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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第五章 永久星霧大帝国 ノルテ
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 63 神と人間

火車の明らかに痛そうな言葉だったり私情を挟んできたりイブキが二人をひっつかんで飛んだり緑珠が楽しそうに笑ったりとノルテ帝国も終盤戦!

ミルゼンクリアはラプラスへと言うと、彼は目を細めて笑った。


「ふふ。それは無理だと思うよ、ミルゼンクリア。真理は私の身体を蝕むくらいに、彼等の事が大好きだからね。」


『……そう、ですか。』


全てが無機質だったミルゼンクリアの言葉に、若干の諦めが入り交じる。


『それでも、わたしは貴方達を殺しに行く。わたしもこの世界を愛していますから。わたしは、わたしの信念を貫きます。』


時空の裂け目が消えると、ラプラスは振り向いた緑珠とイブキに言った。


「それじゃあ、下へと降りようか。」










「うー……くっそいてぇ……。」


彪川はぼこっ、と瓦礫の山から手を出した。辺りに砂塵と煉瓦の欠片が広がる。


「まさか生きてるとは……鬼でも死ぬかと思った……いや、オレは死なないけど……。」


「ひゅーせん……。」


外れた何本かの関節と骨を合わせると、立ち上がった彪川は声のする方へ向かった。


「火車、大丈夫ッス……いや、大丈夫じゃ無いッスねぇ。」


火車はか細い声を出しながら、血の海に漂っている。


「そりゃーねー……。」


「痛い?」


「やっと今心臓付近の肉がくっついたとこー……。」


「そりゃ痛そうッスねぇ。」


腸なりなんなりが飛び出している火車は、重い身体をゆっくりと持ち上げた。


「……ひゅーせん、帰ろ。か細い淑女レディを運んでくれるよね?」


「か細い淑女って……どの口が言ったもんだか。」


苦笑いをした彪川に、火車は血塗れで泥だらけで、それでも優しく微笑んだ。


「やっぱウチの皇子様、強いよ。」


「アレが上司になるんスよ?」


「やだなー……しこたま搾られそう。」


火車は接合されていく自身の肉を眺めると、目から涙が落ちる。


「にゃーさ、話に聞いてた皇子が何時も凄い人だと、話せてた彪川とか大王とかが羨ましくて……会ってみて、闘うってなって、嫌いになろうと思ったんだけどさ……『羨ましい』と……ちょっとだけ『妬ましい』と思った時点で、嫌いになれなかったよね……。」


国を巣食っていた暗雲はもう無い。青空が残って、後は自分達の仕事をするだけだ。1ヶ月分の死体が待っている。


「……大王にはまだ頑張って貰わなくちゃならないッスねぇ。」


一応傷は全て接合された。それでもなんだか痛いのだ。身体、では無く。心が。


「……ひゅーせん、帰ろ。ウチらの地獄いえに。仕事をする前に。」


「そーすね。帰りましょっか。」


火車はそれを聞いて、へらり、と笑った。








「はぁいイブキ。此処で質問。アレ、下に降りたら殺されるヤツよね?」


「其処まで分かってるなら質問する必要あります?」


「……。」


三人は時計塔の中にあるベランダから下を覗く。下には武装した人間で溢れていた。そっと殺気を添えて。


「……流石にアレを止める霊力や魔力を持ってないわよ、私。『万物ノ霊長ハ人間ニ非ズ』は確かに戦意喪失の魔法だけど、もうそれ発動出来ないくらいには身体酷使したわよ。」


「僕は元よりです。」


「私はしたくない。」


「約一名私情で言ってる人が居るんですけどどうしましょう。」


イブキの諦観に混じったツッコミに、ラプラスは煩わしそうに答えた。


「仕方ないだろ。人の心を掴む魔法ってのは後で皺寄せが来るんだよ。これだから魔法を持たないヤツは……。」


「真理に『手紙トイレットペーパーが残りちょっとの呪い』かけておきます。」


じとー、とした目をしたイブキに、緑珠がすかさずツッコミをぶつける。


「何その地味にちょっと嫌な呪い。」


「呪いってのは地味に嫌なくらいが一番嫌なんですよ。」


「でも呪いって帰ってくるんだぜ?」


ニヤニヤと笑ったラプラスに、イブキはうげぇ、という顔をして答えた。


「……先程述べた呪いが、ですか?」


「……うん、まぁそうなんだけどさぁ……。」


三人を見つけた『救世人命軍』が、びゅんびゅんと鉛玉をぶつける。


「……アレ下に降りなくちゃダメかしら。」


「降りなくちゃご飯食べられないですよ。」


「それもそうねぇ。」


重い足取りを持ちながら、三人は階段を降りる。


「死ぬかしら。」


「貴女の命を貰うのは僕なので、それは無いと思います。」


「その確固たる自身は凄いと思うわよ、私。」


緑珠の皮のブーツがかつん、こつん、と言うのを止めた。一階に着いてじりり、と細やかな砂を踏む。


「お前ら!手を上げろ!」


「ですってよ、二人とも。」


「大人しくしておきましょうか。」


「それもそうだね。」


三人はやる気なさげに手を上げると、『救世人名軍』は三人の罪状を語気を荒らげて述べていく。


「良いか。お前らはこの国の尊い命を奪ったんだ。数えたらキリがない。」


「その『尊い命』に銃口を向けている気分はどうかしら。」


売り言葉に買い言葉。ふふっ、と楽しそうに緑珠は微笑む。


「黙れ!お前らは罪人だ。その魂は穢れている。地に御座す死の王もお許しにならないだろう。」


イブキの眉間に皺が寄るのを緑珠は溜息を付きながら見ていた。


「あのねぇ。」


上げている手がしんどくなったのか、緑珠は手を下ろして銃口を睨んだ。


「命に……いいえ、生きている『魂』に『尊い』も『穢れている』も無いの。『魂』は死があって成り立つもの。『死』は生き様があって成り立つもの。『魂』をそれたらしめるのは、全て死後の話なのよ。」


下がった銃口に、緑珠は手をひらひらとさせた。


「……とは言ったけどねぇ。私、別に死のプロじゃないし。どっちかと言うと、其処の好青年が死のプロよ。」


イブキは少し微笑むが、また緑珠の額に銃口がもたらされる。


「……駄目ね、これ。もう私じゃどうしようも無いわ。」


「煩いっ!黙れ!」


下がった緑珠に、ラプラスは耳打ちした。


「……分かるだろう、キミなら。彼等は自身の不甲斐なさと埋め合わせを、全てキミ達に押し付けようとしている。」


銃口がどんどん増えていくのを緑珠は若干の諦めと共に見ていた。死ぬのかしら、と。


昔はもっと怖かった。国を抜ける、その前はもっと。だけど、毎日死と接していれば、それは、そうなるのならば……。


「……自明の理ね。」


「手を上げろ。……いや、もういい。今からお前らは蜂の巣になるんだから。」


さてはて、どうするか。このまま蜂の巣になるのは面倒だ。


その感情が、その感情しか訪れないとするのならば、私はずっと昔から狂っていたのだ。一人の老婆が、亡くなったであろう誰かを指して叫んだ。


「現実は残酷なんだ。それをあの子が生きていて、救ってくれた。私が苦しまずに済んだんだ。」


その言葉と共に、飛ぶ弾丸。


だが、ラプラスは笑った。正しく言うと、緑珠の目からしてみれば『ラプラスと真理』が嗤った様に見えた。


「現実は残酷?──何を言ってるんだ?」


放たれた弾丸は、ラプラスの指示で全て地面にめり込む。


「お前こそ何を言っている!現実は残酷な」


「はいはい。現実は残酷、真実は無情って……ふふふ。そんな訳ないでしょう。君達は余りにも、現実を見ていないだけだ。」


唐突な言葉に、相手は銃口を下ろした。


「は……。」


ラプラスは優しく微笑みながら、子供をあやす様に続ける。


「現実は現実だ。君達が見ているのは現実では無い。虚像の現実だ。君達が見ているのは、現実だと思っている幻想なんだよ。現実はずっとそのまま。真実はありのまま。それを君達が直視するには苦しいだろうね。君達が見ているのは幻想で、見ているのものが幻想ならば、住む世界も幻想なのだから。」


さらさらと述べていくラプラスを見ながら、『救世人名軍』は呆気に取られている。


「そんなのただの屁理屈だろう……。」


呆れながらまだ銃口を三人に向けていた若者が、構えながら言った。


「……神様わたしが言っているんだが?」


杖を顕現させて、それを相手に見せる。が、ラプラスに変化が訪れた。


「もう何でも良いや。面倒臭い。後は任せたよ。」


がっくりと肩を落としたラプラスの髪色が、銀髪から紫髪に戻る。


「……ん……うぇっ!?なになに!?え、ちょ、はぁ……?」


イブキはラプラスと銃口を見比べて、はぁ、と深く溜息を付いた。そして緑珠をお姫様抱っこする。


「……真理。僕の腕掴んでて下さい。死にたかったら別に離しても良いですけど。」


真理はイマイチ状況が読めないまま、イブキの左手首を掴んだ。


目の前の銃口を足蹴にして、一気に向かい側のビルまで飛ぶ。


「えっちょ、まっ、痛い!」


イブキはずるずると左手首に付いている真理を引きづっている。


「緑珠が羨ましい……。」


「僕の腕は緑珠様を抱える為『だけ』にあるので。」


「ひゃっほーい!」


楽しそうに叫んだ緑珠を他所に、そ彼は二人を掴んだまま、ビルの真下にある車を眺めた。そして、兎の様にぴょんと其処へと飛ぶ。座っていた女性に声をかける。


「お嬢さん。車を動かさな」


「仲間との区別もつかなくなったのかァ?」


エンジンが入ってモアが車を動かすと、イブキは微笑んだ。


「恐らくモアさんだとは思っていたんですが……匂いを覚えていなかったので……。」


「犬みたいな事を言うのね、貴方。」


「ちょ、緑珠、退いて、した、僕、君の下に居るんだけど……!」


「ああっ、ごめんなさい真理!」


緑珠は慌てて真理の上から退くと、モアはハンドルを握りながら苦々しく言った。


「なぁ、曲がる所完璧に間違えたんだけどさ。どうすれば良いと思う?」


「……任せて。時間自体が歪められたから、上手くいくかは図りかねるけど。……いや、上手くいくとかいかないとかじゃなくて、する!」


真理は杖を出すと、長い長い紫髪を耳にかけて。


「……これは僕の懺悔。水の波紋、風の音、木々の揺らめき。この世を創り上げる森羅万象よ。その全ての物に永劫の祝福を。固有魔法『境界の歪曲』!モア、速度減速して!」


「りょーおっかいっ!」


境界の歪んだその隙間に車が通ると、モアは手際良く止踏ブレーキを踏んだ。


「うぐうっ……頭打った……。」


緑珠が鈍い音とともに声を出す。次に彼女が顔を上げたのは、モアの別邸の庭だった。


「……着い、た……?」


モアもぽかん、と口を開けて運転席に座っている。


「……っ、ふふふ、ふふ、あはは!」


緑珠は声高らかに笑うと、車から飛び降りた。そして、世界を掴むように手を伸ばすと、


「ねぇみんな!帰ってきたのよ、私達!毎度の如く危ない橋を渡って、私達!」


まるで、と緑珠は手を下ろして優しく微笑んだ。


「まるで……三途之川を往復したみたいだわ!」










「……良い月ですね。」


誰もが寝静まった屋敷の中、イブキは縁側に座って煙草をふかしていた。


「あんまり吸いすぎちゃ駄目だよ。あと呑みすぎるなよ。僕はもう寝るからね。」


「勝手に寝てて下さい。煩いです。」


真理の忠告に振り返ること無く、イブキはそのまま月を見上げている。


「……川を肴に酒を呑むのも良いですが、月を見ながらも悪く無い……。」


伸ばした酒瓶に触れる事が出来なくなる。……どうやら誰かが酒瓶を掴んでいるらしい。


「おやおや彪川。こんな夜更けにどうしたんですか?緑珠様の夜這いでも?」


「それは貴方が許さないでしょう。」


「否定はしませんが。」


小さな問答のあと、イブキはくすくすと笑った。そして哀れみの視線を彪川へと向ける。


「怪我の方は?」


「……お陰様で仕事に支障をきたしそうです。」


「それは良かった。」


まるで会話が噛み合っていないのだが、イブキはそのまま月を見上げている。どうやら機嫌が良いらしい。


「そうだ。オレ、緑珠様に頼まれてることがあるんですよ。」


彪川がイブキの顔を覗き込みながら言った。


「……あまり呑ませるなって。」


それを聞くと、彼は一瞬酷く驚いた顔をした。水と酒で濡れた升を滑り落としそうになるくらいには。


「……それはそれは……ええっと、何と言うか……。」


あぁでも、と言いたげにイブキは不敵に微笑んだ。


「では彪川。一つ遊戯ゲームをしましょう。」


「皇子が絶対に勝つ麻雀は嫌ですよ。」


イブキは声を押し殺して笑った。機嫌が良いどころの騒ぎでは無い。とても楽しいらしい。……そういう所を、何故彼の主に見せないのか。


「しませんって。しませんよ。貴方にも僕にも出来る事です。」


空っぽになった己の升に、イブキはまた酒を注いだ。


「飲み比べ、しません?僕が貴方より先に潰れたら素直に呑むのを止めますから。」


ニコッ、と微笑んだイブキの笑顔。それが閻羅のものとそっくりだと気付くのに、暫くの時間を要したが……。


「良いですよ、皇子。勝てるもんならね?」


「言いましたね?」


紫煙をくゆらせて、皇子は笑う。


「言いました。」


彪川はそれを見て、自身の升に月の雫を注ぐ。イブキの笑みが自信の現れ、ということを、彪川は酒で潰れる瞬間に気付いた。








次回予告!

緑珠かを効果音をつけてゴロゴロ寝転がったり彪川がぶっ倒れたりとんでもない人からとんでもない書面が届いたりと真理が口を滑らしかけたりと平穏なお話!

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