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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第六章 溟海大龍帝国 インテリオール
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 80 影と従者

緑珠と王子が親睦を深めたり彼の心境を知って過去を省みたりとんでもない新事実が明かされたりと物語が新たに進行するお話!

緑珠は隣に座ると、名も知らぬ王子へと問うた。


「そう言えば貴方の名前、聞いてなかったわね。」


少しだけ感情が落ち着きてきたらしい。トゲトゲしかった言葉が終わった。


「……アルメハ。アルメハ・フォルトゥーナ=ファステーラ。……お前は?」


「緑珠よ。蓬莱緑珠。」


「……ふーん。リョクシュ。どんな字を書くんだ?」


トゲトゲしさは無くなった。緑珠は微笑んで続ける。


「緑に真珠の珠と書いて、緑珠。昔はね、『雅なすももの花に白露の緑真珠』って意味だったの。長いでしょ?」


「長いな。そうか。緑珠か。良い名前だな。」


くすくす、とアルメハは笑った。なんだ、そういう顔も出来るんじゃないか。


「ボク、人の名前を聞くのが好きなんだ。名前で人となりが分かるし、それに……。」


少しだけ恥ずかしそうに、アルメハは言った。


「名前は綺麗だから。」


「名前が、綺麗?」


まじまじと緑珠はアルメハの顔を覗く。慌てて彼は距離を取った。


「あぁいや!別に変な意味じゃなくて!ボクはその名前から景色や物を想像するのが好きなんだよ。えっと、その……。」


少しだけ、アルメハは俯いて、


「ヘン、かな。」


緑珠はそれを聞いて慈愛に満ちた笑みを零す。


「全然変じゃないわ。寧ろ素晴らしいと思うもの。やっぱり自分が見ている物と他人が見ている物は違うのね。」


自分の言葉を受けいれられたのを安堵した顔でアルメハは表すと、緑珠の腰に差されていた刀の幻想を追う。


「あぁ、ごめんなさいね。刀剣の類は苦手だった?」


緑珠の顔を、アルメハは恐る恐る覗く。


「……お前、女なのに刀を持っているのか?」


「あ……。」


そうだ。そう言えば、『そういう事』は異常だったのだ。異常というか、何というか。凝り固まった固定概念というか。誰も指摘しないから忘れていた。


「……ふふふ。そうねぇ。変?」


「変、というか……よく御両親がお許しになったな、と思っただけだ。」


緑珠は腰掛けていた草っ原から腰を上げた。くるり、とアルメハの方向を向く。


「勿論反対は食らったわ。でも……許してくれたし。……ねぇアルメハ王子。貴方は『精霊収集機』ってご存知?」


「……知っているぞ。緑珠李雅姫。」


「あらやだ、バレちゃったの?」


くすくす、と無邪気に緑珠は笑う。アルメハはまた少し不機嫌になった。


「バレたとしても特別扱いはしない。それで良いな?」


「さっすがアルメハ王子!話が早いわね!あ、でね。この精霊収集機の話に戻るんだけど……精霊を集める特別な宝石が媒介になって、頭に浮かべたものの形に変わる。それがこの機械の特徴よね。初めて想像した時は、その人の心持ちを表すから何になるか分からないのよ。」


で、と緑珠は嬉々として話を進める。


「私が顕現したのは『刀』だったの。大体女の子は扇子とからしいのだけれどね。刀に変わったのに使えないのは持ったいないでしょ?」


試す様にして、緑珠はアルメハの顔を見詰めた。


「どうしたと思う?」


「……頼んだのか?鍛錬をつけるように。」


ぱちん、と緑珠は指を鳴らして喜ぶ。


「えぇ!そうよ。その他武道もね。お陰で自分の身くらいはちょっとは守れるようになったわ。でもやっぱり……あの二人にに助けられてばかりね。」


「光遷院の守り人と真理という魔導師か。」


アルメハの言葉に緑珠は目を大きく見開いた。これは予想外だ。


「あら……貴方、詳しいのね。私達のこと。」


「エルフィア様が言っていらしたから大丈夫だと思うが、一応下調べはしておいた。抜かりない。」


ふふん、とアルメハは微笑んだ。何処か自慢げだ。


あぁ。そうだ。自分はこんな顔を、出来るような、姫、だったのだろうか。


今はそんなこと必要ない。一瞬俯いていた顔を緑珠は上げた。


「アルメハ王子は気にしてる?剣が出来ないことと、刺繍レースが得意なこと。」


「……だってそんなの。男らしく無いだろ。」


アルメハがしおらしく呟く。性差。昔自分が飽きるほど考えたことだ。そして、その見解を呟く。


「男らしさ。女らしさ。……区別は便利よ。そしてそれを平らにすれば、『素晴らしい』と褒めそやされる。そして何時かは水の様になって、また取り返しがつかなくなる。そして区別が産まれる。……『区別』すること、『平ら』にすること。それ以外の選択肢がなければ、この世界は一生そのテの問題で苦しむだけだわ。」


「……随分な了見だな。まるで為政者みたいだ。」


その『為政者』は皮肉なのだろうか。もし皮肉だとすると、アルメハはやはり自分と気が合う。


「似たようなものだったわね。とにかく。男と女を区別しないことが、本当に平和に繋がるのか。この世の生きとし生けるものという認識では駄目なのか。それとも新たな選択肢?……色々考えなくちゃダメなのよ、少年。」


「しょ、少年言うなし……。」


つーんつーん、とアルメハを弄る。……嗚呼、日が傾いてきた。早く帰らねばイブキのお説教が待っている。


「ねぇ。もう一度お話しない?私、どうしても国を造りたいの。貴方の要求も飲むわ。だからどうか、インテリオールに通して欲しいのよ。」


アルメハはシニカルに微笑んだ。


「結局絆すんじゃないか。」


「……あら、バレちゃった?」


でも、とアルメハは立ち上がる。先程見かけた時よりも、随分と晴れ晴れしい顔だ。


「今回の件はボクが悪かった。客人の前で取り乱すことなどあってはならないこと。非礼はお詫びしよう。」


そして、とアルメハは憑き物が剥がれた顔をして、緑珠へと言った。


「……少し考えを改めることにする。改める、というか……色々な物の見方をする事にしよう。」


あぁ、夕日が飲まれてしまう。その前に、たった一言。


「もう一度明日来てほしい。……貴女とボクは、少し似ている様だ。」


「ふふふ。私も同じことを思っていたの。それでは今度こそ宜しくお願いするわ。アルメハ王子。」


あれくらいの低い外壁なら飛べるだろう。玄関とは反対の位置から去っていく緑珠を、アルメハは怪訝そうに見ていた。


「アルメハ王子。あのね。身軽になると、こんな事も出来るのよ!それでは、ご機嫌よう!」


ひょいっ、と外壁を緑珠は超える。さぁ、目指すはエルフィアの家だ。



時間は前後するが、緑珠達が城へと入った時のこと。


「あ、やっと見つけた……俺の可愛い婚約者。」


犬耳だろうか。影の頭の上に耳がついている男が、緑珠を指して言った。


「お相手は貴方の事をお嫌いですがね。」


傍に居た女が、若干の呆れと共に男を貶す。


「はっきり言うな。傷付くだろ。」


「慣れてるじゃありませんか。」


売り言葉に買い言葉である。男が目を細めたらしい。先程まで能天気だった声が、一気に神妙なものに変わる。


「ん……?あの傍に居る男共は誰だ?」


「さぁ。存じ上げません。私は居場所だけしか存じ上げませんからね。帰りましょう。もう良いでしょう。」


どうやら緑珠のことを探していたらしい。女はきびすを返して帰ろうとする。


「いや、会いたいなぁ……。」


だが、そう上手くはいくまい。男のしみじみとした声に、女は深くため息をついた。


「……国へ連絡しておきます。暫くの滞在を許して頂きましょう。」


女の言葉に、男は慌てて振り返る。


「ら、ライラ!?おま、お前、何か変な物食べたのかっ……!?」


「食べていません。しかし、このまま『月の真珠姫』に会わねば、貴方は仕事をしないでしょう?」


ライラと呼ばれた女性はどうやらこの男の本質を見抜いているらしい。扱いが上手だ。


「クックックッ……よく分かってるじゃないか、ライラ……。」


嬉しそうにライラの肩を触った男に対して、ライラは吐き捨てる様に言った。


「触れないで下さいセクハラです。」


「はっきり言うな傷付くだろ!」


ぎゃーぎゃー、と騒いでいる男を前に、ライラは指で耳栓をした。そして話を続ける。


「ですが、会うのは調印が終わってからです。その間に少しでもちょっかいをかけたりでもしたら……。」


「あーあー分かってるよ煩いな!じゃ、今日は何処で泊まるー?」


そんな声が遠ざかったあと。




緑珠は合流したイブキと共に、砂浜の土を蹴っていた。波が足に濡れて染みていく。


「……緑珠様。一つ、お尋ねしても?」


振り返らず、イブキの質問を見に浴びた。


「構わないわよ。」


「貴女は、あの王子を……重ねていませんか。」


ぴたり、と緑珠は足を止める。そして、ゆるりと振り返った。


「……なんの、こと?」


「いや、違いますね。貴女はあの王子に『過ごせなかった幸せな時間』を重ねて」


「……煩い、煩いわよ。」


緑珠は頭を抑える。イブキは少し咎めるような口調で言った。


「緑珠様。貴女はもう死んだんですよ。『日栄帝国第一皇女』の貴女は。緑珠李雅姫は。」


「分かってる、分かってるわよそんなの!そんなの分かってる!煩い煩い煩い!黙れ!」


あぁ、そうなる事は薄々分かっていた。きっとこの話をすれば苦しむだろうと。それでも、昔の彼女を引き摺り続ければ、何時か別の所で回ってきてしまう。


「……。」


「私は死んだ!アンタの言った通り私は死んだの!『緑珠李雅姫』は死んだ!でもね!辛いのよ!分かってよ!」


こんな金切り声で緑珠が泣くのも珍しい。イブキの耳には潮騒と緑珠の泣き声が踊っていた。


「どれだけ願おうとも戻れなくて、どれだけ恨もうとも人は死ななくて、だから重ねたの!あの王子に!私は何一つとして救えなかった!自国の国民でさえも!自分の事さえも!私は!私は!」


緑珠は口に溜まった唾を飲む。あぁ、何だかとっても塩辛い。


「私は何一つ出来なかった!何も出来なかった!恨むことを日課として、心が荒むのも見帰ることなく!私は何も出来なかったの!」


「……緑珠様。」


イブキは少しだけ、目を細めて厳しい口調で言った。だが、溢れた気持ちは止まらない。


「だから名前を変えた!私は死んだから!でも分かるでしょ!私だって幸せに生きたかったの!一度だけで良いから恋愛をしてみたかった!一度だけでも良いから両親に心の底から甘えてみたかったの!私だって『幸せ』が欲しい!だってそんなのずるいでしょ!何で皆持ってるのよ!私だって、私だって欲しいもの!私だって!」


美しい顔が、涙で歪んでいく。


「結局私は名前を変えただけで我儘なお姫様のままで!何も中身は変わらなくて!変わろうと思っても巣食ってくるのよ!『昔の私』が!変わるなと煩いの!あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「……ねぇ、緑珠様。」


しゃがみこんでしまった緑珠に、イブキが声をかけた。の、だが。


「煩い!黙れ!触るな!私より恵まれていたお前に何が分かる!?一人だけでなかったお前が、私の一体何が分かるって言うんだ!家族も友人も関係も恵まれていて!恨むのは自分ただ一人!その重さで、私の抱えていた物の、一体何が分かるって言うのよ!」


……そうだ。それなのだ。自分が緑珠を強く咎められないのは、あれほど狂気を持っていても『恵まれていた』からだ。


「……そ、れ、は……。」


「分からない癖に言うな!私は、私は!私だって、私が……!私が、私の……。」


詰まったイブキに対して、緑珠は叫んだ。


「私だって!あれだけ幸せに生きたかったんだんだ!自国を守り、自分を守って、最後まで『美しい可愛い聡明なお姫様』なままで居たかった!なのにこの仕打ちは何なんだ!これだけ、これだけ頑張ったのに!何故『緑の魔女』と謳ったんだ!?どうして、私は……!」


きっと、負っていた一つ一つの物が重すぎたのだ。とイブキは嗚咽をあげて、足元で泣いている緑珠を見る。


「うっ……えぐっ……ひいっ……。」


こんなに怯えている人を、自分は何も知らなかったのか、とイブキは自嘲する。しかし、この先にまた追い討ちをかけることになるのだ。


「それではこの話は終わりにしましょう。あと一つ、聞きたいことがあるんです。」


嫌な予感がする。悪寒が走る。


「緑珠様は。」


見開いた緑珠の目に、イブキは言った。


「何を恨んでおいでですか?」


「……は……うら、む……?」


にっこりとイブキは微笑む。


「そうですよ。家族?従兄弟家族?国?地位?名誉?……何を、恨んでおいでですか?」


答えられない。嫌だ、そんな回答は嫌だ。答えられないという回答よりも、もっと奥にある、見向きもしたくない回答。それが彼女の『狂気』の所以。


「……答えられませんか?」


「……答えたく、無いの。嫌なの。分かってるから。」


そうだ。これは彼に言っていなかった気がする。昔のことを思い出して、口元が緩む。あぁだめ、ちゃんとしたかおをしなくちゃ。こうかつとしたひょうじょうを、してはだめよ。


「んふふ……ふふ。ふふふ、ふふ……。」


「……緑珠様?」


だめ。うまくわらえない。『お姫様』じゃなくなっちゃう。でも、まぁ、良いや。


「ねぇいぶき。あなた、しってた?」


妙に舌っ足らずな緑珠の声に、イブキは少しだけ後ずさる。ゆらゆらと緑珠が立ち上がった。


「あたしね。えへへぇ。はずかしいなぁ。」


「っ……!?」


緑珠はするりとイブキの手を掴んだ。そして、耳元で、一言。


「おくすり、おいしいの。あたし、おくすり、おいしいの。」


薬とは普通の薬なのか。それとも、自分が取り締まっていた物なのか。そのまま耳元に口元を寄せたまま、


「そうだぁ。まだすこしだけ、のこっていたものね。ふふふ、おくすりね、このおくすり、あたしだけなの。つよいの。とっても。えへへへ。そうだ、さいご、の、」


取り出した幾つもの錠剤を見て、イブキは叫んだ。


「『××』様!」


【はいはいはい!何ですかもう全く!】


無理矢理彼女の内面を引き摺り出す。緑珠は脱力してイブキに倒れ込む。


【……えっと。どしたのこれ。何があったの?】


イブキも倒れ込むと、足元に散らばっている錠剤を見る。風邪薬もあれば見たこともない薬もある。イブキは恐る恐る、緑珠の身体に手を伸ばした。


「……失礼致します。」


青いベストを取り、服をまさぐる。あまり褒められた行為では無いが、苦々しい表情のまま探し続けると、あった。


「これ……は……。」


ポケットに仕舞いこんであるお菓子巾着の下側に、錠剤がある。一つだけでない。幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも

幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも、


同じ柄の錠剤が。


幾つも、あるのだ。


「…………貴女は、これを知っていましたか。」


【さぁ。どうかしらね。まぁ例え知っていたとしても……。】


ぼろぼろと涙を無言で流し続けるイブキに、そして抱き締め続けている主に、緑珠?は言った。


【貴方になんて、言わないわ。】


「……僕の選択は、間違っていましたか。」


ぎゅっ、とイブキは緑珠を抱き締める。安らかに目を閉じる主が、愛おしく悲しい。


【いいえ。選択には間違っているだとか間違っていないだとかよく言うけれど……。貴方の選択は、間違ってなんかない。】


ぎゅうと。息が出来ないように。殺すように。抱き締めて。


【いずれこうなっていた事よ。気にすることは無いでしょう。】








次回予告!

イブキが自分の気持ちを吐き出したり緑珠が必死に応えようとしたり再び謁見と新たな進展しかないお話!

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