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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第四章 最終決戦月面戦争 新帝都
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 38 破壊衝動と皇子様

伊吹の心の中に渦巻く独占欲の渦。そして、それに目をつけた彪川の闇。緑珠の希望の声。そして起こる異変!まだまだ続いていく千年怪奇譚!

『それ』、は図書館だった。余りに図書館が大きいので、外からでも紙のつんとした匂いがしそうだ。


「にしても。」


姿を見せなくなった彪川が怪しい。あんなチャラそうに見えても、閻魔大王の五官の一人だ。


(……兎にも角にも行きましょう。)


イブキは心の中に渦巻く何かを見つめながら、図書館の中へと足を踏み入れた。



単純に言おう。其処は、絶景だった。



いや、絶景とは言い難いかもしれぬ。勉強嫌いには。しかし、勉強が好きならば話が別だ。


豪華な本の装丁に大して、図書館自体は酷く静かでシンプルな作りだ。紙の匂いが立ち込め、空を見上げるほど高く本棚が連なっている。


そして、着色硝子ステンドグラスがセピア色の床へと虹の衣を揺らめかせていた。確かにこの図書館は静かだ。しかし、その中には息を呑む美しさがあった。


(これは……日栄にあった大図書館と良い勝負だ……。)


ゆっくりと足を進めると、絹の道を通っている様な気分になる。本棚はジャンル分けされており、其処からまた五十音順の順番に分けられている。


「探すのは至難の業ですよ……。」


その刹那、とある気配がイブキの傍を掠める。


「……。」


すっ、とイブキは目を細めると、足早に『さ行』の本棚へと向かった。その前に周りにいる何かを撒かなければ、後々大変だ。


(回り道をすれば……。)


態とらしく『な行』の本棚へと足を進めると、途端に気配は薄くなる。そのままイブキも気配を消すと、またもや『さ行』の本棚へと走る。


(さ、し、し……しゅ、しゅう、しゅうえんの……あった!)


イブキは『終焉の扉』と書かれた書物を抱えると、慌てて椅子に座ってそれを開いた。










「さて!イブキもいない事だし!やりたいことをやりましょう!」


アルシャリア商会の裏にある、平屋建てのモアに通された部屋で、緑珠は意気揚々と叫ぶと、モアが笑う。


「彼奴煩そうだもんな。で、何する?」


緑珠は悪戯っぽく笑うと、楽しそうに指を立てた。


「やると言えば、やると言えば!ごろごろ寝っ転がってお菓子を食べながら漫画を読むことよ!……本当は夜更かしもしたかったのだけれどね……。夜までにはきっと帰ってくるでしょうし、それに!」


部屋、と言ってもかなり広い。緑珠の声がびゅんびゅんと飛んで行く。


「漫画を読むのが初めてなの!」


「……あぁ、まぁ、そうだろうね……。」


真理が緑珠の境遇を思い浮かべる事は容易いが、モアには難しい。


「ま、漫画を読んだことがないのか……!?御両親が厳しかったんだな……。」


モアの言葉に頷きながら、緑珠は苦節折々の話を始める。


「家では勿論読めなかったし……地上に降りたら叶うと思ったけれど、イブキが止めるし……夜更かしなんてもってのほかよ、全く夜更かしさせてくれないの!あの子!夜更かしは無理でも、漫画を読みながらぼりぼりおやつを食べるのよ!」


モアがはしゃいでいる緑珠に、ささっと色とりどりの菓子を見せた。


「菓子は用意したぞ!」


真理も負けじとささっと漫画を無から創る。


「漫画も創ったよ!」


緑珠はそれを満足そうに眺めると、


「よぅし、それじゃあ……ゴロ食べ行きますか!」









緑珠のどんちゃん騒ぎなどついぞ知らず、イブキは本を開いた。目次なんて見ない。それくらい焦っているのだ。


(何処だ……何処だ……これ、か……?)


項目には『終焉の扉』、と書かれ、説明が書かれている。


『終焉の扉。大罪の扉、終焉の大扉とも言われているが、正式名称は不明である。』


(終焉の扉が正式名称じゃないのか!?)


イブキの疑問など放っておいて、説明は続けていく。


『文献に数多く載る固有名称の一つで、実態はよく分かっておらず、不明である。』


(分かっておらんのかい!)


イブキの突っ込みなど放っておいて、まだまだ説明は続ける。


『最古に載る終焉の扉は以下の伝説である。』


少しの空白と枠の装丁があった後、其処には伝説が書かれていた。






『今は昔、多大な力を持った仙人がこの世界の高く険しい山奥に住んでいた。


仙人は悲しかった。山高くから人間の世界を見渡すと、欲に覆われた人間ばかりだったからだ。


だから仙人は考えた。世の罪を何処か別の世界に閉じ込めれば良い。


仙人は無事、世の罪を異界の扉に封じ込めた。だが、扉と言えば鍵。


人間に渡してしまうと後々面倒なので、仙人は禍神に託した。


しかし、禍神は面倒臭がりだった。禍神は受け取った鍵を暫くは持っていたが、持つのが面倒になった。


其処で、禍神はある妙案を思いついた。


それは、『世の中で一番罪を抱えた人間』になすりつけるという事だ。思いが最高潮に達した時、扉は開かれる。


もちろん、自分が扉を抱えていることは露知らず。


そして、今日に至るまで扉は引き継がれて居るのだ。』





(その妙案のお陰で一体僕がどれだけ困っているか……。)


伊吹はぱたん、と古い頁を閉めた。埃臭さが心地良い。 彼の心中には、とある事が蠢いていた。ぼうっ、と、とある事が。


(もし、あのもう一人の緑珠様の言っていたことが本当なら、あの人を消せば……。)



僕は、綺麗な緑珠様の死体が手に入る。



僕だけの、僕だけのモノ。



生きていなくたって良いじゃないか。罪をその身体に犯されて、きっと腐ることも無い。それなら、それなら、綺麗な綺麗なお人形が、僕のモノに。


そんなどろどろとした思いがぎるなか、勢いよく頁を捲ると、伊吹の肉を白い頁が裂いた。


「っ!」


(……そうだ。僕は何を考えているんだ。助けに来たのだろう?)


「おーうじっ!」


イブキの濁った思考を、明るい声がぶち壊しにする。その声に半ば安堵しながらも、苛立ちを感じる。何故ならこう見えて、この鬼、


「何を読んでいらしたのですか?」


頗る勘が良い。彪川は目を細めると、イブキの前にある閉じた本を眺める。


「へぇ!皇子はこんな物をお調べになっていらしたのですね。」


(……そう言えば、僕は。)


この勘の良さ、奸計をこの鬼から教えて貰ったんでしたっけ、と昔日を思いだしながら、イブキは目の前の鬼を見つめる。


「……『終焉の扉』。……あぁ、成程。」


こういう時は、やることは一択だ。この鬼は出方を見る。ならば、何も示さなければ良い。だが、その行動は。


「ねぇ皇子。」


次の言葉で砕かれる。


「閻魔大王の神器なら、緑珠様と罪を切り離せますよ。」


イブキは目線を上げる。と言うより、上げてしまった。その行動を償うかのように、大きな糸切り鋏を笑いながらちょきちょきとしている彪川へ問う。


「どうせ、切り離すから地獄に戻れとでも言うのでしょう?嫌ですよ。」


「あらら、見破られちゃいました?」


へらり、と笑った彪川は途端にその笑顔を冷たくする。


「でも考えていて下さいね?自分を取るのか、主を取るのか。」


軽い足取りで去っていく彪川の後ろ姿を眺めながら、イブキは全体重を椅子にかけた。


「狡猾。それ故に無知。……二つ名が出来る訳です……。」


イブキは立ち上がって、先程より重みが増した本を持つ。


「……さて、これから僕はどうしましょうか……。」










「ぐすっ……むぐっ…が、頑張るのよ、折れちゃだめよ、ぐすっ……。」


緑珠はぼろぼろと泣きながらお菓子を貪り食い、そして漫画を読んでいる。身分差が特徴の少女漫画だ。


「こんな、おうどうっ、なのに……ぐすっ、泣かせるなんて、うう、この作者は天才ね、ぐすっ……。」


緑珠が読んでいる漫画を、真理は不思議そうにペラペラと捲った。


「そんなに泣くやつなの?……あ、これこの国で長年連載されてる長編漫画じゃん。なになに……『貴族の青年 アンクルベルツ家の息子 アキレウスと、その召使いヒナギクの物語』。これ、凄いんだよ。確かアニメ化も何回もしてて……舞台化もしてたはず……。」


真理の一言、その思考に緑珠は思いっ切り踏み込んだ。


「な、何ですって!?アニメ化も!舞台化もしてるの!?ねぇモア、観れるかしら!観たいわ、私!」


少年漫画を読みながらポテチを食べていたモアが顔を上げる。


「んー?……私さ、少年漫画派だから少女漫画の事は知らないんだよなぁ……。」


あぁでも、とモアは考えをぼんやりと述べた。


貸映像本レンタルビデオ屋ならあるかもな。見に行くか?」


「見に行く!超見に行く!真理も行きましょ!」


緑珠がにこやかに笑っているのを見て、真理も釣られて笑う。


「……ふふふ、そうだね、行こうか。」


一行は漫画を片付けて部屋を出ると、大通りに面した所まで薄暗い道を使ってすり抜けていく。


「うふふ、楽しい……わ……。」


緑珠の声が途切れ、瞳が黒く濁る。その理由は。


「うふふ、探しましたわ緑珠李雅様!」


緑珠李雅、と言い放ったモノクロのロリータ少女を、緑珠は訝しげに見つめる。


「……シャルロット。……貴女、何が目的なの?」


モアは唖然として目を見開いた。


「りょ、リョクシリアって……月の都のお姫様の名前……だろ……?」


驚いているモアを放っておいて、緑珠はにこやかに笑ったままのシャルロットを見つめる。


「ふふ、目的?目的なんて、分かっているんじゃなくて?」


「ミルゼンクリアか……。」


真理の一言に、シャルロットは首を傾げた。


「……んー……やっぱり人間と『私』の思考は違うのね。」


「何だって?そりゃ一体どういう事だ?君は人外じゃないだろ?」


「うるさいうるさいうるさいうるさぁぁい!」


シャルロットが頭を伏せって首を振りたくると、溢れんばかりの人形が現れる。


「私は人間みたいにきれくない!人間の、汚い部分も含めてきれくない!」


「な、何だコレ……。」


シャルロットの周りの人形をモアは眺めがら、唖然として声を絞る。真理が叫んだ。


「魔術人形だ!」


周りの風景を反転させた異世界へと変えていきながら、魔術人形、シャルロット・リンテージは己の口を裂いた。


「あはははははははは!遊びましょ!」








同刻。


「ふう……久々に図書館に来ると、思いのほか本を読んでしまいますね。」


本をぴったりとした隙間にあてがうと、イブキは窓を覗いた。どうやら、酷く、外が。


「……何だか、嫌な予感がしますね。」


「きゃぁぁぁ!に、人形が動いた!やめて、来ないで!」


図書館の司書らしき叫び声がイブキの耳を劈く。


「人形が動いた……?」


叫び声が聞こえた方向にイブキが走り出すと、司書の前には包丁を構えた人形が居る。


かなり短めの白鞘の短刀を左手首から繰り出すと、司書の目の前の人形へと刺さった。


「まさか僕の『ヤンデレ七ツ道具』が役に立つとは……。大丈夫ですか?司書さん。」


司書は腰が抜けているようで、口をぱくぱくさせている。イブキは図書館のドアを閉めると、司書の場所へと戻った。


「此処にあるぬいぐるみは、これだけですか?」


こくこくと頷いた司書を見ると、イブキは優しく語りかける。


「大丈夫ですよ。僕は外に出ますが……よいしょっと……。」


イブキは人形の身体を八つ裂きにすると、それを窓からぽんと投げる。白鞘の短刀を元に戻した。


「扉はきつく閉めておきます。誰かが助けに来るまで、決して開けてはいけませんよ。」


イブキは柔和な面持ちで司書へ言うと、図書館の扉を開けてかんぬきを引き、司書から受け取った南京錠で鍵を閉めた。






次回予告!

帝国に何が起こっているのか分かったり、イブキが相も変わらずヤンデレストーカーしてたりそれに緑珠が怒ったりモアが彼等の素性に驚いたりする話!

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