表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第一章 完全脱国 旧帝都
6/256

ラプラスの魔物 千年怪奇譚 4 ドキドキワクワクの一攫千金

旅をするための旅費を集める緑珠だが、アバウトの代表格 緑珠がそんな真面目なことをするとでも?という訳で、お姫様ご一行が一攫千金の遠足に出ます!古来より歌われている龍、華胥かしょの宝玉を手に入れるという、おぞましく危ないことをする!

「んん…。」


炎天下の夏、緑珠は唸りながら目の前の地図と金を見る。真理が不思議そうに緑珠の顔を覗いた。

「どうしたの?何か問題があるのかい?」


緑珠が腕を組みながら呟いた。


「ねぇ。真理は前言ってたわよね。『国を作る為には、四大帝国の調印が必要』だって。一番近くの霊力大国でも、5日近くかかるのよ。旅費が足りないわ。野宿で抑えるとしても、1日分で尽きちゃう。」


華幻が広げている地図を見て言った。

「地上は広いんですね。帝国はこんなに広くありませんでした。」


興味深々に真理は華幻に問う。

「そんなに狭いの?あの帝国は。」


華幻はにっこりと笑って答えた。

「そうですね。月の上ですから、あんまり住める場所は有りません。」


緑珠はガッツポーズをして立ち上がる。

「お金を貯めるわよ!……と言っても、一攫千金するくらいじゃないと、上手くいかないわね。」


いや、とイブキは訂正する。


「まず一攫千金ぐらいが上手くいかないと思いますよ。」

「いくわよ!夢が無いわねぇ…昔、勇者になりたいとか思わなかったのかしら?」


間髪入れずに緑珠が1人で言って、1人で思いつく。

「そうだわ!怪物を倒しに行きましょう!決定!」


3人が唖然として緑珠を見ている。というか普通に呆れている。イブキが真理を見ながら口を開いた。

「ほら、怪物いますよけど。殺します?」


真理が反論した。

「僕は怪物じゃないよ!神様だもの!」


イブキが包丁を持って真理の首筋に当てる。

「ほら、殺れますよ。殺ります?」


緑珠がさも当然そうに言った。

「字が違うわよ。イブキ。それに神様を殺したらどうなるのかしら。……二つに分離するの?」


イブキが包丁を下ろして汚物を見るような目で言った。

「…気持ち悪。」


真理が叫んだ。

「そんなガチトーンで言わないで!ちょっと本性見えてたよ!それに分離しないから!普通に死ぬからね!」


華幻が何処と無く話に付いていけていない中、緑珠がきょとんとして真理に問う。

「…神様って、死ぬの?そうしたら、世界は潰れちゃったりしないの?」


真理が苦虫を噛み潰したように言う。


「まぁ、僕は神様だけど…僕の次の代からは『人間+神様』みたいな感じになるんだ。だから滅んだりはしない。潰れちゃったりもしない。」


華幻が恐る恐る言った。

「……あの……真理さんが神様って……一体全体……?」


緑珠が華幻に笑顔で言う。


「あら、華幻ちゃんには言ってなかったかしら?私達が初めてあった時、何か神様っぽいから神様じゃないの?って言ったらやたらめったら焦り出したから、『あーこれは神様だなー』みたいな感じで、今は普通に神様って前提で話してるのよ。」


華幻が納得した様に言う。


「成程、そうだったんですか…って、えぇぇぇぇぇ!」

「時差ね。」

「神様って、あの?世界創った人?いや、人では無いですよね…え?え?」


まぁ、とイブキは華幻に言った。

「とんでもない前提で話しているから、別に信じても信じなくてもいいぞ。」


ぽんっ、と緑珠は手を叩く。イブキが、何処と無く言う事を薄々勘づいているようで。


「何かねぇ…怪物とか倒しに言っても、それが有名じゃなきゃ意味無いのよね。」


恐る恐るイブキは尋ねる。

「だから…それは…もしかして…とてつもなく有名な怪物を倒しに行く、という事ですか…?」


緑珠はにっこりと笑う。

「そうよ。よく分かったわね。流石私の守り人だわ!」


イブキが半笑いで言った。

「それは…お褒めに預かり光栄ですが…華幻を除いた僕達ふたりが着いていかなちゃ駄目なヤツですよね?」


勿論よ、と緑珠はにっこりと笑った。そして、イブキはまた問い続ける。

「そして…それは今日行くとか…そんな訳ないですよね?」


緑珠は腕を組んで言う。

「其処は分かってなかったのね。」


イブキは眉間を抑えながら言う。

「まさか…今日、行くとか…そんな訳…。」


くるくると舞いながら緑珠は言った。

「思い立ったが吉日よ!そういう訳で、今日行くわ!」


ねぇ、と緑珠は続ける。

「ねぇ真理。ここいらの辺りで有名な化け物って居るかしら?何か、伝承に出てくる様なヤツで。」


真理はどこからともなく巻物を取り出して中身を見る。

「マグノーリエや周辺地域は伝承が多いからねぇ…でも飛び抜けて一番やばいヤツは、『華胥かしょ』かな…?」


突然の事にぼおっとしているイブキを置いて、緑珠は尋ねた。

「『華胥』って……理想郷の事よね?どうしてそれが一番有名なのかしら?」


真理が読みながら続ける。


「ええっとね…綺麗な白木蓮色の龍なんだけどね、幻覚を見せる龍なんだって。近くの街から困ってるんだけどって依頼がだいぶ前からあったらしいんだけどね……皆精神を殺られて帰って来てるんだって。」

「いや、何でそんなとこ住んでるのよ。」

「それ超絶思いました。」


真理の発言に緑珠とイブキが間髪入れずに返す。よし、と緑珠は言う。

「行くわよ!イブキ、真理!用意なさい!」


イブキが怪訝そうに言った。

「はいはい、行きますよ。」


因みに、と真理は言った。


「この『華胥』、何か珍しい宝玉を持っているらしくて、『華胥の涙』って呼ばれているらしい。『華胥』は頗る長生きで、生きている内に宝玉を作るらしい。原理は不明。まぁそう言うのを持って行ったらそれなりに凄いって言われるんじゃないかな?」


イブキが緑珠に言った。

「着替えましょう。向こうの部屋に服とか累々置いてきました。もし、旅をするならと買っておいて正解でしたね。」


イブキは華幻を呼ぶ。

「華幻、緑珠様の着替えの手伝いをしろ。呉々も粗相の無いようにな。」


緑珠は華幻を連れて指定の部屋まで行く。すると、其処には濃紺や水色を基調とした中華風の、金の留めの前開き戦闘服がある。ブーツも、簡易な黄水晶の髪飾りもある。華幻が口を開いた。


「兄はこういう、服のセンスとかがあるんです!ちょっとした自慢なんですけど……。」


緑珠は華幻を愛おしそうに、撫でて言った。

「ご自慢の貴女の兄は、私の自慢の守り人よ。」


華幻は服を取りながらにっこりと笑って言った。

「それは……お力になれて、それはとても嬉しいお話です。これからも兄を宜しくお願いします。」










「あぁっつーい!」


至極当然そうにイブキは地図を広げながら言った。

「そりゃそうですよ。炎天下の砂漠の中、歩いてるんですもんね。」


真理はイブキに有り得ないものを見る様な目で言った。

「君…涼しい顔してるけど、暑くないのかい?」


笑顔でイブキは返した。

「まぁ……元城兵ですから。夏の暑い中、冬の寒い中、立っていたわけですし…暑くないというかは、慣れましたね。」


緑珠が先頭を歩き、イブキ、真理の順に歩いている。額の汗を拭いながら、緑珠はイブキに問うた。

「ねぇーイブキぃー!何時までこの砂山は続くの?」


イブキはやんわりと否定する。

「そんなヤワじゃ無いですよ、これ半日続きます。」


女性が持つには不釣り合いな苗刀を引っ提げながら、緑珠は呟いた。


「日栄帝国にはこんな広い砂漠無かったわよ…何でなのよ…暑すぎでしょう…。」


真理が不思議そうに緑珠に尋ねる。

「日栄帝国にも砂漠があったのかい?月の上でしょう。」


当たり前に緑珠は返した。

「あったわよ。縦10m、横10mの、砂漠。」


眉を顰めて真理は問う。

「それ砂漠なの?」


緑珠は笑顔で言った。

「ええ、砂漠だったのよ…って…あれ……ね、イブキ、あれは一体何かしら?」


イブキが緑珠が指を指している方向を見て言った。

「恐らくは…『砂嵐』と呼ばれる類の物だと。」


緑珠はきょとんとしてイブキに尋ねる。

「なぁに、『砂嵐』って。また怪物の類なの?」


1キロ圏内に豪風を見た、イブキは目を細めてその場を去ろうとする。

「…いえ、これは日栄では無いものですね。大きな砂の柱がこちらに向かってくると考えた方が良さそうです。」


それに、と真理はイブキの後を続ける。

「かなり大きくない?これは普通に逃げた方が良さそうだけど。」


でも、と緑珠は両際を指さして言った。其処にも有り得ないほどに発達した砂嵐があった。

「反対方向に逃げても、反対からも来てるわよ?」


残された道は、真っ直ぐだけ。イブキは緑珠の手を引いて走り出す。その後に真理が着いて走り出す。

「…そんなにやばいものなの?これ?」


イブキは走りながら叫ぶ。

「あったり前でしょうが!見て分かりませんか?かなりやばいでしょう!巻き込まれたら死にますよ!」


何かを見透かし、測るように緑珠は言った。

「死なないわ。」


少し笑いながらイブキは尋ねた。

「さて、それは何故でしょう?」


にやりと緑珠は笑う。それは、誰もが魅入る笑いで。

「…………だって、私が居るんだもの。死ぬ訳ないでしょう。」


しかし、その視線は真理を射抜いていた。真理は頭を掻きながら言う。

「はぁ…君って、本当に強い人間だ。」


それに、と緑珠は付け加えた。

「私は能力が使えるのよ?」


イブキがそれを聞いて緑珠の発言に付け加える。

「それは感情が昂った時ぐらいでしょうが!」


ふと、緑珠が止まって、イブキは振り返る。

「ふっふっふっ…私の力を見せてあげるわ。一国の皇女の力、見せてあげる。」


迫る砂嵐を前に、両手を横に出すと、少し力を込めて言った。

「あーあ、走るのに疲れてしまったわ。『砂嵐が無くなれば良いのに』。」


すると、まるで元々無かったように、全てが消えて無くなった。イブキがきょとんとして緑珠を見て言う。


「うっふっふ……凄いでしょ!真理に教えて貰ったのよ。『元々力が強いから、少し霊力を加えれば使える』と言う話を聞いてね。さ、行くわよ!もう近くの街は直ぐ其処よ!」


隣を遠ざかって行く緑珠を目を見張りながらイブキは真理に言った。

「……とんでもない人ですね。あの人は。」


真理は呆れ笑いながら言った。

「それは本当に同感だよ。全く、全く変わった人間だ。」


緑珠が2人に元気に手を振る。

「2人も早く来なさいよ!何してるのよ!お金を稼ぐわよー!」


イブキがそれに対して言った。

「分かってますよ。もう、こうなったら行くしか無いでしょう!」


ほら、彼処、と緑珠は街の明かりを指さす。

「走ったから随分と早く着いたわね。夜の砂漠では野宿したくないわね。早めに宿を見付けましょう。」


街に割り行って入ると、緑珠は辺りをかける。

「こんなにいい場所に来るなんて…久々だわ!」


広場の近くに居た少年が林檎に似た何かの果物を渡しながら言った。

「お姉ちゃんは街に出たりしないの?」


緑珠は礼を言いながら食べる。

「有難う。あんまり出ないわね。お代は幾らかしら?」


近くに寄ったイブキに緑珠は軽く怒られる。

「緑珠様!もし毒が入ってでもいたら…!」


もぐもぐと口を動かしながら言った。

「まあ、そのふ時はその時ふよ。」


イブキは眉間を抑える。その様子を真理はくすくす笑っている。

「本当に、変わった人だね。」


緑珠は不思議そうに笑った。

「そうかしら?何処にでも居るような人間よ?」


ねぇ、と緑珠は少年に向き直り、ながら言った。

「この近くの宿って何かいい所無いかしら?」


少年はさも残念そうに唸りつつも、返した。

「今日はね、ちょっとしたこの街のお祭りなんだ。だから沢山人が来ていて……殆どの宿が埋まってるんだよ。」


緑珠は顎に手を置きながら、少年にもう一つ質問を浴びせる。


「じゃあ……水辺が近くにある洞窟なんて無いかしら?洞窟じゃなくても構わないわ。水辺が近くにある場所が良いのよ。知らないかしら?」


じゃあ、と少年は指を指す。

「町の外れに良い場所があるよ。彼処には雨を凌げる場所があるよ!」









「此処、ね。良いじゃない。」


3人の目の前には、雨風凌げそうな小さな洞窟が砂漠と密林との間にあった。緑珠は荷物を淡々と置くと、手を上げて笑う。


「よーしっ!近くの川で水浴びするぞー!」

「えっ……ちょ、緑珠様!?」


真理が眉間を抑えながらイブキに言った。

「……あのお姫様、とてつもなくお転婆さんだね。心配になるよ。」


イブキがため息を付く。

「心配になる前に行っちゃいますからね……はぁ……取り敢えず、色々準備してたらいいですよね……。」


ふと、砂漠の夜空を見て、イブキが言った。

「あーんな小ちゃい、穴の空いたような所に住んでたんですねぇ…。」


真理が薪を持って来ながら言う。

「住み心地はどうだった?」


少し満月を見上げながら、イブキは手を動かす。

「…別に。普通の国でしたよ。まぁ、僕には録な事は分かりませんが。」


真理が不思議そうにイブキに尋ねた。

「と、言うと?」


イブキは目を細めながら、何かを見つめながら淡々と作業をこなす。


「自分で言うのも何ですが、僕は大貴族の次男でしたから。特別緑珠様みたいに、父親の事や国の事で悩んだり、国民の事などで悩んだ事はありませんでした。別段勉強も頗る出来た訳でもありませんし、まぁ…一つはこの性格と、神器と跡継ぎの事ぐらいでしたから。良くも悪くも普通の生活を送ってたんですよ。」


真理がそれを聞いてくすくすと笑う。

「もし、緑珠が女帝になったら、君は国の事を一番大事にするんだろうねぇ。」


それを聞いて、イブキはどうすることも無く答える。


「…緑珠様がそれを一番大事になさるのなら、僕もそれに便乗するのみです。」

「イブキぃー!真理ぃー!水浴びしてきたわよー!あのお水ね、真水でね、全然川臭くさにおいしないのよ。まぁ、全部真水、って訳にはいかないと思うけど…。」


緑珠はそんな事を言いながら、自分が持って来た荷物を漁ると、桜の装飾が施されたブラシを取り出す。


「うふふ、もって来て良かったわ。絶対これが無いと髪が傷んでしまうもの。」


イブキが緑珠に微笑んで言う。

「良ければ僕が梳かしましょうか?」


緑珠はそれを聞いてとても真剣そうに言った。


「駄目よ。この長い、傷まない黒髪の保つ為には、梳かし方にもコツがいるのよ。家に帰ったら教えてあげるわ。説明すると長い事かかるのよ。」


イブキがそれを聞いてくすくすと笑った。

「分かりましたよ。教えて下さいね。」


緑珠はブラシを持ちながら自慢気に笑った。

「勿論よ。ちゃあんと教えてあげるわ!」


イブキが口を開く。

「僕らは後で水浴びします。さ、夕飯を頂きましょう。」


緑珠は目をキラキラさせて言った。

「こんな夜遅くに食べるのは初めてだわ!とっても楽しみ!」


イブキから渡された鳥の燻製を食べると、何かを思い出す様に言った。


「…王宮では、とっても豪勢な食事だったわ。でも、これだけ人の思いが詰まったものも、美味しいものなのよね。」


緑珠は少し寂しく、笑った。

お楽しみ頂けたでしょうか。これから、緑珠の旅が始まります。新しい出会いもありましたね。それでは…次回、御手洗みたらい 麗羅れいら神巫女女皇が治める、霊力大国『御稜威みいつ帝国』編、その旅路の物語。 早速マグノーリエから出た3人だったが、盗賊に襲われて…?第5話、9月下旬に公開予定!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ