ラプラスの魔物 千年怪奇譚 83 海上の楼閣
新キャラが登場したりわちゃわちゃはしゃいだり緑珠が叫びまくったりインテリオールを目指すお話!
「済まない!待たせた!」
乗馬服に身を包んだアルメハは、息を切らして三人の前に現れた。
「いいえ。そんなに待ってないわ。」
波で砂の城が崩れていくのを、緑珠は見て呟いた。
「正に砂上の楼閣?」
「それ主に砂漠ですよ。」
「海でも見られるよ。」
「そうなの!?貝の息が!?」
「それ言って分かる人少ないと思うけどなぁ……。」
一通りの会話を終えて、緑珠はアルメハへと向き直った。
「さて。インテリオールって海の中にあるのよね。どうやって行くの?」
「普通に。海の中に入って行くんだよ。」
少しの間の後、緑珠が若干いたたまれない視線をアルメハに送る。
「……えっと。海って水がいっぱいある場所なのよね?」
「そんな憐れむような視線をボクに見せるな!分かった分かった説明するから!」
はぁ、とアルメハはため息を付いた。そして簡易な説明をする。
「何だ……ほら、アレだ……。薄い空気の膜を魔法で周りに貼るんだよ。それで海中に向かう。理解したか?」
「なるほど!そういう事だったのね!……でも、海って浅いのにどうやって行くの?」
「……は?」
もう何か色々言えない。分からないってそんな物なのだろうか。
「……いや、緑珠。海は深いよ。」
それを聞いて緑珠とイブキは大きな声を上げた。
「ちゃ、ちゃ、ちゃんり……!海って深いの……!?」
「深いよ!」
「ちゃ、ちゃんり……それ、本当なんですか!本当に、海は深いんですか!」
「深いよ!」
目を見開いたまま、緑珠は広大な海を見渡して言った。
「今日一番の驚きだわ。でも深いとか言っても高々しれてるでしょ?百mくらいとか。」
それは大陸棚くらいの浅さしかない。真理は苦い表情を作りながら言った。
「海で一番深い所だと、一万九百mあるよ。」
イマイチ実感が湧かないらしい。緑珠とイブキで馴染みのある、一万mのものとなると……。
「四捨五入して、月三周くらいする感じかな。」
「月を……三周……凄いわね……。」
「海の凄さが分かった所で、そろそろ行くぞ。魔術師。頼む。」
「了解っと。」
真理は流れて来ていた流木を拾って、魔法陣を描く。勿論適当だから、
「円歪みすぎじゃないですか。」
「気のせいじゃないかな。」
円、というか最早楕円だ。
「はいはい乗って乗って。」
星的な物と魔法陣的な物を楕円の魔法陣の下に置いて、皆は魔法陣の上に乗った。
「それじゃあいくよ!……空気の膜が貼ります様に。」
「えらく神頼みな魔法なんだな……。」
魔法陣が光る中で、真理は苦言を呈した。
「うーん……今まで呪文考えてた奴も幾つかあるし、まぁ今回は良いかなって……。」
「……いちいち考えてたりとかしてるって事は厨二病だったってこ」
「それ言ったら君の初任給で買った桐下駄灰にするぞ。」
「……それは困りますし神様特権ですか。僕それ言ってないんですけど。」
オーブの様なものやベールが漂う。そんな中で緑珠は言う。
「初任給ってアレなの?北の城塞の。」
「そうですよ。」
緑珠の質問にイブキは返すと、真理は魔法がかかりつつある魔法陣の中で問うた。
「実質お幾らぐらいだったの?」
完全に魔法がかかった。イブキは眉間に皺を寄せて何とか思い出す。
「国を守るという仕事でしたから……幾らだったかな。三十万くらいかと……。」
「中々貰えるもんだね……。」
二人の会話を、緑珠とアルメハは横目で聞いていた。不思議そうに緑珠は問う。
「三十万って高いの?」
「さぁ。ボクには分からん事だ。それよりも魔法がかかったのだろう?行かねばなるまい。」
それを聞いて緑珠は駆け出した。彼等が歩く場所だけ水が退く。そして、しょんぼりとした顔を作った。
「ばしゃばしゃ言わない……。」
「そりゃあ魔法がかかってますからねぇ。」
「海は漂える様にしておいたよ。」
「助かる。魔道士。」
音が鳴らない水面を、一行は進んで行く。そして、頭が完全に浸かった。
「水面下って、こんな風に見えるのね。」
夕焼けが水を通して落ちている。目の前は明るく琥珀の光が漂っている。
「綺麗ですね。」
「そうだな。こっちだ。着いてこい。」
先陣を切って歩き出した緑珠を超えて、アルメハは地図を見ながら歩き出す。
「アルメハ王子は凄いわ。本当にインテリオールのことを知っているのね。」
振り返ることなくアルメハは言った。その言葉に、若干の苦笑は入っていたが。
「流石にボクも変わらない海を探索することは無理だが、きちんと座標を記しておいた。……うむ。彼処からは……海を漂う方が良いな。」
変わらなかった海の景色が、段々とゴツゴツした岩肌が目立つ様になる。
「海にも沢山の景色があるのね。知らなかったわ。」
「ただの水溜まりでは無かったのですね。」
「君達海に対する認識が酷いよ。」
次第に昆布の森が見えた。海水面に海獺が泳いでいる。
「真理、あれは?大きな猫と鼠を掛け合わせた動物みたいだけれど。」
「海獺だよ。お腹で石を使って貝を割る生き物だ。」
「地上には変わった生命体が居るのですね。」
先導を仕切っていたアルメハが足を止めて振り返る。
「さて。此処からは海を漂うことにしよう。空を飛ぶ要領でいこうか。」
「了解よ。……イブキ?」
イブキはきらきらとした、子犬の様な瞳で緑珠を見詰める。
「これって、空飛べるっていうことですよね……!?」
「まぁ、海を漂うってことだけど……そうね。貴方からしてみればそう大差ないかも。」
イブキは小さく歓声を上げながら、海面を見上げる。
「ふふっ……やっと僕、僕自身の力で飛べるんだ……!」
「それじゃあ行こうか。」
ふわり、と足元に砂が浮く。昆布の森を掻き分けた時だった。ぐんっ、と森を掻き分けて、何かが現れる。
「きゃあっ!」
「うわっ!」
「っ!?」
真理が手を上げてぐにゅん、と音がするかのように『何か』を掴んだ。
「皆グロいのいける人だっけ?」
三人は沈黙状態だ。緑珠とイブキはまずこの生命体が何か分かっていないし、アルメハは放心状態だ。というか失神している。
「……あれ。皆無理な人だっけ。」
緑珠は、真理の手でもにゅもにゅとしている、灰色の鼠の様な大きな魚を指さして言った。
「真理。ねぇ、あれなんなの?魚っぽい何かだけど。」
「あぁ、アレは……。『鮫』という物だよ。僕達と同じ哺乳類で、肉食。僕達を食べようとして近付いて来たんだよ。」
「さめ……ですか……変な生き物ですね。」
イブキはぼんやりと鮫を見上げた。緑珠が気絶しているアルメハを抓る。
「大丈夫?息してる?死んでない?」
「……っ、は、びっ、ビックリしただけだ、男のボクがこんな事で腰が抜ける訳な、」
緑珠はそれは違うと言わんばかりの顔をした。そして、自分よりも身長が低いアルメハの目線に高さを合わせる。
「あのね。王子。私は、『貴方』が大丈夫かって尋ねたの。大丈夫だった?」
「……あぁ。大丈夫だ。有難う。」
「そう。それは良かった。」
緑珠のにこっ、とした微笑みをアルメハは見ると、真理へと告げる。
「ええっと……ボクは猟奇的な物は得意では無いから……。」
ぐにぐにと球を弄る様にして触っている真理の手をアルメハは見る。
「その手で捻り潰すのを止めて貰えると助かるな。」
「ん。了解だよ。それじゃあこれを……。」
ぽんっ、と音がした。それはもう空気でお菓子を膨らましたが如く。
「この海の何処かへ飛ばしたよ。さぁ、道案内を頼もうか。」
アルメハは地図を一瞥すると、昆布の森を超えて、円になっている岩を通る。昆布は消え去り、ゴツゴツとした岩肌が見える様になった。
「この先に目的地がある。裂け目が増えるから落ちない様に気を付けるんだぞ。」
そして、暫く過ぎた先だった。
「……此処だ。」
小さな裂け目が目立っていた中で、それは一際大きな裂け目だった。黒い岩肌の影響もあるのかもしれないが、特にぽっかりと口を開けて、人を飲み込む様だ。
「この先に、人魚の国がある。」
「……この先?本当に?」
底は見えない。しかも複雑に入り組んでいる。迷ってしまえば一生出れなさそうだ。
「ああ。本当にある。ボクはこの目で、見たんだ。」
「……王子は人魚の国に詳しいのね。」
アルメハはゆっくりと緑珠へと振り返った。
「どうしても会いたい人が居るからだ。行くぞ。行かないと何も始まらない。」
「そうですよ。それは私もそう思います。」
「でも怖くない?こんな、くらい、なか……。」
「大丈夫ですって緑珠様。僕達が居ますから。」
「そうだよ緑珠。怖かったら手でも繋ごうか。」
「地上の方は宜しいんですのね。沢山手が繋げて。」
四人は顔を見合わせて、そして緑珠は呟いた。
「……何か、こえ、おおくない……?」
「あら、そうかしら。あぁ、でも私が喋っているからですね?」
くくくっ、と緑珠が首を動かす。嫌でも目に何かが入って来る。
「`♂仝▼◇♂ヾ*$*'*’*@*’*/($(々ヽ〆ヽ♀△♀!??!」
「はい緑珠様静かにしましょうね。水は空気中よりも早く音が伝わるんですよ。」
イブキは緑珠のもごもごいう口元を抑えている。
「いやぁ、でも……これは驚くと思うなぁ……。大丈夫?アルメハ王子、生きてる?」
「……。」
「ダメだなこれ。」
緑珠は外されたイブキの手を掴んで、視界の端に入ったその人を見詰める。
「あ、あ、貴女は……!写真の、人魚……!」
「えっと……何を言っているか良く分からないのだけれど。貴方達人間よね?」
アルメハは、ただただ、その女人魚を見ていた。目を見開いて。若干の恐怖と怯えを、多大過ぎる好奇心で埋めて。
「……あら、違った?人間は海の中で居れないと聞いたのだけれど。最近の人間は凄いのですね。」
「あーいや、厳密に言うと違うのだけれど……。」
緑珠はにこり、と何とか笑顔を作りながら、前の人魚へと言った。
「私達は人間よ。魔法で此処に居るの。」
薄桃の髪が青の海中にたなびき、青い鱗が海に負けじと輝いている。真珠の首飾りが良く生える。美しい、のだ。ひたすらに。この生命体を乱獲してしまう気持ちも分からんでもない。
「ふうん……。どうして?何故?理由は?ねぇ貴方達、人魚を乱獲しに来たの?」
目の前の人魚は、四人を容赦無く睨みつける。
「そういうつもりじゃ無いんですよ。桃人魚のお嬢さん。」
「もっ、ももにんぎょ……。」
イブキの発言をさらっと流すと、そのまま続ける。
「僕達はインテリオールに行きたいんです。それでこの王子に頼んだんですよ。道案内を。」
「王子?ファステーラの?」
少しだけ敵意を解いて、人魚はじいっ、とアルメハを見る。
「貴方がアルメハという王子ね。他の人魚から話は良く聞いてる。良い王子だったって。あと……。」
くすくす、と人魚は微笑む。
「面白い王子様だって。」
「それはどういう意味なんだ……。」
アルメハは戸惑いつつも釣られて微笑んだ。だけど、と付け加えて怪訝そうな顔に戻る。
「貴方達、インテリオールに行きたいのよね。どうしてなの?見た所王子様以外は旅人みたいですけど。」
緑珠は人魚の怪訝そうな顔付きを気にしながら、目的を言った。
「あのね。私達は国を造りたいの。」
「成程。インテリオールの調印が欲しいのね。『慧眼の姫君』?」
「……あら、知っていたのね……。」
人魚は先程の怪訝そうな顔付きを消し去るように、少し挑発的に笑った。
「貴女は五体満足じゃなくなっても此処に来ると思ったもの。貴女、面白い人らしいから。」
次回予告!
地震の原因が分かったり王子の気持ちが分かったり追いかけっこしたりと波乱の幕開けが見えるお話!
(因みに今日緑珠が叫んだ『貝の息』とは蜃気楼の事です。面白いので、もし良ければ調べてみて下さい)




