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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第四章 最終決戦月面戦争 新帝都
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 41 雪と月

お姫様が産まれたその日のお話の続きだったり雪合戦で楽しんだりその様子を見てモアが呆れたり『雪合戦』が『戦争』になりつつあったりとそんなこんなの千年怪奇譚!

とまぁ、そっからはもう大変で……直ぐに地獄を出る準備をして、変化の準備をして……許可を下ろしてもらい、月面に向かったッス。


まだ王妃が就くことを誰も知らないうえ、皇女が産まれるだなんて誰も知らない。何時も通りの城下でしたっス。






「月面に来たのは初めてッスけど……魔法で大気を作ってるんっスかね?空が青い……。」


地は砂だらけ石だらけだが、空は地上の様に青い。その空の青さは、自分の心までが透き通るほど純粋で、その雲の白さは目が溶けてしまうほど美しいものだった。


「うわぁ……綺麗ッスねぇ……。……あ、じゃなくて!早く『贈り物』を渡さなくちゃ……。」


王宮は、なんて言わなくても分かる。空と同化して眩しいくらいの水色が、彪川の行き先だ。


「よしよし、あれッスねぇ。……どうやって抜けるんだろ。警備とか。」


余りにも不審な物言いと行動を繰り広げる彪川を城の警備隊が捕まえたのは、言うに及ばない。










「捕まっちゃったのね?」


緑珠は目を細めて彪川の話を聞き終えると、清酒をくいっ、と呷る。


「はい。見事に捕まっちゃったッス。」


「何だか貴方、捕まってばっかりねぇ。私達と初めて会った時も捕まってたでしょう?あれは捕まっている、カウントで良いのかしらね?止められていた、って言うのでもいいかもしれないけど……。」


感慨深そうに緑珠は呟くと、そう言えばそうだなと思うが如く彪川は鷹揚に頷いた。


「何で捕まるんッスかね?」


「少し不穏な事を言うからじゃない?何処かの有名な映画監督も、特撮を取る時に『此処から此処までを火の海に~』なんて話してたら職質された、なんて話もあるくらいだし……。」


「むう……そうなのかな……あ、そうッス、それで……。」










うまぁく牢屋を脱出……いやいや、壊した、って言った方が良いッスね。一度城を出て、裏門から入ったッス。


「裏門を無事正面突破ー!……いや、裏門だから裏門突破……?」


一人でノリツッコミをする彪川の足元には、警備員が倒れ込んでいる。


「さてさてっと?お姫様のお部屋は何処かなー?……まぁ、大体一番上ッスかね?よし……それじゃあ……。」


彪川は苦々しく目を閉じると、五感……特に聴覚へと神経を研ぎ澄ませる。様々なお産用の道具が擦れる音が聞こえるのは、一体何処?


「……っ……右の塔、か。」


彪川は一番高い西の塔を眺めると、意を決した様に袖を捲った。今から、登るのだ。


「登るしかないっスねぇ……。」


ぐっ、と少しだけ出っ張った煉瓦を掴むと、それを支えに一気に跳躍する。耳を掻き斬る様な風を抜けると、余りにも美しい王都が望める。


「これは綺麗とかじゃないっスね……芸術作品ッスよ……。」


西の塔へはまだまだ先だ。小さな足場を辿って走るたび、使いの小さな悲鳴が響く。


「変な奴が走っていったぞ!」


「捕まえろ!」


「やっべ!」


彪川は若干能天気な声を上げると、数ミリの煉瓦の隙間を使ってどんどん上へと登っていく。


「おっと危ないっ、と!」


跳躍し過ぎてバランスを崩しそうになる彪川は、西の塔の屋根の飾りを掴んで、無事に事なきを得た。窓を覗くと誰も居らず、窓辺に赤子がすやすやと眠っている。


「やっと見つけたっスよぉ……もう……。」


可愛い赤子に絆されて、すっかり疲労が吹っ飛んだ彪川は、上手く窓を掻い潜って赤子の傍に立った。


そして、宝石に似た、素晴らしい概念体を傍に置いて、消えゆくのを眺めると、補佐官は祝福した。


「お誕生、おめでとうございます!」










「これが、緑珠様の贈り物のお話ッスよ。」


「随分ろ頑張ってくれたのねぇ……。」


半分くらい酔った緑珠が、半分くらいしか回っていない呂律で言葉を紡ぐ。


「……私、生まれた時から凄かったのねぇ……ふふふ、いい事を聞いたわぁ……ごめんね、夜更けにこんな話を聞いて……。」


清酒で酔っている緑珠を横目に、彪川は軽く呟いた。


「地獄に帰ってからは、御馳走に『人肉』を頂いたッス……いやぁ、あれはなかなか美味しかったッスよ。」


緑珠は酩酊状態で、へらりとした笑いで彪川へと問うた。


「人肉っれ、どんな味がすりゅの……?酸っぱいって、よく聞くけれど……。」


彪川はそうっスねぇ、と舌の感覚を思い出す。


「『人肉は甘い』ッスよ。柘榴の味がする、言うッスけど、そんなに『酸っぱくない』っスよ。」


緑珠は酒で記憶が飛んでいるのだろうか。またも素っ頓狂な答えを出す。


「ふふふ、まさかぁ……彪川も食べたことは無いでしょぉ?」


彪川は流されるがままに、緑珠の返答に適当に頷いた。


「……そうッスねぇ。……さて、早く寝た方が良いッスよ?明日も早いって言われるんスから。それに、此処は寒いし……こんなに寒いと、明日は雪が降りそうッスね。まだ秋なのに……。」


「はぁい!そっかぁ、寝るわねぇ、お休みなさぁい……。」


緑珠はふらふらとした足取りで部屋に戻るのを、彪川はただただ傍観していた。そして、ぽつり。


「あのヤンデレ皇子には伝えない方が良いか……。『鬼が人間を食べると、それはそれは頗る美味しい』、って話。教えたら殺人鬼にでもなりそうだしなぁ……。」


一方、自分の話を聞けて嬉々としている緑珠だが、彼女は布団に入る前、一つの思考が悪寒と共に身体をよぎった。


(ん……?『人肉は甘い』……?『酸っぱく』ない?……いやいや、まさかね……。……いいえ、もしそれが本当だとしても、私達(人外)と人間は……。)


「……全てが相成れない存在なんだわ……。」


闇が彼女を包む。















「……雪だ。」


寝間着姿のイブキが、はだけた胸元に腕を突っ込んで、早朝の一面の銀世界を見詰めている。


「……本に書いてあった、雪だ。」


イブキにしては珍しく目を子供のように輝かせながら、縁側を降りて、そっ、と白い綿を触った。


「ち、ちべたっ……。」


つんつん、と触ると、ふわっふわっ、と雪が溶ける。それが少しこそばゆい。


「うわぁ……雪だぁ……えへへへ……。」


すっかり頬が緩みきって油断している傍から、向こうからイブキより感銘を受けた声が聞こえる。


「ゆっ、雪だぁぁぁぁぁ!」


この声は愛しい主だな、と振り返ると、緑珠が縁側を暴れ狂いながら走って来る。……いやちょっとその暴れ方はどうなんだ。


「イブキ!お早う!」


「ええ、お早う御座います。」


緑珠も縁側へと降りると、素足で雪を踏む。


「きゃあっ!冷たいわ!ふふふ!冷たい!あっ!」


緑珠は悪巧みを思い付いた子供のように悪戯っぽく笑うと、イブキへとにたにた笑った。


「イブキ。少ししゃがみなさい?」


「え?ええ、はい……?」


言われるがままにイブキはしゃがむと、緑珠は雪を掴んでイブキの背中に思っきり突っ込んだ。


「っ!?」


「あはは!この遊びやってみたかったのよ!どう?」


余りの冷たさにのたうち回っていたイブキは、そっと体制を整えて緑珠へと向き直った。そして、



ぼふんっ!



「きゃあっ!っ、冷たいっ!」


飛ばした粉雪が、緑珠の射干玉の髪に白い雪が乗っかる。


「何だか銀髪になったみたい!変化した貴方とおそろいね!」


くすくすと緑珠が笑うと、少し驚いたイブキは彼らしからぬ少し子供っぽい提案をする。


「雪合戦、しましょう。」


「……あら、良いわよ。本気でいきましょう。」


緑珠がその挑戦に乗ると、目を細めて妖しく笑う。足元の雪を掴むと、びゅん、と飛ばそうとする、が。


「と、飛ばないっ!何で!?」


粉雪で固まらない。左様斯様そうこうする内に、イブキはぽん、と緑珠へと雪玉を投げた。


「何で固まったの!とってもさらさらして、固まらなくて、」


「『握力』ですよ、緑珠様。」


「なっ!それは狡いわ!」


イブキは挑発的に笑うと、一言。


「鬼は狡いものですから。」


むすっとした緑珠が、この一言を放つことによって、『雪合戦』はもはや『雪合戦』では無くなる。


「じゃあいいもん!魔法使うから!」


「……そうではなくては。」


雪合戦では無い『殺し合い』に持ち越すのが、人外の悪い癖である。その様子を寝ぼけたモアが見ていた。


「うぉう……雪じゃねぇか。にしても、あの二人めちゃくちゃ騒いでるが、雪なんか見たこと無かったのかね。」


「あの二人は生まれも育ちも月面だからねぇ。」


真理が、緑珠の攻撃を白鞘の短刀で躱すイブキを見ながら呟いた。


『短歌詠んで斬られろ!』だとか、『光遷院 伊吹のヤンデレ七ツ道具の八ツ目ですよ、これは!』とか意味が分からない言葉が聞こえるが気にしない。気にしない、はずだったのに。


「ぼふっ……。」


真理の顔が、一瞬で真っ白になる。


「うっそ……でしょ……。」


真理の視界が開かれると、くいっ、と指を曲げて挑発しているイブキが居る。


「おっと。これは私が下がる感じね。」


空気を読んだ緑珠がモアの方へと下がると、真理はイブキに硬い雪玉をお見舞する。


「これは何に対しての挑戦状?」


「僕の作ったお菓子を作った傍から食べていくことです。これじゃあ緑珠様が食べる分が無いですから。」


「えー……緑珠もつまみ食いするじゃん。」


何食わぬ顔をして縁側で緑茶をすすっている緑珠に、モアは若干呆れて問うた。


「お前つまみ食いするのか?行儀悪いぞ。」


「ナンノコトダカ サッパリダワ。」


(こりゃつまみ食いしてんなぁ……。)


棒読みで返答した緑珠から、今まさに決戦が行われようとしている二人へとモアは視線を戻した。


「緑珠様でも追い払うのが大変なんですよ!それにお前が加わったら食べる分無くなるんです!」


「要するにこれは八つ当たり?」


イブキはにやりと嗤って返答する。


「左様で。……要するに!」


一つ区切って、


「お前がサンドバックになるんだよ!」


戦闘が始まった。モアはそれを横目に熱々のふんわりトーストの上にたっぷりの赤々と輝く苺果醤いちごジャムを乗せると、蜂蜜を熱牛乳ホットミルクに入れて掻き混ぜる。


蜂蜜色の線が溶けて……それ等を緑珠の傍に置いた。もう湯気が美味しく感じられる程だ。


「ほら、食えよ。どうせイブキも真理も本気でやるから朝食なんて作れないだろ?」


緑珠はそれをまじまじと眺める。彼女の視点から見れば、美味しそうなそれ等は……分厚い茶色の紙に、ねっとりとした赤い飴?分かると言えば、熱牛乳ホットミルクくらいしか分からない。


「……これ、食べれるの?」


「食べれるぞ?……お、お前、王宮で焼麺麭とーすとを食べた事ないのか……?」


緑珠はつんつん、とジャムをつつく。少しねっとりしていた。


「……これが、果醤ジャム。……太るからって、食べさせてもらえなくて……。この、えっと……焼麺麭トーストだったかしら?これは見た事が無いわね。ずっと白麺麭しろぱんだったから……。」


あーん、と口にそれを運ぶと……?


「んんんんん!んん!」


「飲み込んでから話せよ?」


ごくん、と音が聞こえるほどに喉が動くと、


「美味しい!すっごく美味しいわ!果醤!気に入った!買ってもらう!これ欲しい!」


自身の感想をありのままに言うと、モアは満更でもなく笑う。あぁほら、鬼と神が戦うから通りが一つ吹っ飛んだじゃないか。


「そ、そうか……そんなに喜んでもらうと嬉しいな。丁度開けたし、一つサービスな。……あぁ、でも使うのか。もう一本新品やるからな。」


「有難う!ねぇねぇ二人共!早く食べましょう?」


「未来の職権乱用で地獄に堕とします!」


「じゃあ伊吹君は永遠に地獄に居ろ!」


さぁさぁあの殺し合いをどうするのか。緑珠の思考の間にも、家が三つ四つ飛んで行った。


「あちゃー……あれどうするよ……。」


モアの独り言を無視すると、緑珠は近くにあった二枚のタオルを引っ掴む。


「ほらほら二人、喧嘩はお止しなさいな。」


「嫌ですっ!というかこれはケジメです!」


「ここまで来たら引き返せないよ!」


緑珠は半ば呆れながら縁側から裸足で庭へ降りる。そして、半分くらい雪だるまになっているイブキと真理の左手を、


「えっ?」


「緑珠?」


掴むと、タオルを彼等の顔にぶつけて?


「っ!?いったい!」


「ひぐっ……。」


バキっ!


左手首を、折った。


「喧嘩は、お止しなさいね?捻挫で止めてあげたこと、左手首だったこと。」


いつも通りの笑顔を見せて、


「感謝なさいな。」


緑珠はひらひらと蝶の様に舞いながら、白い半紙を濡らす墨滴の様に歩きながら、モアの元へと戻って行った。


残された二人は、一つ。


「……僕は折られた痛みより、女性に折られたという事実の方が痛いです。」


「同感。そして僕はもう治した。」


真理は、きらん、と目線を輝かせてイブキへと言った。


「あっ!それ狡いですよ!で、でも緑珠様がつけて下さった傷だから……!」


イブキは莫迦な悶絶をしていた。








次回予告!

相も変わらずイブキが彪川にキレたり緑珠がドレスに憧れを持ったりそこをべた褒めする二人だったり新たな脅威が迫りつつあったりとてんこ盛りのお話!

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