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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第五章 永久星霧大帝国 ノルテ
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 55 星海の孤島

皆で楽しく図書館に行ったり魔導書を読んだり新キャラが登場したりモアと手を組んだり緑珠がありえない声を出したりする物語の進展がやばみを感じるお話!

「図書館、ねぇ……。イブキは行ってたでしょ?」


「えぇ。中々良い場所でしたよ。」


「この国の図書館は凄いもんね。」


三人は王城から出ると、モアが馬車に腰掛けて座っている。


「終わったのか?謁見。」


「ええ。終わったわ、モア。」


モアは馬車から降りると、ばんばん、と馬車を叩く。


「送って行くぜ。次は何処だ?」


「ちょ、ちょっと待ってよ、モア。」


真理が慌てながら身振り手振りで話す。


「僕達の手伝いばっかして良いの?お仕事は?」


モアは少し照れ臭そうに、はにかみながら言った。


「ま、今回はお前らが居るしな。手伝うほか無いだろ?それに楽しいし!」


しかし彼女は最後の方にぼそっ、と呟いた。


「……それに緑珠は絶対に国を造る訳だし。お得意様にしたいんだよ。」


「全く、商魂逞しいわね。」


緑珠はくすくすと笑うと、促されるまま馬車に乗る。モアが手綱を握った。


「で?次は何処に行くんだ?」


「図書館です。」


イブキの一言で、馬車ががらがらと動き始めた。


「図書館か……なら『シャルム王立大図書館』だな。」


「随分と大仰な名前がついているのね。」


緑珠の感心とした一言に、モアはくすくすと笑った。


「名前に恥じねぇ図書館だぜ?」


魔導書グリモワールも沢山あるしね。」


モアの返しに、真理は自慢げに言った。


「やっぱり魔術師だな。知ってたか。」


「……彼処は、魔導書があると言うよりかは……集まって来ている様に感じるけど。」


「まぁ分からんでも無いけどなー。あの図書館、ぶっちゃけ貸本屋のちょっと違うパターンなだけだし。」


「貸本屋?」


緑珠の疑問が混じった声に、モアは手綱を握りながら答えた。


「図書館で欲しい本があったら、家から持ってきた本と交換するんだよ。もちろん、貴重な本は別で保管してあるが。」


「そうなんですか……。」


イブキの感心した声に、モアは手綱を離した。


「さて!着いたぞ!」


緑珠は飛び降りる様にして降りると、目の前には巨大な建物があった。


ステンドグラスの細工があちこちに散りばめられていて、図書館がドレスを着て踊っているようだ。


「……綺麗ね。」


「だろだろ?これが名物で見に来る奴もいるんだぜ?」


緑珠は図書館内に入ると、囁くようにしてイブキに問うた。


「貴方、調べ物してたんでしょう?何を調べてたの?」


「……料理、ですかね?」


イブキはしどろもどろになりながら緑珠へと返した。それを他所に、真理は何処かに行ってしまった。


「私に聞かないでよ。……さては、隠し事ね!」


「してませんしてません!」


「嘘!絶対にしてるでしょ!」


「僕が貴女に嘘をつけない事を、貴女が一番良くご存知でしょう!」


「ちょっと!」


緑珠とイブキの言い合いを、女の声がかき消した。


「カップルの痴話喧嘩なら外でやってよね!此処は図書館なんだから!静かになさい!」


「お前が一番煩いぞ、フルール。」


きっちりとした司書らしき女性が、ぽりぽりと頭を掻いているモアに注意される。


「む、むぅ。……そうね。でも図書館では静かにして頂戴。其処のかっ、ぷ……あ、貴方……。」


フルールと呼ばれた女性は、イブキの顔をまじまじと眺める。


「貴方、あたしを助けてくれた人じゃない。人形を八つ裂きにしてくれた人。」


「とんでもないイメージが付いてるわよ、イブキ。」


「ははは……。」


緑珠は態とらしく肩を竦めると、イブキは苦く笑った。


「有難う。本当に助かったわ。お詫びと言っちゃあなんだけど、何か困った事があったらあたしに聞いてね。……にしても、真逆カップルだったとは……。」


フルールは椅子に座りながらそんなことを呟くと、緑珠は言いづらそうに答えた。


「あ、えっとね。別にカップルではないし、恋人同士では無いのよ?」


「もう恋人になりましょうよ、緑珠様。」


じとー、としたイブキの視線を、彼女は俯くことで逸らす。


「嫌よ。貴方と恋人になったら喰い殺されそうだもの。」


「あった!これだよ!この魔導書!」


静かにしろ、と言ったそばから真理の歓喜に溢れた叫び声が聞こえる。


「これを君達に見せたかったんだ。」


緑の豪華な装丁に『森の姫』と書かれた本だ。真理は一頁目の金文字をなぞった。


「ちょっ、ちょっと。図書館内の魔法は禁止って……まぁ、いっか……。」


フルールは注意するのを諦める。それもそのはず、目の前が絶景だったからだ。


本の中には奥行が生まれ、泉が出来ていた。緑珠達の足元には薄く水が溢れており、辺りには木々が茂っている。淡い光が踊り、今にも飲み込まれそうになった、その瞬間。


「はい終わり!」


真理はぱたん、と魔導書を閉める。絶景は光の粒になって消え失せた。


「魔導書は人を飲み込む性質があるからね。あんまり覗き込んでると飲み込まれるよ。」


緑珠は目の前の絶景を反芻しながら、自身の知恵を漁る。


「えっと……『深淵を覗く時、深淵もまたコチラをちらっと覗いている』、だっけ?」


「『ちらっと』は要らないかな。何か可愛いね。」


緑珠と真理は顔を見合わせてくすくすと笑った。


「にしても、ねぇ。貴方達、何しに来たの?貴方達、本を読むと言うよりかは外で悪党を縛り上げている感じでしょう?」


フルールは頬杖をつきながら、四人の顔を覗き込む。


「否定はしないわね。宰相様に言われてやって来たの。」


「なーるほど、宰相に……。」


彼女はしみじみと言うと、真理は苦笑いした。


「この国は宰相との距離が随分と近いんだね……。」


いやいや、とモアは手を振った。


「そんな訳無いじゃないか。オレとフルールでちょっかいかけてただけだよ。」


「宰相様、よっぽど親しみやすいんですね……。」


その瞬間、イブキは目を細めると、緑珠の手を引いて言った。


「ねぇ緑珠様。見せたいものがあるんですよ。」


「料理の本?」


緑珠が揶揄からかうと、彼はこくりと頷いた。彼女はイブキの言いたい事を感じると、そのまま連れて行かれる。


「……何か見つけたの?」


本と本の間、連れて行かれる中で、緑珠はイブキへと問うた。


「『音』、が聞こえました。紛うことなき蓄音機から流れる円盤レコードの音です。多分、此処を抜けた先に……。」


此処を抜けた先、それは本棚だった。緑珠は訝しげに本棚と本棚との微妙な隙間を触る。


「アタリよ。風が抜けているわ。……って、そんなそわそわしてどうしたの?」


緑珠は手をわきわきさせているイブキに不思議そうに問う。


「え、だって、奥に部屋があるんでしょう?秘密の部屋なんでしょう?ちょっとそわそわしません?」


「……其処は純真な少年なのね。」


彼女の一言に、イブキは若干照れる。


「ふふふ。緑珠様は酷いですね。それ以外がヤンデレとか言いたいんですか?」


「良く分かってるじゃないの。」


腕を組んで目尻を下げた緑珠に、訝しげに彼は言った。


「……こんな重いモノを抱えてて、自覚していなかったらそれこそ重症では……?」


「其処は凄く常識的なのね……。」


「緑珠!何か見つけたのかい?」


真理の声に、緑珠とイブキが振り返る。


「えぇ。具体的にはイブキがね。……あら、モアは?」


モアの姿が見えない。緑珠はきょろきょろと辺りを見回す。


「図書館内では飴を舐るのは禁止!走り回らない!」


「はんっ!捕まえられるもんなら捕まえてみやがれ!」


モアと緑珠の視線がかち合うと、モアは妖しく笑った。真理が事の詳細を伝える。


「『どうせまた何か見つけたんだろう。オレが時間を稼ぐから、お前らはさっさと見つけるもんを見つけろ』、だってさ。」


「その厚意に甘えて早く見付けましょうか。」


イブキは隙間に手を這わせながら、本棚の上にある幾つもの彫刻レリーフを見詰める。


「上には彫刻があるね。どれも違う女神の顔が彫られているみたいだ。」


緑珠は目を細めると、言いづらそうに言葉を紡ぐ。


「……見えないわ。」


イブキははっ、として謝ろうとしたが、僅かな可能性を見出す。


「緑珠様。何か彫刻に変わった部位はありませんか。」


緑珠はゆるゆると手を伸ばすと、直ぐにさっと下ろしてイブキに言った。


「イブキ。本棚を前にして腕を横にして。大きな鳥を乗せるように。絶対にぶれちゃダメよ。」


「ええっと……こう、ですか?」


イブキは左腕を横に伸ばすと、緑珠は助走を始める。そして彼の前で跳躍すると、腕を足蹴にして本棚の上まで駆け上がる。


「な、なにしてるの、緑珠……。」


真理の呆れ戸惑いの一言に、緑珠は淡々と答えた。


「この彫刻だけ、凹凸おうとつが凄かったの。何か釦がある筈だわ……。」


べたべたと白磁の手で彫刻に触れると、釦と思しき突起がある。それを躊躇無く押すと──?


「きゃぁぁっ!」


ぐらん、と茶色い本棚が動き、緑珠はぐらりと体勢を崩した。すかさずイブキが彼女を捕まえると、上手く立たせる。


「あ、有難う……今度こそ死ぬかと思った……。」


「僕も冷や汗かきましたよ。」


「まさか本棚が動くなんてね。さて──」


真理は目の前の異様な光景に、腰に手を当てて苦笑い。


「これ、どうしたもんかね……。」


此処は図書館だ。間違い無い。どこの街にでも一つある図書館だ。


だが、図書館の本棚が開き、其処から海に浮島が見える夜の空間が出て来たらどうだろうか。


「この空間は何なの?作り物?」


紺碧の深い海に、六芒星の金色の星が転がっている。……いや、転がってはいない。


何処からともなく上から吊るされているのだ。金色の星は輝き、その輝きが水面に浮かんでいるのだ。一緒に古い音盤のか細い声も聞こえる。


「まぁ、そうだろうね。こんな綺麗な空間なら、大体が宮廷魔導師の所業だ。」


三人がその世界に入ると、本棚は一人でに閉まった。立っている場所も、向こう側に見える対の浮島だ。


「最初は不安定な空間かと思ったけど、これは定型魔道式だね。」


「定型魔道式?」


イブキが不思議そうな声を上げると、真理は簡易に説明する。


「ほら、僕が緑珠を隠したあの魔道式あったでしょ?定型魔道式は言葉自体に意味があるから、魔力が必要では無い。アレだよ。」


「……なるほど。そうなんですか。」


「絶対また何か悪い事を考えてるでしょ。」


緑珠はイブキに態とらしく咎めるように言うと、イブキは慌てて訂正した。


「してませんよ。してないです。」


「今のは完璧に悪い顔をしていたわ。」


ふふふ、と緑珠は一つ笑みを零すと、向こう側に見える浮島を指さした。


「さて。向こうの浮島に行きましょうか。……何か小屋の様な物が見えるわね。」


緑珠が先陣を切って、海の上にある足場に乗る。石の足場は踏むとしゃん、しゃん、と軽い音が響く。


「誰の御邸宅なのでしょうか。」


イブキが呟きながら彼女に続く頃には、緑珠はもう向こう側の浮島に着いていた。


浮島と浮島との間は遠いように思われたが、案外近いのだ。


小屋自体は白く発光しており、窓から中は覗けない。提琴ヴァイオリンの重厚な音と共に、弱々しい声が聞こえる。


緑珠はそっと扉に耳を当てた。すると?




星──夜と海が──と蜂蜜──の風──

遠き──果てに捕ま──貴方の──




「……歌が、聞こえるわね。途切れ途切れに。」


扉から耳を離すと、緑珠はイブキを褒める。


「イブキ、貴方ってば本当に凄いわね。私なんて扉に耳を当ててやっとギリギリ聞こえる程度なのに……。」


イブキは照れて何も言わないが、真理も賛辞する。


「うん。本当に凄いと思うよ。異空間の音すら分かるんだからね。」


「ええっと……有難う御座います。……じゃなくて!」


まだほんのり紅い頬を見せながら、イブキは光り輝く扉を指さした。


「褒められたのは嬉しいですけど、その前にその扉を開けましょうよ!」


「そうね。」


緑珠は頷くと、腰に差してある苗刀に手をかける。


「罠があるかもしれないわ。油断はしない様に。……行くわよ。」


ドアノブに手をかけた緑珠は、意を決して扉を開く、が?


「ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁだぁぁぁぁ!」


「りょ、緑珠様!?」








次回予告!

孤島で緑珠達が出会ったのはとある一人の少女で?そして其処で再び出会う例のアイツ!時間が停止しているのとは裏腹に、物語は急展開を進む──!

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