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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第四章 最終決戦月面戦争 新帝都
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 39 時間の流れ

帝国に何が起こっているのか分かったり、イブキが相も変わらずヤンデレストーカーしてたりそれに緑珠が怒ったりモアが彼等の素性に驚いたりする話!

「うふふふ、私の友達!一緒に遊びましょ!」


シャルロットの背後からは溢れんばかりの色とりどりの人形が現れた。真理が杖を顕現させると、


「燃えよ!」


向かって来たぬいぐるみが全焼する。緑珠がモアへと指示した。


「モア!付近の人を避難させて!」


「……り、了解した……。」


モアはぺちぺちと己の頬を叩くと、きっ、と辺りを睨む。


「野郎共!避難指示を出す!市役所へ付近の住人を集めろ!行くぞ!」


「お嬢!ぬいぐるみの撃退はどうする!?」


真理が商人の一人に言い放つ。


「燃やせばコイツらは消える!八つ裂きでも良いだろう!とにかく首と胴体を切り離せ!」


その忠告を受け取ったモアは、周りで動けそうな人間に告げた。


「分かった!燃えるものを持って来い、斬れるものも持って来るんだ!」


薄暗い霧がどんどん濃くなる。緑珠が眼前に剣を構えると、声高らかに呪文を唱えた。


「叡智飛び交う天穹てんきゅうよ、全てを以て光と為せ。智慧ちえは人が望む至上の宝なり。故に、剣は知恵をもって凋落を示せ!『万物ノ霊長ハ人間ニ非ズ 全テハ知二アリ』!炎よ、共に舞給え!」


暖かい燃えた風が吹き、霧はとてつもなく薄くなる。それを見測って避難が始まった。


「……全く、損な役回りだわ。」


「あはは、全くだね。」


緑珠は肩を竦めると、剣に手を翳す。


「人類を導きし炎よ。我の僕となり、力を貸したまえ。剣に憑依せよ!」


剣に炎が揺らめくと、緑珠はそれをぶん、と振り回す。糸で吊るされた操り人形が、全てばらばらと地面に落ちた。


「あはは!やっぱり強いのね!『マクスウェルの悪魔』様の言った通りだわ!」


「あ、悪魔様……やっぱりミルゼンクリアか!」


くくくっ、と人形の様にシャルロットは首を動かす。そして、ニンマリと笑う。


「そうよ!あの方が本当の神様!だって私を動かす力をくれたんだもの!」


「そうは言っても君は魔術人形だろう?」


魔術人形、という言葉に緑珠がぴくりと反応する。


「ねぇ真理。魔術人形って言うのは何なの?」


また人形が迫って来る。それをまた切り刻む。同じことの繰り返しだ。


「機械人形は分かる!?機械で動くヤツ!」


「分かるわ!我が国の名産だったもの!」


ぶん、と真理が杖を振り回すと、その部分だけぽっかりとぬいぐるみが消えていく。


「魔術人形って言うのは、その人形の持ち主が呪いだとか、喜びの感情だとかで魂を持った人形の事だ!付喪神に若干近い存在だ!だから彼女の周りには感情が巻きついている!彼女は、『シャルロット・リンテージ』なんて人間は存在しない!」


緑珠が少しだけ目を伏せて、跳躍しながらこう呟いた。


「……彼女の姉……『フローレンス・リンテージ』は嫉妬深いの。貴族の衣装を作ってはいたのだけれど、貴族の少年少女の悪口が『シャルロット・リンテージ』を作ったというのも吝かでは無かったでしょうね!」


ニッ、と真理が笑いながら緑珠へと目線を向けた。


「『物言えば 唇寒し 秋の風』って所だね。」


「『秋の風』と言うよりかは、『悪心持つ』よ!」


彼女もそれに釣られてニヤリと愉しそうに笑った。


「字余りしちゃったねぇ。」


「俳句は難しいわね!」


少しよろけた緑珠の隙をシャルロットはついて、糸で彼女をぐるぐる巻きにする。緑珠がそれを眺めると、口からは呪文が出でる。


「っ……。燃やせ命、焔よ!」


めらめらと音をあげて炎は燃えると、緑珠は上手く地上に着地する。舌打ちしたシャルロットの声が聞こえて、緑珠が身構えた瞬間だった。


「チッ!さっきからちょこまかちょこまかと……!やりなさい、旋回機械人形!」


幾つもの刃が付いた機械人形が、緑珠に襲いかかったその時だった。


「北西、南、東……。」


ざくん、と容赦無い攻撃が機械人形を襲う。地に落ちた陶器がガシャン、と悲鳴をあげる。


「遅い!伊吹!」


「申し訳ありませ……ん……。」


ぐらついたイブキを緑珠は容赦なく見抜くと、懐からカプセルを取り出した。人形軍勢は一度引いたらしく、影も形も無い。


「口開けなさい。」


「……ん……。」


イブキの口の中にカプセルを突っ込むと、


「んっ!?んぐっ!」


「ほらほら飲んでー。」


一気に水を流し込む。ごくりと喉が動いたのを見ると、緑珠は怪訝そうにイブキを見つめた。


「げほっ……何を飲ませたんですか?」


「それは自分が一番良く分かってるはずよ。そういう訳で。」


とん、と緑珠はイブキの肩を押すと、そのままイブキは倒れる。


「あ……?」


どさ、とイブキが緑珠に倒れ込む音がして、彼女が担ごうとした瞬間だった。


「あはは!甘いわ!」


緑珠の足首に、球体関節人形の手が絡みつく。緑珠はイブキを真理に軽く放り投げると、刀を抜いて人形の手を断ち切る。


「もう、何よこれ!斬れないじゃない!」


斬っても斬っても溢れる人形の手は、緑珠をじりじりと焦燥感へと向かわせて行く。真理が呪文を唱えた。


「モノよ、炎を上げよ。燃えよ!」


しかし、真理の杖からは何も出ない。真理もまた、焦燥の洞穴に足を踏み入れる。


「な、何で……。」


「貴方の力が使えない人って、だぁれ?」


シャルロットの上擦った声が聞こえて、真理は魔術人形を睨む。


「ミルゼンクリアの力か!」


「それじゃあ、この子は頂いていくわ。」


「ちょっと待ちなさい!何を勝手に話を進めているの!」


緑珠は否定する間もなく人形の腕に埋もれた。そしてその場所にはもう、何も残らない。


裏世界じみた空は青空に吸い込まれ、何もかも元通りだ。人形はぴたりと動きを止め、人は困惑に塗れたまま。


「これは……ぼおっとしてちゃ駄目だ!僕は魔法使いなんだろう!?」


真理はイブキを安全な場所に座らせると、お得意のあの魔法を使う。


「よし……水の波紋、風の音、木々の揺らめき。この世を創り上げる森羅万象よ。その全ての物に永劫の祝福を。固有魔法『境界の歪曲』!」


しーん、と真理の声が無常に響く。人々の声が、緩やかに動き始めていた。


「……あれ。何で?呪文間違えた?合ってる、よね……?」


いち早く冷静さを取り戻した町衆の一人が、気の毒そうに真理へと言う。


「アンタは魔術師さんかい?」


「え、えぇ……うん、そうだけど……。」


しどろもどろになっている真理を、男は益々気の毒そうに見つめる。


「あのなぁ、よぉっく、聞いて欲しいんだが……。」









「これ!離しなさいよ!」


「嫌よ。そういう訳にもいかないでしょ?」


「……シャルロット。貴女、此処から出たら木っ端微塵にしてやるわ。」


「怖い怖い!」


緑珠の威嚇をまるで子供の玩具の様に操るシャルロット。人形が吊り下がる空間の中で、緑珠はシャルロットへ問うた。


「……貴女、何が目的なの?」


「それは勿論、貴女の奥底に眠るもの。とにかく私はね、欲しいのよ、心が。感情が。ずっと人間で居たいの。私は。だから!」


ひゅん、と刃塗れの人形の腕が、緑珠への向かう。身体を捩って逃げたが、つぅ、と血が頬を流れた。


「あはは!身を守るすべくらいはあるみたいね?」


「仮にも皇女をやっていたのだから、これくらい普通だわ。……それに、貴女は私のことを見くびって居るのではなくて?」


「見くびって……?貴女、何を言ってるの?頭がおかしくなったの?」


緑珠は少しむっ、としながら、


「頭がおかしいのは元々よ。だからこそ出来ることがあるの。お分かり?」


シャルロットは緑珠の腰にある刀に気付かない。それの考察は後でも構わないだろう。今は、それが、解決の。


「糸で縛ってるから『糸口』ってね!」


緑珠は縛られていた糸を切ると、一気に落下する。シャルロットのモノクロの髪が振り乱され、目が見開かれるのをくすくすと緑珠は笑うと、自身の身に迫る危険を感じた。


「に、逃げれたけど……これ、拙くないかしら!」


びゅんびゅん、と迫る人形を剣で払い除けながら時空の流れを汲み取る。だが。


「な、何で流れてないの……『時間』が!」


時間が流れていなければ、流れるものも流れない。それならばと、己に宿った力を信じる。


「えぇい!もうどうにでもなれ!『伊吹の前まで飛ばして』!」


ふわり。


「え。」


じゅうじゅう。


唐揚げ粉をまぶされた艶やかな鶏肉が、じゅうじゅう、と歓声をあげている。イブキが素っ頓狂な声を上げた。


頭上は換気扇。


目の前はイブキ。そして、イブキの目がゆっくりと散瞳さんどうしていくのと、口が明らかに悲鳴の準備をしているのが見える。


緑珠の足が、イブキの持つ菜箸に当たりかける。


緑珠は、三匹の子ぶたの狼の気持ちはこんなのだったのね、と感じながら──


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「うぉぉぁぉぁぁぁぁおぇぇぇ!?」


緑珠の悲鳴と、イブキの珍妙な悲鳴が重なった。









「いやぁ……死ぬかと思ったわ……私の能力が無かったらどうなっていたことか……霊力も残ってて何よりだわ。」


「それ僕の台詞です。」


緑珠はあの瞬間、咄嗟に時間を止めると体制を整えて危機を脱したのだった。辺りはもう暗くなり、山の鶏の唐揚げを四人で囲む。


「直ぐに助けに行こうって言ったんだよ?だけど、伊吹君が『大丈夫』だって言うし……まぁ緑珠が無事で何よりだよ。」


真理は微笑むと、緑珠は不思議そうにイブキへと問うた。


「何で私が無事だと分かったの?」


軽く洗い物をしながら、イブキは淡々と答えた。というか口を滑らした。


「GPえ……す……あ。」


「……GPS?」


真理がイブキの一言を拾うと、肩を掴んで思いっ切り揺さぶる。


「君とうとう本性出てきたな!GPSってどーいうことだよ!」


揺さぶられ続けているイブキと真理を傍目に、緑珠は鶏の唐揚げに卵油酢マヨネーズをかけてご飯に盛るという、かなりオイシイ食べ方をしている。


「うん!ちゃんとご飯も食べれる時間に帰ってこれたし、まぁ……イブキのとんでもない話も聞いた訳だけれど……。」


木っ端微塵に粉砕されたイブキが、緑珠の言葉を静止する。


「ちょ、ちょっと待って下さい。」


「お、生き返った。」


にしし、と笑った真理を睨みながらイブキは緑珠へと問うた。


「緑珠様。僕に何飲ませたんですか。」


「そんなに『アレ』が気になる?」


緑珠が緩やかに微笑むと、イブキはただただ頷いた。


「『アレ』はね、抑止力なのよ。私達『日栄四大貴族』のね。」


「やっぱり!お前達は……いやじゃなくて、貴方達は……!」


モアの言いたげな言葉を、緑珠は全て遮る。


「あーもうほら、そう言う『お貴族様』みたいな扱いは良いからね?ほんとほんと、普通の扱いしてくれたらいいから!で!話を元に戻すけど!」


緑珠は食器を置いて、畳の上でだらけた。


「『日栄四大貴族』はトップオブヤバいの集まりだったから、各家の当主から私に当てて抑止力が渡されたのよ。」


「と、トップオブヤバい……。」


緑珠はイブキをちらりと眺めながら、モアへと告げる。


「そうよ。ヤバい奴ばっかりだったわ。『とある貴族達』なんか、会う度に毒味係が阿呆ほど死ぬし。『とある貴族』なんか権力が物凄い好きだし。『とある貴族』なんか小動物呆れるほど殺してるし。『とある貴族』は人間標本大好きだし!」


緑珠はすっかり呆れ返って、ぐったりと畳の上でごろついている。


「ま、誠に御迷惑をおかけしました、緑珠様……。」


『日栄四大貴族』の中に、イブキが入っている事をモアは理解する。だが、緑珠は畳の上に身を投げたままくぐもった声を出した。


「本当にそうよ……分かってるなら仲良くなさいな……王宮うちの毒味係が死んだことによって私の仕事量増えるの分かってるの……?」


緑珠がばっ!と顔を上げて、驚きの事実を知ったモアを、キラキラとした瞳で見つめる。


「そうだ!ねぇモア!」


「何だ?どうした?」


「ねぇ!イブキはどんな貴族だったと思う?」


「緑珠様、それ……。」


「間違えられたらそういう事になさい。」


緑珠がにやにやしながらモアの思案に耽る顔を眺めた。沈黙の末、答えが出る。


「……んー……『人間標本』、かなぁ……。」


氷のように冷えきった部屋で、緑珠は言い放った。


「ですってよ、イブキ。」


「……嘘……だろ……。」


敬語が粉砕したイブキは、その場でがっくりと崩れ去る。緑珠がくすくすと笑った。


「あはは、その『人間標本』作ったやつと、イブキは犬猿の仲なのよ。でもまぁ、食事会の時は穏便に話していたけれどね。毎回何が起こるか、楽しみだったわ!」


イブキが白々しい目で緑珠を睨む。


「嘘おっしゃい……胃が痛くてずっと部屋に篭もりっきりだった癖に……。」


「だからね!?何で私の情報をいちいち知ってるのよ!このストーカー!ヤンデレ!変態!」


緑珠に散々に言われたイブキは、ただにこやかに笑っている。


「ほら、将来お仕えする方のことくらい、知っていなければいけませんでしょう?」


「貴方それで情報漁ったでしょ……。」


「おや、御名答ですね。」


緑珠はモアへと向き直ると、やれやれと言った口調で話を続ける。


「こんな奴ばっかりだったのよ。だからね……。」


彼女はすくりと立ち上がりその場を離れると、暫くして何時も使っている皮の鞄から様々な物を出し始めた。








次回予告!

緑珠が示した四大貴族の『抑止力』とは?そして彪川が伝える皇女様が産まれたその日のお話とは?在りし日の二十年前。日陰と共に現れる物語。

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