11話 ポンコツ
「水城 瑞希だ、見ての通り優輝の双子で姉だ」
「海老江 茜葵です。天王寺さんとついさっき友達になりました」
「く、鯨井 大です……お3人共クラスSなんですよね、すごいです……!」
3人がそれぞれ手短に自己紹介的なのを述べ終えたところで、口を挟む。
「そういえば。加藤さんは飯屋峰君に用があって来たんですよね?」
「え?」
「え?」
「えー……ああ⁉︎ そう! そうですわ‼︎」
どうやら、僕が言い出すまで忘れていたらしい。
「あ、苦手なタイプかと思ったけどちょい親近感」
そう言い、アキの表情が少し柔らかくなる。今の自己紹介もアキらしい勢いがなかったし、どうやら高圧的な人に苦手意識があるようだ。にしては、姉さんには普通に接してたけど……まあ姉さんは、ある意味人を「平等」に見てるからかな。
「あの痴れ者はどこに……というか、あなた達がそうですのね!」
「えーと……なにが?」
さすがになんの話かわからない。
「あの痴れ者、あろうことかわたくしを「7人目の嫁にする」などと……!」
「……うん、それは最低だね」
「でしょう⁉︎」
僕の中での彼の評価が「苦手」から「ちょっと嫌い」にまで下がった。あんまり人に悪感情抱きたくないんだけどなあ。
しかし、7人目ということは、他に6人嫁にする予定ということで。今日僕が友達になった女の子4人全員、美少女だよね。僕と姉さん含めると6人なわけで……あなた達がって、そう言う意味だよね。
「わたくしほどの超絶美少女に対して…………」
僕を見ながら喋る加藤さんの声が途切れる。
「くっ……蒼月さんと月影さん以外にこれほどの美少女がいるとは……で、ですが! 杏、牡丹!」
「なんでしょーか!」
「透華様は彼女達に負けず劣らずの、とても魅力的な美少女に相違ございません」
「え? ボタン今更なにいってるんだ?」
「その通り! 今更口に出すまでもなく、わたくしは超凄い美少女でしょう? それを差し置いて他の……た、確かに? 美少女軍団ではありますけれど? それはともかく! わたくしが7番目というのはあまりにも失礼ではなくて⁉︎」
「いやいや、僕に向かって言われても」
「僕?」
自分と同じ一人称に反応する小椋さん。ぴこっと動く犬耳を幻視した。可愛い。
「あら。あなた、杏と同じ一人称なのね……清楚な令嬢のような容姿でそれは、合っていないんじゃないかしら?」
いきなり意見された。うーん、まあ言いたいことは理解出来るけど。
「僕っ子だからいいんじゃあないか……」
「……なんかその顔イラッと来ますわね」
わかっていないな、とでも言いたげな表情で言う姉さん。別に姉さんの指示で僕呼びしてるわけじゃないんだけどね。
「姉さんの意見はともかく。そこは譲れないアイデンティティなので……意見はありがとうございます」
「……なにやら訳がお有りのようね。まあ深く追求するつもりはありませんけれど。そういえば杏が――」
「それよりも。また話が脱線してません?」
「え? ……ああ⁉︎」
さっきと似たような反応された。
「そうです飯なんとかいう痴れ者! あの男をどこに隠したんですの⁉︎」
「……別に隠れてはいないのだが。我はさっきからここにいるぞ」
「え? ……ああ⁉︎」
さっき見た。ツンデレ系高飛車お嬢様かと思ったら、ポンコツ系ツンデレお嬢様だった。可愛い。
「すぐ近くの席に座っていたのに言われるまで忘れていた透華様可愛らしいです、クスッ」
「とゆーかお前、なんで今まで話しかけてこなかったんだー?」
「体が痺れていて、うまく喋れそうになかったのでな。まったく、優輝のツンデレ具合にも困ったものだ。そこも可愛いが」
「あー、さっきの電撃ちょっと強すぎたかな。というか勝手にデレてることにしないでよ」
「というか、優輝も私もお前の嫁になるわけがないだろう血祭りにあげるぞ」
「こわっ。でもまぁ前半は同意かな〜」
「わ、私も、アキちゃんと同じです」
「あ、あら? ……もしかしてみなさん、彼とは婚約者でも恋仲でもなかったり、ですの?」
「「「そ、「その通りです」」」だ」
僕ら4人の声が重なった。うん、顔が良くてもあの性格は人を選ぶよね……僕はそれ以前の問題だけど。
「透華様、私なんかは会話どころか顔を見るのも今が初めてです」
「……突然キス……しようとした、ので……」
「…………」
うわ。加藤さんが飯屋峰君を汚物を見るような目で見てる。
「ふむ……うむ」
そんな視線を受けている当の本人は、まったく気にするそぶりもなく手をニギニギしている。完全に痺れは取れたようだ。
「さて。余計な虫が付く前に済ませておこうか」
唐突に立ち上がり、学食の真ん中あたりまで歩いていく飯屋峰君。何をする気なんだか……ロクでもないことだろうけど。
「皆の者、注目せよ! 我は飯屋峰 王者である!」
あー……彼が何をしようとしてるのか予想付いた。
どうしよっか……僕の雷属性の精霊術ならこの距離からでもすぐに無力化出来るけど、少し距離があるから目立ち過ぎる。
「此度は皆に伝えねばならぬことがある! 未来の天帝たる我に相応しい女達についてだ!」
こんなところで派手目な精霊術を使ったら、先生方からお叱りを受けそう……チラッとネイ先生を見る。
「……(にこにこ)」
あっ。あの顔はヤルと決めた顔だ。彼の意図に気付いたらしい……うん、ここはネイ先生に任せよう。
「そこに集っている7人の美しき乙女。彼女達こそ我のよめ"ぇ⁉︎」
教室で見た光景の再現のように、白いマクラに吹き飛ばされる飯屋峰君。
「ぐっ、甘く見るなよ守護者の娘よ!」
まるで悪役のような台詞を言いながらなんとか着地する。マクラの初撃はまったく反応出来てないけど、大言を吐くだけあって実力はそれなりにあるか。
とはいえ相手が悪過ぎる。
「当て身、じゃなくて手刀」
「ぷっ⁉︎」
投げつけたマクラと並走して、飯屋峰君に気付かれずに後ろに回り込んでいたネイ先生が、恐ろしく速い手刀を首に打ち込んで気絶させた。
『…………』
場を静寂が支配する。まぁあんな漫画みたいな展開目の当たりにしたら当然か。
「良い子のみなさんは真似しないで下さいね〜。数百年鍛錬を続けた私だから出来るようなものなので〜」
「アッハイ……え、数百年?」
近くにいた生徒が思わず禁句を口走っていた。
「あらあら〜お若いのに難聴ですか? 強化術の練度向上や耳鼻科に通うことをオススメします〜」
「……そ、そですね」
幸い空気が読める人だったけど、ネイ先生が口を滑らせたせいだから、ちょっと可哀想かな。
「私のクラスの生徒がお騒がせするところでした〜、また似たようなことをする可能性のある子なので、問題が起きそうになったら生徒だけで解決しようとせずに、近くの先生に報告して下さいね〜。ではでは〜」
そう言い残し、飯屋峰君を抱えて学食を出て行くネイ先生。なんだかんだでネイ先生は優しい先生だし、多分保健室かな。
「……えーと」
先生が去ったことで注目される、飯屋峰君が紹介しようとした7人の美しき乙女……僕ら。
「静寂のなか注目されるの、落ち着かないよね……とりあえず、解散する?」
「あら、意外と小心者ですのね。今までにない注目のされ方で、わたくしは面白く感じていたのだけれど」
「いや、僕はまあいいんだけど……」
チラッとヒロの様子を見る。大丈夫かな……
「 」
……虚無顔になっていた。みんなに注目されて、予想以上に精神ダメージを受けていたようだ……ていうか、気絶してるんじゃ……
「ヒッヒロ⁉︎ しっかりして〜〜‼︎」
「――はっ⁉︎ あ、あれ? 私、ご飯食べてて……」
アキがガクガクと揺すったら戻って来た。
「……なるほど、友人のメンタルを気にされていたのね。杏があなたとお話ししたそうにしていたけれど、今は仕方ありませんわね」
「うん、ありがとうです」
「気にしていませんわ、わたくしは寛大ですもの。ではまたの機会に。行きますわよ、2人共」
「仰せのままに」
「むうー……」
「ほらアンズさん、飼い主に従えない意地汚い子犬は見捨てられますよ?」
「う、うんって僕はアンズじゃないー! それにトーカ様は僕を見捨てたりしないもん!」
小椋さんは最初のように騒いでから加藤さんについて行き、一歩遅れて歩き出した萩さんは最後にこちらを振り返り、僕がやったカーテシーをしてから2人の後を追っていった。
「姦しい奴らだったな、ある意味アキ以上に」
「ふふっ、そうだね」
「透華様は少々態度が大きいところもありますが、とても楽しい方々ですわ。なので、気に触ることを言ってしまうこともありますけど、どうか無下にしないであげて下さい」
「ん……拗ねると、面倒な人……」
「つ、月影ったら」
「ふふふっ、了解です」
キーンコーン……
あ、チャイム鳴っちゃった。もう昼休憩終了かぁ。
「名残惜しいですが、強制解散ですね。月影、私達も戻りましょう」
「ん……(こくり)」
「また後でお話ししようね」
「ええ、是非」
登場人物紹介
加藤 透華
容姿:金髪ロング緩いウェーブ 碧眼 綺麗で可愛い
身長:161cm
性格:高飛車
好物:寿司
嫌い:刺身
趣味:自家製ハーブのハーブティー
属性:地
プライド高めなポンコツ系ツンデレ女子。一人称はわたくし。
有名戦国武将の末裔で、実戦経験こそないが、守護者有力候補に挙げられるほどの実力者。
容姿・実力共に自信があり高飛車な態度を取っているが、どこか抜けている部分があり憎めない。
小さい時から仕え続けてくれている杏と牡丹を強く信頼しており、親友のように想っている。
極度の負けず嫌いで、幼馴染で実力者の蒼月と昔からなにかと競い合っていた。
最初は月影も対象だったが、月影の反応があまりにも薄いので張り合いを感じず、もっぱら蒼月とであった。