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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第五章 永久星霧大帝国 ノルテ
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 47 喧嘩と感情下手

まさかの緑珠とイブキが大喧嘩したり真理の倫理観の歪み具合が発揮されたりオークションに乗り込んだりと乗り込み編、開幕!(活動報告をちょろっと覗いて頂くと嬉しいです)

「お?皆起きてるのか。おはよーさん。」


「ふわ……おはよう、もあ……。」


まだ目がとろんとしている緑珠を、モアは見つめる。朝食を作ったイブキが振り向いた。


「申し訳ありません……緑珠様は朝が弱いものですから。」


「ふふふ……わたし、夜が弱いの……。」


「今朝ですよ、緑珠様。」


「そっかぁ……。」


また柔らかい畳の上でぐーぐーと寝息を立て始めた緑珠をイブキは軽く揺する。


「というかね……イブキがもっと遅く起こせば良いのではなくて……?」


ぼんやりと薄目を開けた緑珠に、イブキは口を尖らせて言った。


「貴女、それ言って起こすの一時間遅くしても同じこと言ってましたよ。」


「そっかぁ、ならしかたないわね……。」


緑珠がまたもや微睡みの海に沈もうとするのをイブキが止める。


「いやいや、起きて下さい……。」


「あはは、ほら緑珠。起きなくちゃ、な?イブキを困らせちゃ駄目だろう?」


「そっかぁ。大好きな伊吹の為だものね……。」


彼女の唐突な告白に、イブキは真っ赤になって座り込む。


「とつぜんね、やるのはやめてって……いったじゃないですかっ……。」


「緑珠は朝、本音が出やすいタイプだもんねぇ。」


真理が緑珠の近くでごろごろしながら言った。そして、嬉々としながらモアを急かす。


「ねぇねぇモア!アレあるでしょ?新聞!見せて見せて!」


不意を突かれたモアは真理に新聞を出そうとする、が。


「あれ?モア?」


「ちょっと待ってくれ。見て欲しい記事があるんだ。例の誘拐事件、あと五日後だろ?それに関係してるんじゃ無いのかな……と思ってな。」


寝惚けている緑珠を置いておいて、真理とイブキは記事を覗き込む。


そこには、『誘拐事件と関連が?帝国関係者の五人の遺体発見』と書かれていた。それはまさしく、


「なぁ、どう思う?」


モアの一言がイブキの仮説を打ち破る。恐らく昨日の襲撃だろう。一人は腰まで真っ二つに切り裂かれていたと書かれている。


そして、きっと自身が放った『呪詛』が含まれた言葉で五人目は死んだ。


まるで何処かの殷地安インディアンの様だ、とイブキは自嘲する。


「さぁ……ですが、帝国関係者が五人も死んだとなれば、帝国側も黙っていないでしょう。犯人探しが楽になりますよ。」


一瞬だけ仄暗い表情が真理の顔を横切ると、何時も通りの笑顔で返す。


「そうだね。伊吹君の言う通りだ。」


「もしかして、これは私、貢献出来たのでは……!?」


「もあはえらいわねー……。」


モアの歓喜の声に対して、寝惚けた緑珠の声が響いた。そのままぐったりとしながら緑珠は問うた。


「ねぇーイブキー……見つかったのー?捕まえるための、まーすーいー……。」


のそのその動きながら、卓袱ちゃぶ台にぐったりと倒れる。ふふ、とイブキは笑った。


「それは勿論、見つけました。」


緑珠は段々目が覚めてきたらしく、ごしごしと目を擦りながら言った。


「あ。待って、あてるわね……イソフルラン……えっと、商品名フォーレン、とか……?」


「違います。が、良い着眼点です。」


イブキの笑顔の一言に、緑珠は完全に顔を上げた。


「セボフルラン。」


「正解です。」


でも、と緑珠が思案の海に落ちる。


「でもね、伊吹。セボフルランは時間はまだしも、上手く吸入しなくちゃ死んじゃうわ。麻酔医でも居ないと……ねぇ?」


緑珠は自分で言った言葉に勘づいて、イブキに顔を上げた。


「そうです。『麻酔医でも居ない』と、出来ませんよねぇ?まぁ、麻酔医が噛んでいるはともかくとして……モアさん。」


イブキはモアへと向き直ると、不思議そうにモアは首を傾げた。


「ん?どうしたんだ?」


薄く笑いながら、彼は言う。


「この国って、5MeO-DMT、合法ですか?」


モアが戸惑っているのを見ると、真理が緑珠と同じ格好で返した。


「合法だよ。それが……どうかしたのかい?」


イブキは5MeO-DMTの作用を述べる。


「5MeO-DMTはドラッグの一種です。気化させた気体を吸引すると、十五秒ぐらいで気絶して一時間ぐらい起きません。……で、僕がもう一度洗いざらい調べ直した結果……。」


緑珠が卓袱台にある白い紙の束を指さした。


「これが見つかった、という訳ね。」


「そうです。しかし、」


イブキが帝国の地図を開くと、硝子筆がらすぺんを持つ。


「5MeO-DMTは三十分から一時間程しか持ちません。で、過去の事件発生地帯を点にして計算した結果、重なった場所がアジト、という訳です。」


事件周辺は丸い円が書かれていた。緑珠はイブキから硝子筆を受け取ると、こくこくと頷く。


「分かったわ。イブキ。説明を有難う。有難う、なんだけど……。」


ぐぎゅるるるる、と緑珠のお腹が鳴る。


「朝ご飯、頂いても宜しいかしら。」












「こんな物ね。大した事ないわ。」


ふふふ、と朝食を終えた緑珠は自分の実績をニヤニヤしながら見ていた。


「……という事は、此処ね。真理?」


緑珠は傍に居た真理へと、確信深く問うた。


「うん。多分其処だろうね。」


緑珠が握っていた硝子筆の鋭い先が、とんとん、と一つの小さな劇場を指した。モアが首を傾げながらそれを覗く。


「何で其処なんだ?確かに重なっては居るが、こういうのは大体家とかに隠すんじゃ……。」


「家に隠しますよ、『人質』はね。恐らくオークションはパーティの後、何人かの珍しい『人質』は競売にかけられます。」


イブキの一言に、そうなのか、とモアは頷いた。緑珠が騒ぎ出す。


「じゃあ乗り込むのね!ふふふ、楽しみだわ!」


いや、とイブキは緑珠の楽しい提案を否定する。


「今までは割とそれで出来ましたが、流石に……競売の前の身辺調査は厳しいものです。ですから、単騎で乗り込むのが通例です。」


イブキの一言に、イブキとモアと真理の視線が緑珠へと刺さった。


「うん。目が翠玉色だし、髪も射干玉の髪だし……。」


「へ?」


緑珠はイマイチ、状況を理解していない。恐る恐る、彼等の考えを口に出した。


「え?もしかして私が行く感じなの?」


「や、やっぱり危険です!僕が……。」


「多分ああいうオークションに野郎はお呼びでないと思うわよ。心配してくれるのは嬉しいけどね?」


「う……。」


緑珠の淡々とした一言に、イブキは見事撃沈する。


「大丈夫。私が行くわ。上手くやるもの。」


「本当に?緑珠、居眠りしてる時に人を投げたりしちゃダメだよ?」


真理の笑いながらも心配そうな一言に、緑珠はくすくすと笑った。


「あはは、しないしない!今はちゃんと眠る時に円の縄を作ってるでしょ?」


「円の縄……?」


モアの不思議そうな一言に、緑珠は少し恥ずかしそうに笑いながら返した。


「私、武術とかの教育を受けていたものだから、居眠りしているとある一定の距離になったら人を投げちゃう癖があって……。」


(ダメだ、めっちゃ心配だ……。)


モアは苦々しく思いながら、緑珠はそんな気持ちは露知らずそのまま続ける。


「ええ。私が行くわ。私がやらなくちゃ、誰がやるって言うの?」


三人の気まずそうな顔に、緑珠は苦く笑いながら続ける。


「お願い。理解して頂戴。ね、どうせ人は何時か」


死ぬのだから、という言葉を緑珠は発する事が出来ない。その場に居たイブキが、思いっ切りつっけんどんに言い放ったからだ。


「僕は貴女のそういう所が世界で一番大っ嫌いです。」


イブキが眉間に眉を寄せて、怪訝そうに緑珠を睨んでいる。


「ね、ねぇイブキ。そんな事を言わないで。だって、私以外に誰が行くの。」


「そういう事じゃ無いんですよ。」


しどろもどろになっている緑珠に、イブキは更に追い討ちをかけた。


「何時も言わなくちゃ分からない貴女の事です。言いますが、お願いですからもうちょっと自分の身体を大切にして下さい。」


「ごめ、んなさい……。だ、だからそ、んなに、おこらないで……。」


緑珠の頭の中には、怒られる……即ち声を荒げられる、と言うのは罵倒に等しい。


(イブキにそんなつもりが無いのは分かってる。分かってるから、こそ。怖いわ。)


しまった!とイブキは顔を顰めると、吃る様にして言う。


「……申し訳ありません。部屋に戻ります。」


その声を聞いて、緑珠は慌てて追いかけていく。


「あ、ねぇ!ちょっと待ってよ!」


どたどたと走っていく二人を見る、モアと真理。神様はくすくすと笑った。


「ふふ。緑珠は感情下手かんじょうべただからねぇ。」


モアが不思議そうに返した。


「口下手、じゃなくて?」


真理は冷たい風を足元に感じながら、薄く目を閉じて笑った。


「うん。感情下手。自分の感情に素直に馴れてないって言うか、上手く見る事が出来ない、と言うか。そりゃそうだよね。あんな嫉妬渦巻く王宮に、感情を持って居たら気が狂うと思うよ。」


「そう言うのを口下手って言うんじゃないのか?」


最初に転がり込んで来たモアの一言に、真理は不意を突かれた様に目を開いた。そして、微笑する。


「……そうか。見えないとそういう選択肢が。ふふふ、そうかもしれないねぇ。」











作戦決行日。



「ねぇ!?どうしてそういう事を言うの!じゃあ私はどうすれば良いのよ!」


「だからあれほど言ったじゃないですか!」


「煩い!伊吹なんてもう知らない!大っ嫌い!」


緑珠は服を翻して去っていくのを、真理はただただ傍観していた。


(何故、僕は何時も第三者視点なのか……まぁ、世に蔓延る第三者視点は神様ぼくの物なんだが……。)


「随分と典型的な別れ方だね、伊吹君。」


真理は薄笑いを浮かべながら、緑珠へと伸ばした手をゆるゆると下ろしているイブキを眺める。


「追いかけない方が良いよ。今は、ね。君も緑珠も一度頭を冷やした方が良い。」


イブキは己の手を眺めがら、真理へと淡々と問うた。


「……どうして貴方は何時も、そうやって達観しているんですか。人間を、生きとし生ける、全ての世界に蔓延はびこるモノを、そんな冷徹に見下す事が出来るんですか。」


イブキの何の感情も篭っていない一言に、真理はありったけの皮肉を込めて返した。


「『見下す』とは心外だなぁ。……まぁ、答えるとしては……暇つぶしだから。君は暇つぶしに情をかけたりするかい?」


目を見開いて振り返ったイブキに、真理は淡々と手に輪護謨わゴムを絡めながら話す。


「それでは君達が大好きな、例え話をしてあげよう。世の罪を被った哀れな神の子の様に、ね?」


「……何言ってるんですか?」


真理はふと我に変えると即座に訂正する。


「あぁ、そうだ……これはまだ未来の話だな。僕の息子が中二病ノートを書いて、それが別の世界で聖書とか崇められる世界の話だね。うん。その話はまた今度。で、例え話なんだけど。」


真理は輪護謨わごむをうにょうにょ触る。


「此処に輪護謨がある。何でも良いさ。長い時間、誰かを待っている時間の間、指を使って面白い遊びを考えたとしよう。その時間が過ぎ去り、面白かったからまたしよう……そう思っても、もう面白くない。不思議なものだね。」


全てを達観した真理は、苦々しく目を細める。


「分かってくれたかい?所詮、生きる者は発見する事が好きだ。だから発見し終わると面白くなくなる。世界を探求し続けて行くと、何時か何もかも面白くなくなる。」


手元にあった折り紙でぱっくんを作り出すと、真理はそれをイブキに向けながら言った。


「さて、此処でこの『私』が『キミ』に教えておいてあげよう。『余り探求、詮索はしない』事だ。これは代を重ねようと同じ。この朧月夜の血を引く者は、誰しも。誰に何を聞かれても、口を割らない。だって割ってしまえば生きていくのが辛いだろう?」


イブキは答えを求めるのは毛頭無理な事を理解すると、もう一度だけ問うた。


「……詮索しない方が良い、と言ったそばからあれなんですが、じゃあ貴方はどうしてこの世界を壊さないんですか。暇つぶし、なのでしょう?」


真理はその問いに胸を突かれると、目を細めて頬杖を付いて返答する。


「……さぁ、分からないねぇ。僕は世界中、全ての知識、全てのこと、森羅万象を知っているけれど……自分の気持ちは、よく分からないんだよ。」







次回予告!

詰まる緑珠と混在する感情が現れたりイブキのとんでも道具が現れたり煎餅をぱりぱり食べたり作戦が成功する喜びを感じたりと何やかんやも進んでいくお話!(活動報告ですよ!活動報告を見るんですよ!そしてptを下さい!)

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