13話 モンキー
少々下ネタ入ります。キツくない程度かとは思いますが、苦手な方はご注意下さい。
「えーと……塩谷さん、何かトラブル？」
「え？ あ、ああ水城さ……優輝さん」
「おお、これまたすごい美少女達が！ しかし待って欲しい、今はサチさんの返事待ちなんだ！」
「なんですでに親しげなんですか⁉︎」
んー。この展開、もしかしなくても。
「塩谷さん、一目惚れされた？」
「どうもそうらしいわ……あ、ちなみに彼、確か金堂 勇侍だったかしら。剣術部の部長らしいわよ」
よりにもよって部長だった。会話は避けられない。
「もう名前を覚えてくれたんですね！ お付き合いしましょう！」
「はあ〜……私はただ、剣術部の見学をしに来ただけなんですけど」
「それは……災難だったね」
「まったくだわ」
「おいマミヤ、この剣術部はハズレだぞ」
「あ〜、そうなのか？」
「ハズレってナニ⁉︎ 剣術部は1つしかないよ⁉︎」
あんまりな言い草に反論する金堂部長。もう姉さんたら、もうちょっと言葉を……ま、まあ気持ちはわかるけど。
「えー……とりあえず金堂先輩、ひとつだけ聞かせて下さい。なぜ「結婚を前提に」なんですか？」
このまま目立ち続けるのを嫌ってか、塩谷さんが話を進める。
「いやなに、単純な理由ですサチさん。結婚を前提にしておけば万一できちゃっても責任を取りやすいでしょう？」
男らしいんだか男らしくないんだかよくわからないこと言い出した。まあ要するに、合意でえっちぃ事したいって言ってるわけだけど。
「なんっでこう、男子っていうのは〜……！」
塩谷さんが目元を手で覆って苦言を吐く。うーん、生真面目過ぎるのも考えものかな。
「で、ですよね。男の人みんなエッチで怖いですっ」
「ヒロ、そんなとこで仲間見つけた〜な反応するのはどうなのよ」
「あはは……で、でも、男子全員がエロ思考じゃないよ？ ほら、雅とか」
「え、俺？」
「間崎君ね。うーん……私はちゃんと話してないからなんとも言えないけど。真面目な優輝さんがそう言うなら、男子の中ではマシ、なのかしらね」
「えっと……わ、わたしもそう思う、かも」
「へえ……」
男子が苦手なヒロが同意したのを見て、塩谷さんは雅をじっと見つめ……続けるかと思ったら、途中で僕の方を見た。
「（じぃ〜）」
「な、なに？ 塩谷さん」
「あ、ごめんなさい。優輝さんみたいな、真面目で自然と周りを気遣える人が男子だったら好きになるかも、と思ってね」
「え"」
予想外の台詞に、思わず変な声が出てしまった。まさか塩谷さん、僕の……
「優輝、その声はあまり可愛くないぞ。可愛いが」
「いやどっちなのさ」
「というか優輝の今の反応なに――あっもしかして、塩谷さんの台詞で昼の告白思い出してた？」
「……当たらずも遠からずかな」
とりあえず、余計な事を考えて顔とか声とかに出ないよう気をつけよう、うん。
「告白？ ……あ」
塩谷さんが、自分が優輝の事を「恋人として理想的で好き」みたいな事を言ったと気付き、顔をかぁっと赤く染めた。可愛い。
「ちっ違うわよ優輝さん！ あなたを恋人にしたいとか好きになったとかじゃなくてあくまで例え話で――」
「こ、恋人にしたい？ 女の子が女の子を⁉︎」
……金堂部長が、めんどくさい部分に食いついた。
「いけません！ いけませんよぉサチさん！ 俺も混ぜ、じゃなくて、入学初日に不純同性交友宣言だなんて、そんなけしからん爛れた性――」
「爛れてるのはお前の脳内だこのエロザルがぁ‼︎」
「おぶっ‼︎」
金堂部長が、駆けつけた黒髪ボブカットの眼鏡女子に踵落としを食らって地面とキスしていた。床に少しヒビが入っている。マジキックだ。
「あなた達大丈夫？ 変な病気とか感染されてない？」
「えっこの人そういう――」
「シンさん人聞きの悪い事言わないで⁉︎ 俺キレイだから！ 童貞だから！」
ガバッと顔を上げて、唐突にチェリーをカミングアウトして来た。この人羞恥心ないんだろうか。
「まあ飛沫感染するような病気持ちがこんなところに入れんだろう。頭は病んでいるようだが」
「キミ初対面なのにさっきから失礼じゃない⁉︎ 顔はすごい可愛いけど！」
「存在自体が病原体みたいな万年発情期のエロザルにはまだ控えめな表現では？」
「シンさん今日もキッツイなぁ……」
今日も、なんだ。普段からこういうやり取りしてるらしい。というか、
「なんだ、ケンカか？」「あ、クラスDの可愛い娘達」「強引な勧誘にでもあったのかな？」「さっき結婚がどうとか言ってたような」「何部だ？」
いい加減目立ち過ぎだ。
「……場所移しませんか？」
短くそう提案する。出来ればヒロがまた気を失う前に移動したい……というか、すでに羞恥でプルプルしはじめている。
「ええ、そうね……金堂先輩、案内お願いします」
「わかりましたサチさん！ 保健室で良いで――」
「部室か訓練棟に決まってんだろ童貞バカザルぅ‼︎」
「おごっ‼︎」
まだ四つん這いでいた金堂部長の頭に回し蹴りを食らわすシンさんとやら。首が危ない角度まで曲がっている……
「先輩⁉︎ だ、大丈夫ですか？」
「大丈夫こいつ無駄に高レベルな治癒術使えるから。生命力もゴキ並みだし。生命力の半分は精力に割いてるような低脳チェリーモンキーだけど」
「というか塩谷、言い寄られて迷惑被っているお前が心配することはないだろう」
「さすがに瀕死の人を無下にするのは――」
と言っている間に金堂部長が起き上がり無理矢理ゴキィっと自らの手で首を元に戻した……一応手に治癒術の淡い光があるけど、軽く人間離れしてるような。
「俺は死にましぇん‼︎ あなたと合体したいから‼︎」
「 」
心配そうだった塩谷さんの顔から感情が一気に抜け落ちた……まあ、仕方ないね。
「私は四方 シン、剣術部の副部長。実力順だからあんな人類なのか怪しいサルが部長してる」
「なるほど」
「じゃあ案内する。見学者は私に着いて来て」
部長への対応とは打って変わって事務的に話を進める四方さん。僕らは無言で後をついて行った。
「え、ちょ、まっ。サチさん、イキナリ放置プレイは難易度高いかなーと……置き去りにしないでー‼︎」
「ところで四方さん、何故エロい人が勧誘者に？」
「この学園の部員勧誘は伝統として、不慮の事故等で無理な場合を除き、部長と副部長は必ず参加することになってる。私は丁度お手洗いで離れていた」
「ああ、そうなんですか」
最初の演劇部勧誘を思い出す。あの部長さん、演劇への情熱はともかく勧誘には向いてなさそうだと思ったけど、そういう理由か。
訓練棟に行き、部長と副部長、それと何人かの代表部員の演舞や、実戦形式の稽古を見せてもらった。
「どうですサチさん、うちの剣術部の練度は！」
「え、ええ。さすがは栄陽学園本校ですね。かなり高い水準だと思いました」
「僕の武器は大剣だからちょっと違うけど、金堂さんの大太刀による力強くて豪快な太刀筋は、なかなか参考になりました」
うん、本当に、予想外というか予想以上というかだった。特に金堂部長は、実力者＝部長なだけあって、かなりの強者だと肌で感じた。エロ直結思考な彼と同じ人とは思えないくらいだった。
剣術部は純粋な剣術の腕を磨く場らしく、強化術以外の精霊術の使用は一切禁止らしい。それでもあの動きから言って、金堂部長は学園でも上位の実力者なんじゃないかな。
「惚れ直しましたでしょう⁉︎ どうですサチさん、次の光曜日に合体デートでぼっ！」
「余計な台詞を挟むなセクハラモンキー」
「はぁ……金堂先輩が性欲の権化でなければ、即決なんですけど」
「あなたの武器は？」
「四方先輩と同じ、太刀です」
「入部するなら私が責任を持って面倒を見る。それとこの部長（仮）は今3年だから、1年凌げばOK」
「えーと、それならまあ……検討します」
まだちょっと迷ってるけど、四方さんなら金堂部長が暴走しても止めてくれそうだし、塩谷さんは入部しそう。
「俺は入るぜ！ 金堂さんのさっきの演舞、痺れたっす！」
「おぉそうか！ 間崎君だったか。真っ直ぐな良い目だ、気に入った！」
雅は即決かぁ。なんとなく寂しいけど、仕方ない。
「あ〜でも、友達と他の部も見学する約束してるんで、入部届けは地曜日に持って来ます」
「そうか。待ってるぞ、未来の守護者！」
「お邪魔しました。なかなか良いものを見せていただきました」
「まあ悪くはなかった」
「戦闘スタイルが違うから参考にはならなかったけど、楽しめました！」
「わ、わたしもその。あ、ありがとうございました」
「すいません、入部届けは地曜日持ってくるんで」
「間崎君、それさっき言ってたわよ。では、わたしもこれで」
「サチさんも行ってしまうんですか⁉︎ 求婚の返事とかは――」
「お気持ちはありがたいですがお断りします」
「ノオオォ……‼︎」
「黙れ剣術部にとって現在過去未来唯一の汚点」
「そこまで言う⁉︎」
まあ……金堂部長さん、遠目に見てるだけなら楽しい人かな。
「塩谷さん待って、ひとつ忠告がある」
「え、なんですか四方先輩」
訓練棟を出てすぐに、塩谷さんが四方さんに呼び止められた。
「交際をはっきり断ったのは評価するけど、アレはかなり厄介だから」
「……どういう意味ですか？」
「あなたに恋人が出来るまで何度も迫ってくると思って。私がアレを視界に捉えている間は抑えられるけど、四六時中はさすがに無理だから」
「…………え？」
「私がそうだったから……」
四方さんが遠い目をする。四方さんに恋人が出来るまで、金堂部長は彼女に告白をし続けたらしい。
一途と言えば聞こえは良いけど……あの告白じゃあ迷惑なことこの上なかっただろう。
登場人物紹介
金堂 勇侍
容姿：赤茶ショートツンツン髪 黙っていれば男前
身長：181cm
性格：色欲
好物：牛カルビ
嫌い：ししゃも
趣味：剣術鍛錬 求婚
属性：火
栄陽学園本校剣術部部長。3年クラスD。
剣術にかける情熱は本物だが、同じくらい童貞卒業に情熱をかける、羞恥心をどこかに置き忘れた残念系男子。剣術に打ち込んでいる瞬間だけは男前。
童貞卒業を公言してはいるが、誰でも良い訳ではなく、真面目系美人と恋人同士になってから双方合意の上でいたしたいらしい。
一度惚れた女性には、相手に恋人が出来るまで諦めず何度もアタックする一途さを持つ……が、そのアプローチの仕方が大問題なので、未だ恋人は出来ない。
四方 シン
容姿：黒髪ぱっつんボブカット 丸メガネ 真面目美人
身長：166cm
性格：真面目
好物：アナゴ丼
嫌い：特になし
趣味：自己鍛錬 読書（純文学専門）
属性：風
栄陽学園本校剣術部副部長。2年クラスS。
生真面目な性格で普段は事務的な口調だが、金堂部長にのみ人が変わったように暴力的＆暴言を吐くようになる。
前回の金堂部長の被害者。剣術に打ち込む金堂部長の姿に惚れて入部したが、彼が予想以上のオサルサンだったのですぐに冷めた。
3年男子の恋人がいる。
