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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第五章 永久星霧大帝国 ノルテ
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 67 星月夜と菓子

緑珠がぱくぱく焼菓子を食べたりモアが褒められたりダンスをしたりと煌びやかな、終わることの無い舞踏会綺羅奇譚!

「ルカ殿。今晩は。」


「……あぁ、今晩は。」


舞踏会の主な演目ことダンスは、まだの様だ。星降る場所で緑珠は宰相へと微笑んだ。


「きちんと挨拶出来ていなかったものですから。」


「それでわざわざ……今回の主演は貴女なのだから、別に構わないと言うのに……。」


いえいえ、そういう訳にも参りませんと緑珠は微笑んだ。そっと宰相の隣に立つ。


「……昔のこと、覚えておいでですか。私がまだ、幼かった頃のこと。」


「もちろん。あれほどお転婆な姫はもう一生見ることは無いだろうからな。」


笑った宰相に緑珠は苦い表情を作ることなく、微笑みを浮かべて尋ねた。


「一つ、お尋ねしても?」


「構わない。」


「……あの頃の私は、きちんと笑えていましたか。口元を引き攣らせることなく、笑みを湛えていれましたか。」


ルカは一瞬驚愕の顔を浮かべると、彼女の境遇を思い浮かべて留まった。


「……あぁ、もちろん。それはそれは綺麗に笑っていた。翳ってしまうくらい、今は昔よりも素晴らしい笑顔だ。」


緑珠はそれを聞いて顔を俯くと、呟くように言った。


「そう、ですか……そっかぁ……。」


そしてまた、顔を上げて、


「有難う御座います、ルカ殿。……それでは。」


緑珠が星空台から大広間へ入ろうとした瞬間だった。ルカが声をかける。


「そうだ。姫君。」


姫君、と呼ばれた緑珠は疑問を浮かべながら振り返った。


「そのドレス、良く似合っている。」


一瞬だけきょとん、とした表情を浮かべると、緑珠はぱあっ、と花が咲いた様に笑った。


「えへへ、有難う御座います……それでは。」


星空台の扉を開けると、扉の横に洋酒ワインを傾けながら立っているイブキが居た。


「あら……貴方よく私が宰相と話していて我慢出来たわね……。」


「大体貴女がする事に僕は異議を挟みません。それに、『待て』と言われたら待ちますよ。待てない時もありますが。……それに、」


ぐいっ、と何時もの様に酒を仰ぐと、


「何時まで経っても、貴女は僕達のお姫様ですから。」


「……むう……何だか何時ものイブキらしくないわ。」


「何ですかそれ……。あ、洋酒呑みます?度数低いですよ。多分酔わないです。」


「それは有難いわね。有難う。」


緑珠は洋酒を受け取ると、紅玉ルビィの輝きを放つ酒をじっと眺める。


焼菓子ケーキ食べたくなっちゃった。取りに行きましょ。」


「承知しました。」


洋酒を片手に持ちながら、焼菓子が並んでいるテーブルまで歩く。


「お、お前達。むぐっ、何処に行ってると思ったら……もぐっ……。」


焼菓子の山を作りながら、モアは無限の胃袋で焼菓子を食している。


「色々な方に挨拶回りをしていたら長くなっちゃってね。モアのオススメの焼菓子はなぁに?」


「んー……そうだな……。」


モアはぐるりのお菓子の山を見渡すと、ニカッと笑って答えた。


「何でも美味いぞ!」


「よね!」


緑珠はそれに同意すると、皿に焼菓子を大量に乗せた。たらふく食べるつもりらしい。


「うわぁ……身体に悪い食べ方してますね……。」


「良いのっ、むぐっ、よ、きょ、う、くらいはっ、むぐっ……良いのよ、ぱくっ……。」


焼菓子を洋酒で流し込むと、緑珠はイブキへと問うた。


「貴方は?何か食べないの?」


「僕は酒の肴を物色していたので。酒と一緒に食べると、存外お腹いっぱいになるんですよ。」


「へぇ……そうなのね。」


紫髪を三つ編みにして貰った真理が戻って来た。緑珠は口周りに色とりどりの焼菓子の凝乳クリィムを付けている。


「あら真理。何処に行っていたの?」


ごしごし、とイブキに口元を拭かれる緑珠。


「んー?とある人の失恋祝いだよ。」


真理が態とらしくイブキに視線を寄越した。そして、彼は安堵と優越を交えた笑みを零す。


「……おやおや、それはそれは。」


何方どなたかそんな方がいらしたの?」


イブキの笑みなど露知らず、緑珠は屈託の無い疑問を顔に浮かべた。


「いやぁねぇ。まぁ別に緑珠は知らなくて良いことだよ。」


「そうなの?」


「ほら緑珠。あっちも食べに行こーぜ!」


会話が終わらないうちに、モアが緑珠の手を強く引っ張った。見事連れ去られる。


「あっ!待ってったらモア!」


「本人に自覚ナシ、か。大変そうだよねぇ。あの子も、他人も。」


真理は何が覗く様に、さながら神が世界を覗く様に呟いた。


「一応元お姫様ですから。不特定多数の愛情は受けていても、誰か一人の好意には疎い人なんですよ。」


「慣れてるねぇ。」


ちらりとイブキの方を向く真理。相手は何時も通りに微笑んだ。


「そりゃあ、元々お仕えする人でしたから。今も昔も、永遠に。」








「それでは間もなく……。」


舞踏会の主役、ダンスの始まりだ。遠くから声が聞こえると、緑珠とモアは食べていた場所からイブキと真理が居る場所まで戻った。


「緊張するわー……ダンスのステップって何時ぶりよ……。」


つま先でステップを確認しながら、緑珠は独りごちる。


「……あぁ!そうか!お前はお姫様だったもんな。舞踊とか完璧か。」


モアの納得の声に、緑珠は強く頷いた。


「叩き込まれたからね。歌は駄目だったけれど、楽器と踊りと裁縫くらいなら……まぁ、裁縫もそんなに上手くないけど。出来るのはつまみ細工くらいね。楽しいし。好きだし。」


で、と緑珠は笑顔で二人へと向き直った。


「私と踊ってくれるのはどちらなの?」


「ええっと、その……。」


どもったイブキに、真理がばん、と背を叩いた。


「しゃきっと言いなよ?」


「煩いですね。分かってますよ。」


イブキはそっ、と膝まづいて緑珠へと手を差し出した。


「Shall we dance(一曲如何でしょう)?my Princess(僕のお姫様).」


その恥ずかしそうな所作と、変に手馴れた口ぶりが合わなくて面白い。緑珠は笑いながら答えた。


「ふふっ……I would love toよろこんで.the person i love(私の愛しい人)!」


「うっ……そんな突然プロポーズするのは止めて下さい……。」


照れて動けなくなっている彼に、彼女は本当に、楽しそうに、こう言った。


「嫌よ。さぁ参りましょう。今だけ私は貴方だけのお姫様よ。精々丁重に扱いなさい?」


「……えぇ、喜んで。」


それを見ていたモアが、一言。


「幸せそうだな。何よりだ。」


「モアのそういう素直なところ、良いと思うよ。」


「有難う。」


「えっと、ね。」


今度は真理が吃る番だ。モアは振り返ると、何となく返事を察する。


「一曲、踊ってもらえませんか……。」


真理のその言葉に、モアは満面の笑みで答えた。そして、自慢げに。


「オレ、絶対に足を踏むぜ?」


「安心して。僕も。」


二人は顔を見合わせてくすくすと笑った。









ぴたり、と音楽が止まった。これ程楽しかったのは何時ぶりだろう。緑珠は少し汗ばみながら、イブキへと礼をした。


「踊って頂き、有難う御座いました。」


「こちらこそ。月の真珠姫。」


大昔、それも幼い頃に呼ばれていた名前を聞いて、緑珠は解かれた様に微笑んだ。


「『月の真珠姫』って……また懐かしい名前を……。」


「貴女の御名前のことなら、僕は何でも知っていますよ。」


「正しく言うと『僕は貴女の事なら何でも知っていますよ』、でしょう?」


緑珠の指摘に、イブキは微笑んだ。


「全くその通りです。」


所変わってモアと真理の場所。モアの足はがくがくだ。


「う、足攣った……。」


「大丈夫?お水飲む?」


「そうする……。」


彼女は足を引き釣りながら、真理へと満面の笑みで言った。


「そうだ。本当に楽しかったよ、ダンス。」


「そう、か。なら良かった。」


実はね、と真理はモアへこっそりと耳打ちした。


「ダンスのステップ、合ってるか心配だったんだよね……。」


「それな。分かるぞ。難しいもんな。」


「えへへ、楽しかったわねぇ。」


緑珠とイブキがモアと真理の場所へと駆け寄る。


「ごめんなさいね。私の舞踏会に無理矢理付き合わせちゃって。」


「いや、気にしてない。寧ろ食費が浮いたし、それに……。」


モアはポケットから何枚かのタグの様な紙切れを取り出す。其処には商品名と値段が記されていた。


「さいしょーの物品も物色出来たしな!」


「……モア、後ろ向いて。超向いて。というか逃げた方が良いと思うよ、僕は。」


「……商会娘。」


背後にぬっ、と現れた宰相は、ひょいとモアの持っていた札を取り上げる。


「あっ!てめぇ返せ!返しやがれ!それはオレの物だぞ!」


「不法侵入して物品した奴が何を言う。」


「宰相相手にてめぇ、とはなかなかモアさんも凄いですね……。」


関心の意でイブキは呟くと、真理は聞こえるように言った。


「宰相相手に喧嘩を売った人が何を……。」


「聞こえてますからね、真理。」


「聞こえるように言った。」


にしし、と真理は笑うと、イブキはため息をつく。宰相がモアへと視線を戻す。


「そもそもどうやって入ったんだ。鍵をかけていた筈だが?南京錠もあった。」


「そんなもんお前の誕生日で分かったぞ。」


「……ルカ殿、それはしてはいけない暗証番号ですわ……。」


緑珠の呆れが混じった一言に、ルカは不思議そうに彼女の方を向いた。


「そうなのか?」


「えぇ。だって、分かってしまうでしょう?」


「……それもそうだな。」


「ほら!返せ!返せったら!返しやがれ!」


ぴょんぴょんと宰相へと飛び跳ねるモア。それを軽くあしらうと、ルカは札を一瞥した。


「……合っている。」


「あぁん?何だよ。それ返せ。」


だから、とルカはモアへと札を差し出した。


「商会と商品が一致している、と言ったんだ。」


モアの真っ赤な、夕日に沈む瞳が爛々と輝く。


「そ、それ……本当か!」


「あぁ本当だ。」


札を受け取ると、モアはダンスをした時よりもくるくると楽しそうに回る。


「やったぁ!宰相に褒められたぜ!」


「あら、モア。どうして?まぁ確かに褒められる行いをしていた訳では無かったけれど……。」


緑珠はルカに商品が合っている、という点では褒められていると踏んだのだ。だが、話は違うらしい。


「オレさ、最後の一つの商品が絶対に合ってなくて……褒めてもらえなかったから!すっごい嬉しいんだよ!」


三人は顔を見合わせると、大体の内情を察する。ルカは表情が変わらない。


「良い夢見れるぞー!」


その場でモアは、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。ルカは咳払いすると、四人へと言った。


「さぁ、もう舞踏会も終わる。最後までめいいっぱい楽しむと良い。」


緑珠が大広間の時計を眺めると、もう時刻は八時十分前だ。


「もうこんなに時間が過ぎていたの……やっぱり、楽しいことは時間の流れが早いわね。」


だからこそ、と彼女は微笑んだ。


「最後まで楽しみましょう。本当の意味でこれからを楽しむのよ!」


ドレスの裾を掴んでくるりと回る緑珠。その手は星を掴んで、世界を汲み取る。


あぁ、と緑珠は微笑んだ。


御伽噺の世界は、此処にあったのだと。


美しい心で見る世界は、みな御伽噺なのだ。





「さて、と?」







次回予告!

迎賓館でまたもや凄いことを仕出かしたりモアが飛び入り参加したり最早それとは言いがたくなったりと楽しいお話!

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