼された彼らのおやつみたいなものだね。休日とかにたまに頼まれるんだ」
「いつも助かっています」
「いえ、おかげで腕が鈍らずに済んでますよ」
「ん? 料理部結構暇なんすか?」
「はは……今現在、部員が2人しかいなくてね」
雅の何気ない質問に、苦笑いでそう答える桜部長。
部員2人……つまり、部長と副部長しかいないらしい。いくらなんでも少な過ぎる気が……何か理由がありそう。
「桜部長さん。ここで立ち話もなんですし、とりあえず部室か調理室、でしょうか? 活動場所に案内お願いします」
ここで話し込んだらまたさっきみたいに注目を浴びるかもしれないから、そう提案した。
「ああそうだね。四方さん、また後で」
「はい。頑張って下さい」
「ありがとう。では行こうか」
「だ〜か〜ら〜、お漬物は甘くないじゃん」
「漬物の白米にもおやつにも合う優しい甘さの良さを理解出来ないとは! これだから最近の若者は困ったものですぞ!」
調理室の扉を開けたら、何やら言い争い?している2人がいた。というか1人はクラスメイトだった。
登場人物紹介
桜 純
容姿:黒短髪オールバック 男臭く厳つい顔 細目
身長:194cm
性格:穏
好物:丼料理
嫌い:ドリアン
趣味:料理
属性:火
料理部部長。3年クラスA。体格や容姿はは厳ついが性格は穏やかで優しい大物系男子。一人称は僕。
体が大きすぎるため初見で怖がられてしまうことが多いのが小さな悩み。
料理をこよなく愛している。大衆食堂のような庶民的な味付けの料理が得意。
四方 シンの恋人。