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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第五章 永久星霧大帝国 ノルテ
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 46 匕首伝説 ※

人身売買もいよいよ佳境に入ったりイブキが緑珠の事を拘束したりまたまたおぞましいことを聞いたりと何時も通りの千年怪奇譚!

クイズ大会は公平さを保つ為、真理とモアがクイズを出題する。まずは真理の番だ。


「はい!それじゃあいくよ、緑珠。伊吹君の生年月日を教えてくれる?」


玉李ぎょくり四十二年十一月十五日。」


緑珠の一言に、まぁまぁ、とモアはしみじみと言った。


「これくらいはまぁ基礎だな。」


「僕も緑珠様の誕生日を存じていますよ。八月二十一日ですよね。」


緑珠が美しい顔を歪める。


「ったくよぉ、これで『光遷院の子よりも暫くは年上だわ!』って言ったら『お巫山戯も程々になさいまし、姫様。』って言うのよ。あの教育係。」


緑珠の呆れ腐った一言に、モアはくすくす笑いながら質問を続ける。


「それじゃあ次だな。好きな食べ物は?」


「納豆ね。あと陸蓮根オクラ。嫌いな食べ物、というか嫌いなものは倶利伽羅とトマトね。」


「本当によくご存知ですね……。」


イブキの見開かれた目を、緑珠は少し笑いながら見る、が。どんどんオーラは黒くなる。


「何で好きな物が納豆なの!?ハムとかにしてくれよ……お歳暮どうするんだよ……!送る身にもなれよ……!」


「何かすみません。」


他は……と緑珠がイブキの個人情報を暴露していく。


「シャンプーはふつーの奴ね。アロマ付きの奴。後は……お風呂に入る時、まず最初に洗うのは右腕。体調が悪い時は左足から洗うわね。寝る時は抱き枕を抱きながら寝るタイプ。横向きね。後は……漫画よりも小説派。犬か猫かと言われたら両方。父親から貰った銀製の断紙刃ペーパーナイフを大事にしている。今は貴方の部屋の机の裏にあったりするわね。えっと、」


「いや、あの。ちょっと待って下さい。」


「何?」


緑珠の止まらない言葉をイブキは制すると、彼女は真顔で向き直った。


「……自分の事をこれだけつらつら言われると、怖いものですね。」


「あら、良く分かってるじゃない。」


緑珠は余りに美しい笑顔でイブキに詰め寄った。


「要するに、『自重しなさいよ』、と言っているの。御理解頂けて?」


「……善処致します。」


「善処する気ないでしょー!」


緑珠がイブキのほっぺたをもちもちしているのを見ながら、真理は緑珠へと問うた。


「他の貴族達の情報も知ってるんだよね?良く覚えられたね!」


「そりゃあ……毎日見ていたからね。吐くかと思ったわ。」


にしても、と緑珠は椅子に座ってぎーこぎーこと椅子を鳴らす。


「十五人を捕まえて牢屋に入れるって……。牢屋が沢山無いと困っちゃうわね。」


それに対してイブキが返した。


「十五、ですか。揃えるのに中々時間がかかりそうですね。」


「入れるのもかなり面倒臭そうだよねぇ。」


「大きな牢屋を作っても……中々面倒臭そうだよなぁ。それでも捕まえるってことは、元が取れてるのか……。」


モアのしみじみとした言葉のあと、緑珠がふと思いついたように言った。


「……そう言えば、光遷院邸は日栄で一番牢屋が多いって聞いたけど……。」


沈黙が訪れたあと、イブキは緑珠の頭を掴んだ。鷲掴みにした。


「僕の言いたいこと分かりますよね?僕はまだ、貴女と仲良くしていたい。」


にっこりと笑ったイブキの顔を、緑珠は引き攣らせながらも見返す。


「ひぃぃぃぃ!ごめんなさいごめんなさい!」


「分かれば宜しい。」


だが、緑珠が全く理解していなかった事が、次の言葉で明らかになる。


「拷問道具も持ってたんじゃ無かったっけ、光遷院邸。」







☆*。暫くお待ち下さい☆*。

(そっとクラシックを添えて……)








「むーっ!むーっ!」


「それじゃあ続けていきましょうか」


ぱんぱん、と手を払ったイブキを見ながら、モアと真理は一つ。


((気になりすぎる……!))


緑珠は口を塞がれ、首輪と無くなったと思われた手錠。とにかく拘束されていた。


首輪にはリードがついており、その先には柱があった。要するに柱に繋がれているのだ。


「じっとしなくちゃ駄目ですよ。緑珠様。」


「むーっ!んんん!」


がちゃがちゃ、と拘束している累々の物が擦れ合って煩い。イブキは明細書を見ながら言った。


「その首輪、あんまり暴れると締まりますので。死にたかったらどうぞ。」


「んー……。」


それを聞いて、緑珠はぴたりと動作を停止する。真理は異質な光景を眺めながら、思う。


(伊吹君の何が凄いって、自身の主を拘束する事もあるけど……あの拘束道具一式瞬時に出した事なんだよなぁ……。)


「そう言えば、足枷は?君の事だから足枷持ってそうなものだけど。」


真理は内心苦笑しながら、どうせ無いだろうな、だなんて思う。が。


「持ってますよ。重いから置いてきましたけど。」


「……何だって?」


清々しい笑顔で、きらきらとした笑顔を見せる。


「マグノーリエ本邸の地下に、地下牢があったでしょう?」


「んぐっ!?んっ……。」


緑珠の声が途中で消えると、イブキはちらりと緑珠に目をやった。


「だから首がしまる、と言ったじゃないですか。あ。それで話は元に戻るんですが……。」


(空間が異質過ぎる……。)


モアは明細書の紙と紙の合間から、真理とイブキのやり取りを覗く。


「地下牢に置いて来ました。重いですし。」


「んーっ!むむむっー!」


「え?『私はそんなの聞いていないわ!』ですって?」


(何で分かるんだ……。)


イブキの一言に、真理は気まずく思う。


「一回監禁したじゃありませんか。覚えていらっしゃいませんか?」


「なんか今とんでもないこと聞いたぞ!」


モアがツッコミの声を上げると、緑珠は半泣きになりながらぶんぶんと首を振る。


「貴女がつまみ食いばっかするからですよ。それで入れたらめちゃくちゃ泣いてましたね。あの時の可愛い顔と言ったら……。」


緑珠はその言葉に思い当たる節があったようで、さっ、と顔を上げた。柱にぶつかって鈍い音が響く。


「むーっ!むむっ!んんんん!んむぐーっ!」


「……ふふふ。酷いなぁ、緑珠様は。」


「んんん!むっー!むっー!んくぐぐ!」


叫んでいる緑珠を横目で見ながら、モアは真理へと耳打ちした。


「緑珠は何を叫んでるんだ……?」


「えっ?うん、多分、怖いとかじゃないのかな……。」


(言えない……狂気に満ちた伊吹君が怖かったって緑珠が言ってることを、僕は言えない……。)


緑珠は半泣きになりながらも、目の前の蝶々を眺めた。そして、狙いを定めると……?


「んぐっ!……んーっ!むむむむ!」


「だから締まるって言ったでしょう?……莫迦で可愛い人だ。」


首輪が付いているのをすっかり忘れて飛び出した緑珠の首に、容赦なく首輪が締まる。


「オレさ、緑珠を賢い人間だと思ってたんだよな。」


モアがしみじみと呟くと、真理は目を細めて言った。


「莫迦と天才は紙一重だよ。……これが最後……って、あれ?」


「どうしました?」


真理の怪奇の一言に、イブキはびったんびったんしている緑珠の前で問うた。


「変だよ。残ってるの、これだけだよね。」


「……そうですが。」


緑珠が呼吸が出来るように、首輪に指を一本突っ込みながら、イブキは眉を顰めた。もうここまで来たら言うことは一つ。


「あのねぇ。……無いんだけど。タオルと、その他食料品しか。」










夕食後、イブキは一人縁側で座り込んでいた。あの後何度見返しても、同じ結果しか出なかった。


(……相手は玄人だ。遣り合えると思っていたはずなのに……。)


「参りましたねぇ。勘が鈍ったか……。」


アリアと楓は元気にしているだろうか、とイブキは空を見上げる。何時も自分が詰まった時、二人は別の観点から見て、助けてくれていた。


(……もう一度会ったら、お礼を言わなくちゃなりませんね。)


がらがら、と縁側に沿った扉が開かれると、緑珠がイブキの傍に座る。


「予想外の難しさね、イブキ。」


「そうですねぇ。」


イブキはしみじみと呟くと、手元に置いてあった水を飲む、意識が眩む、眩む。


「……!?なに、のませて……!」


緑珠は意識が混濁しているイブキを眺めて、よしよしと頭を撫でた。


「お酒よ、お酒。貴方が何時も強い、お酒。そんなので眠たくなるのだから、今日はもう眠りなさい。」


「う、く……。」


(緑珠様に心配されるうえ、まさかこんな物で意識が遠くなるとは……!)


緑珠は倒れこんで来たイブキを、よしよしと撫でる。


「足りない頭で考えても、足りない答えしか出なくってよ。ちゃんとお眠りなさいね。御休みなさい、可愛い子。」


イブキは薄らと目を開けて、か細く緑珠へと問うた。


「緑珠、さま……ぼくのこと、好きですか……?」


それに対して、緑珠は優しく微笑んだ。


「ええ、大好きよ。」








(……寝てしまった。酒で寝たなんて、大王と飲み交わした以来では……。)


イブキはゆっくりと身体を上げると、頭を掻きながら扉を開ける。しん、とした台所へ向かい、コップにお茶を入れた。


「……。」


とぽぽぽ、と茶の雫が落ちて、適度にコップへと注ぎ込むと。ぐび、とお茶を飲んだ。


(手首よし、足首よし、首よし……。)


イブキはがら、と縁側の扉を開けた。満月が太陽より眩しくて、飲み込まれてしまいそうだ。


世の人が『月に愛される、即ち狂気に満たされる』と言うのも納得だ。あれ程美しく大きい物に愛されたのなら、美しい者に仕えたくなる気持ちも分かる。


(聖都、月。何故月が聖都と言われるのか。理由は、どんな世界からでも月が見えるから。どんな空間にも飛ぶ事が出来る都だから。……嗚呼、『月に愛される』意味が分かっている僕も、疾っくの昔に狂っているのか……。)


縁側の下に下駄を履いて降りると、びゅう、と風が耳を駆け抜ける。


「こんな夜更けに御来客ですか。お茶は出せませんよ。変わりに匕首あいくちならありますが。」


伊吹はにっこりと笑うと、がさがさと音がして、五人程現れる。


「問いましょう。何方の差し金ですか?」


しかし、返答は来ない。業を煮やした伊吹が、殺気を放つ。


「……もう一度聞きます、何 方 の 差 し 金 で す か ?」


それでも身じろきもたじろきもしない相手に、伊吹は目を見開いた。


「……これは驚いた。僕の脅しにも屈しないと見える。骨のある相手だと良いんですが……。」


伊吹は体勢を変えて、質問も変えた。


「それでは別の問いにします。貴方達の目的は?」


五人の一人が、声を上げた。風に乗せて、荒らげる事なく。


「……貴様等の周辺調査だ。死ねとは言わん。このまま城へついてこれば、貴様等に危害は加えん。」


「宰相の命令ですね。」


「……答えることは出来ない。」


伊吹は腕を組みながら考えると、至極当然そうに答えた。


「貴方達の提案は素晴らしい物です。しかし我が愛しい可哀い主は御就寝中ですから、また日を改めて、と言いたい所ですが……。」


伊吹は手をクロスさせて、両手首に括りつけてあった匕首あいくち……白鞘の短刀を引き抜いた。


「永遠にお引き取り願います。」


両手に短刀を握りしめると、走って来た一人を容赦なく蹴り倒す。


背後を狙った一人を、伊吹がまた蹴り倒すと、その一人の肩を足蹴にして首に短刀を一突き。


それをそのまま置くと、右足首に仕込んでいた短刀を引き抜いた。


ゆらり、と倒れたその人をまた足蹴にして屋根へと登る。そして残っている三人へと言い放った。


「どうせ一人除いて皆死ぬんですから、今ここでじゃんけんして誰が残るか決めておいた方が良いですよ。」


ふふふ、と何かに気付いた伊吹は顔を抑えて口角を歪める。


「ふふふ……アはははハハっ!そうか!そうですよね!『月』と称されるあの御方に僕は愛されている!そして僕は月の貴族だ!ならば『狂気』に満ちていなければ!何故なら僕は、光遷院 伊吹だから。月に愛された狂気の忌み子の一人だから!」


顔を抑えていた手を下ろすと、其処には銀髪と紅い目が二つ、爛々と輝いていた。











「おやおや、僕も侮られたものだねぇ?」


真理は縁側へと降りると、相手は三人だった。


「三人ぽっちで僕を殺せると?冗談も休み休み言い給え。……えっ!早くない!?ちょっ!?」


と言った側から真理は捕まる。ぐるぐると縄がかけられて、ぽん、と捨てられる。が。


「ちょっと待ち給えよ。僕だって強いんだぜ?」


声を上げた真理の目の前には、もう一人の真理が。呆気に取られている間に真理は縄を解くと、淡々と言った。


「神様特権、固有魔法『ラプラスの魔物』。深淵の闇を彷徨うが良い。」


ぱっ、と三人は消えると、真理は月を眺める。






「これで全員ですか。他愛ないものですね。」


残り一人を残して、四人は死にかけだったり、意識を混濁させている。


「さて、貴方にっ!?」


最初の一人がイブキに乗りかかる。


「よっ、よし!やったぞ!」


脅されていた一人が、乗りかかった一人に歓喜の声を上げた。乗りかかった相手が、伊吹の額に冷やかな銃口を乗せた。


「手を上げろ。無闇に暴れると死に損なうぞ。」


「……。」


渋々伊吹は手を上げると、手首を拘束される。引き金が引かれる、その瞬間に身をよじった。


その弾丸は、彼の首筋と髪をすれすれに通って、『何か』に当たって割れる音がした。


「……ふん。外したか。次は当てる。おい!もっと拘束をきつ」


「『次』?貴方に『明日』は来ないのに?地獄の釜、閉めちゃいましたね?」


伊吹は優美に笑うと、一気に狂気に満ち足りた笑顔に変えて、


「ぐぎいっ!?」


人の手によって拘束されていた手を抜くと、伊吹は首筋に装備していた短刀で、自身が血に濡れるのも厭わずに、相手を真っ二つに斬った。


「ぐ……ひ……。」


「た、隊長……。」


息をする筈も無い死体を伊吹がどけると、腰まで真っ二つにした死体がタコさんウインナーの様にバラける。


伊吹は半ば苛々しながら、生き残っている一人へと短刀を突きつけた。


「良くもまぁ掛けまくも小賢しき罪人が僕の手を煩わせましたね。全くもって忌まわしい。さぁ、生きたいなら言いなさい。誰からの差し金か。理由は何か!」


伊吹が語調を荒らげて問うと、びくびくしながら相手は返す。


「ひいっ!さ、さいしょ、さまか、らの、で、りゆ、うは、せ、んこく、も、うしあげた、とお、り……身、辺調査を……。」


伊吹は眉を顰めて、相手を言い放った。


「……貴方、この仕事が向いていないですよ。」


ふう、とため息をつくと、イブキは何個かの人間の塊を指さした。がたがた震えている相手へと言う。


「死体処理、宜しくお願いします。それと、ですね。」


相手の首根っこを掴んで、にっこりと笑った。


「雇い主にこう伝えると良い。……良いですか、あの人の命は 俺の ものです。誰のモノでも無い。 俺の 、俺 だけのモノだ。貴様如きが刈り取れるモノでは無い、崇高な命だ。死神が傍に居るというのに貴様がでしゃばるな、と。お伝えして頂ければ幸いです。」


イブキは半分失神しかけている相手の首根っこをぱっ、と離す。ばたばたと死体や生きている人間を捕まえると、一人は走り去っていった。


そしてイブキの髪が茶髪に戻ると、最後に宵闇に溶けゆく狂笑を一つ。


「次に貴方が見る景色が、閻魔大王の御前でありますように。」


「なぁにしてたのぉ〜?」


イブキは真理の呑気な声に振り返ると、ふふふ、と微笑み返した。


「『水やり』を。」


「……成程ね。」


イブキの行動が読めた真理が、呑気に続ける。


「うーん……お風呂入ろうか迷ってるんだよねぇ。伊吹君はどうする?」


僕は、とイブキは縁側の扉を開けて電気をつける。明るい光が、イブキの激闘を記した。


「これを洗わなくちゃならないですからねぇ。それと白鞘の短刀の柄も壊れましたし……直さなくちゃ駄目ですね。まぁ今は血腥くて敵わない服をどうにかしなければ……。」


「そう。あ、そうだ。一つ聞きたいことがあるんだった。聞いてくれる?」


「……何ですか?」


サッシュベルトを風呂場に投げ込んで、軽く若草の衣を肩にかけているイブキが、眠そうに聞き返した。真理は欠伸を一つして、


「ふわぁ……ねぇ、『人の血肉』って、どんな味がした?」


伊吹はそれを聞いて目を見開くと、直ぐに歪んだ笑みを見せた。そして、白い歯が血に汚れているのをベロりと紅焔の舌で舐めとると、


「さァ?」


どろりとした血が、喉を通った。







次回予告!

まさかの緑珠とイブキが大喧嘩したり真理の倫理観の歪み具合が発揮されたりオークションに乗り込んだりと乗り込み編、開幕!

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