ラプラスの魔物 千年怪奇譚 49 潜入捜査
イブキと真理が何時もより億倍かっこよくなったりガチで勝負したり緑珠が何時もの億倍冷たくなったりするどきどきわくわくの千年怪奇譚!
「うん!お前達、良く似合ってるぞ!」
「あ、有難う、御座います……。」
「有難うね、モア! 」
モアの目の前には、礼装に扮したイブキと真理が居た。礼装、と言っても豪華なもので、二人の左右非対称の裾が格好良い。
「こういう物は慣れませんね……。」
「よく月で舞踏会とか出かけてたんじゃ無いのか?」
モアの問いに、イブキは苦々しく答えた。
「そういうのは苦手だったもので……久々です。こんな洋服を着るのは。」
「それじゃ、行こっか。」
髪を結い上げて貰った真理は、その言葉に頷いたイブキを見て玄関へと降りる。そして、玄関から外へ出る、と。
「手を上げろ。」
三人を囲うようにして大量の人が居る。首を刈り取りに来たのだろう。殺気が滾っている。
「女は逃がす。我等の用があるのは、其処の男二人だ。」
辺りは明るい洋火が立ち込める夜の街。霧は少しだけ収まっている。それを聞いて、真理がモアへと口早に耳打ちした。
「本当に忍びない事だが、君だけでも逃げれるかい?多分追っ手が来ると思うが。」
「……分かった。」
こくん、とモアは頷くと、ワイヤーを駆使して屋根に登る。そして足音高らかに去っていった。
「モアを逃がしたこと、英断ですよ、真理。」
「有難う。何たってこれから起こる事はちょっと刺激が強めかな?」
ふふふ、と真理は楽しそうに笑うと、一気に真顔になってこう言った。
「誰の差し金かい?」
答える訳もない質問に、真理はイブキへと問うた。
「これさ、僕が思うに帝国側と奴隷商人側、結託してない? 」
「同意見です。こんな国の調印を貰わなければならないのは、大変遺憾なのですが……。貰わないと国が作れませんしねぇ。」
すると、相手の暗闇の方から声がかかる。
「お前等なんぞには国は造れん。今此処で、死ね。」
飛び出して来た一人に、イブキは渾身の蹴りを腹へと繰り出した。『鬼』の力だ。吹っ飛んだ先で、生きてはいまい。内臓が全て破裂していてもおかしく無いのだ。
「嫌ですよ、死にません。」
イブキは真理へと視線を戻した。杖も出して完全に臨戦態勢だ。
「真理。これ、最長何分くらいで終わります?」
ニッ、と愉しそうに、愉快そうに、それが暇つぶしであるかのように真理は笑った。
「五分。」
その言葉にイブキは神器『神鳳冷艶鋸』を構えると、一気に数人を相手取った。
薄暗い大きな廻廊を緑珠は小さな檻に乗って、中から覗いている。もう意識が戻っている者も居るらしい、「助けてくれ!」だとか、「家族が居るの!出して!」だとか、そう言った悲鳴が聞こえる。
逃げられない様に檻の半分を仕切っているであろう足枷と手枷と重り。イブキの足枷もこんなに重くなかったわ。まだ走れるくらいだったもの、と緑珠の気持ちは心の中で渦巻いていた。
「……。」
泣くべきだろうか、と緑珠は淡々と思った。だが、今まで泣いていない人間がいきなり泣き出すのも変な話では無いか?よし、此処は泣かないままで……!
「此処からは祝宴だ。今回は収穫が良かったからな。残りの三人は競売にかけられるが、十二人は此処で売り捌く。」
緑珠の側に居た警備員が、周りの檻を解錠している。
「離して!家に返して!」
「るっせぇ!」
男と女の怒号。中には子供のすすり泣きも聞こえる。
「顔が綺麗な男のガキを連れて来たしな。売れるんじゃないのか?お偉いさんはそういう趣味が有るもんなァ。よしボク、大丈夫だからなぁ?精々お偉いさんの所で媚を売っとけよ?」
なぁんてな!ギャハハハ!と下衆く笑う声が聞こえて、先程の女は引き摺られていく。緑珠は自身の震える肩を何とか収めながら、周りの状況を読んだ。
「──だから──で──な──」
何か聞こえる。神経を研ぎ澄まして、緑珠は先の声をもう一度聞いた。
「我々の動向を探っていた男と女は今も追跡中だ。男二人は死ぬだろうな。この件に対して帝国側も組んだからな。女は後で殺すなり犯すなり好きにしろ。」
そのまま緑珠の檻がある反対側に足音は過ぎ去って行くと、緑珠は三人の心配を始めた。だが、そんな心配は露知らず、またまた連結した檻が動き出す。
「残ったお前等は今から会場へと通す。競売の前の商品説明だ。じっとしておけよ。」
声が響いたかと思うと大きな扉が開いた音がして、一気に会場がざわめく声がする。
『それでは今回の目玉商品の入場です!皆様、是非近寄ってご覧になって下さいませ!』
響いた男の遠隔響棒声。その声に合わせて連結した檻ががらがらと音を立てて会場に入って行く。
余りに暗かった廻廊から明る過ぎる会場に入ったので、緑珠の目は軽く眩んだ。
「眩しい……っ!? 」
其処は、緑珠の想像を絶する場所だった。いや、何が行われていたとかそういう訳では無いのだ。こんな下衆過ぎる場所に、『人が多すぎる』のだ。
「……こ、こんな、こんな事が……。」
もし之が全員貴族……いや、きっとそうなのだろうが、貴族なのだとしたら、例えこの闇を葬ったとてそれは一時的な物にしかならない。
「おお、これが商品の……今回の目玉商品は何かね?」
野太い男の声が、恐らく案内人か何かなのだろう、緑珠の檻を指さす。
「この商品です。この国では珍しい東洋人ですよ。しかも、東洋人にしては目が翠玉色!しかも目鼻立ちも整っておりますし、是非是非……。」
此処まで褒められると言うのも悪い気がしない。が、余りにこの褒め方は危険である。野太い声が再考の意を評した。
「うむ……考えておこう。東洋人を落札するのはアルジエ家だろうしなぁ。」
「ユリウス伯爵も参加するとのこと。これ程珍しい人種は居ませんしね。是非競売に参加してみて下さい!」
何人かは緑珠の檻の周りに集まって、緑珠をじろじろと見つめている。 一人は檻から出た黒髪を弄っている。イブキが居たら腕が切り落とされていそうだ。
はぁ、と緑珠はため息をつくと、目を緋色にして静かに、しかし辺りに聞こえるような声で言った。
「離 れ ろ 」
その声に辺りはシン、と静まり返った。笑顔は引き攣り、全ての視線が緑珠へと向かう。しかし、一人の声が響いた。
「フハハハハ!威勢の良い女じゃないか!よし、決めた!これは私が落とす!」
「ええ!私もよ!綺麗な人形みたいな子じゃない!」
波紋が広がる様に、私も!俺も!と声が響く。湧いた会場を後にして、緑珠を含めた三人が、別々の部屋へと通される。緑珠はまた檻から出されると、目の前には食事があった。
「これは……。」
「食え。飯だ。この先食えるか分からんしな。」
緑珠が疑問を呈する前に、警備員が答えを掲示した。若しかしたら毒が入っているかもしれない。が、今から商品として売るものにそんな事はしないだろう。緑珠は思考を巡らしたあと、席に座った。そして一つ。
(どうせ毒が入っていても、私には効かないしね。)
上質で油の滾った肉を、桃色の唇に運んだ。
「全く……本当に骨の無い奴等ばっかりだね。」
真理とイブキは敵を倒しながら前に進んでいた。矢張り、進む度に敵は増えつつある。
「ぐっ……ぞ、増援をもと」
「お前が今しなければならない事は何ですか!」
イブキは増援を頼もうとしていた一人の兵士を、首に己の足を当てて蹴り倒す。
「ぐぅっ……。」
背中が丸あきの所に、
「背中が空いてるぞっ、ぐえっ!」
イブキに斬りかかろうとしたが、見事兵士は撃沈する。その弾みで足で抑えていた兵士の息が止まった。
「君ってさぁ……。」
二人は若干返り血で染まりながらも、どんどん進んでいく。
「何ですか?」
走りながらも敵を捌きながら、真理は問うた。
「己が汚れるのは全然構わないけど、組織や周りが汚れるのは物凄く嫌がるよね。」
「別に僕はっ、よっと!」
首に乗って来た相手を首筋に仕込んでいた短刀で切り裂く。
「僕が汚れるのも嫌ですよ。だけど、周りが汚れていると生きていくのが大変です、からっ!」
「『境界結界』発動っ、と!」
イブキと真理は背中合わせで進みながら、周りから飛んで来た矢や石や鉛玉を真理の『境界結界』によって防ぐ。
「くっ……やっぱり敵が増えて来ましたね……!」
イブキは攻撃の間を縫って敵の厚い壁を登ろうと準備する。
「烏合の衆にしては中々やるもんだぜ。全く、相手をしているのは誰か分かっているんだろうかねぇ。」
真理は魔弾の準備を始めた。背後は『境界結界』で防御済みだ。大量の魔弾を繰り出す為、魔法陣を貼っている。ならこれからする事は──
「良く聞くが良い。今の僕は機嫌が凄くイイんだぜ?手加減無しにしてあげよう。……天を統べる我が力よ、その身体をもって愚劣を示せ。妄信の信仰心となり、全ては儚さと冷酷無慙を以て美しきを成せ。固有魔法『ラプラスの魔物』!」
魔法陣一つ一つからは溢れ出る魔弾、魔弾、魔弾。小劇場まであと少しだ。大きな人の壁が崩れた。
「有難う御座います、真理。行きましょう。」
イブキと真理は倒れた人の山を足蹴にして、高く跳躍する。真逆あの人の壁が崩れるとは思いもよらなかったらしい。後ろはとても手薄だ。真理は叫んだ。
「これなら……いける!」
ワイヤーを遣り繰りして、モアがイブキと真理の前に、自慢げに立った。
「ふふふ!ちゃんと拳銃を至る所に仕込んで来たからな。後の事も安心しろ。」
後の事、と言うのは緑珠を奪還して、首謀者たる貴族を炙り出すその間、という事だ。
「はい、有難う御座います。」
イブキはにっこりと笑うと、真理は己の手を心配そうに覗き込んだ。
「うう……馬車の運転なんて暫くしてないよ……大丈夫かな……?」
「馬の尻叩いてたら良いんだよ!」
モアは景気良く真理の背中を叩くと、直ぐに真剣な雰囲気になって、言った。
「それじゃあ緑珠の事は宜しく頼んだ。私は事後処理担当、だしな。」
「有難う御座います、モアさん。」
「お前ホントさっきから礼しかしてねぇよなぁ!」
モアは礼まみれのイブキをくすくすと笑うと、そのまま勢い良くワイヤーでその場を去った。さて、小劇場の警備は手薄だ。
「行きましょう、真理。もう競売が始まろうとしている時間だと思います。」
「僕も同意見かな。行こうか。」
正面突破は難しい。二人は小劇場付近の路地裏に忍び込むと、小劇場が見える場所まで跳躍する。そして、警備員に向けて一気に降下して蹴り上げた。
「ほんっと、大したこと無いですねぇ。」
「同意見だよ。さて──」
二人だけが立ちすくむ、夜の裏庭。
「こっからどうするのかねぇ。」
次回予告!
散々会場を暴れ回した挙句、やっとのことで仲直りした二人。そしてモアと真理はと言うと……これもまた暴れ倒していた!続く爆破、爆破、爆破。そして大っぴらな作戦に出る……!




