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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第四章 最終決戦月面戦争 新帝都
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 34 緑珠の暴走


現れる新たな敵!そして暴走する緑珠の力!え!?次はあのキャラが帰ってくるよ?誰かって?それは読んでからのお楽しみだよ!ギャグパートとシリアスパートの差が激しい千年怪奇譚!

「おい!其処の馬車野郎!」


緑珠はその声に聞き覚えがあった。気の強そうな女の声だ。


「この声って……もしかして、モアの声?」


高い崖から声が聞こえて、いかにも困窮していそうな馬車を止める。イブキは軽く殺気を放って武器を構えた。


「どうしますか、緑珠様。今なら事前に止めることも可能ですが……。」


「少し見ていましょう。もしあの人達に手を上げれば此方も出す、という事で。」


「了解しました。」


イブキはそっと武器をしまうと三人は茂みに隠れてモアの行動を見守る。


「止まれ!」


「や、止めて下さい!病人も居るんです!」


モアは容赦なく馬車に乗っている人間へと言った。


「ふん、野郎共!やっちまいな!」


真理がしみじみと茂みから呟く。


「あれやばいんじゃないかな……。」


「す、少し見ていましょうよ……。」


モアの命令で、何人かの部下が馬車へと襲いかかる、が。


「やめてくれ!おねが……え?」


「ほら、この食料持って行け。あと薬もだ。」


突然の親切についていけない馬車に乗っていた人間は、食料と薬を恐る恐る受け取る。


「あ、あの、有難う御座います……?」


てっきり襲われると思って疑わなかった人間は、頭上の声を仰ぐ。


「北の国に行くと見た!表の道は危ないから、裏の道を通って行くといい!」


馬車に乗っていた人間は、きらきらと顔を輝かせて礼をした。


「有難う御座います!何とお礼すればいいか……。」


「なに、困っている人を助けるのは普通の事だ。さぁ早く行け。」


がらがらとわだちを作る音が消えて、辺りはシン、と静まり返る。三人も、静まり返る。


「……。」


「……。」


「……。」


そして、安定のイブキが静寂を斬る。


「……何ですかアレ、新手のツンデレですか?」


「にたよーなモンよ。」


緑珠の声に気付いたモアが、三人へと手を振る。


「久しぶりだな、緑珠!今か今かと首を長くして待ってたんだぞ!」


「ええ、久しぶり、モア。」


緑珠は手に腰を当てて軽く手を振る。そして少し肩を竦めた。


「モアは良い事をしてるのね。最初はとってもびっくりしたわ。また悪い事をしてるのかと思っちゃったわ。」


「えへへへへ。そうだろ?頑張ってるんだ。それだけじゃあお金が無くなっちゃうから、人数が多いのを売りにして、御稜威帝国で働いてるんだ。運送業をしてる。」


じゃあ、と真理がモアへと不思議そうに問うた。


「北の国に皆で行くんだし……此処から離れたらちょっとまずいんじゃない?」


その質問を待ってましたと言わんばかりに、モアは胸を張った。


「人数が多いのを売りにしてる、って言ったろ?こっちに支社を作ってるから、特に問題は無い。」


イブキが心の底からモアの商魂に感心した。


「やっぱり商会の娘……商魂が逞しいですね。」


モアは荷物を馬車に積み込むと、緑珠達に乗るように促す。


「ま、生きていくためには仕方ないさ。早く乗れ。さっさと行った方が良いだろう?」


その、刹那だった。


『我が名は審判、世の終焉にあり。』


真理は目を見開くと、馬車から飛び降りる。


「な、何故……どういう事だ!」


「どうしたの、真理?今、何か声が聞こえた気がするけど……。」


真理は何時もの目玉が埋め込まれた青い宝玉の杖を取り出すと、モアはそれを見て目を見張る。


「な、何であいつが創造神の杖を……。」


真理は苦く笑うと、その瞳は蒼く染まり、両目には太陽の紋章が埋め込まれている。


「ごめんね、その話は後だ。それよりも……何故、あの子が……何故『ミルゼンクリア』が居る!?」


「『ミルゼンクリア』?それ、誰なんですか?」


イブキの問いに、真理は目を細めて嗤った。


「君達を殺す者だ。」


瞬間、周辺には幾重にも魔法陣が連なり、そこからは幾つもの怪物が現れる。それ見て冷静に刀に手をあてがいながら緑珠は問う。


「真理、聞くわよ。この怪物を倒さずに逃げられる確率は?」


「ほぼゼロ。と言うかゼロ以下。」


緑珠は少し自身の境遇を嗤いながら、真理へと再び問うた。


「じゃあ、この怪物を私達が倒すとしたら?逃げられる確率は、何%?」


ニッ、と真理は緑珠へと、自信満々に笑いかけた。


「100%。」


それを聞いた緑珠は、勢いよく刀を抜いて叫んだ。


「行くわよ伊吹!蹴散らすわよ!」


「仰せのままに!」


モアは腰に下げていた撃鉄を起こす。


「行くぞ野郎共!撃鉄を起こせ!」


「うおおおおおお!」


緑珠は向かってきた怪物の手を軽く足であしらうと、飾り刀を戦刀に替えて斬り込む。


「っ、私に敵おうと思うなんて、百年早い、わよっ!てやっ!」


戦刀の先端が絵を描くように煌めき、怪物は形容し難い呻き声をあげて黄泉へと降って逝く。


「う、後ろに、ば、化け物がっ……!」


悲鳴を上げた緑珠の背後に立った怪物の心臓を容赦なく貫くのは、イブキである。


「その御方には、指一本触れさせない……!」


曇り無き刃に、血の雫が落ちる。


「別に人では無いですもの。怪物如きに、この刃を汚されるのは大変不本意ですが……。」


周りを囲っていた怪物を、イブキは舞うように一掃する。


「どうせ汚すなら、愛おしい人の血を。」


嗤ったイブキの背後に真理は立つ。


「全く、油断してたら駄目だよ?固有魔法、『境界の歪曲』!」


二人の頭上には重ねた魔法陣があり、其処からまた怪物が湧こうとしているのを、真理の固有魔法で全て失せさせる。


「それじゃあまだまだ行くよ!神様特権、固有魔法『ラプラスの魔物』!」


蒼い瞳が煌めくと、真理が心に描いた通りに怪物は消えた。しかし、全員が全員とは消えない。


「な、何で消えないんですか?真理は神様でしょう?」


イブキがざくん、と相手を斬りながら真理へと問うた。嫌味ったらしくて仕方が無い笑みを浮かべ、真理は答える。


「んー?……ひ、み、つ!」


「……気色悪い。」


真理の行動に心底軽蔑の念を込めた瞳をイブキは向ける。


「わぁ酷い。」


「思ってないでしょって、うわっ!」


「済まないな!」


曲馬サーカスの軽業師の様に、モアはイブキの神器を足蹴にして、宙を待って真反対から敵の頭をバババ!と撃ちまくる。上手く着地をすると、怪物はバタバタと倒れた。


「ま、ざっとこんなモノかしらね。」


「……そう思いたいんだけど、あの子がこんなことで済むとは思えないんだよな……。」


その言葉が図星だった様で、先程と同じ声が聞こえる。


『……少し、舐めていました。わたしが思うよりは良くやるのですね。』


逆接を述べて、先程と同じ声……落ち着いた、悪く言えば無感情の女の声が続いた。


『吾の名前は『マクスウェルの悪魔』。……名前、と言うよりかは役職名ですが。名前はミルゼンクリアと申します。其処でのさばっている『ラプラスの魔物』の対に値するもの。』


ミルゼンクリアは姿も見せず、声だけで四人へと語りかける。


『全くもって、舐めていました。しかし……吾は貴方達を抹殺しなければならない。貴方達は世を乱しすぎる。この世はあってはならない姿へと向かっている。特に其処の、蓬莱 緑珠。』


「わ、私……?」


緑珠はきょとんとしながらミルゼンクリアの言葉を仰ぐ。


『貴女が居なければ、日栄帝国は滅びなかった。北狄も攻めてこなかった。貴女の母も、死ぬ事は無かった。世を呪いながら生きることも無かった。其処のモアとか言う人間も、盗賊を続けて処刑されていた。貴女が居なければ、』


緑珠の奥底にある後悔を、ミルゼンクリアは抉っていく。しかし、


「黙るんだミルゼンクリア。……人の生きる道を否定する君に、緑珠を否定する権利は無い……!」


悔しさからか、歯を鳴らした真理がそれを止めに入る。それを聞いてミルゼンクリアは提案した。


『……良いでしょう。ならば、貴方が死ねば良い。『ラプラスの悪魔』よ。』


「何だって?」


突然の恐ろしい提案に、真理は言葉を漏らしかねない。


『貴方の行動は目に余る。他の神々も苦言を呈しているのです。下賎な人間に』


「黙れ……!僕の大切な人達に、そんな言葉を浴びせるな!」


憤怒の表情を抑えきれなくなった真理は、ぎりぎりと歯を食いしばってミルゼンクリアへと叫んだ。やれやれと言った調子で (姿は見えないが)ミルゼンクリアは問う。


『それでは、質問します。貴方はどうして『人間』という生き物を創ったのですか?』


真理は少し考えると、


「……それを探す為に、僕は人間になっている気がするんだ。」


はぁ、とミルゼンクリアの呆れきったため息が遠くから聞こえた。


『もう良いです。これでは埒が明かない。『ラプラスの魔物』。貴方がこちら側へ戻れば、其処の人間には手を出しません。……『大切な宝物』なのでしょう?』


核心をつかれた真理は、ぼんやりと己の手を眺める。


「……ぼ、僕が死ねば、君達に手を出さない……。」


その瞬間、決断を下すその瞬間。見計らった様に、何時もの、全てを見透かす明るい声が聞こえた。


「ねぇ其処の。ミルゼンクリアとか言う奴。貴女の提案、却下するわ。」


「まぁ却下と言うよりかは、論外ですけどねぇ。」


緑珠とイブキがあっさりと真理の思考をぶち破ると、ミルゼンクリアは苦く返した。


『吾は『ラプラスの魔物』に聞いているんです。ですから』


「じゃあ今私が『ラプラスの魔物』ね。ね?問題ないでしょう?ちゃんと私が答えたわ。」


『吾は屁理屈をごねているのでは』


「大体、こんな野郎に死ねなんて言って容易く死ぬと思います?こんな奴に祈りを捧げるのが嫌なくらいですよ。ねぇ真理?」


彼等の言葉に胸をつかれた真理は、きっ、とミルゼンクリアが居る方向へと睨んだ。


「……そうだ。彼等の言う通りだ。僕は、君の提案を棄却する!僕は、人間として生きて、どうして人間を創ったのかを見極める!……その為に僕は生きるんだ!」


真理の最後の言葉と被るように、無感情だった彼女の声は怒りを言葉に込める。


『ならば!……此処でその人間諸共死ぬがいい!自分のした行いを、『強力な人間を世界に入れ世を乱した』という行いを、天で恥じるが良い!行け、フェンリル!』


砂が舞い踊る様に光の粒が集まると、其処には赤い獅子ライオンが居た。足元には炎を纏って、瞳にはぎらぎらと闘志が滾っている。モアが後に居る部下に指示をする。


「おい、アレを持って来い。今すぐにだ。こんなの人間が敵う相手じゃねぇ。」


「……分かった。」


フェンリルは出方を伺っているようで、直ぐに手出しはしない。


「これは……戦った方が良いの?」


イブキはそう呟いた緑珠に提言する。


「……逃げた方が宜しいかと。負傷者も出ておりますし、相手は神獣です。」


「分かったわ……って、モア?何をしてるの?」


モアは赤い組立式の大きな銃を設置した。装飾が美しい。


「こりゃあ魔法と科学のハイブリッドで出来た銃だ。あの犬っころを黙らすには充分だろ。」


横についていたレバーを下ろすと、モアは近付いてくるフェンリルを眺めながらスコープを覗いた。


「良いか?私がこれを撃ったら一目散に走れ。近くに森があるから四方八方に走るんだ!」


モアの部下の一人が怪訝そうに問う。


「それ使っていいのか、お嬢?一応商品だぞ?」


「なら壊さずに返すまで!」


ビュン、と閃光が走ると、フェンリルに直で当たる。紅蓮の炎が巻き上がると緑珠達は走り出した。


「行きましょう。……けれど、貴方は私と別に逃げた方が良いわ。あのミルゼンクリアとか言うやつの狙いは、私と真理なのだから。」


緑珠はイブキへとそう語りかけると、イブキは肩を竦めて返答する。


「それこそ却下します。」


「……可愛くない子。」


緑珠は少しつっけんどんに宥めた。


「褒め言葉ですねぇ。」


にやりと笑ったイブキの顔を、食えないと思いつつ見つめる緑珠の視線は、背後の神獣にあった。


「っ……どれだけ逃げても執拗しつこいことね。生きて帰りたいなら下がりなさい?」


「うるるる……。」


低く唸ったフェンリルから、また足を反対側に向けようとした瞬間だった。


「緑珠様!危ない!」


足元には断崖絶壁の崖があり、崖下には深淵がぽっかりと口を開けて待っている。


「……これは……。」


緑珠が振り返ると、もう其処にも緑珠を飲み込むための深淵がぽっかりと口を開けて待っている。


『さぁ、観念なさい。貴女は消される運命なのです。』


目の前が、視界がどんどんぼやけるのが分かる。


「……う、うぅ。な、何でそんなこと言うのよぉ……。」


ひっくひっくと嗚咽を上げてうずくまった緑珠を、神獣はミルゼンクリアの許可が下りるのを今か今かと待っている。


『仕方が無いでしょう。恨むならあの神を恨みなさい。貴女は悪くないので』


「……嫌い。」


ミルゼンクリアが言い終わらない内に、緑珠ははっきりと言葉を紡ぐ。


「嫌い、嫌い、皆嫌い。どうして?私が生きることの一体何が悪いの?私は幸せに生きたいだけなの。もう誰も邪魔しないと思っていたのに、貴女は私の邪魔をするの?」


「緑珠様。落ち着い」


『……それでは、貴女の命を頂くとしましょう。恨みを忘れて、永遠の眠りにつきなさい。』


イブキとミルゼンクリアの声が重なって、最後は緑珠の声が響く。


「嫌だ、死にたくない。助けてお父様お母様!私はもう一人は嫌なの。いや、いや、う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


顔を抑えていた緑珠の足元から黒い炎とも言い難い何かが溢れ出ると、一気に辺りを覆う。


「……『黒い』のは嫌なの。寂しいのは嫌。独りでまた凍えるのは嫌。……私は罪禍ざいかの根源。禍根の娘。」


そして、叫ぶ。


六根罪障ろっこんざいしょうを絶やすなんて絶対に許さない!六道輪廻を永遠とわに繰り返し、天道の外で永遠に苦しみを繰り返せば良い!解脱かいだつも絶対に許さない!私以外、皆苦しんでしまえば良い!」


『フェンリル、下がりなさい!』


ミルゼンクリアの声が響いたかと思うと、緑珠は抑えていた顔を上げて、睨む。


「 絶 対 に 逃 が さ な い !」


「ぎゃんっ……。」


下がろとした紅いフェンリルは、己の血で更に紅く汚れる。針の山が獣の血肉を貫いたのだ。


「緑珠様!しっかりして下さい!貴女はもう、独りでは」


【あたしは緑珠なんて名前じゃない!】


ねぇ、と緑珠は暗く濁った瞳をイブキへと向ける。ざしゅ、とイブキの肩を黒い刃が貫いた。


【貴方も消える?】


「っ……緑珠様、お願いですから、お願いだから……!」


イブキは自分の肩を抑えながらも、緑珠へと語りかける。


【でも駄目みたい。貴方を殺そうとすると、身体が言うことを聞かないの。殺しちゃ駄目だって、頭の中ががんがん煩いの。じゃあ貴方は最後で良いよね。】


緑珠から出でた瘴気しょうきが、森を腐らせていく。











次回予告!


緑珠の暴走は続く、が。それを止めるのが彼の役目。緑珠の真実を聞いた彼の気持ちとは?そして、彼が出来ることとは。もう一人の緑珠が顔を出す、そんなどきどきの千年怪奇譚!

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