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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第六章 溟海大龍帝国 インテリオール
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 79 姫君の刀

とうとうファステーラの王子様に謁見したり緑珠がまたとんでもないくらいに無茶を言ったり才蔵が大活躍する話!

「よし……!」


支度を済ませた緑珠は、小さく喜びの声を上げた。何時もの様に刀を差して。


「今日は謁見ですね。」


「エルフィア様。おはよう御座います。えぇ、そうなんです。上手くいくかしら……。」


「上手くいく、とは?」


エルフィアは怪訝そうな緑珠の顔付きに疑問を寄越した。


「心配なんです。ああいう性格の子は少し無理矢理に動かさないと反応しないことが多いから……。」


心配そうな緑珠の顔を見ると、エルフィアは少し微笑んだ。


「心当たりがあるのですか?」


「心当たり……ふふふ。そうですね。あります。」


一拍置いて、一言。


「私も、そんな性格でした。……性格って言うのかしら。あれは気質?井の中の蛙大海を知らずみたいな感じだったわね。えぇ。」


「緑珠様ー。そろそろ参りましょうかー。」


イブキにしては珍しい少し間延びした声が響いて、緑珠は直ぐに答えた。


「はーい。今行くわー。……それではエルフィア様。行って参りますね。」


行ってらっしゃい、とエルフィアは短く言うと、静かになった部屋に腰掛けた。


「……サイゾウ。行かないのか?」


ばこん、という重そうな音を立てて天井が外れる。そして顔を見せた。


「直ぐに行くでござるよ。道案内は拙者がするでござる。でも……。」


にかっ、と才蔵は微笑んで、海を見ているエルフィアへと言う。


「お客人には直ぐに追いつくし……。」


それらしい理由は出てくるが、それを口に出すのは少し気恥しい。


「まぁ、兎にも角にも、拙者は少しだけ此処に居るでござるよ!」


場所は城下へ移る。緑珠は城を目指して歩いていた。


「春はやっぱり良いわ。暖かくて、何かをするには最高よね!」


「だから刀の鍛錬あんなに喜びながらやってたんですか……。」


「汗をかきにくいもんね、春は。」


真白ましろい石畳を超えると、土塊が見える。その先には城が見えた。


「本当にちっちゃいのね。私の別荘よりも小さいわ。」


「貴女の別荘とサイズ比べちゃおかしいでしょう……。」


傾斜が少しだけきつい坂を登ると、一人の城兵に真理が声をかけた。


「エルフィアから話は聞いていると思うんだけど……。」


「えぇ。どうぞ。荷物検査もいりませんよ。」


真理の一言で門が開く。門と言っても小さな物だが。しかし、それを抜けた先には緑が萌ゆる庭がある。


「綺麗な庭ね。私の国は湖しか造ってなかったから……。」


「城主様は土いじりが好きなんだよ。」


「物凄い規模で話を進めますね……。」


城の内部へと入ると、一人の女給メイドが案内を始める。


「殿下の部屋はこちらです。お足元に気を付け下さいませ。」


白と青の曲がり角を曲がって中庭を抜けた先には、白い大きい扉が一つある。こんこん、と女給が扉を叩いた。


「殿下。お客様です。」


「……入れ。」


「それでは失礼致します。」


女給はさっ、と頭を下げて扉を開くと、そのまま何処かへ行ってしまった。


「海の大魔女様から話は聞いている。」


海が流れ込んで来ても色がつかないような白い部屋に金髪の王子の声が響く。


緑珠は緩やかにその光景を目に留めた。恐らくこれは、今まで見てきた何よりも美しい。


王子の気質という物が部屋を彩っているからだ。だからこんなにも色が付かない白い部屋でも彼の姿が映えるのだろう。


「インテリオール公国に行きたいだと?バカバカしい。どうせお前等も人魚目当てなんだろう?」


「……ええっと。殿下。私、人魚が何か知らないのですけれど……。」


「……は?」


緑珠の一言にイブキも便乗する。


「えぇ。殿下。僕も人魚を存じ上げません。」


「……は?……は?何言ってるんだ?とぼけるのも大概に……。」


きょとん、としたままの二人の表情が嘘ではないことを王子は見抜く。


「……うん。二人は本当に知らないよ。『灯台』を昨日初めて知ったんだから。そんなに怒らないで、殿下。」


そんな奴が本当に居るのかと表情が話している。そんな奴が本当に目の前に居るのだ。


「そ、それならば済まない。人魚というのはな、人間と魚が混ざった生き物だ。」


「右半身と左半身?」


緑珠の純粋過ぎる質問に、王子はがくっ、とうな垂れる。


「いや……あー、うん。えっと、上半身が人間で、下半身が魚という生き物なんだ。見目は美しく、それ故に愛玩生物として密猟も絶えない。」


「でもそれって、生き物なんですよね?家畜と一緒みたいな感じの。」


イブキの質問に王子は軽く頷いた。というかその表現はどうなんだ。もっと鳥とかあっただろう。何で家畜なんだ。


「そうだ。ちゃんと『意思』がある。我等と同じ生き物だ。」


「でも下半身魚なのよね。食べたら美味しそうじゃない?お刺身にして。」


「人外生命体はあんまり美味しく無いそうですよ。というか美味しくなかった。」


そんな理由で人魚を食べる奴がいるのか。いや、目の前に居る。というかこの会話目眩がするなと王子はまたもや項垂れる。会話がおかしい……。


「ごめんね王子。二人共色んなところズレまくってるから……。」


「なんだよもぉ……お前等頭おかしいだろ……何で人魚の有名な伝説を知らないんだよぉ……。」


「人魚の有名な伝説?」


緑珠はまたもや首を傾げる。やれやれ、説明せねばなるまいと王子は顔を上げた。


「『人魚を食べれば不老不死になれる』。他にもあるぞ。『美容良い』だの『永遠の美が得られる』だの……そんな効能無いぞ……ただ怪我が早く治るだけだ……。」


自分の発言に、王子はまたもや顔を上げる。


「あっ、ボクは食べてないぞ!昔会っただけで……!」


あっ、でも!と言い訳が始まる。どうやら口を滑らしやすい質らしい。イブキは王子の視線を見ていた。右下の写真たてにズレている。


「何はともあれ、殿下は人魚を守りたいのですね?」


イブキの言葉に王子は黙りこくる。そして、きつく言い放った。


「と、兎に角!インテリオールには通すことは出来ない!帰れ!」


と言い放つやいなや、王子は部屋を出て行く。緑珠も気付いていたらしい。机の写真立てを覗く。


「失礼しますっと……これ、ずっと見てたわね。薄珊瑚の髪色に青の鱗……。これが『人魚』という生き物なのね。」


写真立ての裏を見ると、『海の真珠』と書かれている。うげぇ、と緑珠はげんなりした。


「うわぁ……ヤなヤツの事を思い出してしまったわ。直しときましょ。」


「ヤなヤツ?」


緑珠の言葉にイブキは振り返る。本棚は全て内政に関わるものばかりだ。


「ヤなヤツはヤなヤツよ。何時か知ることになるでしょうよ。とにかく今は殿下を追いましょう。」


部屋を出ると、何人かの使用人が歩いているのが見える。緑珠はその一人に声をかけた。


「ねぇ。殿下を見なかった?さっき走って行ったと思うのだけれど……。」


「殿下ですか?お見かけしていませんね……。」


あ、でも、と使用人は続けた。


「殿下は何かあると庭か城下にお出かけになるんです。其方へ向かえば会えるかと。」


「有難う。それじゃあ、」


と緑珠が続ける時だった。使用人は申し訳なさそうに言った。


「殿下、また怒ったのでしょう?『人魚』の事で。」


「え、えぇ。そうだけれど……。」


使用人は秘密を打ち明けるように声のトーンを下げて言った。


「殿下は……人魚姫に恋をしておいでなのです。」


「『人魚姫』、ですか。」


イブキの相槌に使用人は頷く。


「昔……殿下が海でお遊びになられた時、怪我をしたそうなのです。その時に薄珊瑚の髪をした『人魚姫』に助けられたと。その時の写真を飾っておいでで……。」


「中々難しい恋路だねぇ。人と人魚、か。」


はっ、と使用人は顔を上げた。


「あぁ、済みません足をお留めして。きっとお庭にいらっしゃいますよ。」


「色々教えてくれて有難う。直ぐに追いかけるわね。」


緑珠は追いかけると言いつつも、歩く速度スピードは遅い。そして、イブキと真理にまたもとんでもないことを言い出す。


「作戦、考えるわよ。」








「うぅん……ありなのかな、これ……。」


城の外壁の茂みの中で真理が言った。


「ナシよりのナシね。でも私旅人だし。」


城の外壁の茂みの中で、緑珠が言う。


「貴女好きな時だけお姫様になって好きな時だけ旅人になりますよね。」


「でもそういう所も?」


誘導尋問をさらっとされたイブキが、双眼鏡を覗く。


「好きです。……あ、居た居た……。」





事は少し前に戻る。そう、作戦を考えると言い出した緑珠の言葉の頃だ。


「このまま行ったら確実に逃げられる。そうよね?」


そうだとしか頷けない。王子は先程逃げたのだ。捕まることを許容しないだろう。


「という訳で!王子を誘拐しようと思うの!」


一瞬『此奴何言ってんだ』という雰囲気が流れた。そしてイブキが口火を切る。


「……えっと。誘拐、ですか?」


「誘拐ってまた、アレな……。」


あまり乗り気では無い二人に、緑珠はふふんと微笑んだ。


「別に凄い誘拐を仕出かそうって訳じゃないわ。あの王子サマ、ヘタレそうだし。少し人気ひとけの居ない所で話してみたいの。それに私、」


唾を飲んで、一言。


「あの王子サマの名前、知らないし。」


「……言われてみれば、そうですねぇ。」


「言われる前に逃げちゃったしね。」


でもさ、と真理は付け加えた。


「誰が誘拐するの?そんな身軽な人、この中に居たっけ?」


「居るでござるよ!」


もうこんな回数を追っては出す声もない。煙が晴れた時には才蔵が居た。


「にんにーん!才蔵でござるよ!」


もうこれで文句はつけられまい。緑珠は自慢げに微笑んだ。


「ね?出来るでしょ?」




そして庭を覗き、今に至るのである。


「真逆こんな所で『光遷院伊吹の!ヤンデレ☆七ツ道具♡』が役に立つなんてねー。」


「その『☆(ほし)』とか『♡(ハート)』とか仕組みどうなってんの……?」


真理の一言を他所に、イブキが呟く。


「僕は双眼鏡を持っていたことが驚きでした……。うん。焦点があった。」


イブキは双眼鏡を緑珠に押し付けると、手短に才蔵へと言った。


「才蔵。標的確認されたし。足を重点的に狙い走れば問題ないかと。」


了解、と言わんばかりに才蔵はにっかり、と微笑む。外壁を抜けると才蔵はぽい、と一つの石ころを投げた。茂みが揺れる。


「っ……!?何だ、風か……。」


その一瞬を才蔵は見逃さない。ひょいと口元を抑えて庭の真ん中へと連れ出す。そしてその間に三人も庭へと入る。


「よっと……。案外直ぐだったわね。」


「お、お、おま、おま、おまえら、お、……。」


「落ち着いて、ね?」


声にならない悲鳴を王子は上げる。緑珠はそれを宥めた。


「落ち着いて頂戴。何も怖いことはしないわ。私、貴方と話したいだけで」


「そうやってほだすつもりなんだろう!そうはいかないぞ!」


びしっ、と指さされた緑珠は宥めようと必死だ。


「違うの。本当に話したいだけなの。」


今度は何も言わない。ただ、王子の視線は緑珠の腰に差さっている刀に移った。彼女はぱちん、とベルトの留め具を鞘ごと外す。


「私と王子様だけにして頂戴。あとこの刀はイブキが持っていて。刀は神器だけど飾り刀状態にしているから問題無い筈だわ。」


「御意に。……それでは先に行っていますね。」


「待ってるからね。帰りは呼びなよ。」


「お力になれて良かったでござるー!」


三人の影が無くなるのを緑珠は遠目に見ていた。王子の横を指さして問うた。


「お隣、お邪魔しても?」


「……好きな様にしろ。」






次回予告!

緑珠と王子が親睦を深めたり彼の心境を知って過去を省みたりと物語が新たに進行するお話!

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