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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第四章 最終決戦月面戦争 新帝都
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 33 女帝の結論と新たな旅路

続いていく、緑珠達の物語。しかし、麗羅は本当の事を言わなかった。大国の女帝が出した結論と、紅葉に溶けゆく真実。これは、真実のお話。緑珠の出生の秘密の、もっと奥底にある秘密。

「行ってしまいましたねぇ……。」


麗羅は大木のテラスから、緑珠一行の姿を眺める。秋風が香ばしい匂いを放ちながら駆け抜けていった。


「葉月。」


麗羅は優しく己の補佐官を呼ぶと、補佐官は傍へと現れる。


「何でしょうか、麗羅様。」


女帝は消えつつある緑珠達の背中を眺めながら、


「……私はね、緑珠に本当の事を伝えていないのですよ。」


そして、一拍置いて、


「葉月、本当の事を聞いてくれますか?でも、この事は秘密ですよ?」


悪戯っぽく麗羅は笑うと、それにつられて葉月も笑う。


「この葉月、その秘密を墓まで持っていきましょうとも。」


葉月のその返答を聞いて、カサコソと木の葉が踊るのを眺めながら麗羅は言った。


「……貴方なら、そう言ってくれると思いましたよ。」










二十五年前。


妙に静かで、風が廊下を歩いている様な音が聞こえた、秋の日のこと。


「……我が姉 香は、死にました。」


使節こと、華楼閣 香の妹、南桃はひれ伏しながら答えた。その言葉に麗羅は詰まる。


「し、死んだ……何故、何故、香が……公には出産の折に亡くなってしまったと聞きましたが……それは本当なのですか?」


南桃は顔を上げずに、女帝の質問に淡々と答えていく。


「……いいえ、それは嘘です。『嘘』、と言うよりかは『噂』、と言えば良いでしょうか。中途半端に話を聞いた女房が、勝手に振りまいたものです。本当は……暗殺されました。」


「暗殺……!?」


「ええ、暗殺されました。……良くある話でしょう?」


「よ、良くある話って……。」


冷め切った感情を持った南桃の言葉に狼狽えつつも、妹は続ける。


「姉は李烏山様に嫁ぐことになっておりました。」


「そ、それは存じています。なのに何故?」


南桃は腫れぼったい目を麗羅へと向ける。疲れ切った眼差しだ。


「……元より李烏山様と娘を結婚させようと思っている大臣が居たのです。しかし、姉が嫁いだ事により計画は頓挫。……要するに、姉は当てつけで殺されました。それにしても完全犯罪を暴くのは難しかったのですよ。」


「何故、完全犯罪が露顕したのですか……?」


質問するのも疲れた麗羅は、香の生きた軌跡を掴もうと必死だ。南桃がぼそりと呟く。


「……『全能定理のQ.E.D.』。お話します、あの日に何があったのか……。」












香が殺された、その日。


王宮は雨に濡れ、曇り硝子が美しい向日葵を映す。


「退屈だわ。つまらない。月面の本は全部読んじゃったし……王宮からは出られないし……李烏山と結婚したら二人で遠い所に住んで……でも李烏山には政務があるものね……。」


香は開きかけた頁に押し花のしおりを挟んで立ち上がろうとすると、扉がノックされる。


「し、し、失礼します。」


小姓の緊張した声が聞こえて、香は優しく答えた。


「ええどうぞ。」


小姓はそれに答えて扉を開けると、熱々の紅茶を香の前に置く。


「……それをあたしが飲めば、貴方は生きられるのね?」


よっぽど強烈な毒物らしく、小姓の指先は黒ずんでいる。白いシルクのブラウスの裾からは、日々の虐待が垣間見える。こくこく、と頷いた小姓の顔。


「……分かったわ。でも少しだけ待ってくれる?」


香は空いた紙にすらすらと書き上げると、装飾品を小姓へと渡す。


「さぁ、これを持って逃げるといいわ。貴方はもう自由よ。貴方に暗殺を命じた者は、まもなく断罪される。」


小姓は涙を零しながら、そのまま部屋を飛び出した。香は、茶を一口。そして、










南桃が一通りの回想を終えて、麗羅へと言った。


「姉の固有魔法『全能定理のQ.E.D.』は、この世に蔓延はびこる森羅万象を知る事が出来る、そしてその証拠を提示できる魔法。その強力な力故、一生に一回、そして『使役者本人に関わっていない』ことは使えませんが、姉がもたらした姉の暗殺を指示した書物に、とある大臣の名前が記されていました。」


ただ、ただただ淡々と答えていく南桃に、麗羅は只管ひたすら唖然とした。そうだ、と南桃は続ける。


「遺書が、ありました。」


南桃の懐からカードの様な大きさの白い紙が出る。


「……『この事件に関して、私は真に驚くべき証明を見つけたが、この余白はそれを書くには狭すぎる。しかし、全知全能を証明するには事足りた。全知全能とは、何かを思う気持ちである。』……裏もあるんです。」


カードを裏に向けて南桃の頬に一筋の雫が零れ落ちる。淡々としていた南桃の感情が、濡れていく。それはもう、絶え間なく。


「ここにね、書いてあるのですよ。『緑珠李雅を頼みます』って、涙の跡をいくつも付けて。幾つも、幾つも、幾つもつけて。インクが見えなくなるまで、紙がふやけるまで……。」


涙の跡が、また一つ増えた。









「その後、李烏山様に体裁を保つ為、王妃にならないかと言われた事を南桃は私に相談してきました。幸い国民には公表されていなかったので、無事に南桃は第一王妃につきました。」


紅い木の葉が、肘をついて傍観している麗羅を横切る。葉月が控えながらも問うた。


「一つ、尋ねても宜しいでしょうか。……何故、あの月の姫君にはその事を告げなかったのですか?」


麗羅はずれた衣服をきちんと戻すと、


「……もう、彼女には何も感じて欲しく無かったのです。負の感情は、何も。これ以上彼女が罪を背負うと、『終焉の扉』を開けるに事足りるようになってしまう。」


「『終焉の扉』……?」


葉月の疑問の言葉に、麗羅はまるでうわ言の様に呟いた。


「『其は理を以て尊しと成し、法を以て人を為す物。これを以て人の上に立つ者とし、是を以て人を治める者と為せ。其は、天上の約束。』彼女がこれ以上罪を重ねると、側に居る閻魔大王でさえも罪を裁ききれない。だって、彼女は……。」


糸目だった瞳をゆっくりと開けると、麗羅は我を取り戻した。


「……いえ、何でもありません。これは神様との約束ですからね。言い過ぎては駄目です。」


葉月がそれ以上追求しないように、別の話題を転換する。


「話題は変わりますが……もしも、もしもですよ?」


「ええ、ええ。何でしょう?」


麗羅は姿勢を正すと、葉月の問いを優しく受け止める。


「……もしも、私が死ねば、麗羅様は泣いて下さりますか?」


「おや、それはあの神祇伯の若君と月の姫君を見てから……。」


葉月の言葉をくすくすと受け流しながら、真っ赤になっている葉月を見つめる。


「なっ……。」


「うふふ、図星ですね。」


「っ……煩いです。はっ、話を元に戻しますが、麗羅様は初代の補佐官が亡くなった時、喉から血が出るまで泣いたそうですが。」


風の弾みに、麗羅の麗しい黒髪を結っていた髪留めが解けて、黒髪が舞う。顔は見えない、顔は見えないが。


「……貴方が死んだら泣くか?私の回答は、『さぁ?どうでしょうね?』です。」


紅い涙が散る。


「それに、そんな昔のこと、忘れました。寂しさなんて、疾っくの昔に、」


紅い涙と色付く木の葉が混ざりあって、


「……忘れました。」


消えた。













麗羅と葉月との話の少し前。


「次は、何処の国に行こうと思っているのですか?」


国を出ようとしている緑珠一行に、麗羅はにこにこと笑いかけた。


「そうね……言われてみれば、決めてなかったかも。ねぇイブキ。」


「そうですねぇ。どうしましょうか。」


「一度マグノーリエに帰るのも全然アリだと思うけど……。」


三人が悩んでいるのを、麗羅は優しく見守っている。


「それなら……行ってほしい国があるのです。」


「行って欲しい国……?」


麗羅はかなり困りながら三人へと頼んだ。


「北の『ノルテ・カーリン帝国』と、一ヶ月以上連絡が取れないのです。あの優しい武帝から、『今度は庭球テニスをしよう』と言われて折角、規則ルールも勉強したばかりだったので……。」


しかも、と麗羅は訝しげに眉をひそめた。


「出て行った使いが誰一人として帰ってこないのです。」


「使いが……帰って来ない?」


緑珠の不思議そうな相槌に、麗羅はこくこくと頷く。


「ええ、そうなのですよ。二番目の使いは要所要所で手紙を書かせました。しかし……『ノルテ帝国の関所で手紙を書いている』、という手紙からぱったりと連絡が取れないのです。」


真理が麗羅の怪訝さにつられて考え始めた。


「じゃあ……国では虐殺等が行われている訳でも無いんだね?流石に関所に外部の者が行こうとすれば、殺すのが常というもの。国に何かあったとしか考えられない……。」


真理の考察に麗羅は頼み込むようにして言った。


「そうなのです。ですからお願いします。私は神巫女という立場上、此処から動く事が出来ません。貴方達だけが頼みの綱なのです。」


麗羅の頼み事に、緑珠は胸を張って自信満々に答えた。


「麗羅様のお頼みとあらば、断らない訳にはいないわ!どうして使いが帰って来ないのか分かったら、直ぐに連絡をするわね。それまで、どうか御健康でいらして下さい。」


それと、と緑珠は笑顔で、しかし何処か哀愁を漂わせて言葉を付け加える。


「……母のお話、有難う御座いました。話す事もきっとお嫌だったと存じます。」


麗羅は緑珠の言葉に苦く笑いながら答えた。


「いえ……もう、敬語はやめてと言ったのに。」


神巫女の苦い言葉に、緑珠は礼をするとそのまま歩き始める。その背中には、また遊びに来ますと言わんばかりであった。そして、神巫女は独り、


「……やっぱり、貴女の母親に私はなれないのですねぇ……。」


哀愁の言葉を風に溶かした。












「よぉーっし!モアの待ち合わせ場所まで歩きましょう!」


「そうですね、緑珠様。」


緑珠が先頭を歩きながら、嬉しそうに言った。


「うふふふ、こんな呑気に歩けるのも久し振りだわ!」


「何やかんやしてたら一ヶ月近く経ってたもんねぇ。」


真理も嬉しそうににこにこしながら緑珠の言葉を返す。


「ええっと……ザフラ王国に行って、月に攫われて……風邪をひいて、お話を聞きに行って……何だか凄い、冒険みたいだわ。……冒険はしているのだけれどね。」


「大冒険のさなかですよ。真逆僕も冒険に加わるとは、夢にも思っていませんでした。」


イブキが微笑むと、緑珠は少し振り返って月面の事を思い出す。


「あら?貴方はそうでも無いんじゃなくて?北の城塞はもっと凄いでしょう?」


「北の城塞は、もっと凄いですが……心踊る様なものは何もありませんよ。入る時のテストも難しいし。何せ殺伐としてますから……あぁでも、」


イブキの昔の上司、女看守長を苦々しく思い出して言った。


「女看守長目当てで来る莫迦が一定数居ましたけど。……あの看守長、鞭持ってるドSだったので。」


真理がイブキの想像をいとも簡単に掬う。


「なるほど……『そのテ』の青年諸君には絶好のアレって事だね。」


緑珠がきょとん、としながら真理へと問うた。


「どういうこと?『そのテ』のアレって?」


真理は自分の娘を愛でるように、優しく緑珠の頭を撫でる。


「んー?……ひ、み、つ。」


「むー……。」


緑珠は子供っぽく口を膨らませる。が、後ろのヤンデレ変態従者の目が痛い。


「りょ、りょくしりあ様の頭を撫でてる……う、あ……。」


緑珠が真理に撫でられたまま、その様子を見つめながら言う。


「あれどうするのよ。私が餌食になるのよ?」


「さぁ……知らないなぁ……と、言いつつ緑珠も撫でられるの気に入ってるよね?」


現に緑珠は真理が撫でている手をがっしりと掴んでいる。


「……うん。……じゃなくて!イブキをどうにかしなくちゃ今日の夕飯、闇鍋よ!?」


妙案を思いついた緑珠が撫でられながらイブキへと話す。


「ねぇイブキ。貴方は何時も私の髪を乾かしてくれているわよね?じゃあ今度は、私の髪に椿油を塗る係に任命します!」


「……ほ、本当ですか……?」


イブキのぽかんとした表情に、緑珠はにっこりと答えた。


「そうよ。ちゃんと髪の毛の梳かし方も教えるわ。」


真理は緑珠に耳打ちする。


「そんなのでどうにかなるの……?」


「ええ。どうにかなるの。イブキはずっと私の髪を梳かしたがっていたもの。何時か使えると思って残していた甲斐があったものだわ。」


イブキは蕩けるような笑みを零して、


「ぼ、僕が、緑珠様の髪を梳く係……未来永劫……。」


後半の重い言葉を呟く。それ聞いて緑珠は片眉あげた。


「重いわよ。」


「重くないですよ。」


「重い男は嫌われるわよ?」


「僕はそんなに自分の重い所を出しませんから。」


緑珠とイブキのとてつもなくどうでもいい会話を、馬車が横切っていく。


「それで引っかかる子も居るんだろうなぁ……多分……。」


真理が最後の言葉を言い終わらない内に、のんびりとした空気がざくん、と容赦なく斬られた。






次回予告!


現れる新たな敵!そして暴走する緑珠の力!え!?次はあのキャラが帰ってくるよ?誰かって?それは読んでからのお楽しみだよ!ギャグパートとシリアスパートの差が激しい千年怪奇譚!

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