9話 お近付きの印
「それで? 土産は当然ケーキだけではないのだろう?」
静海が淹れた紅茶で口を湿らせてからそう言う姉さん。まあ、この流れになるよね……
「ええ、当然……と言いたいのですが、生憎と今回はてこずってまして」
「そっか〜。僕にとってはありがたいことだけど」
「……まだそんなことを言ってらっしゃるんですか。往生際が悪いですわね……まあ、そこも優輝さんの魅力でしょうか、ふふへっ」
「そっちこそ、変態的な声が隠しきれてないよ。美少女さんが台無しだから気をつけてね」
「あら、美少女だなんて、嬉しいこと言ってくださいますね。それではとことん楽しめるモノに仕上げてやります!」
「それ楽しめるの僕じゃないよね⁉︎」
「ダメか?」「ダメですか?」
「……ダメじゃないけど」
ちょっと僕が恥ずかしいのを我慢すれば喜んでくれるわけだから、それくらい構わないんだけど……それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
「それでですね、試作品の写真を持って来ているんです。瑞希さんの意見が聞きたいのですが」
「なるほど、そういうことか。とりあえずモチベーションアップのために、そうだな……先日撮った、八重桜をイメージしたヤツを見るか?」
「是非!」
あ、始まっちゃった。そういえば、あの時はこんな流れで……
――――――――――
「まずはお近付きの印として、そうだな……入学記念で撮った春モードの写真を見るか?」
「是非! ところで……瑞希さんは、月影をどう思われますか?」
「ああ、実に興味深い。優輝以外で私が魅入ったのは、彼女が初めてと言って良いからな」
「そう仰ると思いましたわ! では――」
……僕を置いて僕の目の前で僕の話で盛り上がっている。こういう時どんな顔すれば良いのかわからない。苦笑いかな……
と、そういえば、会話に月影ちゃんのことも出始めたけど、当の本人はどこに行ったのだろう? 蒼月さんの近くにいたはずなのに、いつのまにか消えていた。
(えーと……あ、いた)
さっと周囲を見渡……すまでもなく、ヒロのすぐ横に座って本を読んでいた。
意外と近くにいたけど、いつ移動したんだろ。うーん、目立つ見た目なはずなのに……気配を消すのが得意なんだろうか。
「天王寺 月影さん」
月影ちゃんが、読んでいた本から顔を上げる。
「……?」
変わらずの無表情だけど、首を僅かに傾けて、どことなく不思議そうな仕草をする。可愛い。
「蒼月さんと名字は同じだし、月影ちゃんって下の名前で呼んでもいいかな?」
なんとなく、姉さんと蒼月さん……姉同士?が仲よさそうにしているので、僕は妹同士(仮)で仲良くなろうと思った……姉さんが取られたような気分になって、ちょっと寂しかったっていうのもあるけど。
「…………ん(こくり)」
少し間を置いて、小さく頷く。了承……で良いよね、これは。
「それで、えーと……蒼月さんとウチの姉さんは、友達になったらしいので、その……」
あれ。改めて考えると、こんな風に誰かに友達になろうって頼むの、結構勇気いる行動かも……何気にアキはすごいなぁ。
「僕と月影ちゃんも、友達になろう? え、えへへ」
「…………」
照れながらの僕の友達申請に月影ちゃんは、ゆっくり視線を彷徨わせ、蒼月さん達の様子を少し見てからこちらを見てから一言。
「……。嫉妬……?」
「うっ!」
半分確信に近いとこを突かれて思わず吹き出しそうになった。結構鋭い……無表情で一見ぼ〜っとしてるように見えて、かなり頭の回転が速いのかも。
「う、うんまあ、それもなくはないかな。1番の理由は、純粋に月影ちゃんと仲良くなりたいと思ったからだけどね」
変に取り繕っても見抜かれそうなので、素直にそう答える。
「…………」
しばらく僕を見て、少し視線をそらしてから再び僕を見直し、
「……読書が趣味、です……」
ポツリとそう言った。これは……話題振り、かな。
「僕も本はそれなりに読むかな。漫画やラノベを含むけどね。趣味が料理だから、1番読むのはやっぱり料理本だけど」
「……。読み、ますか……?」
月影ちゃんが、今読んでいた本を渡してきた。
「え、いいの? 読んでる途中なんじゃ」
「……2回は読んでいる、ので……」
つまりは3回目だったのか。お気に入りかな?
「そっか。じゃあ……どれどれ」
とりあえずタイトルを確認する。えーと……
〈大戦から学ぶ国家運営〉
……ずいぶんと小難しそうな本だった。
「……月影ちゃんはこういうジャンルが好きなの?」
「……好きではない、です……」
好きじゃないジャンルのを3回も読むんだ……
「本を読むこと自体が好きってことかな。えーと……とりあえずごめん。この本は僕も興味を惹かれないから、悪いけど返すね」
「……。はい……」
少し間を置いてから受け取る月影ちゃん……んー……どことなく残念そう? あっもしかしたら、さっきの、姉さんと蒼月さんのやり取りを見て「お近付きの印」として貸そうとしてくれたのかも。それじゃあ……
「月影ちゃんは、漫画とかラノベとかも読む?」
「……ん(こくり)」
「じゃあ今度、僕のお気に入り、貸してあげるね」
「……んっ(こくり)」
ちょっとだけ強めに頷いた気がする。可愛い。
月影ちゃん、感情表現苦手みたいだけど、よく観察すれば読み取れないこともない、かな。お近付きの印を渡す約束も出来たし、
「……友達」
「え?」
「ん……よろしく、です……優輝、さん」
「あ……うん! これからよろしくね、月影ちゃん」
改めて友達申請しようとしたら、先に月影ちゃんから言われた。なんだろ、なんか、すごい嬉しい。
「あ〜もうっキミら可愛すぎか!」
「うわっちょ、なんなのアキ⁉︎」
アキが後ろから抱きついて来た。どうやら、感情が高ぶるとしちゃう癖っぽい。まあ姉さんで慣れてるから、ちょっと驚く程度だけど。
「んも〜優輝はいちいち表情とか仕草とか可愛いすぎなんだよ〜月影ちゃんっ! 優輝とあたしは友達だから、私とも友達になろ?」
勢いに任せな感じで、アキも友達申請し出した。
「じっじゃああたしも! アキちゃんと優輝さんの友達だから友達の友達で、えっとえっと……鯨井 大です! よ、よろしゅくお願いしましゅっ!」
アキの勢いに乗ってヒロも続いた。顔真っ赤で目がぐるぐるな感じだけど。可愛い。
「……っ……」
突然の複数友達申請に少し驚いたのか、月影ちゃんはしばらく目を泳がせ……蒼月さんがこっちを見ているのに気付き、助けを求めるかのように見つめる。
それに対して蒼月さんは、
「月影が良いと思った選択をすればいいんです」
柔らかく微笑んで、月影ちゃんの決定を促す。
「…………。よ……よろしく……です。アキさん、ヒロさん……」
顔をほんのり赤らめ、目元以下を本で隠し、視線をそらしながら了承する月影ちゃん。すごい可愛い。
「あれは反則だろうがっ……!」「くっ……殺される!」「カワイイ!」「ゆり、あら」「おいニック、戻って来い!」
それを見ていた周囲の人から、様々な悶絶の声が上がっていた。
登場人物紹介
天王寺 月影
容姿:銀髪ロングツインテール 銀眼 可愛いくて綺麗
身長:127cm
性格:静
好物:なし
嫌い:なし
趣味:読書 知識の収集
属性:火
低身長無口無表情クールロリ系女子。一人称は私。
いつも無口無表情で、声のトーンもほとんど変わらないので何を考えているのかわかり辛いが、頭の回転が恐ろしく早く、状況分析と最適解を瞬時に出せる。
精霊国で神聖さの象徴である銀の色を持ち、作られたかのように美しい容姿、白い肌に変化に乏しい表情から、神秘的な超絶美少女として入学当日からファンクラブが密かに出来るほどの人気を集めている。入会者は男女共に同数くらい居るらしい。
近年稀に見る、どころか歴代最高の潜在能力を持っており、守護者最有力者。
その能力と期待に反して本人は戦闘行為を少し苦手に思っており、守護系の精霊術の方が得意で好き。そういう意味ではこれ以上ないくらい「守護者」向きではある。
蒼月と血の繋がりはない。しかし、口には出さない(無口なせいもある)が、蒼月を家族のように慕っている。姉だと思っているかは不明。
読書が趣味で、好き嫌い関係なく読む。知識収集も好きなので、月影にとって本を読むことは「最も効率的な趣味」だと思っている。
ちなみに、本を読んでいる時は呼びかけてもすぐに気付かないほど没頭していることがあるが、あまり好きな内容でなかったり、何度も読んだことのある本だったりの時は、わりとすぐ反応する。