ラプラスの魔物 千年怪奇譚 61 時計塔大決戦
緑珠がリバースしたりとかラプラスとモアが言い合ったりイブキが我慢しなさいって言ったりこのタイミングで来るのか?と疑うくらいのメンツが一行に立ち塞がる!(ちょろっと活動報告に目を通して頂けると幸いです)
ブロロロ、とアイドリングをしながら、モアが四輪馬車と車を混ぜ合いにしたモノから身を乗り出している。
「……パチモン言うなし。私がホンモノだし。」
「あぁん?パチモンがパチモン言ったところでパチモンなんだよ。」
「モアさん、其処らへんで……。」
イブキは断続的に吐いている緑珠を担ぎながら、むすっ、としているラプラスとモアを交互に見詰める。
「で、そのパチモンは?」
「……私の名前は……ええっと、さっき付けてもらった名前はラプラス。ラプラスの魔物だよ。」
「んだよ……神様かって、うぇぇっ!?」
「気付くの遅いね。」
ラプラスは手短にモアへと挨拶すると、容赦なく車へと乗った。イブキも緑珠を連れて乗せる。アクセルを踏んだ。風が人を切り裂く様に吹いていく。
「ったく、これはまたどうなってるんだ。」
「神様が暴走してなんやかんやしてるんだよ。」
緑珠はイブキから貰ったお水を飲み干すと、壊れ果てた国を見詰めた。
「うげっ、ぷ……凄いことになってるわね。何だったっけ……救命なんとか軍みたいなのはどうなの?」
「『救世人命軍』です、緑珠様。」
「良く覚えていたわね。」
モアが荒々しい運転を繰り広げながら、一旦は広場へと転がり込む。
「なんかそれも動き出してたな!おい、行き先は何処だ!」
「……時間、か。そうだね。時計塔に向かってくれ。」
ラプラスは思案に耽る暇もなくモアへと言うと、
「りょーかいっ!」
またアクセルを踏んで急発進だ。
「掴まっとけよ!落ちても知らんからな! 」
「ちょっ、まっ、イブキ、吐きそ……!」
「我慢して下さいとしか言い様がないです!」
車を運転しているというよりかは、最早ジェットコースターに乗っている様なものだ。時計塔までの一本道が見える。
「時計塔ってっ!アレよね!見に行ったやつ!」
「そうだぞ!って、おい……!」
通り抜けようとした一本道の前に、沢山の人が居る。『通るな』だとか『世界を救っている』だとかが書いてある看板が見える。
「うっわ……あれどうするんですか……。」
イブキの声にならない悲鳴に、ラプラスは顔色一つ変えること無く、すらすらと車のデッキに何かを描く。
「ちゃんと掴まっててね。今度こそ飛んでも知らないよ。」
「はっ!?」
アクセルが利かなくなったのをモアは化け物を見る様な表情で見詰める。それもその筈、車が宙に浮いているからだ。
「ちょ、いぶ、き、む……り……。」
今度は車酔いで吐きそうな緑珠に、イブキは若干の呆れを交えて言った。
「我慢して下さいとしか言い様がないです……。」
人の垣根を超えた橋の道路に車は落ちると、驚いていたモアがまたアクセルを踏んで先へと進む。
慌てて車を追いかける人など知らん顔だ。パンパン、と立て続けに銃声が続く。
「飛ばすぞ!くそっ!これ以上踏み込めないのか!?」
「それ以上踏み込むと五秒後に爆発する未来が見えた。」
ラプラスは素知らぬ顔で、モアへと告げると、渋々モアはアクセルを緩める。
「大体キミは早とちりし過ぎなんだよ。この調子でいくと、キミは一年四ヶ月六日後午前十一」
「るっせぇ!幾ら相手が神様だからって、自分の死に際は自分で決める!かっ飛ばすぞ!」
ラプラスはモアの言葉に目を見開いたが、そのまま彼女はかっ飛ばす。
「そういう所がモアらし、っぐふ、うげぇぇぇ……。」
「緑珠様、御無理をなさる必要はありませんよ……。」
モアらしい、と言おうと思っても身体はそうはいかない。車から乗り出して緑珠は思いっ切り吐いた。
「もう着くぞ!」
「そう。有難うね、モア。」
名前を何で知っているんだ、と言うかの如くモアはラプラスの方向を振り向いた。
「前見なくちゃ危ないよ?」
「うっ?お、おっと!」
吐き終わった緑珠が何本目かの水を飲みながら言った。
「まだラプラスは良いじゃない。神様だし。私の隣に座ってる腹心は『何処から情報が漏れた?』って言うくらい私の事を知ってるわよ。」
「まぁまぁ、これくらい当然でしょう?」
「これが当然で済まされたら世の中のストーカー万々歳よ。」
時計塔は直ぐ目の前だ。モアがアクセルからブレーキに足を変えようとした、その刹那。
「待って。そのまま走って。」
「あぁ!?てめぇ何言って……!」
ラプラスの声が聞こえた後部座席からはもう、彼等の姿が消えていた。代わりに時計塔の前に三人は立っている。
「そのままアクセル踏んで!今度は爆発しないから!」
モアの盛大な舌打ちが聞こえたような気がしたが、茫然自失としている緑珠とイブキを置いて弾丸溢れる橋の前にラプラスは立った。
「興れ、氷の壁よ。」
ラプラスが杖を振り翳すと、此方の岸、全てに高い高い氷の壁が出来る。
ラプラスは二人の場所に戻ると、三人は階段を目指した。緑珠の足を掴もうとする人間を置いて、彼女はイブキへと問うた。
「ねぇ、イブキっ、私、聞きたいことがあるのだけれど!」
「何ですか!」
小さな踊り場を走り抜けて、緑珠は茶色い時計塔の階段を踏みしめて進む。
「何で貴方、『火車』の話をしていたの!地獄の、死者の『猫』の話を!」
「それは、彪川が『火車』の話をしていたからであって……ま、まさか……!」
イブキは緑珠が開けようとした扉のドアノブを奪う。勢い良く開けた、その瞬間だった。
「おや皇子。お早いお着きで。」
「にゃぁん!」
緑珠を抑えた、その視線の先には。彪川と誰だか分からぬバスガールが立っていた。ガングロの、猫耳のバスガールだ。
「おやおや、これはこれは……皇子に緑珠様に創造神がお揃いとは!いやはや、驚きま」
「黙れ、彪川。」
「……あれ?」
何時もの柔和なイブキの声とは似ても似つかぬ、血を啜る獣の声。今にも殺そうとしているイブキに、緑珠が制した。
「伊吹、落ち着いて。貴方にも分かるでしょう。『彪川と其処の彼女は仕事をしに来た』だけだと。だからこそ怒っているのよね?」
「……流石は我が主。」
イブキはそれだけ吐き捨てる様に言うと、緑珠は彪川とバスガールへと言った。
「貴方達は死後の国の使者だわ。聞き分けが良い筈よ。此処を、通して、下さるかしら。」
「それは困るッス、緑珠様。『オレ達はあくまでも仕事をしに来た』だけなので。通す訳にはいかないッス。」
「そ、う……。」
彪川の笑顔の否定に、緑珠はじりりと下がる。
無理矢理通ろうとしても駄目だ。何より、通ったとて五体満足の可能性が限りなく低い。まともに闘って勝つ方が生きている可能性が高いのだ。
「緑珠様、先に行ってて下さい。直ぐに追いかけますから。」
「懸命な御判断ですね、皇子。」
「それはどうも。」
緑珠はそれを聞くと即座にイブキへと耳打ちした。
「兎に角三人の戦力が無いと打破出来ないわ。マクスウェルの力もあるしね。無理難題だけど、早々に切り上げて来なさい。」
「……全ては貴女の仰せのままに。」
イブキは緑珠とラプラスを見送ると、目の前の強敵に視線を戻した。
「ええっと、オレは昔紹介したっスよね。オレの名前は蓮台野 彪川。それでオレの傍に居るのが、」
「はぁい!にゃーはバスガイドの火車!化野 火車にゃん!」
「……どうも。」
イブキは無感情に答えると、何時も通りに武器を構えて呟いた。
「別に僕には難しくありません。真理を消して緑珠様を独りにさせて、僕だけに依存させる事を。僕だけのモノにする事を。ですが、僕がそれをしないのはあの御方の笑顔が見れなくなるからです。」
「……何が言いたいんですか、皇子。」
彪川は薄ら寒い気配を感じながら、伊吹を見据える。
「あの御方の中で夢見ている『僕』と、今、此処にいる『僕』は全く別の人間です。……なら、夢は夢のままで。緑珠様には僕を夢想して頂きましょう。」
要するに、と伊吹はすうっ、と目を細めて、薄く笑う。
「此処に居る『僕』は、どんな残虐行為でもせしめてご覧に入れることが出来るという事です。」
これは拙いな、と彪川は心の中で唸った。この表情をする時は何時も予想外の行動に出る。ならば手短に済ませるのみ。
「で、其処の猫娘は、」
「猫娘じゃないにゃん。かし」
「小娘。」
「うちは食べるほうにゃん!」
彪川が手短に済ませようと思ったその瞬間から、火車はイブキのペースに載せられている。
「猫嬢。」
「火車って呼んでにゃん!?」
「子猫?」
「はぁぁぁぁ!?」
火車の劈く疑問の言葉に、彪川は頭を抱えた。見事挑発に乗っている、らしい。
「猫又。」
「あ?てめぇそれ言ったらぶち殺すぞ?三流妖怪と一緒にするんじゃねぇ。」
バスガールの怒気の篭った一言に、イブキはニヤリと口角を上げた。
「猫又も猫も三味線にしたら同じでしょうに。それに火車も猫又でしょう?」
「……もー!ヒューセン、うち怒ったからね!絶対殺すから!」
激昂した火車に、彪川は苦々しく言った。
「あーあー……流石に我等の皇子なので、殺すのはやめてっス……。」
「ヒューセンって変なところ慈悲があるよね!」
語気を強めながらも、火車は彪川へと言い放った。
「鬼は冷酷無慙 無慈悲上等ってところでしょう?」
イブキの軽い嘲笑を、彪川は淡々と鼻で笑った。
「……言ったな?」
「言いました。」
にっこり、と笑ったイブキの微笑みに、彪川は何処か誰かの既視感を感じながら──
「それでは皇子。いざや勝負と参りましょう。」
「言い忘れてましたけど、僕にジョーカーを擦り付けるババ抜きは嫌ですよ?」
それは残念だ、と彪川は懐から幾枚かのトランプを取り出した。
「持ってきたんですが、ね!」
そのトランプがイブキに目掛けて飛ぶと、彼は余裕で避けた。続けて彪川の詠唱。
「之は祭りを続ける永遠の祭火。地を這い煉獄を駆け巡る、消えることなき炎。照らせ、裁け、そして救え。固有霊術『泰山府君ノ祭火』!其は、世界を救う断罪の光也!」
鋭い炎がイブキを貫こうとするも、イブキはそれを高く跳躍して避ける。
さてと。と思考を回す。あまりの高い跳躍にあんぐりと口を開けている彪川と火車が面白い。
ぐるん、と自身の身体が一回転するのが、酷く遅く思えた。
まるでイブキを食べる様に空から降ってくる電車と、地から生まれる電車。
彼を挟む、僅かな瞬間。車輪を蹴ると、くるくると回った。背後の爆風が暖かい。
「……早いな。」
彪川が唸ると同時に、火車は楽しそうに声を上げた。
「はぁい、にゃーはバスガールの火車!これより御覧にいれるのは、世界が牢獄の地獄!さぁさぁ皆さん御案内!底無き深淵の奥底で、己の罪を悔いるが良い!固有霊術『地獄急行死体消失事件』!」
一拍置いて、
「『火車』顕現!」
いや、それでは駄目だ。火車の固有霊術は『車』の名の付くものなら、『車』と定義されるものなら全て顕現できる。
だが相手は速さに特化した人間だ。それでは駄目なのだ。彪川の眉間の皺が深くなっていく。
それと対比して現れた火車が、同じ速さで様々な車を顕現させてイブキに浴びせる。
ならば、速さを抑えるべきだ。
べき、なのだが……。
「っ、『鋭敏祭火』!」
彪川が顔を上げたその瞬間には、目の前で紅い刃が踊る。
「余所見とは感心しませんね。」
拙い、これは拙い。一度イブキは火車と彪川の間に立った。何か仕出かす。絶対に何かする。だが、予想が立てられない!先手が打てない!
恐らく自分を狙うだろう、と彪川は心の中で叫んだ。とにかく今は無難に挟み撃ちだ。
「『鏃祭火』!」
「『列車』顕現!」
順番に炎と列車がぶつかっていくのを、イブキは若干の速度を落として駆けていく。
一端は時計塔の端まで行くと、彪川の背後の壁を蹴り、そして。火車の方へと、足を 。
「その首、頂きます。」
次回予告!
ぶっ飛ばされかけるイブキだったり三味線になりかける火車だったり心臓がくっついたり件の彼奴と対面したりとわんさか進展がありまくりな千年怪奇譚!(活動報告を……見て下さい……。)




