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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第六章 溟海大龍帝国 インテリオール
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 78 郷愁色の紅茶

エルフィアの秘密道具が明かされたり、緑珠とイブキが思いをやり取りしたり新しいものを見たりするお話!

「日が沈んでまいりました。今日は……いや、インテリオール公国の滞在期間は、我が家にお泊まりなさい。」


背を向けたエルフィアに、緑珠は慌てて声をかける。


「えぇ!そ、それは悪いっていうか、なんて言うか……。」


言葉を濁した真理が、なるべく当たり障りのない言い方で彼女の背へと言う。


「……どういう風の吹き回しだい?」


「どうもこうもない。私がそうしたいだけだ。……さぁ、参りましょう。」


白いキャンバスに、夕焼けの色と、街灯のセピア色が混ざっていく。頬を撫でる潮騒が何処と無く冷たくなっていく。


「本当に、綺麗な街ね……。マグノーリエも煉瓦の街って言われて綺麗だけど、此処はもっと違う美しさがあるわ。」


「そうですねぇ。『海』、というのも悪くないですね。」


白い街とは裏腹に、突き当たりの高い黒い岸壁の前に木製の階段が見えるのだが、とにかく傾斜が急である。


緑珠はおそるおそる足を伸ばして、そしてゆっくりと登って行った。それに続いて皆階段を登っていくのだが、才蔵だけは別で。


「わっふーい!拙者が一番乗りーっ!」


傾斜が急なところを敢えて選んで飛んでいく。忍者のなせる技なのか。はたまた彼の運動神経の良さなのかは分からないが。


「あんなぴょんぴょん飛べたら楽しそうね。」


「練習すれば真似事は出来ますけど……。」


イブキの発言に、緑珠は唸る。


「うーん……でも怖くない?」


「……神様に啖呵切った人が何言ってるんだか……。」


くすくすと笑った真理に、緑珠は鋭い口調で言った。


「真理、聞こえてるわよ。」


「あれ?聞こえてた?」


真理の微笑みに緑珠も釣られて微笑んだ。ふと顔を上げると、崖が消えたその先に、沈みゆく夕日が良く見える。


「凄いわ!見て見て!もう一つ空があるみたい!」


「海の夕日を見るのは初めてですか?」


はしゃいでいる緑珠に、エルフィアは微笑みながら問うた。


「そうなんです!とっても綺麗だわ……。」


「海に夕陽が呑まれていくみたいですね。」


「その喩えは言い得て妙ね。」


茂った低木を超えると、崖の少し入り組んだのところに乗っかる形で家がある。エルフィアが扉を開けた。


「さぁ、どうぞ。」


「……それでは……失礼します……。」


緑珠が踏み入れた足の向こうには、部屋の内装は良中古アンティークの家具で溢れている。


「部屋は此方です。案内しますね。」


不思議な物が沢山ある。星屑が仕舞われていそうな小箱だったり、世界を見透かす双眼鏡。


そして何よりは窓に取り付けられた大きな鏡玉レンズだ。下に小箱と取手ハンドルが着いており、ちょうど関所が見える様になっている。


「あの……エルフィア様、これは?」


「あぁ、それは……。あ、ちょうど人が来たな。」


エルフィアは小箱に宝石を突っ込み、下に取り付けられている取手ハンドルを回すと、少し離れた。


「私はこの土地を守らなければならないのです。ですから危険な者は入れる訳にはいかない。」


「もしかして……この全体約束システムは、その為にあるのですか?」


イブキの質問にエルフィアは作業をしながら答える。


「えぇ。これでどんな人間か分かる。貴方の浄玻璃鏡じょうはりきょうの様なものです。」


「あはは……バレてましたか……。」


大きな鏡玉に一瞬大きな魔法陣が見えると、エルフィアは黙る。


「今のは何なの?真理。」


真理は手元の取手を指さしながら言った。


「あの鏡玉自体がエルフィア特製の魔道式なんだ。何か秘密を抱えてやって来ているかもしれないから、エルフィアだけにしかその人自身のことが表されない。」


「すっごく便利な鏡なんですね……。浄玻璃鏡は個人情報ダダ漏れなので……。」


「地の果ての裁判がそれで良いのかしら……。」


エルフィアが手元の長取手バーを倒すと、関所の扉が上がる。


「こういう全体約束だったのね。誰も居ないから不安になっちゃったわ。」


「ふふ……不安になるのも無理はありません。……ですが、この鏡玉ももう古いですから。何時壊れてもおかしくありませんね。」


じっとりとした視線でエルフィアは真理を見詰める。


「……何だよ。僕に見てほしいの?」


「えぇ。君なら分かると思って。」


真理は顔色一つ変えることなく、じぃっとその鏡玉を見ると、一言。


「……うん。持ってあと五年?六年目に入る前に壊れるからメンテしときなよ。」


「有難う。……そうだ。荷物を置かなくてはなりませんね。此方へどうぞ。」


沢山の煌めく魔法用品が置かれた場所を通って、エルフィアは金の扉取手ドアノブを回した。それを開けた先には、廊下の中で夕日が踊っている。


「此処から先の部屋ならお好きな部屋をどうぞ。オススメは一番奥の部屋です。」


緑珠が歓声を上げて走り行っていくのをイブキは抑えるのを真理は見る。そして、もう一度。


「……君。本当にどういう風の吹き回しなのかな。」


「何だ。私の善意の裏側を見るつもりか?何も君が期待しているものは無い。ただの、気まぐれだ。」


無感情な海の大魔女の一言に、真理は眉間に皺を寄せて問うた。


「気まぐれ、だと?そんな物で僕が納得すると本気で思っているのか。僕はそんな物で絆されるほど」


「随分とご執心なんだな。あの二人に。」


違う。とは叫べなかった。窓の向こう側を楽しそうに眺めている二人を見るだけで、自分は。


「まぁ、話は後にしよう。時間はある。どうせ二週間程居なくてはならんのだろう?」


「……そうだね。それじゃあ僕も、好きな部屋を選ぼうかな!」


真理は二人の輪に入って行く。随分と創造神も人間になったものだ。むかし、むかし。『かみさま』と初めて会った時は。エルフィアは瞼を伏せる。


『君が海の大魔女?……そんな設定作ったかな……僕……。』


『えっ!?人間って自然増殖するの!?う、嘘だろ……?きっしょ……。』


『に、に、人間って、髪色そんなにあるのか!?あと肌の色も違うの!?やばくない!?』


『あー……そろそろ御稜威行かなきゃボコられるな。また来るよ。』


中々に電波なことを、中々に無表情で言っていた。エルフィアは女優帽を置いて作り置きしていた紅茶を飲む。……騒がしいのも、中々悪くない。


「緑珠姫。綺麗な景色はお好きですか?」


「ふえっ……まだ綺麗な景色があるのですか?」


質問に質問で返す緑珠。エルフィアは微笑みながら言った。


「えぇ。有るんですよ。外に才蔵が居る筈です。『崖の上の景色を見せて』と言えば、連れて行ってくれます。」


「有難う御座います!」


緑珠はきらきらとした瞳を覗かせて玄関まで走る。外の世界はすっかり真っ暗だ。星屑が海に落ちている。夕日の残滓ざんしが空に漂っている。


「あ!才蔵!」


「おや。緑珠様。どうなされましたでござる?」


海を眺めていた才蔵に緑珠は声をかけると、嬉しそうに少年は返した。


「あのね。エルフィア様が才蔵に『崖の上の景色を見せて』って言ったら、とても綺麗な景色を見せてもらえるって聞いたのだけれど……。」


「こっちでござる!」


緑珠の返答を聞く前に、才蔵は茂みを超える。


「こっちなの!?結構深いのね……!」


「直ぐ着くでござるよ!」


才蔵の言葉の通り、深い茂みを乗り越えた先の黒崖の向こうに、夜の海がそびえ立っている。


「……凄い……。」


辺りを見回すと才蔵は居ない。ならば、今から仕出かす事を咎める相手は誰も居ないだろう。


「……よし。」


緑珠が炎を付けた揺らめく煙草を、空が溶けた海の崖の上で、ゆっくりと口元へ持って行き、吸おうとした瞬間だった。


「だぁめ、ですよ。」


ひょい、と奪われ声の主に吸われる。本来は彼女の肺に仕舞われる筈だった『毒』が、イブキの中へと溶けていく。


「一体こんなアブナイモノ、何処で買って来たんですか?」


「……アブナイモノって、イブキは何時も吸ってるじゃない。」


緑珠が持っていた煙草の箱も、イブキはひょいと取り上げる。


「僕は良いんですよ。……あぁ、成程。此処の銘柄ですか。……ふぅん……中々これも悪くない……。」


ふう、とけぶる空気が起こる。緑珠はその様子を一瞥して、海へと視線を戻した。


「ズルいわ。私だって吸ってみたいのに。」


「身体に毒ですよ。」


「それを貴方が言うの?」


説得力が皆無じゃない、と緑珠は続ける。不貞腐れてしまった彼女の隣にイブキは座った。


「……僕みたいな手合いには丁度良いんです。煙草は。何かを渇望している者には『毒』で埋めるしか他ないんですから。」


「何か欲しいものがあるの?」


きょとん、と首を傾げて緑珠は問うた。くつくつ、とイブキは喉を鳴らして笑う。


「貴女の『愛』を。」


それを聞いて緑珠も微笑む。……いや、言うなれば、少しの嘲笑だった。


「我儘ねぇ。注ぎ込んでも足りないなんて。何処か穴が空いてるんじゃなくて?」


「かも、しれませんねぇ。」


自嘲気味にイブキは喉鳴らす。緑珠がそれを聞いて軽くため息をついた。


「これでも沢山愛しているのよ。貴方達の事は。」


「『僕だけ』が欲しいんですよ。駄目ですか?」


縋り付く様にイブキは言うと、緑珠は暫く考え込んだ。そして、


「……私は愛していると言っても、その人その人に注ぐ愛情の形は違うわ。勿論その中には『貴方だけ』もあるのよ。」


「…………煙草、止めようかな。」


緑珠のその言葉を聞いてすんっ、と真顔になったイブキは海を眺めながらふう、と息を吐いた。


「ふふふ!止めた貴方を見るのを楽しみにしているわ。……でも、ね?」


あんまりに単純な、その仕草。そうやって見返す所は子供っぽい。


「はい?」


「……伊吹が煙草を吸っている時の、あの思案した目は大好きよ。」


一本目の煙草が終わった。緑珠をイブキはじっとりとした眼差しで見詰める。


「そういう事言うから止められないんですよ。」


「ふふふ!その不機嫌そうな顔面白いわね!」


むにょんむにょん、とイブキのほっぺたを抓る。


「柔かーい!」


「ひゃふん、あにゃたのひょうがひゃわらかひへふほ?」


「何言ってるか分からないけど柔かーい!」


くすくす、と緑珠は微笑むと、次の視線は海の端に写る。


「あれ?ねぇイブキ!ねぇあれは何なの?」


「あれは……何でしょうかね。塔みたいな物ですが……。」


彼等が知らない『灯台』という物が、海を明々と照らし始めた。浮かび上がる月とぶつかって、海面で混ざる。


「んー?あれはね、『灯台』って言うものだよ。」


「真理!トウダイっていうのは何なの?何だか大きい蝋燭ろうそくみたいだわ!」


真理は灯台の灯火部分を指さした。


「ほら灯台の先、光ってるだろう?アレは海の信号なんだ。此処に港がありますよーっ、ていうね。」


「海の信号機……海ってそんなに凄いものなのね。」


「海に信号機があるのは初めて知りました。」


キラキラとした目で灯台を見ている二人に、真理は言った。何処からか良い匂いを運んでくる。


「そうだ。ご飯が出来たから呼ぼうと思ってたんだ。今日は西炒飯パエリアだよ。」


「それは王宮で食べたことが……て、本当に一度くらいしかないけど……うんうん、とっても楽しみ!」


「それでは参りましょうか。煙草は僕が貰います。」


「うぅ……はい、分かったわよぉ……。」


誰も居なくなった黒い崖に、人の温もりだけ残った。









食事も風呂も終わり、応接室で緑珠達はのんびりしていた。赤の背の本を仕舞うと、隣の本を抜いてみるのだが。


「魔法で書かれた物が多いわね……読めないわ。」


ひょい、と真理が緑珠の持っている本を覗いた。


「あー。それね。二重魔法のやつでしょ。読むの難しい奴じゃん。」


「二重魔法?」


真理が奥からひょいっと手を伸ばして、一文を指差した。


「例えばこの文。大地の魔法について書かれているんだけど、まずこの文章自体を魔法で解いて、解かれた意味の分からない文章をまた魔法で解く。」


真理はかかっていた一重の魔法を解くと、意味の分からない文面が現れた。


「ややこしい作り方をしてるし、高等の魔法使いじゃなきゃ理解出来ないことも多いから世の中では怪文書として出回ってる。」


「ふうん……魔導書って奥が深いのね……。」


ぼふん、とふかふかの長椅子ソファに真理は腰掛けた。


「僕も人間になってから暫くは集めてたなー。懐かしい。『真理』として居る前。本当に五十年だけだけど。」


「真理として居る前……?」


「僕、世界創造したじゃん?」


中々スケールがでかい話をしようとしているのは分かるのだが、それを何だか当たり前の顔をされているので、緑珠は若干の笑いがこみ上げてしまう。


「えぇ、したわね。」


「その後、適当に人間創って憑依させて……それで歩き回ってたんだけど、何せ適当に創るからすぐ死んじゃって……で、真剣に創ったのが今の僕。」


昔のことを語る真理は少し珍しくて。緑珠は不思議そうに真理を見詰めた。


「な、な、何?どうしたの?何か変なこと言っちゃった?」


「あぁいえ!そうでは無くて!」


元の場所に、読んでいた『猿でも分かるルーン文字』と書かれた本を仕舞った。


「……何だか。貴方が昔のことを話すのは初めてだったから。少し嬉しくなってしまったの。」


「…………そうだね。話してなかったかも。また面白い話があったら話すよ。」


にこり、と真理は微笑んだ。うん。きっと上手く笑えてる。人の気持ちが分からないから、望む回答と反応しか出来ない。少し前まではそれでも良かったんだ。


でも、君達に会ってから。そういう考え方が、ちょっと胸が痛くなってきて。


「最近、イブキさぁ……。」


神様的思考を真理は断ち切る。緑珠がまた何か仕出かすらしい。


「どうしました?」


「私が『好き』って言っても、照れないわよねぇ……。」


大真面目な顔をして何を言ってるんだと言わんばかりの言葉だ。それをよく真顔で言えたな、というのが真理の心境である。


「は……!?」


「あーそれ分かるー。慣れてる感パないもん。」


真理が野次を飛ばした。何やら面白くなるらしい。


「でしょ?真理もそう思うわよね?」


「いやいやいやいや!照れてますって!」


照れていないという言葉にイブキは照れる。緑珠は難しい顔をして答えた。


「でも普通に受け流すじゃない?昔のイブキ、とっても弄りがいがあったのに……最近は攻められてばかりだわ……。」


「うん。照れてること少なくなったよね。鼻血出して死んでる時はあっても。」


ぽろっとまた凄い言葉が飛び交う。良く良く聞いてみると有り得ない会話だ。


「……うん。そうね。それじゃあ今から『イブキ照れさせる大会』を開幕します!」


「漂う大喜利臭……そして人様のお家でそんな遊戯ゲームを始めるとは……。」


それでも断らないあたり、この従者も従者だ。エルフィアが応接室に入って問うた。


「何をしているのですか?」


「ああ、今から少しゲームを……イブキを照れさせるっていうゲームなんですけど。」


その言葉に苦い表情を作ったイブキに対して、エルフィアは微笑む。


「ふむ。……私は見ておきますね。」


魔女は片手に紅茶を持って、真理の横にある長椅子に座った。


「見るんですか!?恥ずかしいですよ!」


「ふふふふふふこれから先もっと恥ずかしいことが待っているのに……先が思いやられるわ……。」


「その台詞使う場所が違います!」


悪人面をしている緑珠を見ながら、真理はエルフィアへと言った。


「……やっぱり聞きたいよ。理由。」


「だから無いと言っただろう。そんなに欲しいのか?理由が。」


とろん、と薔薇の果醤ジャムを紅茶に溶かす。暖かい匂いと色が広がる。空気と同じ色をした、美しい紅茶だ。


「万物には何かしら『理由』がある。『理由が無い』モノもそれが『理由』だ。……だが。人間や感情を持っている者に『理由』が無いとなると、僕はどうやら気持ち悪く感じてしまうらしいね。」


ふうん、とエルフィアは適当に返した。緑珠の言うことにイブキは一挙手一投足で答える。


「……随分人間臭くなったな。喜ばしいことだ。見つけたのか。私に初めて会った時の、あの言葉を。」


真理は目を伏せる。初めて、会った時の、あの言葉。


『自分は何故人間を創ったのか』


「……うん。まだ見つけてない。けど、人間らしくなるのがその一歩だと思ってるから。」


で、と話を逸らしたエルフィアを、真理は嫌味ったらしい笑顔で見詰める。


「理由は?」


「無い。」


はっきりと答えた魔女に、真理は苦々しい視線を送る。


「……それらしい理由を付けようか?」


「そうしてくれると助かるなぁ。」


ふむ。とエルフィアは俯く。口の中に曲奇餅クッキーを入れながら。


「人間と話してみたかったからだ。」


「君の周りには人間が居るだろ?ましてや彼等は人間では無いよ?」


少し言い方が辛辣過ぎたか。その表情を見てエルフィアは微笑む。


「うん。人間らしくなったな。で?続きか。この土地に住む者は、皆私を大魔女として崇める。普通の、何も知らぬ人間と話してみたかったから。……それだけだ。」


エルフィアの会話の後に、従者の劈く悲鳴が轟く。


「あーもう!煩いな!照れれば良いんでしょ照れれば!照れてますよ!緑珠様の一言で毎日萌え萌えきゅんきゅんしてますよ!悪いですか!」


「……真理、今の聞いた?」


顔を少しだけ染めて緑珠に白状するイブキを見て、彼女は振り返った。


「聞いた。あざといのは良くないよ伊吹君。お父さんの娘はやれないな。」


神自身が産まれる前の緑珠を創ったのだ。『お父さん』と言われても差し支えない。


「お義父さんはちょっと黙ってて下さい!」


「君に義父と呼ばれる筋合いは無いぞ。」


『義父』、と言われて真理は眉間に皺を寄せる。しかし、緑珠はイブキの叫びを反芻していた。


「……萌え萌えきゅんきゅん、って。可愛いわね。中々。」


「……なんですか。わるいですか。」


とうとう無理になったらしい。呂律が回っていない。


「呂律回ってないから照れまくってるわね。……これは……誰の勝ち?」


誰に聞くこともなく、賑やかな部屋に緑珠の言葉が響いた。


「当主殿自身で照れたのですから、緑珠姫の勝ちでは……。」


「……何か、あんまり嬉しくないわね。」


それを聞いたイブキは、首まで真っ赤にしながらしゃがみこむ。


「りょくしゅさまなんてきらいです……。」


「と言いつつもー?」


「だいすきです……。」


「お前もう寝ろよ。」


辛辣にぼそっ、と真理は言った。その言葉に緑珠は反応する。


「あ。もう夜遅いものね。寝ましょうか。」


「緑珠ってオンオフの切り替え早いよね。良いと思うよ。」


死にかけているイブキを真理は引きづるとイブキは起き上がる。真理は言った。


「お休み。エルフィア。」


「おやすみなさい、エルフィア様。」


「お休みなさいませ、エルフィア様。」


「あぁ、お休みなさい。」


まだ半分ほど紅茶が残っている。飲み干すと、足元には才蔵が居た。


「才蔵。こんな所に居たのか。」


「犬と戯れていたでござる。」


寝ようとしていたが、どうやら少し不機嫌らしい。自分はもう要らないが、紅茶を注いで、


「飲むか?」


それを、不機嫌が治った笑顔で受け取ると、えへへと笑って、一言。


「飲むでござる!」








次回予告!

とうとうファステーラの王子様に謁見したり緑珠がまたとんでもないくらいに無茶を言ったり才蔵が大活躍する話!

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