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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第五章 永久星霧大帝国 ノルテ
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 48 人身売買と宵闇

詰まる緑珠と混在する感情が現れたりイブキのとんでも道具が現れたり煎餅をぱりぱり食べたり作戦が成功する喜びを感じたりと何やかんやも進んでいくお話!

(分かってるけど、分かってるけど……どうすれば良いの……。)


緑珠は複雑な心の中、夕焼け色に染まった街を眺める。


(確かに、私は私を大切にしていないかもしれない。あの子は常世国とこよのくにの第一皇子なのだから、命自体に煩くなるのも分かる。……けど、分かんないわよ。どうすれば良いのか……分かんないわよ……。)


緑珠は自身の家着を見た。家着、と言っても良い物だ。だが、其処は元お姫様。別に良い物だとも思っていない。


普通の物、だと思っている。あれだけ豪奢な刺繍が施されていた服を着ていたので、当たり前っちゃ当たり前なのだが。


緑珠は近くにあった椅子に座り込むと、家に足早に帰っていく雑踏を眺める。


(……思い切って飛び出して来たけど、帰ろうかしら。でも、このままこの場に居た方が作戦が成功する確率が上がる……あぁでも、後で伊吹や真理やモアに怒られちゃうかも……。)


自身の頬をぺちぺち、と叩くと、緑珠は呟いた。


「なに、人の言葉で揺らいでるの、私は!私は蓬莱 緑珠なんだから。お父様とお母様にも、『自分で決めた事をきちんとやるのが、緑珠李雅りょくしりあの良いところ』って言われたでしょ!しっかりなさい、私!」


緑珠は自身に喝を入れながら、すっかり消え去った雑踏の余韻に浸っていた。


ふと顔を上げると、みすぼらしい なり の小さな子供が居る。


「あら、あれは……。」


(そう言えば教育係に教えて貰ったわね。家を持っていない人が、この世には数え切れない程いる、って。本当の事だったんだわ……。『姫様は良いカモですから、近付いてはダメですよ』、と言っていたけど……。)


ふらふらとしている一人の子供を見ながら、緑珠は懐をごそごそ探る。すると、猪口齢糖チョコレート軍粮精キャラメルが見つかる。


「ねぇ、貴方。」


緑珠がふと声をかけると、子供が顔を上げた。『こういう方々は、軽く優しい善意を見せても駄目なのですよ』と教育係が言っていたことを思い出す。だから笑顔は作らない。


「これ、あげるわ。お腹が空いているんでしょ。」


敢えてつっけんどんに言い放つと、緑珠の白い掌に乗ったお菓子を、薄汚れた小さな手がかっさらっていく。


子供の姿が見えなくなるのを彼女は見送ると、緑珠はその場を離れて先の椅子に座った。


「うーん……捕まる為には、路地裏に行くべきなのかしら……。人気の無いところに、そういうのは蔓延はびこるって聞くけど……。」


(でもでも、何か凄い取引してる所に出くわしちゃったり、ご、強姦とかの所にあったりなんてしたら、其れこそ計画がおじゃんなのだわ……この国、治安がそんなによくないし……うん、この宵闇のなっ!?)


緑珠の思案中に、勢いよく口元に何かが当てられる。


(うぅ……之が、ゆうか、いだったら……あた……り……。)


薄れ行く意識の中で、緑珠は心の中、ガッツポーズをしていた。











「伊吹君、何してるの。」


「何時でも迎えに行けるように、緑珠様の位置を電脳コンピューターで見ているんです。」


真理の声に、イブキは頭につけていたヘッドホンを外して振り向く。


「GPS?」


「はい。」


淡々とイブキが答えると、真理が電脳コンピューターを覗き込む。読み込まれた地図に赤い点がついていた。時計はもう、五時半を指している。


「……恐らく緑珠様は帰って来ません。そのまま作戦続行するんでしょう。」


真理のじとーっ、とした視線に、イブキは真理を宥める。


「ちゃんと仲直りしますから。……それに、聞きたいことがあるので。」


「あっ!動いた!」


「話を聞けよ。」


乗り込んで来た真理に押しのけられて、イブキは体制を崩した。真理は不思議そうに問う。


「というかさ、GPSなんか緑珠の何処につけてるの?」


「肌に。」


イブキの突拍子も無い一言に真理は飛び上がった。


「嘘だろ!?」


「嘘です。」


「心臓に悪いよ……。」


真理の表情がころころ変わるのを面白く思ったのか、イブキはくすくす笑う。


「ははは、そんな訳無いじゃないですか。僕に監禁技術はあっても外科技術はありませんよ。」


「そんな技術も、僕は要らないと思うんだよなぁ。」


イブキがイラッとしながら真理に返す。


「そりゃあ神様は監禁するのも楽ですよね……。」


「まず監禁しないからね!?……あと、一つ君に聞きたい事があるんだけど……。」


緑珠がいることを示す赤い点は止まったままだ。真理が恐る恐る問う。


「君のその監禁技術と道具は何処から来たの?」


イブキは電脳コンピューターを見ながら淡々と返した。


「技術はまぁ……城塞で培ったものですかね。……元々小動物を監禁していた節はあったようですけど。」


イブキがボソリと呟いたのを真理は受け取らずに、更に続きの言葉を待つ。


「あ、道具は『光遷院 伊吹のヤンデレ七ツ道具』の事ですよね。全て城塞の経費で落としました。はい。安く済んで良かったです。」


「なんちゅう最低なヤツだ……そして何というネーミングセンス……。」


真理が恐ろしい物を見るような目でイブキを見ると、当の本人はぶつぶつ呟きている。


「……緑珠様が一つ目の手錠消しちゃったので、今は七ツしかありませんが。」


数の不思議を、真理は指摘する。


「え?七ツ道具だから、今は六ツじゃないの?」


元々、とイブキが煎餅を食べながら話始めた。


「あれは八ツあったんですよ。一ツ、緑珠様を拘束した罪人手錠。あれは消されましたけど。二ツ、罪人手錠に繋げられる鎖。絶対にちぎれないので、暴れれば暴れる程無常を感じます。それで、三ツ、睡眠薬入り飴と酒入りの飴。酒入りの雨と睡眠薬入りの飴、舐め間違えると眠くなるんですよね……。」


物凄い速度で煎餅を食べていくイブキを見ながら、真理は何時かの少女を思い出す。


「待って。その睡眠薬入りの飴って……月の上の女の子にあげたやつ……だよね?」


「そうですよ。」


イブキは必死に煎餅の袋へと手を伸ばす。が、あと数枚しか無い。


「君で眠たくなるんだから、あの女の子にあげて大丈夫だったの……?」


煎餅を食い尽くしたイブキは、炬燵こたつの上にあった蜜柑を毟る。


「副作用無いやつですから大丈夫ですよ。高かったんですから、死んでもらっちゃ困ります。」


「経費で落としておいて良くいけしゃあしゃあとそんな事を……。」


蜜柑の一切れを、イブキは自身の口に放り込んだ。


「四ツ、首輪。これは自己出費です。買って来た普通の首輪を、暴れれば暴れるほどきつく絞まる物に自身で改良したんです。GPSつきです。五ツ、足枷。重いのでマグノーリエ本邸の何処かに隠して来ました。

六ツ おくすり。何のおくすりかは貴方の判断に任せます。」


で、とイブキは首と全ての場所を晒して言った。


「これですね。『秘具 七ツ』白鞘の短刀。かなり短めの戦闘用のもの、計五本です。勿論、ヤンデレ七ツ道具なので……何をするか分かりますよね?」


イブキが嫌味ったらしく笑った顔を横目に、真理は電脳コンピューターを眺める。


「大丈夫。分かるよ。アキレス腱斬るんだよね。」


「御名答です。……戦闘用なんですけど、あんまり使わないんですよねぇ。」


また蜜柑を食べようとしている。三つ目だ。従者は主に似る。あながち間違いでは無いかもしれない、と真理は心の中で思っていた。


「多分それ、君が強すぎるからだよ……。」


イブキはその声を無視して、最後の一つを述べた。


「で、『絶対秘密具 っつ』、その名の通りGPSです。あると凄く便利です。……あの人、GPSでも着けてないと直ぐに何処かに行ってしまう。……子供みたいな人ですからね……。」


「あー……。」


真理の納得の眼差しをイブキに向ける。すると、イブキは電脳コンピューターを見ながら目を見開いた。


「あ、これ誘拐中ですね。路地裏入ってますし。」


「え?路地裏くらいは入った事あるでしょう、あの子も。」


真理の疑問の声に、イブキは淡々と返した。


「あの人、暗いところ苦手なんですよ。だから路地裏なんかには入りません。この間も路地裏に入ろうとしたら腕にしがみついてきて、『おおおおおおオバケが出たらどうするの!?』って叫んでましたから。」


「……うーん……想像出来ないなぁ……。」


真理の懐疑の一言に、炬燵へと足を突っ込んでいたイブキが例えを出した。


「……幽霊屋敷に男女カップルで入って、男性の方だけが怖がらずに、女性がめちゃくちゃ怖がるというアレです。」


「あっ!想像出来た!」


真理の理解の一言に、イブキはそのまま続ける。


「で、『僕等も大概オバケみたいなものですよ』、って言ったら『煩い!御託言ってないでさっさと行くわよ!』って言われました。一生懸命になっている時は、何も怖がらないんですが……不思議ですよね。」


さて、とイブキは思い腰を上げた。


「そろそろ僕達も行きましょうか。」


「そうだね。」


イブキは神器を引っ張り出すと、モアを呼ぼうと扉を開ける。が、開けた瞬間にモアは其処に居た。


「今から行くのか?」


「ええ。お呼びしようと思っていた所です。」


「それは良かった。タイミングもバッチリだな。」


モアはニコニコしながら大きな木箱を二つ抱えて部屋に入る。真理はきょとんとしながらそれを指さした。


「モア、それは何?」


ふふん、と自慢げにモアは言う。


「折角、金持ちの悪趣味なパーティに出てぶち壊すんだろ?着替えていかなくちゃ損だぜ?」










ガタンガタン、と揺れる小さな移動式の檻の中、緑珠はゆっくりと目を覚ました。


(……見事、捕まったわね。まだ頭が少しくらくらするけど……。)


外からは野太い男の声が響く。輸送中、その上地下らしい。


「早く迅速に。それでいてゆっくり運ぶんだぞ。此処で目が覚められたら敵わん。」


私は目が覚めてるわよ、と緑珠は心の中でくすくすと笑った。目隠しがされているが、繊維と繊維の隙間から、外がどんな様子か分かる。手枷がされており、箱の中に閉じ込められている様だ。


「隊列を崩すな。下水道にはまると面倒だからな。」


成程、だから臭いが鼻につくのか。隊列……もしや、電車の様に小さな檻が連結しているのか?と緑珠は考えている。


すると、男のぼそぼそとした声が聞こえて、がらがらと大きな扉が開く音がした。


(もしかして……小劇場の地下に入るのかしら。下水道と繋がっている……?)


どうやらその読みは当たった様で、今日の最後の演目らしい、演者の歌が聞こえる。がたん、と小さな檻は止まった。


ゆっくりと木の一枚扉が上がる。緑珠は慌てて目を瞑ると、次の相手の行動を待った。


すると、誰かに担ぎ上げられる。橙色の洋火ランプが過ぎ去ったあと、空気の良さげな部屋に通されるのを感じた。ゆさゆさ、と誰かに揺さぶられて、緑珠は目を覚ました。態とらしく。


「ん……んん……?」


ゆるゆると目を覚ますと、目の前には豪華なドレスと女が一人。片手には短剣が握られている。よし、怯える演技だ。


「声を上げちゃいけないよ。アンタはこれから売れられるんだからね。傷物にはしたくない。」


(うん。上手いわよ私。目を見開いて。瞳孔を使うのよ。次は恐る恐る立ちなさい。)


自身に言い聞かせながら、緑珠は足を震わせて立ち上がる。女はそんな悪い人間でも無いらしい。言う通りにした緑珠に、にっこりと微笑んだ。


「よしよし。さぁ、着替えを手伝ってあげる。髪も結うからね。じっとするんだよ。」


緑珠は内心、自身の演技の上手さに狂喜乱舞していた。女は着替えを手伝いながら、緑珠へと問うた。


「アンタ、東洋の人かい?」


緑珠はその返答に困った。父親は茶髪、産みの母親は銀灰色の髪だ。髪色は基本、父親と母親からハーフハーフで受け継ぐ。


なのに黒髪とは、父親が『隔世遺伝じゃないのか?』と笑っていた事を思い出す。確かに歴代の優秀な王には黒髪が多かったらしい。なのに国が継げなかったなんて……という考えを緑珠は振り払った。


「聞こえてる?」


「……ええ、そうよ。」


中年に差し掛かった女の問いに、緑珠は寂しそうに返した。


(演技が上手すぎるわ、私……!)


「東洋の人が何でこの国に……。しかもこんな時に来るなんて……ツイて無かったねぇ。しかも身なりも良さそうじゃないか。何処かのお姫様かと見まごうくらいさ。」


綺麗なドレスを着ながら、緑珠は内心、確かにお姫様だったけどね、と苦笑いする。適当な理由を緑珠は述べた。


「……家族でね、旅行に来てたの……お父様と喧嘩して、飛び出して来て……きっと心配なんかされて無いんでしょうね……。」


ぽろぽろ、と涙を流す。完璧な演技だわ!と心の中で、顔と真反対の喜びを示した。


「残念だけど、返す訳にはいかないよ。私だって仕事だからね。病気のあの子の為に、ちょっとは働いてやらないと……。」


結われた緑珠の髪に、どんどん装飾が成されていく。薄く薄く、緑珠は問うた。


「……子供が、居るのね。」


「あぁそうさ。三人居るんだけどね。二人が男で一人が女の子さ。その一人が身体が弱くてねぇ。風邪をこじらせちまったのさ。」


「この国は、子供が多い人が多いの?」


不思議そうに顔を傾げた緑珠に、女は簪を差していく。


「そうだね。貧富の差が激しい国さね。あの子も元気になれば、嬢ちゃんみたいに髪を伸ばして結ってやれるのにねぇ。さ、出来たよ。もう一度檻に入りな。」


軽く化粧が施された自分自身を緑珠は一瞬だけ見ると、ドレスの裾を掴んで檻の中へと入った。正しく言うと、押し込められた。







次回予告!

イブキと真理が何時もより億倍かっこよくなったりガチで勝負したり緑珠が何時もの億倍冷たくなったりするどきどきわくわくの千年怪奇譚!

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