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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第五章 永久星霧大帝国 ノルテ
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 56 薔薇の自鳴琴(オルゴール)

孤島で緑珠達が出会ったのはとある一人の少女で?そして其処で再び出会う例のアイツ!時間が停止しているのとは裏腹に、物語は急展開を進む──!

緑珠の姿がふっ、と消え去ると、もっと可愛い悲鳴は上げられないのかという様な悲鳴を上げる。


イブキが慌てて近寄ると、小屋の部屋はかなり床が低くなっており、緑珠が見事落っこちた場所はふわふわの白いベッドの上だった。


「う、うぅ……。」


緑珠は軽く意識を飛ばしながら唸って居る。目の前の菫色の髪を持った、齢 十歳前後の少女が、腕にぬいぐるみを抱えながら驚きのあまり口元を抑えて呆然としている。


「まぁまぁ、なのだわ……。」


イブキは上手く着地すると、緑珠の傍に寄った。


ふらっとしながらも真理も真っ白い、可愛らしい部屋に着地する。イブキが相手がどう出るか見ていると、


「そうなのね!分かったのだわ!わたくしの遊び相手の方なのね!今日は随分な大世帯なのね!」


意識が朦朧としている緑珠を抱えながら、イブキは苦々しく答えた。


「ええっと……お嬢さん。僕達はそういう目的で来たの」


「まぁ。お嬢さん、何て呼ばれたのは久し振りなのだわ。何時もは『姫』なのだから。」


イブキがしどろもどろになっているのを他所に、少女は彼の言葉を遮って笑った。緑珠は徐々に意識を取り戻している。


「そ、それは失礼したね、ロジエ姫。」


ロジエ、と呼ばれた姫は真理に向かって微笑んだ。


緑珠はイブキの傍で完全に意識を覚醒させると、目の前の景色をぼんやりと見詰める。


「う、うぅ……何だか吃驚したっ、わっ!?」


最後まで緑珠は言いきれなかった。それもそのはず、ロジエが緑珠に抱き着いたからだ。


「もしかして緑珠李雅リョクシリア姫!?」


じゃあ、とロジエはイブキと真理に視線を戻した。


「貴方は光遷院 伊吹様?確か、『黄泉院』で『こうせんいん』、と読んでいたらしいのだけれど、死を連想させるから名前を変えたのよね?月は聖地。『光がうつる場所』だから。」


イブキは目を見開いてロジエに恭しく礼をする。


「これはこれは……我が家の事を良くご存知で。光栄に存じます、プリンセス・ロジエ。」


満足な回答が得られると、ロジエは微笑みながら真理に向き直る。


「貴方は真理よね?百五十年前から目撃例が耐えないっていう……不思議な人だと聞いたわ!確か南の姫巫女様を困らせてばっかり居るそうね。ふふふ、面白いわ!」


「うぅ……また麗羅関連の事か……いや、でも僕の事を知っていてくれて嬉しいよ、ロジエ姫。」


ロジエは真理から緑珠に嬉嬉として視線を戻すと、目の前のきょとんとした緑珠を見詰める。


「そうなのね!貴女が、緑珠李雅姫!『慧眼の姫君』と名高い方ね。ずっと会ってみたかったのだわ!私が生まれた時から、『お父様』から沢山お話を聞いていたから……!」


緑珠は意識が朦朧として聞けていなかった部分を、彼女はもう一度聞く。


「え……『お父様』?……成程。貴女がロジエ姫。わたくしも貴女様に会えて」


「堅苦しいのは無しなのだわ。今からお茶を煎れるわね。」


全てを言い切らない内に、ロジエは笑いながら、白い茶器に紅い紅茶を注いでいく。緑珠は感心する。


「……ロジエ姫は凄いのね。お茶を煎れられるなんて……私、やり方は知っていても最早合っているかどうか……。記憶が曖昧だわ。」


ロジエは笑みを絶やさず、三人に真ん中にあったテーブルへと誘う。


「慣れたらこんなの簡単なのだわ。それにわたくしは人とお話するのが大好きなのだわ。だからどうしてもお茶を煎れるのが好きなのよ。」


ふふ、と微笑みながら頬に手を当てるロジエ。


「最初はね、皆に『そんなことは姫のするべき事ではない』、と言われたのだけれど……何とか説得して、煎れる練習をさせて貰ったのだわ。もう、わたくし夢みたいなのだわ!憧れの緑珠李雅姫とお茶会だなんて!」


緑珠はふー、ふー、と湯気の溢れる紅茶を冷ましながらロジエへと問う。


「ロジエ姫、私の事をご存知なのはとても光栄なのですけれど……どうしてまた、私達等とお茶会を?」


ロジエは暖かい曲奇餅クッキーを頬張りながら言った。


「それは勿論、緑珠李雅姫に会いたかった、というのはあったのだわ。姫が齢十一の頃に、わたくしは産まれた訳だったのだけれど……ほ、ほら、色々緑珠李雅姫にもあった訳なのだわ?この国に来れなくなってしまって……。」


緑珠の事情を知っているのだろう。愛らしい姫は気遣いながら話を続ける。


「……その、国が亡くなってしまってから……もし緑珠李雅姫がこの国に縋った場合、助けるという話も聞いたのだわ。でも、その……姫が死んだ、という話を……。」


緑珠はロジエの気遣いに更に気遣いながら、薄く問うた。


「ロジエ姫。御配慮に大変感謝致します。一つお聞きしたいのですが、『私が死んだ』、というお話は一体何処から……?」


びくん、と肩を震わせるとロジエは少し吃りながら続ける。


「き、聞いた話によると……緑珠李雅姫に良く似た死体が、王宮の裏手から発見されたそうなのだわ。民衆はそれを本当に姫の死体だと思っていて、国ではそう処理されたそうだわ。だから姫巫女様も貴女が生きていたことに驚いたそうで……。」


「それは……。」


イブキが心配そうに緑珠の顔を覗き込む。だが、あんぐりと当の本人は口を開けている。


「……そ、そうですか。ロジエ姫、態々そんなお話を……有難う御座います……。」


何とも言えなくなってしまった緑珠は、先程から目に付く鳥籠を指さした。


「で、あの、ロジエ姫。あの人形は……。」


「何なのよ。こっち見ないでよ。」


先程から緑珠達にじとじとした視線を向けていた人形、正しく言うと『魔術人形』のシャルロット・リンテージなのだが、それが鳥籠の中に居る。


「何なのよ。強がり女とヤンデレとポンコツ。こっち見ないでよ。」


「だぁれぇが!強がりですって!?」


緑珠は鳥籠に向かって意気込むと、シャルロットはくすくすと嗤う。


「やぁい強がり!」


「強がりじゃないわよ!」


「緑珠様は若干強がりのところありますけどね。」


「何ですって!」


シャルロットは緑珠を小馬鹿にするが、それに対してイブキはくすくすと笑う。若干憤慨しながらも、緑珠はロジエに問うた。


「ロジエ姫……もしかして、シャルロットを誘拐したのは……。」


「そうなのだわ!このわたくしよ。」


「何か魔法を使ってたよね?確か……『力学反転』、だっけ?」


真理の一言に、ロジエは手を口に当てて驚く。


「まぁ……百五十年の魔導師様は、本当に見抜く目をお持ちなのだわ……。」


ロジエは愛らしいぬいぐるみを抱えながら、説明を始めた。


わたくしの魔法は『りきがくはんてん』、という魔法らしいのだわ。わたくしが魔法を発動している間、触れた相手の握力……『力』を、操作することができるのだわ。」


ロジエは如何にも軽そうな簡易な鳥籠に入っているシャルロットを指さした。


「だからシャルロットは今、全く何の力も無い状態なのだわ。お客様が来ている間は閉じ込めているのだわ。」


緑珠がイブキの考えている事が分かったのか、つんつん、と指で啄く。


「……悪用しない方が良いわよ。」


「……監禁に使おうとしてたの、バレましたか……。」


緑珠とイブキの会話など露知らず、真理はロジエに言った。


「それにしてもロジエ姫。どうして貴女はこういう場所に居るんだい?本当は王宮に居るべきだろう?」


ロジエは真理の質問に質問で返した。


「それはそうなのだけれど……貴方達はどうしてここに来たのだわ?」


姫の質問に、緑珠は微笑みながら答える。


「宰相様に本を探せ、と言われたの。その途中でロジエ姫に会ったのよ。」


ロジエは首を傾げながら、


「宰相?お兄様のこと?どうしてお兄様が……。」


聞き捨てならないロジエの一言に、イブキは顔を顰めた。


「……はい?プリンセス・ロジエの兄があの宰相という事は、あの宰相は……。」


「あら、知らなかったの?イブキ。」


「……存じませんでした。」


不服そうにするイブキを横目に、緑珠は問い直した。


「ええっと、ロジエ姫。貴女はどうしてこの場所に?」


ロジエは不思議そうに首を傾げる。


「知らないのだわ。一ヶ月前にお兄様に言われたのだわ。『此処に居ろ』と。『此処なら安全だから。図書館の中をうろついても良いが、あまり目立たない様に』と言われたのだわ。」


「……理由を知らないと何だか怖い言い方だね。」


真理の呟きを無視して、緑珠はロジエの言葉を思考に持ち越す。


「一ヶ月前か……丁度、この国の時間が止まった頃の話ね。これは一度帰って宰相殿とお話をしないと……。」


思案に耽った緑珠の一言に、ロジエはぽふん、と白い冷たい大理石の上にぬいぐるみを落とす。


「か、帰るのだわ……?」


「えぇ。ごめんなさいね。何時までも居たいのは山々なのだけれど……。」


「……そう、なのだわ……。」


顔を上げられないほどしょげてしまったロジエ。緑珠は唸ったあと、何時も付けている黄色の髪留めを取ってロジエに差し出す。


「顔を上げて頂戴、ロジエ姫。この髪飾りは大事なものなの。」


ロジエは少しだけ顔を上げると、しゃがみこんで自身の顔を覗く緑珠を見詰める。


「私ももう一度貴女に会いたいわ。その証に、この髪留め……受け取ってくれるかしら?必ず取りに帰ってくるわ。」


ぱっ、とロジエの表情に陽が溢れると、少しだけ涙が零れつつもそれを己の小さな手で拭った。


「りょ、緑珠李雅姫……待ってるのだわ。それまで良い子にしているのだわ!だから、また遊びに来てなのだわ!」


きゅっ、と涙を零さないように小さな拳を作って。


「『お姫様は何時も笑顔で!』。わたくしも笑顔で貴方達をお迎えするのだわ!」


白磁の部屋の真ん中に、青い魔法陣が現れる。ロジエは其処に誘う様にして手を添えると、イブキは膝を付いてロジエの手に口付けを一つ。


「愛らしい薔薇のお姫様。また会いに来ますから、どうか泣かないで下さいね。貴女の笑顔が曇ってしまうと、我等も寂しいですから。」


ロジエは頬を赤く染めながら、イブキに返す。


「有難うなのだわ、王子様。好きになってしまいそうだわ。お話に出て来る王子様みたい!」


真理はよしよしとロジエの頭を撫でる。少しくすぐったそうに、真理の手を掴んだ。


「姫の魔法は素晴らしい物だよ。これからも頑張ってね。」


ふふふ、とロジエは声に出して笑うと、三人は魔法陣に飛び乗った。


手を振っている姫君を見ながら緑珠は手を振ると、景色が揺れて元の本棚の前に戻る。


緑珠はロジエの言動を思い出しながら、一つ呟いた。


「『王子様』、ねぇ。」


「どうされました?」


ニヤニヤしながら聞き返すイブキに、緑珠は手を腰に当ててくすくすと笑った。


「私も皇女だった頃はあれだけちやほやされてる時期が有ったわね、と思っただけよ。」


「なぁんだ、ちょっと羨ましいとか思ってるのかな、と思ってた。」


真理は素知らぬフリをしながら、緑珠に笑う。それに対しても彼女は楽しそうに返した。


「ふふふ……私はあの姫よりももっとちやほやされていたから、羨ましいなんて思わなくてよ。私は高貴で高潔なお姫様だったのだし。ロジエ姫の様に『愛らしい』訳では無かったわね。」


「そうやって自分が愛されているというのを知っているというのが、お姫様という所以というか何と言うか、ですね……。」


緑珠はそのままふふん、と笑うと、先程から目の前に呆然と立ち竦んでいるフルールに目をやった。


「さて……話を元に戻しましょう、フルール。貴女はこの事を知っていたわね?」


「……う、そ……でしょ……。」


「ごめんなさいね。嘘ではないの。じゃあ──」


ぺたんと座り込んでいるフルールに、緑珠は手を差し伸べた。


「お話、聞かせてくれるわね?」










夕陽が図書館を暴いていく、そんな中。フルールは少しよろよろとした足取りで、三人を司書室へ通す。椅子を人数分出したあと、か細い声で言った。


「……お茶は?」


「頂いたわ。どうぞお気になさらず。」


「それじゃあ、お言葉に甘えて……。」


フルールは自身の司書室の椅子に、腰深くまで座り込む。


「まず最初に聞くのは……貴方達は、宰相殿下に何を言われて来たの?」


「『歌を頼りに本を探せ』、と。宰相殿と陛下に言われたわ。」


「『本』ね。……なら全てを話すのも吝かではないわね。」


少し伏せていた目をフルールは上げると、緑珠へと据わった目で話を続ける。


「あたしはここ、二、三年の内に司書になったの。この図書館は様々な資料が置いてあるから、王室の学者様に混じって王族が来る、なんて事も少なくなかったわ。その中でも姫は読書家で、王城から近いこの図書館にしょっちゅう来る、という話を前任の司書から聞いたのよ。」


ぽつりぽつり、とフルールは目を伏せて言葉を紡いでいく。


「ノルテ・カーリン帝国第一王女 バディスト・ロジエ・カーリン様は、『本』と称される程の読書家だったの。まだロジエ姫は幼い吸血鬼だから、よく図書館に閉館間際に来ていたわ。」


茶色く鈍い輝きを放つ司書室の机を、フルールは撫でる。


「最初、あたしの姿を見たロジエ姫は本当に驚かれて『前の司書様は?』とお尋ねになったわ。あたしは真逆声をかけられるなんて思わなくて、魚のように口をパクパクさせていたら……。」


当時の事を思い出して、フルールはくすくす笑った。


「『そんなに緊張しなくても良いのだわ。お辞めになったのね?』と言われて、あたしは『そうです』の答えたの。『貴女の名前は?』と聞かれて、『フルール・スペルクです』と答えたわ。『それではこれから宜しくなのだわ』と笑われて、その日はお帰りになられたのよ。」


しかし、朗らかだったフルールの表情が、直ぐに真剣な物に変わる。


「それから姫とあたしは仲良くなったわ。お菓子を一緒に食べたり、お茶をしたり。……けれど、ある日宰相殿下がいらしたの。その時、あの人は──」





『さ、宰相殿下……何故こんな場所に?』


『ロジエがこの図書館にある、秘密の部屋に住むことになった。……どうかこの事は内密に。』




「それが丁度一ヶ月前、という訳ね?」


緑珠の言葉に、フルールは黙って頷いた。


「その一言を言って、あの人は去ってしまった。……気付いているかもしれないけど、この国は一ヶ月、時間が止まっているわ。……あたしはあの部屋に何かあると睨んでいるんだけど……。」


「そうだね。あの部屋だけ『時間の流れ』が存在していた。……自身の妹だけ救うというのも、生物としての個としては理解出来るが……。」


「国の行政を司る者としては、あまり感心しませんね。」


フルールは緑珠へと願うように言った。


「御願い。私達と姫を助けて欲しいの。きっと解決する為に、貴方達は来たのだろうけれど……次の一ヶ月で、本当に何がどうなるか分からないから。」


緑珠は訝しげに眉を顰める。


「どういうこと?この国では時間が止まっているのよね?それだけじゃ、」


「それだけじゃないの。」


フルールは緑珠の言葉を遮ると言葉を続ける。


「この間は人が消えたわ。その前は国の一部が消えた。食糧不足も深刻だし、『軍』が出来た。」


「『軍』?『反乱軍』ってこと?」


力なさげにフルールは首を横に振った。


「いいえ。この国は時間が止まったって言ったでしょう?人の時間は進んでる。国の時間が進んでいない。人は死んだら土に還るモノ。そういう意味では、『人間』も『国』だわ。なら、一ヶ月後に『死ぬ予定の人間』が生きている可能性は?」








次回予告!

新たな脅威を知った緑珠一行に訪れる、あまりにも静謐な宵闇。そして名月を鑑賞する一行ら。そして起こる戦闘。え?なんで戦闘が起こるのかって?それは来週までのお楽しみ!

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