ラプラスの魔物 千年怪奇譚 43 真骨頂と友情
道で異彩を放ちまくっていたメンツを送るモア!そして楽しい溢れ出る茶番がまた出て来たり、新キャラが登場したりと休むことが無い千年怪奇譚!
「有難う、モア!送ってくれて!」
「……いや、道端で異彩を放つメンツだったからな……つい……。」
笑顔で礼を言った緑珠に、モアが苦笑いをする。
「にしても、どうやって謁見を望むんだ?割と陛下は緩い方だが、宰相がクソめんどくさいぞ。」
真理が今までの謁見を、頭の中で回す。
「今までは……割とかんた……いや、最初は善意で、二回目は首飛ぶ寸前だったよね。」
「二回目は貴方のせいでしたよ。」
意識を取り戻したイブキが、恨めしそうに真理を睨んだ。
「あはは、それはごめんね。悪かったと思ってるよ。」
城門前に着いたらしく、がらがらと鳴っていた車輪の音が止まった。
「着いたぞ。オレはこの近くで商売してるから、何かあったら言ってくれよな。」
モアが扉を開けると、四人は城門前に、降り立った、のだが。
「これは……凄いわね……。」
「同感だね。」
緑珠達の目の前には、城があった。それはそうだろう。城門に着いたのだから。
驚くべきはその姿。何処の物語でもありがちな、勇者が向かう魔王城の様な出で立ちだ。
「何でまた、こんな形に……。」
イブキが耐えきれなくなったように呟くと、真理が容易く答えた。
「王様が結構遊び心がある人だからね。作りたかったんだってさ、こんなお城。」
緑珠がそれを聞いて、城門前に居る兵士を見ながら言った。
「だけど……城門前の兵士にも魔王の手下っぽいコスプレする必要は無いと思うけど……。」
「王様が結構遊び心がある人だからね……。」
しかも、とイブキが怪訝そうに耳を澄ませて言った。
「何か兵士が言ってますよ。『これ暑い』だの、『動きにくい』だの。」
兎に角、と緑珠が自慢げに胸を叩いて言った。
「アポ取ってくるわねーっ!」
「えっ、そんなアポ無し番組みたいなノリでいかれても……。」
びゅーん、と走り去っていく緑珠を、イブキは止めようとするがもう居ない。暫く、兵士と話したかと思うと、直ぐに二人の元へと戻って来て、マル!、と手を作った。
「何でアポ無し番組のノリで帰ってくるんですか……。」
イブキの苦言など放っておいて、緑珠は自身の手腕を述べる。
「聞いて驚きなさい?最初は勿論、『ダメだ』って言われたわ。でもね?『貴方達の制服を変えてあげるって言ったら?』って言ってあげるとね、直ぐに宰相に取り成してくれたわ。」
「よっ!天使!」
「我らの女神!」
兵士から飛んできた賛辞の言葉に、緑珠は髪を触りながら格好良く返す。
「ふふふ!もっと崇め奉っても良いのよ!神格化したって良いのよー!」
その様子を見ながら、イブキは吐き捨てるように言った。
「……あの兵士は地獄に送るとして……あの制服、そんなに不評だったんですね……。」
「おかしな枕詞が聞こえたのは良いとして、そりゃあ目立つしねぇ。というか、初めてのアポ取りがこれで良いのか……。」
兎のように喜びではね回る緑珠。モアも巻き込まれている。
「ふふふ!アポ取りに成功したわーっ!」
「そうか!どうやって成功したんだ?」
緑珠はふふん、と笑った。
「あの制服を変えると言ったら、直ぐに応じてくれたのよ!」
モアはそれを聞いて、ぴたり、と身体の動きを停止する。
「ど、どうしたの、モア……。」
俯いていた顔を、おずおずと上げて、
「頼む。私からのお願いだ。あの制服を絶対に廃止にしてくれ。」
先程までの朗らかな雰囲気は消えて、急にシリアスな雰囲気が周りを覆った。
「……あの制服を作っているの、私の家なんだ。もうあんなめちゃくちゃダサい制服は作りたくないんだ!」
三人は同時に、ただただ、こう思った。
(あの制服貴方の商会で作ってたのね……。)
(あの制服モアさんの商会で作ってたんですか……。)
(あの制服モアの商会で作ってたんだ……。)
「もうっ、もうあんなにダサいのはっ……作る度に笑われるのは、ごめ」
「何がダサい、だと?」
野太い、地を這う様な声がモアを襲った。その声に、モアはかくかくと首を動かして、相手へと命を乞う。
「もももももともももももももももももも!申し訳ありませんっ!お命は!どうかお命だけはぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ぐるん、と身体を回して、相手の前で土下座する。
「首はっ!どうか命はお助けォォォォォ!」
モアの前には強面の、眉間の皺が深い男が立っていた。いかにも政務官、という出で立ちで、怪訝そうに土下座しているモアを見下していた。
「ふん。アルシャリア商会の娘か。我が国に貢献している故、今回の事は不問にしてやろう。」
「有り難き幸せ!」
モアは土下座から立ち上がると、唖然としている緑珠に耳打ちした。
「な、面倒臭い奴だろ?」
「おいお前。」
また同じ事を繰り返そうとしているモアに、宰相は声をかけた。
「ッたく、このやり取り何回目だよ。」
振り替えずに、モアがやれやれ、と言うかのように態度で示す。
「私が記憶している限り、百五十八回目だと思うが?」
(((めっちゃ仲良しじゃん!)))
三人は同時にそんな事を思うと、モアは、
「ん、じゃあな。そのクソ面倒で頭が硬ぇクソクソゴミクズ宰相をどうにかしてくれよ。」
そのまま歩き去っていった。緑珠が言いずらそうに、おずおずと言葉を発した。
「仲良し……なのですね。宰相様と、モアは。」
宰相は面倒臭そうに答えた。
「いや、それは間違いだ。週一で鬼ごっこする仲だ。」
三人はまた、同時にこんな事を思った。
(((めっちゃ仲良しじゃん……!)))
「後は週二で隠れんぼもする。後は……なんだ、その他諸々だな。」
イブキが苦く笑いながら、宰相へと言った。
「お忙しいでしょうに。よく付き合ってやりますね……。」
ああ、と宰相は深く頷く。
「多忙の身なのに、部屋に入ると物が一つ無くなっているからな。大体アルシャリア商会の小娘の仕業だ。」
「モアはどうしてそんな事をするのかしら……?」
緑珠の思案の声に、宰相は淡々と答えた。
「何やら私の部屋の調度品が欲しいそうだ。数時間逃げて必ず仕入先を見つける辺りは、商会の跡取りとしては申し分ないだろう。」
さて、と宰相は緑珠へと視線を戻す。
「ご用向きは何だろうか、淑女?……いや、と言うか……何処かで……見た事がある様な……。」
宰相は緑珠をまじまじと眺める。此処では普通の一般人なのだ。それで突き通すしか、今の緑珠に残された道は無い。
「いいえ、お初にお目にかかります。蓬莱 緑珠と言う者です。」
イブキは緑珠に慌てながらも耳打ちする。
「何で素性がバレかけてるんですか……!」
緑珠はニッコリと笑いながら、イブキにそのまま返す。
「ノルテには割と何回も遊覧旅行に来てるの。王族の方々とも初対面の様にしなくちゃ……!」
「……そうか、なら済まない。私の記憶違いの様だ。それで、ご用向きは?」
「国王陛下に謁見を望みたいのです。」
しん、と一瞬だけ辺りが沈黙に包まれる。しかし、宰相は緑珠の出方を伺う。
「ふむ。……理由を伺おうか。」
そのままの笑顔で、しかし何処か真剣味を帯びた表情で緑珠は言った。
「国、を作りたいのです。その為に四大帝国の印が必要だと言うことは、宰相様もご存知の筈だと存じております。」
「あぁ、確かに知っている、が。」
と、宰相は三人を眺めた。
「何処と知れぬ者にそれを渡すことは出来ない。」
そのままの営業スマイルで、緑珠は宰相へと機会を乞う。
「それをどうか宰相様にお力添え頂きたく存じます。……若しかしたら、本当に何処かで会ったことがあるかもしれませんよ?」
その言葉に一瞬だけ宰相は目を細めると、緑珠へ一つの提案をした。
「……ふむ。それでは、一つ……。」
「まさかまさかね。」
「まさかまさかですね。」
「まさかまさかだねぇ。」
三人は同じ事を交互に言い合いながら、緑珠は宰相から貰った茶色い封筒を抱えながら、モアの邸宅へと足を進めていた。
「まさかまさか、事件解決を頼まれるとはね……意味が分からないわね。」
「そんな難しいものなんでしょうか……。」
そもそも、と真理が思考を巡らせる。
「事件解決は警察の仕事でしょ?しかもこの国の警察、結構優秀だよ?麗羅の私物盗んで捕まった僕を捕まえるくらいには。」
「貴方、また何かやらかしたのね……。」
緑珠が肩を竦めると、真理は苦笑いをする。
「いやぁ、あはははは……まぁまぁ、そういう時もあるって事で?」
左様斯様する中に、三人はモアの邸宅の近くまで来ていた。
「イブキ、今日の夕飯は?」
「昨日、緑珠様が食べすぎたでしょう?今日は魚の煮付けです。」
「えーっ!お肉じゃ駄目ー?」
イブキが一つにこやかにため息をついて、
「あのですね、緑珠様。」
そして一気に緑珠を見下す様に言い放った。
「それ以上言うと、屠殺場送りにしますよ。」
「ハムにされる!」
緑珠は態とらしく震えながら、イブキをくすくすと眺めていた。モアの邸宅に足を踏み入れると、緑珠は靴紐を解いて上がった。いつの間にかイブキの下駄が戻って来ている。
「さて、と。茶封筒開けちゃいましょうか。どんな事件なのかしらね。探偵ごっこみたいで楽しいわ。」
「お、お前達、帰ってたのか。……それは何だ?」
モアも帰って来たらしく、緑珠の持っている茶封筒に興味津々の眼差しを向けている。
「宰相様から頂いたの。事件解決したら、謁見を考えてやらんことも無い、ってね。」
「上から目線ですよね。大分と。……しかも緑珠様の事をじろじろ見てたし……。」
ぶつぶつとイブキは呪文を念じるかのように呟くのを他所に、緑珠は封筒の中身を出した。
「これ、ねぇ……。ふうん。普通の誘拐事件じゃない。」
「普通の誘拐事件?どうしてそんなものを緑珠に渡すんだい?」
「分かんないけど……解決するしか無いわね。」
その瞬間だった。
「……緑珠、それちょっと貸せ。」
モアのただならぬ雰囲気に、緑珠は書類を渡した。
「え?え、えぇ、どうぞ……。」
モアは渡された書類をじろじろと睨むように見ると、
「……あのクソ宰相、こんなモンを渡したのか……。」
モアは緑珠へ書類を渡しながら、緑珠の手を握る。
「これは誘拐事件だ。でも、ただの誘拐事件じゃねぇ。戻るなら今の内だぞ。」
余りにもモアのきつい物言いに、緑珠は訝しげに目を細める。
「どういうこと?モア。話を聞かせて頂戴。」
モアが行方不明者名簿の名前を、そっとなぞりながら言った。
「この事件は、通称 水晶の誘拐って呼ばれてる。」
「そこまでは普通の誘拐事件だよね?」
真理の質問に、モアは深々と頷いた。
「そうだ。ここまでは、極々普通の誘拐事件だ。特筆すべきなのは……。」
モアはごくり、と唾を飲んで、
「……毎年、十一月九日の夜から十日の未明にかけて、十五人、決まって誘拐される。そして、この事件は五年前から横行しているのにも関わらず、尻尾一つ見せやしない。」
イブキがそれを聞いて顔を引き攣らせた。
「それって来週じゃないですか……いや、ちょ、ちょっと待って下さい……それって、もしかして……貴族が絡んでいるんじゃ……。」
緑珠が不思議そうに首を傾げてイブキに問うた。
「イブキ、それってどういうこと?」
きょとんと首を傾げている緑珠と書類を交互に見ながら、イブキは答える。
「先程モアさんが言いました。『毎年、十一月九日の夜に十五人』。そこまで分かっているというのに、犯人が捕まっていないというのは……確かに犯人が完全犯罪を行っている可能性も否めません。が。」
「日時まで分かっているのなら、勿論警備もする。それなのに犯人が捕まらない、というのは警察関連の貴族が絡んでいると言う事ね。」
イブキの説明を、緑珠が引き継ぐ。でも、と緑珠は首を傾げたままだ。
「どうして誘拐なんてするのかしらね。しかも決まって十五人。奴隷にするにしちゃあちょっと人数が少なくなくて?」
伊吹はすう、と目を細めた。それはさながら❛鬼門の多聞天❜の、喉まで食らいつこうとする表情だ。
「……もし、捕まえている理由が、奴隷では無かったら?」
「奴隷では無かったらって……もしかして!」
閃いた真理と、置いてけぼりの緑珠。それでもそのまま伊吹は説明する。
「愛玩する為、傷付ける為。或いは人間コレクションの為。理由は幾らでも考えられましょう。恐らく、男女問わず見目麗しい者と、そうでは無い者が誘拐されているのでしょう。」
「そ、そんな事が本当にあるの……?酷いわね……人間は売っちゃダメなのよ?」
緑珠の純真無垢な一言に、伊吹は『貴方の王宮にも奴隷が居ましたよ』、という言葉を飲み込んだ。
「確かにそうです。五大帝国間には奴隷取引の売買は禁止されています。が。国ごとになると話は別です。誘拐事件が問題になっているということは、この国では奴隷取引は禁止です。」
伊吹のつらつらとした説明に、モアはただただ驚きが隠せない。
「お、お前、なんか凄いな……。」
「似たような仕事をやっていたので。」
でも、と真理も思考を巡らせる。
「貴族が絡んでるって事は、貴族が奴隷を買ってるって事だよね?」
被害者名簿を一通り見終わったイブキが、顔を上げて言った。
「モアさんも言っていたでしょう。この国は周りに様々な民族が居たと。混血貴族が多い可能性があります。国が一つになり、帝国に変わろうとも、根の部分は変わらぬものです。……変な所で血が受け継がれていたりするものですから。」
イブキは昔を思い出したかのように目を細めると、モアが今までの意見を締めくくる。
「要するに、だ。あのクソ宰相は自分では面倒見切れねぇこの国を恥部を、何処とも知れぬ旅人に晒したのさ。その旅人達が傑物揃いとも知らずにな。」
モアのオブラートに包まれた言葉を引っペがして、真理は恐る恐る呟いた。
「じゃ、じゃあ僕達は……政治的腐敗を、この国を転覆する様な事を押し付けられたと……?」
こくん、とモアは頷いた。
「そういう事だ。……お前達、この国から逃げた方が良い。解決しようがしまいが、消されるぞ。」
次回予告!
イブキがめちゃくちゃモアをこき下ろしたり明細書を印刷させたり緑珠が何時も通りに皆に甘えたりと楽しい楽しい怪奇譚!




