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111話 水城 瑞希の歌霊術研究レポート

 生徒会長選出会から後、私が学園でする事が増えた。一つはその生徒会活動だが、これはまあ大した事はない。生徒会の主役は優輝だからな。


 もう一つは、歌霊術の研究だ。私の予測通りに真貴殿が歌霊術を極められれば、私の計画に大いに役立つと見ている。


 という訳で、新入生の入学式の前日、私は真貴殿に歌霊術研究の責任者を紹介した。


「彼が件の歌霊術の権威、成田博士だ」

「ご紹介に預かった、成田なりた 想知そうちです。よろしく」

「あっはいよろしくお願いします……」


 戸惑ったような声と顔で、成田博士が差し出した手を握り返して握手をする。


 彼の格好は、白衣の下に「ロールちゃん♡命」と書かれたTシャツを着、「ロールちゃん♡LOVE」と書かれたうちわを右手に持ち、アニメ画風のロールと「アタシの歌を聞け!」と書かれたトートバッグを左手に持ち、肩には「学園のアイドル♡ロールちゃん!」と書かれたマフラータオルをかけている。どうみても、ロール殿のディープなファンだった。

 要するに真貴殿は、学園外の人間な上に、自分の父親と同年代と思われるガチファンの男に予想外の遭遇をした訳だ。戸惑う気持ちは一応察せる。


「あぁ、この格好が気になるかね? いやあ、瑞希君からいただいたライブ映像を見せてもらったのだけど、それ以来すっかりロールちゃんのファンになってしまったんだよ」

「そのグッズも瑞希さんから?」

「僕が学園でツテがあるのは彼女だけだからね」

「うむ、この程度の粗品でやる気を出させられるなら安いものだ」

「何気に失礼ね? 瑞希さんだから許すけど」

「さて、そんな事より博士、彼女に詳細を」

「あぁ、そうだね」


 時間は有限だ。早速博士に説明を促す。


「今後ロールちゃんには、ライブの際このマイクを使っていただきます」


 そう言って、成田博士がトートバッグからワイヤレスハンドマイクのような物を取り出し、真貴殿に手渡す。


「えーと……?」


 受け取ったマイクを握ったり開いたり逆さにしたりし、さらに全体を舐めるように観察し出す真貴殿。


「メーカーロゴとかないですね。自作品……? というかこの感じ、もしかして神霊石使ってます?」

「えぇその通り! 私の理論のもとに作られたこのマイクは、世界初のマイク型精霊剣なのです! ……と言いたい所なのですが、生憎今はまだ試作型で、精霊機器です」


 精霊機器は、神霊石を機械の部品の一部、いわゆるケータイに使われているレアメタルの用途で組み込んだ製品の事だが。基本的に精霊機器には、精霊剣の様に精神が生まれる事はない。

 精霊剣を創り出すには、神霊石とそれに適合する合金を使用しなければならない。そして、現在のマイクに主に使われている素材では、精霊剣にはならない――マイク型は、精神が生まれるに適さない。


「マイク型精霊剣……可能なの?」


 こちらを見て、一言。彼女の疑問は当然だ。これまでに、マイク型など存在しないからな。まあ、明らかに用途が武器ではないからな、そんな形状にする酔狂な鍛治師などいる訳がない。


電子機器(マイク)の精霊剣化など、不可能だしあり得ない、意味不明――と、凡人共は言うだろうな」

「つまり、大天才な瑞希さんになら可能、て言いたい訳ね」

「銃ですら精霊剣になったのだ、常識に縛られなければ不可能な事など何もない。さらに私がプロジェクトに参加し、私自身が手を加えるのだ。1年以内に完成させよう」

「瑞希さんらしい、大胆不敵で自信満々な台詞ね。頼もしいわー」

「あの瑞希君が期限まで設けて断言するか! はははっ確かに頼もしい限りだ!」

「うむ、当然だ……少し話がズレたな、博士、話の続きを」

「あぁそうだね。では明日の予定だけど――」


 全部説明すると長くなるので要約する。


 今年の入学式では特別に、終了後にロール殿がミニライブをする手筈になっている。そこで今渡されたマイク型精霊具「カクセイ君」で歌い、歌霊力測定機(これも成田博士の自作品だ)で音波や精霊力などのデータ――歌霊力を測定し、ロール殿の歌霊術の今の実力がどの程度なのかを確認するのだ。今日はそのための打ち合わせという訳だな。


 何故今歌ってもらうのではなく、ライブでデータを取るのかと思う者もいるだろうが、理由は単純だ。彼女が最高にノリに乗っている――大勢の観客の前で魂を込めて歌った時こそが、歌霊術が最高のパフォーマンスを発揮すると予測できるからだ。





 という訳で入学式だ。式は例年通り粛々と進行し、ライブの時間になった。


『以上を持って、入学式を終了します。ですが、今年はサプライズイベントとして、皆様の入学を記念して、アイドル研究部によるミニライブが行われます。特別な予定のない方は、是非この場に留まってご参加下さい』


ざわざわ……


「え、そんなん聞いてないし」「まあサプライズイベントらしいし」「アイドル研究部? アイドルいるの?」「本物のアイドルが通ってるなんて聞いた事ないが」「自称でしょ」


 予定にないイベントの開催にざわつくが、会場から出て行く者は数人程度だ。


 新入生と親族席からのざわつきが続く中、演台が撤去され、スタンドマイクやスピーカー、ドラムセットが速やかに設置されていく。


 ちなみに、これまでのライブは歌手のロールのみで、音楽は軽音部が録音したものを使用していたらしいが、今年からは楽器も生演奏になった。成田博士曰く、「その方が、ソロよりロールちゃんの歌霊力は上昇するはず!」らしい。


「みーんなー! 入学おめでとーぅ! 学園のアイドル、ロールちゃんだよー!」


 設置が完了すると同時、ロール殿がステージ真ん中に飛び出して来て、いつもの口上をあげる。それに少し遅れて、ドラムセットに小走りで向かう少女、肩からショルダーキーボードを下げた少女が徒歩で現れる。2人共軽音楽部の部員だ……ったが、新たにバンドとして組むにあたり、アイ研に移籍してもらった。


「そしてぇ、キーボードの娘はミッデイちゃん!」

「よろしく〜」

「ドラムの娘はピカリちゃんでーす!」

「おう、ヨロシク!」


 新入生とご親族は、皆揃って「誰?」と言いたげな顔でロール殿達を見つめていた。化粧をしているから知り合いでも初見では気付かないだろうが、一応私の以前からの顔見知りだ。

 というか、ミッデイは長瀞 まひる、ピカリは私のクラスメイトの山本 摩耶だ。各アイドル名は、長瀞が名付けたんだったか。


 バンド名も決まっている。確か、


「3人そろって、Burning Heartでーす! これからよろしくねっ☆」


だったな。まあ私的にはどうでも良い。


「んじゃ時間も押してるし、早速いってみよー! オープニングナンバー! 『PRISM DANCE』!」


 メンバー紹介を手短に済ませたロール殿は、恒例のオープニングナンバーをワンコーラス、続けて二曲をワンコーラス歌った。





「ほいっんじゃ今日のライブはここまでっ! ライブは定期的に開くからぁ、まった来ってねー☆」


わあああああ……!!


 締めに観客席にウインクを飛ばしてから、舞台袖に駆けてくるロール殿。最初は戸惑い気味だったオーディエンスは、老若男女問わず大盛り上がりだった。


(ふむ、やはりか。予想通りだな)


 これだけの人数がいれば、音楽の好みも十人十色、ロック系が苦手な者も高確率でいただろう。だのに、この大盛況だ。

 ただ人気があるロック系アイドルというだけでは明らかに説明できない状況だが、これも歌霊術の影響だろう。高い歌霊力には霊力を上昇させるのみならず、精神を半ば強制的に揺さぶり、高揚させる効果もあるようだ。

 私も普段ロックはまず聞かないが、明らかに気分が高揚している。さらにこれだけの人数に効果がある事が立証されたのだ、統計学的にも有意と言えよう。恐らく、ロール殿とロック系アイドルを親の仇のように憎んででもいない限り、効果があるだろう。


「エークセレンッ!! 信じられないっ!! ああっ

間違いない! 彼女が、彼女こそが! 私が探し求めていた人材だぁっ!!」


 成田博士が何やら異様に興奮しているな。余程良い歌霊力の数値が叩き出されたのだろう。


「あー、アタシ何かやっちゃいました? 凄い結果出しちゃいましたー?」

「いやはや録音の時点で惹かれるモノはあったが! 生歌は予想を遥かに超越していたっ!! まさに世紀の逸材っ!! ロールちゃんの歌こそ究極の補助精霊術、真の歌霊術!!」

「あっは☆ それほどでもぉ、あるかもー!」

「あっははっ! これは参ったぁぁっっ!!」


 テンションMAX状態のロール殿が楽屋に戻ってそこに加わり、更なる混沌が生まれた。会話が成立しているようで成立していない。


 ふむ。2人が落ち着くまで時間がかかりそうだな。


「博士にロール殿、喜ぶのは結構な事だがここからが本番だ。時間がない、すぐに射撃場へ行くぞ」

「ぬわ!?」

「ちょっ瑞希さイッタイタタタタタ!!」


 騒がしい博士とロール殿の顔面を鷲掴みし、身体強化をして無理矢理掴み上げ引きずっていく。この手に限る。



 さて、訓練棟に併設されている射撃場へ来た。事前に予約していたので、今は歌霊術研究の関係者しかいない。


「あいてて……アイアンクローなんて、生まれて初めての経験だ」

「アタシアイドルなんですけどー!? アタマミシミシいってたんですけどー!? でも瑞希さんだから許しちゃう☆」


 何か言っているが無視する。


「さて――《アクアボール》」


 水属性なら誰でも扱える最弱の攻性精霊術を、さらに霊力を絞りギリギリ発動出来る程度注ぎ込み、放つ。ピンポン球大の水球が、身体強化をせずに全力でボールを投げた程度の速度で的に進み、ぶつかる。


パァンッ!


「おおっこれは凄いっ! 霊力測定器では最低限しか込められていない数値なのに、明らかに威力が上昇している! 過去の歌霊術のデータでは精々良くて1.2倍程度だったが、これは1.5……いや1.6倍! 確実に実用可能レベルだ!」


 補助精霊術による威力上昇は、平均して1.3〜1.4倍、優れた使い手のもので1.6倍、天才的な者で2倍程とされている。現状で1.6倍なら、補助術としてはそれなりに優秀と言えるな。


「しかし恐るべきはロールちゃんの才能! 歌霊力測定機の反応的に、彼女の歌霊術はまだ花開いてはいない、言わば花の蕾が緩み始めた状態! 満開した暁にはいったいどうなってしまうのかあっ!?」

「その表現なんかエロくない?」

「瑞希君、君はまさしく大天才だ! 君の検証は私の歌霊術理論を揺るぎないモノとしてくれた! こんなに嬉しい事はない!!」

「ふふふ、大いに褒めるが良い」


 ちなみに、博士が興奮で錯乱に近い状態である今現在も、私はアクアボールの弾幕を放ち続け、博士は霊力測定器を凝視し続けている。


パシャンッ!


「おっと、威力が下がったか。どうやら効果が切れたようだね」

「ふむ。ライブ直後に射撃場に移動しアクアボールを放つまで約2分、アクアボールを放ち続けて約3分。計5分といったところか」

「持続時間は、一般的な補助術と大差ないようだね」

「つまり、まだまだ伸び代があるという訳だな」

「その通り! いやあ、ワクワクしてくるね!」

「……アタシの歌。歌霊術、か」


 感慨深げに呟くロール殿。「自分の歌でみんなを滾らせたい」という願いが明確な数値として現れた事で、実感が湧いて来たのだろう。


(ふふふ……いいぞ。このまま歌霊術を極め、私と優輝のため大いに役立つがいい)





       ――――――――――





「……とまあ、ロール殿がBurning Heartとして活動を始めた初期はこんな感じだ」

「へー……」

「その後は、ライブによる歌霊術の鍛錬の日々だな。マイク型精霊剣は入学式から半年程後に完成したが、それ以降の歌霊力測定の結果は概ね期待通りだった」

「ふみゅ、具体的には?」

「ロール殿が卒業した時点では、補助効果は約2.5倍、持続時間は10分にまで伸びたな」

「おー、凄い……事なんだよね?」

「当時補助術の大天才って言われてた人で、最高で2.1倍、時間は7分らしいから、かなり凄いよ」

「まあそれでも、私が望むレベルには程遠かったのだがな」

「あー、確かに今のレベルと比べちゃうとねぇ」

「今のレベルが、私が期待していた領域だ。私の手を離れてからそこに至ったのは、多少思う所があるが」

「えーと……今のロールさんのは、正確なデータ検証がされてはいないけど、確か……最低でも威力10倍に時間が20分、だっけ? そうなると……あの極限の時にはとんでもない倍率になってたかもね」

「ふーみゅ、何事も極めればオンリーワンになる、てことかな。まぁでもロールさんが極められたのは、優輝さんへの強い想いがあったからだろうけど?」


 ……うーん、やっぱりエリスは、恋愛方面に持って行きたがるね。障害なんて少ない方が良いと思うんだけど。


「皆さんおはようございます。すでに会話が弾んでいるようですが、昨日の続きでしょうか?」

「そんな所だ。今はロール殿の歌霊術の話が主だが」

「ロールさんが優輝さんをめっちゃラブだって話もね!」

「ちょっと違うかな? 姉さんとついでに僕の事を、尊敬的な意味で好きだって話だったと思うんだけど」

「んもー冷静に返さないでよ、優輝さんのイケズー」

「ロールさんと言えば、Burning Heart結成時のアイドル衣装のデザインは、当時の服飾部の副部長が担当されたのですわ」

「あ、そうなんだ?」


 蒼月さんが会話に加わってからは、ロールさんの話題というよりアイドル衣装デザインの話に移っていった。

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