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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第六章 溟海大龍帝国 インテリオール
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 84 追いかけっこ

地震の原因が分かったり王子の気持ちが分かったり追いかけっこしたりと波乱の幕開けが見えるお話!

「……えぇっと。面白い人?それは……どういう意味、なのかしら……。」


心当たりしかない。緑珠は確認の為、人魚へと問うた。何の悪びれもなく人魚は答える。


「え?御稜威ではもつ煮込みを沢山食べたそうね。ザフラでは闘技場に飛び込んで……ノルテでは人身売買の会場を壊したりだとか!」


「ふふっ……前半っ……!」


「イブキ!笑わないでよ!」


何とか笑いを堪えようとしているイブキを他所に、人魚は四人へ微笑んだ。


「疑ってごめんなさいね。正当な理由があって来たのなら、拒むつもりは無いわ。……ごめんなさい。人魚は何時だって虐げられて来たから。」


「あぁ、何も気にすることは無い。そう思ってしまうのは仕方の無いことだ、姫。」


アルメハの言葉に、人魚はきょとんと首をかしげた。


「……私が姫って言ったかしら?王子様?」


王子は気が付いた。自分が思わず口を滑らした事に。


「あ、いやー。あの、えっと。ほほほほほほら、貴女はこの国のお姫様でしょう?えっと、だから、そのっ、な?」


「……えぇと?」


人魚は変わらず首を傾げている。緑珠が腰に手を当ててくすくすと微笑んだ。


「はっきり言っちゃえば良いのに。ずっと探してたって。」


「……探していた?私を?」


まだ心の準備が出来ていないのに、と言わんばかりの顔でアルメハは緑珠は睨む。胸に手を当てて、彼は言った。


「そ、そうです。探していたんだ。貴女の事を。お礼が言いたくて。」


「お礼ですか?私に?」


首を傾げたままの人魚に、アルメハは続ける。


「昔。ボクが海岸で遊んでいた時に怪我をしたんだ。その時に貴女が助けてくれた。直ぐに人が来たからお礼を言いそびれてしまってね。」


人魚は険しい顔をしながら、アルメハへと言った。


「……ごめんなさい。覚えてないわ。」


悲しそうに顔を歪めた人魚に、アルメハは慌てて答えた。


「気にしなくて良いよ。ボクがお礼を言いたかっただけだから。有難う。」


「アルメハ王子の記憶の中に私は居るのね?なら答えるのが道理。どういたしまして。今は健康そうで何よりです。」


置いてけぼりになっていた三人に、人魚は少し悲しそうに項垂れた。


「お父様に会いたいのよね?リヴァイアサン公に。」


「これ会えないやつじゃないですか……?」


イブキの一言に、人魚はこくん、と頷いた。


「会えないの。今、お父様は……。」


病気なのだろうか。だが、緑珠の思考はあっさり終わる。


舞踏祭ライブに行ってるから。偶像人アイドル『海洋シスターズ』の。」


「…………らいぶ?イブキ、何それ。」


意味が分かる緑珠以外は、人魚の言葉に全員唖然としている。イブキが簡単に説明した。


「偶像人は分かりますか?」


「分かるわよ。歌って踊ってお話する人よね。」


若干違う気もしなくは無いが、イブキは続けた。


「その偶像人が目の前で歌って踊って話したりするんですよ。そういう祭りみたいな物です。発券チケット制ですね。」


「ふうん。じゃあそれに行ってるの?リヴァイアサン公は。」


こくん、と項垂れたまま、人魚は頷く。


「えぇ。最近は其処に行ってばかり。お父様が一番好きな偶像人だから分かるのだけれど。はしゃぎ過ぎて、最近は地震が酷いのよ。」


「……待ってくれるかな。もしかして、最近頻発してる地震の原因は……!」


真理が確信を突いた。もう、答えなんて誰でも分かっている。


「そうなの。お父様のはしゃぎ過ぎが原因。今回は行事イベントがずっと続いているから、お父様もはしゃぎまくりで……。」


「その前に、リヴァイアサン公って偶像人好ドルオタだったんですか……。」


イブキの半ば呆然とした一言に、人魚は頷いて続ける。


「今は遠征中なの。だからお父様には謁見出来ないわ。あと数日で帰ってくると思います。」


それを聞いて、アルメハが引き返そうとした瞬間だった。緑珠が一つの提案をする。


「じゃあその間、地上を観光するのはどうかしら?」


「観光……?地上を……?」


「りょ、緑珠……お前、何言い出すつもりなんだ?」


アルメハはどきまぎしている。緑珠はそっ、と耳打ちした。


「言いたいこと、まだ伝えられてないんでしょ?」


「それは……まぁ、そうだが……。」


人魚は目を見開いたまま、地上の人間達じっ、と見ている。


「無理強いはしないわ。でもどうかしらと思ってね。海よりも面白い物が沢山あるわよ。」


「……地上。海よりも沢山色が有る場所なのよね。気になりますけど……。」


人間達の顔が少しだけ曇ったのを危惧して、人魚は軽く弁明をした。


「気にしないで下さいね。貴方達が悪と言っている訳では無いわ。やっぱり地上は怖いですけど、行ってみたいです。」


「そう、か……良かった。」


それよりも、と緑珠は人魚に手を差し伸べた。


「貴女の御名前は?呼ぶのに困ってしまうわ。人魚姫。アルメハ王子はご存知?」


「いや……知らない。」


気まずそうに言ったアルメハに、桃の人魚は微笑んだ。


「私の名前は、ルーザエスカエラ=ディーネ・インテリオール。インテリオールのお姫様です。……名前が長いわね。ルーザとでもエスカエラとでも、お好きな様に。」


紫色になった海面を見上げて、ルーザは言った。


「もう夕方だわ。そろそろ帰らなくては駄目なのではなくて?」


「そうだな。……あぁ、えっと。明日は何処で待っていれば……。」


ルーザは困り果てた顔をアルメハに向ける。


「困ってしまうわね。何処にしましょう。貴方は海に入れないし……そうだ!」


指鳴らすと、一つ。


「ファステーラの端に、大きな岩礁があるのはご存知よね?其処でならどうかしら。人間にも見つからないし。」


「分かった。其処で会うことにしよう。それでは。」


アルメハは簡単に礼をすると、緑珠は手を振る。


「じゃあね。エスカエラ姫!」


「それではまた明日、ですね、姫。」


「じゃあね!気を付けて!」


遠ざかっていく四人の姿の後には、紫の海と歓喜に溢れた人魚姫が、残された。









「良かったじゃない。アルメハ王子。」


「うるさい……余計なお世話だ……。」


海から上がった世界は、もう夕闇が幕を上げていた。


「あら。駄目だったかしら。言い残してそうなことがあるから言ったのだけれど。」


「……何で分かった。」


緑珠の言葉にアルメハはいそいそと振り返る。


「ん?何となく。貴方の目が曇っていたから。」


「緑珠様の勘は当たりますからね。」


もう王子が何を言うか分かる。それを皆は期待しているのだ。


「……ぼ、ボクは、あの、にんぎょ、ひめ、が、好きなんだ……。」


「きゃあーっ!純愛ね!」


「それを僕の方見ながら言うのやめて貰えると嬉しいですね。」


イブキの貼り付けた笑顔に、緑珠は涙が出るほど笑う。


「あはは!ごめんなさいね!でもそう思わない?新鮮味が凄いわー!」


「何か緑珠、伊吹君の独占欲楽しんでない……?」


「まぁ、新鮮味が凄いのは僕もですけど……。」


「と、とにかく!」


アルメハは叫んだ。そして続ける。


「ボクはだな。お前達に頼みたい事があるんだ。」


「頼みたい事?何かしら?」


何時にもなく真剣に、アルメハは三人を見詰める。


「護衛をして欲しい。」


「護衛……何でまた?そういう人達に頼んだ方が……。」


「ボクだってそうするならそうするさ。お前ら楽しそうだもんな。」


それは皮肉なのだろうか、と緑珠は笑いながらまた思う。


「だが、姫は人間が怖い筈だ。当たり前だろう?自分を殺そうとしている動物を好きになれる筈が無い。」


だが、とアルメハは続ける。


「お前達は一度姫の目に入っている。それに会話もした。敵意は無い筈だ。」


「ま、ご最もな御意見ね。……ふうん。」


「謝礼も出す。」


アルメハの言葉に、緑珠はばっ、と顔を上げた。


「引き受けたわ。」


「ちょろいですよね、緑珠様って。」


「旅費は沢山あった方が良いのよ。」


イブキの言葉に緑珠は振り返った。


「確かに手に入れた金剛石ダイヤモンドは売り払ったけど、本当に旅費ってそれだけなの?真理の出稼ぎだけじゃ、此処まで来るのに厳しいわよね?」


「あーまー、そうだねぇ。……旅費の管理してるのって伊吹君だよね?無限の旅費は一体何処から……。」


「え、いや、それは……。」


ぽそっ、と呟く。


「……博打。」


「おい博徒ちょっと後で話をしましょうね。」


「ひぇぇ……緑珠様怖い……。」


態とらしくイブキは声を上げると、アルメハが口を挟んだ。


「とにかく。護衛を頼む。特に異常が無い時は観光していて良いから。」


「ほんと!?やったー!皆で氷菓アイスクリーム食べましょー!」


「それ良いね。」


「緑珠様は氷菓が好きですもんね。」


「……あ、あと!」


暗くなった浜辺が、しん、と静まり返った。


「ふ、服とか……どうやって選べば良いんだ?何を着ていけば良いとか、えっと、その、あの……。」


「きゃあ……純愛……漫画みたいな可愛さね……!」


「か、可愛いって言うな!」


うーん、と緑珠は首を傾ける。


「別にその服で良いと思うけどね。私は。何時もその服を着てるんでしょ?」


「着慣れた服の方が良いと思いますが。」


「それ格好良いしね。」


「ほ、本当か……!?」


やった!と小さく喜んでいるアルメハを見て、緑珠は言った。


「……イブキもアレを見習って欲しいわ。」


「そんな従者持ってて普通にそんな事言える貴女が一番おかしいですよ。」


「一番おかしい人は一番おかしいっていう自覚が無いことが往々にして多いよね……。」


ふふ、と一人で喜んでいるアルメハを見ながら、緑珠はまた続ける。


「別にイブキが私に好意寄せてるのは全然構わないのだけれどねー。時折殺そうとするから……。」


「そんな『コンビニ行ってくるから』みたいなノリで『殺そうとするから』を言う人初めて見たんだけど。」


だって、とイブキは付け加える。


「貴女殺す勢いで言わないと言う事気かないじゃないですかー。」


「棒読みを止めなさい。貴方途中から楽しんでるでしょ。」


「……まぁ。」


「其処は否定して欲しかったわ。」


緑珠達の会話が聞こえて、アルメハははっ、と顔を上げた。


「と、兎に角だ!明日は頼んだ!」


「任せて。ちゃんと見ておくから。」


「……上手く、いくだろうか。」


緑珠は不安げなアルメハの言葉に振り返る。


「大丈夫よ。私達が居るし。何より貴方は、この国を愛している。国民を、国が持つ物全てを。きっとそんな王子様を好きになってくれるわよ。あの姫は。」


「そうか。……似た者同士のお前が言うなら安心だな。」


持ち前の生意気さを取り戻して、アルメハは悪戯っぽく笑った。そして王子は軽く礼をする。


「今日は夜遅くまで付き合わせて済まなかった。感謝しよう。」


「お礼を言うのは此方の方よ。それでは王子、さようなら。また明日。」


「それでは王子。また明日ですね。」


「じゃあね。風邪とかひかないようにするんだよ!」


アルメハは歩いていく三つの影を見ながら、影とは逆の方向へと歩いて行った。


「夕焼けの海も綺麗だけど、夜の海も綺麗ね。」


「そうですね。今日は満月です。」


「月が揺れてるね。」


ちらと緑珠は月を見上げると、無感情に言った。


「……月の綺麗な夜は嫌いね。……さて、追いかけっこしましょうか。」


「えー。またですかー?」


「そんな口調の割には結構乗り気だろ……。」


緑珠が足先で土を抉って線を作る。


「はい。じゃあ此処からね。勝者は今日の食後の御茶会ティーパーティーのお菓子セット、自由に選ぶ権利を有するものとする!」


「それは譲れませんね。」


「僕も頑張るよ。神様パワーで行こうか。」


「はい、それじゃあ……よーい……。」


三人が一列に並んで、緑珠は大きく叫んだ。


「スタート!」







次回予告!

不穏な男女の影が二つ。そしてイブキが本気を出したり戦闘に塗れたりと波乱まみれのとんでもないお話!

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