109話 進級式&卒業式
キリの良い所まで書きたかったので、少し長いです。ご了承下さい。
「ロールさん優輝さんの事めっちゃ好きじゃん! ライバルじゃん!」
生徒会役員になってからの日々を粗方話し終えると、エリスにそうツッコまれた。
「まあ、好いてくれているのは僕自身理解してたけど。それが恋愛的なものかって言われると、うーん。一度も告白された事はないし……」
「オカズに出来るとしても、必ずしもそこに恋愛感情がなければならない訳ではないからな。薄い本の架空の人物だって、オカズにはなり得るのだろう?」
「ロールさんは、両刀寄りでしたわ。中性的な部分のある優輝さんは、さぞ美味なオカズだったことでしょう」
「ふみゅ、なるなる。それなら、ライバル候補からは外して良いのかなー……んーでもなー……」
エリスが悶々とし出したので、今の恥ずかしい話題からそらしたいし、話の区切りも良いし、
「さ、もう良い時間だし、今日はこれでお開きにしよ?」
無理矢理流れを切る事にした。
「ふむ、もうこんな時間か。どうりで眠いと思った」
「ですねー……はー、楽しい話題は時間を忘れてしまいますわね」
「御入浴の準備は完了しております」
「あっ今日はあたしがいっちばーん!」
という事で、順々にお風呂に入り、各自就寝した。
「甘い味噌の香りぃー……」
「あ、おはようエリス」
「はよーん……良い匂いに釣られて起きちゃったけど、マジで早いねぇ……ふわぁ」
まだ眠そうながら、食欲センサーが反応したエリスが起きてきた。時間は朝5時半だから、確かに早い。
「朝ごはんの仕込み? 匂いからして、豆腐田楽?」
「まあ、当たらずも遠からずかな」
「おはようございます、優輝様、エリス様」
「あ、静海おはよう。早速だけど、仕込みの続きお願いね」
「了解致しました」
そう言って、エプロンを外す。下はすでにジャージだ。要するに、日課の朝鍛錬だ。
「あっちょい待って、あたしもいくー」
「ん、了解。外で待ってるね」
「ほーい」
という事で今朝は、同じくジャージに着替えて軽く髪を整えたエリスと一緒に、朝鍛錬を小一時間こなした。
で。帰ってきたら、後は形を整えて焼くだけ状態まで仕込みを済ませてくれていた。軽くシャワーを浴びて、交代でエリスがシャワー中に、続きを引き継ぐ。
「ふみゅ、この香りは……今朝は、油揚げと葱の味噌汁と、豆腐ハンバーグ田楽味噌風ソース!」
「惜しい、半分正解。豆腐田楽バーグは、トマトとレタスと一緒にマフィンで挟みます」
「豆腐ハンバーガー! 実にヘルシーだねぇ!」
「お味噌汁も昆布出汁で、動物性のをトコトン省いてみたよ」
「美味しければ大丈夫!」
という訳で完成したので、僕とエリスと静海で頂く事にした。
姉さんと蒼月さんはまだ起きてこない、もしくは部屋にこもって何かしているのだろう。まあ、豆腐バーガーは冷めても美味しいから、2人の分も作って置いたけどね。
「というわけで!」
「どういう訳で?」
「学園時代の続き聞かせて〜」
1個目をモグモグゴックンしたエリスが、そう切り出した。
「確か昨日は、生徒会役員の日常風景の話をしたんだよね。となると……んー……しばらくは、山も谷もない日常が続いた、かな」
皿にバーガーを置いてから手を拭き、日記をペラペラめくりながらそう呟く。
「ふみゅ、うろ覚えってことね。んじゃ次の山は?」
「それはやっぱり、ロールさん――真貴さんの進級がどうなったか、あたりの話かな」
「え? 昨日の話では、瑞希が試験は大丈夫だろうとか言ってなかったっけ?」
「うん、まあ。進級出来る、とは言ってたね」
「うにゅ? それ何が違うん?」
「じゃあ、その内訳も含めて話すね」
――――――――――
時はあっと言う間に流れるものだ。学園三大イベントが終了した後は、特に何事もなく学園生活は過ぎ去っていった。
一学期末試験で赤点だったアキ雅は、二学期はギリギリ赤点回避出来ていたので、ほんとに山も谷もなかった。2人共、やれば出来る子。
冬休みも、みんなで実家に集まって仲良くまったり&鍛錬の日々を過ごした。三学期の学園生活も、前学期までと大きく変わった事は、あまりない。
変わった事を挙げるならば、女部田先輩の鍛錬に付き合うようになった事と、その付き添いで長瀞先輩が僕らと鍛錬を一緒するようになったくらい、かな。
女部田先輩は、現在進行形で進級出来るか危うい位置にいるので、アイ活と並行して鍛錬も前学期以上に力を入れている。せっかく仲良しになれたのだし、無事進級して欲しい。
そんな先輩の精霊剣は、杖型火属性・第8級『熱気』。攻撃手段は、中・遠距離からの火属性攻性精霊術による攻撃で、《火炎矢》と《火炎槍》を主体としている。
先輩は、僕らとの鍛錬とアドバイスの成果で、イマイチパッとしなかった精霊術の威力や命中精度、一度の連射回数などが幾分か上がった。戦闘の成績が特に進級ラインギリギリな先輩にとっては、その「幾分か」の差は、決して馬鹿には出来ないはず。
そんなこんなでついに、二年生の進級を掛けた、戦闘試験の日になった。
「出来る事は、全部やった……後は試験に全力で挑んで受かるだけ。2人共、今までありがとね!」
「不安になるような言い方しないで下さい」
女部田先輩が、試験直前の朝鍛錬時に、ダメな方のフラグが立つようなことを言い出した。まあ、辛口な姉さんからお墨付きが出てるし、大丈夫だろう。多分。
進級試験は、二年生のみ行われる。筆記試験に一日、戦闘試験に一日の計2日だ。
ちなみに、一年生も同じ日程で筆記試験と戦闘試験はあるのだけど、成績に関わらず全員自動的に二年生に進級させて貰えるので、意味合いはだいぶ違う。
筆記はおまけ程度で、赤点さえ取らなければ問題ない。問題は、やはり戦闘試験だ。一年生が試験官先生に素振り的なものを見てもらうだけなのに対し、二年生は、試験官先生との模擬戦をするらしい。
「…………ぬね…………」
放課後、生徒会室で再会した先輩は、有り金全部溶かした例の顔みたいになっていた。
「だ、大丈夫ですか……?」
「……101位……」
「……あー……」
……試験結果は、即日公開される。二年生が200人で通過者は半数、100人。つまりは、ギリアウト。
「ふむ、残念だったな」
「み゛ずぎざん゛どゔぞづぎぃ〜」
「あ〜もうマッキーったら。よしよし〜、一生懸命頑張ったもんね〜」
「ゔゔ〜〜ばびるぅ〜……」
不合格が余程悔しかったのだろう、堪えきれず長瀞先輩に抱き付き、子供のように泣き出してしまった……ちょっと失礼だけど、泣き顔可愛い。
ちなみに長瀞先輩は、88位だったらしい。このままでは離れ離れになってしまうので、なだめているけど彼女も若干悲しそうだ。
それはともかく。ただ見ているともらい泣きしてしまいそうなので視線を外す、と、
「ふふ」
視線の先で姉さんが、楽しげに笑みを漏らしていた。
「……姉さん。人の不幸を見て笑うのは、僕でも怒るよ?」
「いや、女部田殿の事で笑いはしたが、不幸を笑った訳ではないぞ?」
「え?」
流石の僕でも、姉さんが何を言っているのか、すぐにはわからなかったけど。冷静に考えると、姉さんは僕の前で本気で誰かを嘲笑う事はまずしない。それが、僕が気に入っている人なら尚更だ。
それと姉さんは、女部田先輩に関するなにがしかを企んでいたし、「進級出来る」とはっきり言った。姉さん、誤魔化しや冗談は時々言うけど、悪意ある嘘はまずつかない、つまりは「進級出来る」は嘘ではない。となると……
「……一応聞いておくけど。不正行為とかはしてないよね?」
「私が優輝の悲しむ事はしない、それは知っているだろう?」
「真っ当な方法を取った、と。んー……」
姉さんがそう言うなら。やはり女部田先輩は、「進級出来る」のだろう。
「先輩。姉さんは、「進級出来る」って言いました。なら先輩は、本校で三年生に進級出来ます」
「ん〜? どういう理論〜?」
女部田先輩が泣きじゃくってまともに反応出来ない状態なので、長瀞先輩が聞き返す。
「僕も、姉さんが何をしたかは聞いていないので、理由は説明出来ませんけど。多分その内わかると思いますよ」
「ん〜? ミキミキは教えてくれないの〜?」
「はい、勿体ぶるタイプなので」
「うむ」
「う〜ん、よくわからないけどー……とりあえず、マッキーが落ち着いたら、私から伝えとくね〜」
「はい、お願いします」
という訳で、今日はこれで解散となった。
二年生の進級試験から、一週間後の雷曜日。今日は三年生の卒業式の日、なのだけど。栄陽学園本校では、卒業式と合同で、二年生の進級式というものが行われる。
その進級式会場には、卒業生である三年生100名、合格した二年生である100名の計200名分、つまりは200脚パイプ椅子が並べられている。例年通りなら。
「なんか、席に違和感が……」
「んー? ……なんか椅子多くない?」
「ひぃふぅ……本当だ、一つ多い」
「えーと……二年の席だな」
式が始まる直前、入場してくる卒業生&進級生を迎える形式で、一年生はすでに会場入りしているのだけど。前方のクラスSの席あたりから、そんな声が聞こえてきた。
そう。彼らの呟き通り、一席多い。今年は100名の二年生以外に、特例で進級出来る生徒が1名いるからだ。つまりは、数え間違いで椅子を多く出してしまった訳ではない。
『――ただいまより、進級式・卒業式を始めます』
彼らの疑問に答えが出る前に、式は始まった。
さて。例年なら、式中の送辞は現行の生徒会長が、答辞は前期の生徒会長が読み上げるらしいのだけど。答辞は前生徒会長の纐纈先輩だから例年通りなのだけど、送辞は現生徒会長の僕ではない。まあ、当初は僕だったらしいのだけど……急遽、変更があった。
『続きまして、在校生による送辞、卒業生による答辞です。代表者は、壇上へお願いします』
壇上にマイクスタンドが二本並べられ、左に在校生代表、右に卒業生代表が立ち並び、順に読み上げる流れだ。卒業生は前述の通り纐纈先輩、そして在校生はは……まあ、話の流れ的に誰なのかは、読者の皆さんの予想通り。
『在校生代表、女部田 真貴さんによる、送辞です』
――――――――――
何故彼女が在校生代表に選ばれたのかは、幾つかの理由がある。その一つが、「現生徒会長が一年生だから」だった。
例年なら生徒会長は二年生だから、半ば自動的に在校生代表は決まっていたのだけど、今年は例外的とも言える、一年生の生徒会長だ。そこで、在校生代表の選考のための職員会議が行われ、やはり在校生代表は二年生が相応しい、生徒会副会長は二年生ではないか、という声が上がったらしい。
ただしその副会長は、戦闘試験不合格の、分校行きの生徒――つまりは、本校の在校生ではなくなるので、やはり相応しくない、となりかけたのだけど。
「ここで私、参上」
「な、なんだね君は?」
「え、瑞希ち――水城 瑞希さん、どうしました?」
その会議に、突如姉さんが入っていったらしい。しかも、
「会議中に突然、失礼しますね」
『!?!?』
「母様!?」
咲さんを引き連れて……うわ、先生方、可哀想……
姉さんが咲さんを連れてきたのは、首都の精霊剣研究施設でたまたま会ったから、らしいけど。学園側に自分の要求と、国からの要求を早めに通したかったから、という理由もあったらしい。
その、姉さんと国、ついでに守護者・珠州野守 咲の要求内容とは。
「不合格になり、分校送りが決定した女部田 真貴の、希有な能力の将来性を加味し、特例で本校にて進級させること。これは国の総理と、守護者・珠州野守 咲による推薦である」
女部田先輩号泣事件から休日を挟んでの、闇曜日の放課後。休日の地曜日に緊急職員会議が開かれて、姉さんはそこに突入したらしいのだけど。その時職員会議に提出したという要求書のコピーを、生徒会役員を招集した生徒会室で僕が読み上げた。
「「………………(ぽかーん)」」
「自分の目的のために、必要とあらば国をも動かしますか。流石です、瑞希さん」
「ん……(こくり)」
それを聞いた先輩2人は、予想外の展開に真っ白になり、姉さんの友人で理解者である天王寺姉妹は、若干驚きつつも姉さんならやりかねない、といでも言いたげな顔で受け止めていた。
「ふむ、当事者は受け止め切れていないようだな。要約すると、本校での進級おめでとう、女部田殿」
「……アリガトー」
呆然としながらもそう返す女部田先輩。まだ状況を飲み込み切れていないようなので、要求書の続きを読み上げる。
「進級させる条件として、女部田 真貴学園生は、校内で活発にアイドル活動、及びライブを行うこと」
「……え?」
「具体的には、週に最低一回はライブを開催、さらに月一で、訓練棟を使用しての規模の大きなライブを開催すること。だそうです」
「……え、マジでそれが条件なの? 嬉しいし、願ったり叶ったりだけど……え、マジで?」
「マジみたいですね」
「事の経緯は、私が説明しよう」
一応、昨晩の内に姉さんから聞いていたから僕も説明は出来るけど、姉さんがドヤ顔で語り出したので任せる事にした。
「要求書の、「希有な能力」についてだが。これは端的に言って、女部田殿の生歌の事だ。成田博士という精霊術の研究者が、「精霊術と歌の関係性」という論文を発表しているのだが、その論文によると、魂の籠もった精霊術士の生の歌声には、聴く者の精神を高揚させるのみならず、精霊術の威力を上げる効果もあるのではないか、と論じている。ただ気分が良くなっただけでは説明できない威力の上昇があるという検証結果が出ているらしい」
「へぇ……」
姉さんの説明が始まってから、それまで呆然としていた女部田先輩の目に火が宿る。歌でみんなを元気付けたい先輩にとって、かなり興味を惹かれる論文だからだろう。
「その論文を思い出した私は、生徒会長選出会の女部田殿のライブの直後、訓練棟にていくつかの精霊術を行使してみたのだが。込めた霊力よりも、明らかに威力が増していたのを確認した。成田博士の論文の正確性を立証した私は、女部田殿の歌は「希有な能力」「新種の精霊術」と言えるのではないか、と結論付け、成田博士と国、ついでに咲殿を説き伏せ、要求書を学園に持ってきた――とまあ、そういう経緯だ」
「なるほどねぇ……それで、進級条件の「定期的なライブ」はなんなの?」
「女部田殿の特殊能力の性能向上が目的だな。女部田殿の歌は新たな精霊術、「歌霊術」として、成田博士の監修の下で研究される事となった。それに関して女部田殿の在学中は特別講師という名目で、成田博士が学園内ライブを観覧するらしい。私からの話は以上だ」
「…………」
ふう、と一息付いて、姉さんが説明を終える。しばらく沈黙して考え込んむ女部田先輩。
「……まあ、大体理由はわかったわ。わかったけど……それにしたって、国を動かすって。瑞希さん、マジで何者よ……?」
「ふふふ」
「まあ、姉さんは大天才なので……深く考えないほうが良いですよ?」
先輩の疑問に対して、意味深に微笑む姉さん。まあ姉さん、国家プロジェクトにガッツリ関わってるらしいしね、やる気になれば国のトップにも意見できる立場なのは間違いない。国家機密だから、流石にその辺りは説明出来ないけど。
「うーん、私には難しくて、よくわからなかったんだけど〜。簡単に言うと〜?」
「えっと……女部田先輩の歌が高く評価されて、特別に本校での進級を許された、て事です」
「うむ。さらに言うなら、念願だった訓練棟での定期ライブの夢も叶った事になるな」
「おー、マッキーおめでと〜!」
「あー、うん、ありがとまひる。まあ、いきなりのトンデモ展開で、まだ実感湧かないけどね、あはは……いやこれ流石にドッキリじゃないわよね?」
「嘘でも冗談でもドッキリでもないですよ。おめでとうございます、先輩。僕ももう一年女部田先輩達と一緒出来て、嬉しいです」
「あ、ありがと……あっはは、流石に照れるわね……あ、あれ、なんか実感できてきたら、涙、が……う、うぅ〜……!」
――――――――――
とまあそんな経緯で、女部田先輩は姉さんの宣言した通り本校で進級する事になり、在校生代表の資格ありとして急遽抜擢されたのだった。
(ふふっ、あの時の嬉し泣きする先輩、可愛かったな……)
堂々と送辞を読み上げる女部田先輩を眺めながら、あの時を思い出して感慨深く感じるつつ、式はつつがなく進行していった。




