110話 普通の友達以上、親友未満?
式の終了後。纐纈先輩と元生徒会書記の三峰先輩は集合写真撮影後に、生徒会室に最後の挨拶に来ると言っていたのだけど。纐纈先輩は前生徒会長でいまだ人気があるので、現在多くの女子生徒に囲まれていて時間がかかりそうだし、三峰先輩は漫研部室に顔を出してから来るとの事で、先に現生徒会役員で生徒会室に集合となった。
「いやー、緊張したわ。アイドルモードになってれば、なんだろうと難なくこなせるんだけどねー」
「マッキー、ロールちゃんになっちゃったら、卒業式の雰囲気壊れる読み上げしちゃうんじゃないかな〜」
「というか、送辞を放り投げて歌い出しちゃいそうですね」
「おっ、それはそれでありかもね。ナイスアイデア優輝さん!」
「いやいや、アイデア出した訳じゃないですからね」
「その際は、服飾部が総力を上げて、ロールさんのアイドル衣装・卒業式バージョンをご用意致しますわ」
「……蒼月、自重して……」
生徒会室で僕らはお茶しながら、卒業式トークで盛り上がっていた。
ややあって、お茶が切れたタイミングで会話が途切れる。と、
「……ほらほらマッキー。恥ずかしがってないで、そろそろ切り出しなよ〜」
「あー、うん、そうね、うん」
女部田先輩が頬をかきながら恥ずかしげにそう返し、居住まいを正してから僕と姉さんを正面に見据える。なんだろ?
「瑞希さんに優輝さん。2人には心から感謝してるわ」
「どうしたんですか先輩、急に改まって」
いつになく真面目なトーンなので、ちょっと面食らう。僕の疑問には答えず、女部田先輩は話を続ける。
「瑞希さん。あなたの性格的に、打算が大いにあるんだろうけど。それでも、貴女のお陰で、私の念願が色々叶っちゃったわ。本当にありがとう」
「感謝は大事だ、殊勝な心がけだな。うむ、快く受け取ろう」
姉さんがドヤ顔で腕を組み、うんうん肯く。
まあ確かに、姉さんが感謝される謂れはあるけれど……僕何かしたっけ?
「僕はむしろ、あまりお役に立てなかった気がするんですけど。試験、落とさせてしまいましたし」
「アイドル活動で培った私の観察眼、甘く見ないで欲しいわね。数ヶ月生徒会役員として付き合って、瑞希さんの行動理念はある程度理解してるつもりよ」
「ほう、言ってみろ」
「「優輝さんにとって有益たりえるモノへの投資は厭わない」。それに加えて、「優輝さんが好きだと言ったものを最大限尊重する」、てとこかしら?」
「うむ、大体合っているな」
あー、女部田先輩の言わんとしている事が、なんとなくわかった。
要するに、僕のためでなければ姉さんは動かなかったのだから、僕のおかげ、と言いたいのだ。
「優輝さんがいなければ、優輝さんが私――アタシの歌を大好きって言ってくれてなければ、アタシの可能性は多分暗闇に閉ざされてだろうから! 本当に、本当にありがとうございましたー!」
元気を貰えるにっこり笑顔で、改めて感謝を告げられた。途中でロールさんになったのは、素の自分とアイドルの自分、両方で感謝しているから、なのだろう。
正直、そこまで感謝される程の事ではない、とも思うけど。それはこちらの感情であって、女部田先輩からすれば僕らは、人生の重要な分岐点で最良と思われる道を歩めるように背中を押した、いわば立役者。ならばここは、素直に感謝を受け取るべき、かな。
「えー、こほん」
僕がどう返そうかちょっと考え込んでいると、ロールさんは咳払いを一つして真貴さんモードになり、再び真面目な表情になる。
「2人から受けた恩を、私は絶対に忘れない。例え貴方達の周りに味方が誰もいなくなったとしても、私は絶対に、貴方達に味方すると誓うわ」
「え、あっはい、どうも……」
ちょっと重い感じに感謝を言われ、流石に戸惑う。まあ、それだけ僕らに強い恩義を感じている、と言いたいのだろう。
「……とまぁ、硬い話はここまでにしてっ」
ぱんっと手を叩き表情を崩し、雰囲気を和らげにかかる先輩。
「私から提案、というか、お願いがあるんだけど、いいかな?」
「……また唐突な話題転換ですね、先輩」
「それよ」
「どれです?」
「先輩呼びって、なんか堅苦しいと思わない?」
んー、そうだろうか? 目上の相手を敬う敬称の一つだから、全く違うとは言えないけど……
「なんていうか、恩人に堅苦しい呼ばれ方するの、なんていうかむず痒いのよね。ぶっちゃけて言えば、もっと仲良しになりたいから、先輩呼びはやめて欲しいかなってねっ」
……あー。つまり、もっと対等に接して欲しい、つまりは友達になりたい、と。話の切り出し時に若干照れ臭そうにしていたのは、この話題に持って行きたかったからかな。
「出来れば気軽に、真貴って呼び捨て呼んでくれると嬉しいわ。あははっ改まって言うと、やっぱ照れるわねこれ!」
予想通り、照れ臭そうに人差し指で赤みを増した頬をかく女部田先輩。可愛い。
「私も、下の名前で構わないよー。ラブアンドピース〜」
それに便乗して、長瀞先輩も呼び捨てを要求してきた。なぜそこでラブ&ピースなのかはよくわからないけど、とりあえず先輩2人の言いたい事は、大体わかった。
んー、とはいえ、友人関係になれるのは僕としても嬉しいけれど、それでも2人は年上なのだし。
「親しき中にも礼儀あり、と言いますし。年上の人を呼び捨ては、僕としてはちょっと抵抗があります」
「あはは、まぁそうよね、優輝さん真面目だし」
「残念だね〜」
僕の返事を聞いて、あからさまに残念そうな顔になる先輩方。
「なので、真貴さん、まひるさんで、良いでしょうか?」
「それで良いわ!」
「やったねマッキーちゃん!」
提案の続きを聞いて、ぱぁっと顔を綻ばせる2人。可愛い。
「私は、見所があり年上である場合、「殿」を付けて呼ぶようにしている。ゆえに今後は、女部田殿は真貴殿と呼ばせて貰おう」
「あれ、私は〜?」
「ふむ……まあ、長瀞で」
「呼び捨てはともかく〜、なんで名字?」
「貴女は、優輝にとって有益な何かは、特に持っていないからな」
「うーん正直だなぁ。まぁ、先輩を付けてないだけよしとしますか〜」
姉さんの辛辣とも取れる発言を、さして気にしていないとでも言うように笑顔で返すまひるさん。ポジティブ可愛い。
「あ、これは天王寺姉妹にも言ってるからね。先輩呼び禁止っ」
「はー、捗り…………え? あ、はい」
何やら頭の中で捗っていた蒼月さんが、一拍遅れで返答する。
「えー……では、私は真貴様で」
「……ロールさん、で……」
「ヨシ! それじゃあ今後生徒会室では、是非とも親しげにそう呼んでねっ」
にかっと笑い、話題を締める真貴さん。サッパリした彼女らしい笑顔だ。可愛い。
「おや、何やら盛り上がっていますね」
「月影たん! 今日でお別れで実に寂しい限りですが、拙者の事は綺麗さっぱり忘れて下さって構いませぬ故!」
話の区切りを見計らったかのように、纐纈先輩と三峰先輩が入室してきて、それ以降の話題は先輩達卒業おめでとうの方向へと移っていった。
――――――――――
「……とまあそんな感じで、真貴さんの進級は学園でもかなり特殊な事例になった、て話なんだけど」
「ロールさんかなりグイグイ来てるじゃん! やっぱライバルじゃん!」
ここまで静かに聞いていたエリスが、声を荒げて危機感を叫ぶ。
「いやいや、友達になりましょうって話だからね? 確かに真貴さんの僕への感情は、ただの友情と言うには深いものだと思うし、親友とも方向性が違うとは思うけど。恋愛ではない、んじゃないかな?」
「えーそっかなー。本人に直接尋ねたんじゃないんだし、やっぱ恋愛感情である可能性も」
「エリスってさ、僕と仲良しな女の子を無理やり恋のライバルにしようとするけど、なんでなの?」
「ライバルは多い方が燃えるじゃん? 壁が多いほど重いほど、乗り越えがいがあるから!」
「そ、そうなんだ……」
反応に困る返しをされた。ハッキリ二股しないって断ってるのに、エリスはほんと諦めないなあ……うーん、わかりやすく目の前でイチャイチャすれば、入り込む余地なしって思わせられるのかな……うーでも、みんなの前で堂々とイチャつける出来る図太い神経、僕らにはないし……
「それはそれとして!」
未だ僕の恋人の座を狙い続ける友人達への対応に思い悩んでいると、エリス元気よく話題転換し出した。
「ロールさん、三年生になってからライブ回数増えたんよね? 歌霊術の研究と能力向上が目的とか言ってたけど、卒業までにどんくらいレベル上がったのかなって思ってね。ほらあたし、卒業後のロールさんしか知らないし」
「うむ、それについては私が説明しよう」
姉さんがリビングに現れた。数秒前まで気配なかったし眠そうでもないから、昨晩はぐっすり眠ったようだ。
「今朝は豆腐ハンバーグバーガー田楽味噌風だよ」
「瑞希様、あたためましょうか?」
「ああ、頼む」
静海と短くやり取りして、僕の隣に着く。
「ふむ……どこから話すかな」
「いや、あたしは優輝さんに聞いてたんだけど」
「私の方が、当時の真貴殿の歌霊術のレベルについては詳しいのだが。さあ、どうする?」
「歌霊術に関しては姉さんの方が圧倒的に詳しいし、引き継いだ方が具体的な内容とか裏話も聞けると思うよ?」
「そうなん? ふみゅ、んじゃまぁ瑞希でもいいや」
ということで、姉さんから三年生になった真貴さんの、というよりロールさんの話が語られやる事になった。




