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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第一章 完全脱国 旧帝都
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 5 おっちょこちょいな盗賊

とうとう国造りのために旅を始めるお姫様ご一行。然れどもそんな上手くいくわけがなく、道中に盗賊に出くわしてしまう。しかし、なんだかその盗賊はおっちょこちょいで……?

「それでは、行ってらっしゃいませ。緑珠様、真理さん、お兄ちゃん。」


「……華幻の呼び方に一貫性が無いのは無視して……緑珠様?」


「わぁぁぁぁ!これがっ!これがっ!『森』という物なのね!美しいわ!南の方面には森があったのねー!」


「……緑珠。あんまりはしゃぐとバテるよ?」


「……聞いてないですね、緑珠様。」


「あはは……緑珠様はとてもお元気ですねー……。」


「……無理に合わせなくてもいいと思うぞ、華幻。」


イブキと真理と華幻は、はしゃぎ倒している緑珠を半ば飽きれながら見ている。


「ほらほら緑珠様。行きますよ。そんなにはしゃぐと疲れますよ。」


きらきらとした瞳をイブキに向ける。


「ね!ね!この先に行ったらもっと綺麗なものが見つかるかしら!?」


「世界は広いので何でもありますよ。」


マグノーリエの家からてくてくと歩き始めて、緑珠は純真無垢な金剛石の瞳をあちこちに撒き散らす。


「あ、あれは?これも凄いわ!とっても綺麗ね!」


真理がはしゃぐ緑珠に便乗して言った。

「本当だね!イブキ!君、これ何か分かる!?」


イブキは少しだけ笑って言った。


「……弟切おとぎり草です。家畜の中毒例あり。漢方に用いられる事もあります。光作用性物質であるピペリシンを含みますので摂取後、太陽を浴びると皮膚炎を起こします。弟が切られる事はないにせよ、花言葉が【恨み】【秘密】と物騒ですね。」


震えながら緑珠は言った。


「……よ、要するに……毒草、なの……?」


イブキは答えずににっこりと笑ったままだ。


「その肯定の笑顔が怖いんだけど……。」


緑珠は恐る恐る隣にある『花』を指さして言った。


「じゃ、じゃあこれは……?」


イブキはそれをじっと見て言った。


「あぁ、それは……食べてみます?」

「どうなるのかしら?」

「ものの数秒で死に至ります。」

「へ……?」

「アルカロイドが入ってますからね。死ななきゃ怖い……逆に大量摂取して死なない人を拝んで見たいものです……。」


少し考えた後、イブキは言った。


「あー……居ましたね。昔。」

「へ……。」


緑珠は先程から素っ頓狂な声を上げるだけだ。


「城兵をしてたって言ってたでしょう?あの頃、狂戦士バーサーカーが城に乗り込んで来た事があったんです。もう生死とか関係ないからとにかく殺すか何かしろって言われて、この花を大量摂取させたんですが……死にませんでしたね、あれは。」


難しそうに緑珠は目を瞑ると、イブキに言った。


「つかぬことをお聞きするけど……。」

「はい、何でしょう?」

「……貴女の前職は、本当に城兵なの?」


美しい笑顔でイブキは言った。


「ええ。そうですよ。何の変哲もない、普通の普通の城兵です。」

「末恐ろしく胡散臭いね!」


イブキは微笑みながら真理の鳩尾みぞおちを容赦なく一発殴ると、真理はドサリと倒れた。


「なんか聞こえましたね。」

「……え……?……え、えぇ。そうね。……それにしても。」


緑珠は歩きながら辺りを見回す。イブキは真理を引きずる。


「どうしてこんなに毒草があるのかしら。珍しいものね。変な事だわ。」

「まぁ、それはそんな物でしょう。」

「返事が……でもね、本当にね、変よね……。」


と、緑珠が言葉を切った瞬間だった。イブキの目線が険しくなる。


「……!これは……。」


パキッ、と矢が折れる音がする。緑珠は眉をひそめて言った。


「うぅ……何だか嫌な感じがするわ……。」


引き摺られていた真理が起き上がって言う。


「全く……僕がもし起きていなくて、空間を歪めて矢を折って居なかったら、君達死んでたよ?」


断崖絶壁の崖の上から、声が聞こえる。威勢のいい女の声で、逆光で姿は見えない。


「一式其処に置いて行きな。そうすれば逃がしてやる。」


イブキは武器を持つ手に力を込めて緑珠に言った。

「どうなさいます、緑珠様?」


腕を組みながら緑珠は言った。

「なるべく実力行使は避けたいのよね……。」


少しのあと、崖の上の女の声が引き続いた。

「……ふん。だんまりか。それが答えだな?野郎共!やっちまいな!」


何故か緑珠の瞳がきらきらと輝く。


「こ、これが、本場の『やってしまいな』、というやつなのね!」

「……君、自分が危機に晒されてること分かってそんな事言ってるの?」


緑珠は自慢げに二人の背中を押して言った。


「それじゃあ此方こっちもこうしましょう!二人共、やっておしまいなさぁーい!」


半ばよろけながらイブキは言った。


「今さっき実力行使は避けたいとか言ってませんでしたっけー!?」


はぁ、と少しため息をついた後、イブキはを寄ってくる敵を見据えて言った。


「……偽物と本物、どっちが良いですか。」

「……どういう事かしら?」


真理が肩を竦めて緑珠に言った。


「だから、君に『見せられる』物か、『見せられない』物か、どっちがいいのか、って話さ。」


それを聞いて緑珠は微笑んだ。


「そうねぇ……なるべく、幼稚園児でも拍手喝采のヒーローショーが良いわ。」


ゾッとする殺気を出してイブキは言った。


「……承知致しました。」


「……あの、本当に殺さないでね?イブキ?聞こえてる?大丈夫なの?このままだめな展開に行ってしまうのではないかしら?」


まるで踊るように相手を薙ぎ倒していくイブキを見ながら緑珠は唖然として言った。


「……あれ、絶対死人出るわよ。」


さてさて、と真理は言った。

「僕もちょっと遊ぼうか。」


小声で真理は言った。


「今はね、とっても良い玩具があるんだ……だから、絶対に傷付けないでね?」


真理は仕込みの刀を繰り出すと、容赦なく倒れた男の上を通り過ぎる。緑珠は一人口を膨らませて言った。


「二人共、凄いわ……私もあんな二人になりたい……かっこいい……こう、女スパイとか……。」


屈強な男が緑珠を攻撃しようとして、緑珠は寸での所で避ける。


「なんだァ、お前の腰の奴はお飾りかァ!?」


緑珠は少し考えて言った。


「腰の奴……あぁ、これね。……えっ!お飾りよ!どうして分かったの!ね!そう言うのの見分け方ってあるのかしら!?」


彼女は屈強な男に近寄って言った。男は慌てる。何故ならこれは常套文句だから。理由なんて無い。何でそんな事を聞くんだよ!と言うのが男の心境だった。


「お、おう!それはだな、長年のカンだ!」


緑珠は益々男に近寄る。


「長年のカン、ね!いい響きだわ!ね、それどうしたら手に入るの!」


男の心境は正にこれだった。此奴は馬鹿なのか、と。


「な、長年のカンだからな!長い間培われたものなんだ!」


そうなのね、と言った緑珠の背後に、別の部下が現れる。その手は明らかに、棍棒を持っていた。


一方で。


「伊吹君?大丈夫?本当に大丈夫?」


ふう、と薙ぎ倒した敵を踏みながら、残心を残しつつ彼は言った。


「……人間って……不便ですよね……。」

「は?」


一応この世界を作った神様である真理からして見れば、今の言葉は聞き捨てならない。イブキは自分の手を太陽に透かして言った。


「だって、加減をしないと死ぬじゃないですか。それってとても面倒ですよ。」

「……はぁ。じゃあ、君は、殺す方が良いの?」


イブキは訝しげに振り返った。


「……そうでもありませんよ。死体処理、証拠隠滅、捜査撹乱……その他諸々、合法で無いなら尚更、こういう事に気を付けなければなりません。……あぁ、あと、これ、ですね。」


抜き出していた『神鳳冷艶鋸しんほうれいえんきょ』を自身の前に突き出して言った。


「血痕の後始末、です。人間は刺すと返り血が起こる。それの処理も、ですね。」


真理は恐る恐る『神鳳冷艶鋸』を指差した。


「……ね、血が少し付いてる気がするんだけど……。」


イブキは何事も無かった様に『それ』を拭き取る。


「あぁ、すいません。これはきっと……誰かの皮でも斬ったんですかね。恐らく心臓辺りかと。」


真理は益々懐疑的になる。


「……何で分かるの。」

「色的に。鮮やかでしたので。」


すぅ、と深呼吸して、真理は腹を括った様に言った。


「さて、もう一度聞くよ。君の、前職は、何だった?」


イブキは軽く武器をしまって言った。あの、誰にでも好かれるような『好青年』の笑みで。


「僕の名前は光遷院 伊吹。光遷院家が次男です。……前職は、蓬泉院家中央第一宮殿北門にて、城兵をしておりました。」


場所は緑珠に戻り。


「で、今私たちはこうやって旅をしている訳!分かってくれたかしら?」


「うぅっ……!つ、つらがっだなぁ!」


「あらあら、貴方は優しいのね。とっても辛かったわ。今でもあの一家は地獄に堕ちるか私の手で殺すか、と思っているのよ。別に全く、全然恨んでないわ。そんな事、時間の無駄だからだわ。」


後ろの大男は緑珠の格闘技で投げ飛ばされ、目の前の意味不明な質問を被せた男に座り合いながら、今までの話を緑珠はしていた。その途端、また新しい山賊が現れる。今度は女だ。


「アンタ……なにしてんの。それ、売るんじゃ無かったっけ?」


女が言った『それ』が、明らかに緑珠の事を指している件について、緑珠は何も分かっていない。そして、同じ質問が、吹き飛んできた下駄の主が言った。


「緑珠様……何してるんですか。それ、倒すんじゃ無かったんですか?」


吹き飛んできた下駄は、緑珠の話していた男にぶち当たり、軽く失神している。イブキはけんけんで緑珠に近付いた。


「まぁ、無事で何よりですよ。」


ふふん、と緑珠は鼻高々になる。


「この、『蓬泉院来仙倶利伽羅藤城鳳駕(ほうぜんいんらいせんくりからとうじょうほうが)』式宮廷格闘技の前では、私は無敵なのよ!」


「……はぁ。」


むくりと起き上がった男を、イブキは容赦なく蹴り倒した。また声を上げて倒れる。


「良いですか。本当に……自分の危機管理を何とかして下さい……。」


呆れ果ててイブキは言った。緑珠は軽く笑う。


「あはは……ごめんなさいね。少し調子に乗り過ぎたわ。ねぇ、貴女。」


緑珠は近くにいた山賊の仲間らしい女に問うた。女が明らかに身構える。


「なっ!なんだい!」


緑珠は土埃を取って立ち上がる。


「そんな大きな反応をしなくても良いわよ。私、何にもしないんだから。」


女はイブキと真理を見て言った。

「いや……背後の男二人が……いや、何でもない。」


緑珠はにっこり笑った。


「貴女のボスに案内して欲しいの。構わないでしょう?」


女は、はいとしか返事が出来なかった。何故なら、とてつもなく、背後の男達の視線がおぞましかったから。

とうとう緑珠一行は御手洗みたらい 麗羅れいら神巫女女皇が治める御稜威みいつ帝国へ!国家建設の為の調印を促すも、とある理由で断られてしまい、難題を出される事となる。その難題とは?ラプラスの魔物 千年怪奇譚 6 10月中旬に公開!

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