表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第四章 最終決戦月面戦争 新帝都
38/256

ラプラスの魔物 千年怪奇譚 27 戦争の終幕

とうとう月面戦争もフィナーレへ!亡国と皇国を巻き込んだ、龍、鬼、鵺、九尾狐の貴族達が末に導き出した結論とは!?そして、緑珠がとんでもない行動に出る!

真理の魔法で来仙邸へ移動すると、沢山の兵士が家の前に立っていた。


「便利ね、魔法って。」


「便利だよねぇ。分かるよ、それ。」


花ノ宮は沢山の兵士を見つめると、三人へと提言する。


「裏口にも兵士は居ると思います。……特別な入口があるのです。其処から参りましょう。」


花ノ宮へと着いて行くと、隣の家の扉の前に立った。がちゃがちゃと錠前を弄る。


「これ、人様のお家よね……入っていいの?」


「この際もう構いません。参りましょう。」


隣の家へと入ると、茂みの中にドアがある。花ノ宮はポケットから紅い宝石がはめ込まれた鍵を出して、ドアノブを引いた。


「参りましょう。」












「お姉様!」


花ノ宮は姉、天ノあめのみやの部屋の扉をけたたましく開けると、緑珠は花ノ宮の横を通って寝台へと向かう。


「お久しぶりね、天ノ宮。」


日が当たらないお陰で、天ノ宮の肌は雪のように白い。それに加えて、緑珠の顔を見て随分と驚いているお陰で、益々血の気が引いている。


「りょ、緑珠李雅様……お久しぶりですね。この騒ぎはなんですか……?」


少しだけ喉の掠れた声で、天ノ宮は緑珠へと問う。緑珠がその質問に答えることは無く、


「その質問の答えは貴女の妹から聞いて頂戴。……花ノ宮公女はちょっと頑張りすぎたのよ。」


「私はそんな頑張ってなどいません!まだまだ出来ます!」


手をわきゃわきゃさせて睡眠不足の眼を擦りながら、花ノ宮は緑珠へとアピールする。が、そんなのを黙認する訳にもいかず。


「ほら。」


「ふふ、重症ですね、緑珠李雅様。」


緑珠の少し呆れ笑った顔に、天ノ宮も笑った。


「お姉様まで!」


緑珠と天ノ宮は花ノ宮の言葉を微笑ましく眺める。


「おいで、花。貴女に言いたいことがあるの。……その為に緑珠李雅様も此処へ来たのでしょう?」


「まぁ、それもあるけど……私は貴女にお別れを。もう二度とこの国は来ないでしょうし。」


緑珠の一言を天ノ宮は悲しく受け取った。


「……そうですか。またお話出来ると思ったのに、残念です。」


「ごめんなさいね。もう、私には、この国では……必要とされて居ないから。」


花ノ宮は寝台へと近付くと同時に、天ノ宮はイブキの方向を向いた。


「ねぇ、光遷院様もいらっしゃるのでしょう?」


「はい、此処に。」


イブキも寝台へと近づくと、天ノ宮は緑珠とイブキに謝る。


「きっとまた花ノ宮が迷惑をかけたのでしょう?申し訳ありません。」


「お、お姉様!違います!私は迷惑だなんて!」


否定を叫んだ花ノ宮に被せて、イブキは自嘲気味に言った。


「全く、吃驚しましたよ。『自害するつもりだった』なんて言い出して。」


「こ、光遷院殿だって私の事をおちょくった癖に!」


真理は一歩引いて四人の会話を微笑ましく見ている。


「否定はしません。ねぇ、『お嬢さん』?」


何時かの玉座前で言った一言を、まるでおちょくるかの様にイブキは花ノ宮へと言った。


「ぐぬぬぬぬ……何時か絶対一泡吹かせてやります!」


「楽しみにしています、花ノ宮公女。」


天ノ宮は花ノ宮へと優しく諭した。それは、天ノ宮がずっと言いたかったことだった。


「ねぇ花ノ宮。もう権威なんて必要無いわ。私は要らないもの。」


「そ、んな……でも、それじゃあ……。」


もし、と天ノ宮は少しずつ明け始めた宇宙を見る。満点の星と水が美しい。


「もし、もしね?貴女が国を治めたいと言う、強い信念があるというのなら、お遣りなさい。」


「そんな……それじゃあ、私は、どうすれば……。」


花ノ宮の答える時間を、運命は与えなかった。煩くドア鳴ると、一人の召使いが中へと入る。


「天ノ宮様!兵士が……!何故、何故裏切り者が此処に居る!天ノ宮様以外全て捕まえろ!」


イブキが頭を掻きながら、緑珠へと言った。


「酷い言い草ですねぇ。……緑珠様、お逃げ下さい。船着場で会いましょう。」


イブキが武器を構えたのを、緑珠は寂しく見つめた。彼女は花ノ宮公女の手を引くと、なけなしの別れの言葉を一つ。


「さようなら、天ノ宮。……行くわよ、花ノ宮公女。」


「どうして!私は追いかけられているんです!私が一緒にいれば、貴女は殺されてしまう……!」


部屋の抜け口から抜け出すと、溢れ出る太陽の光が地表を暖めていく。屋敷から暫く離れて、しっかりと花ノ宮の肩を掴んで緑珠は花ノ宮へと言った。


「……貴女が物分りの悪い人間だと言うのは、随分と前から知ってるわ。」


「うぅ……。」


年相応にしょげた花ノ宮を見ながら、緑珠は目を細める。


「だけど、これだけは聞いて頂戴。あのね……。」










『あのね、もし敵が追ってきて他に万策尽きた時には、私は、私の首をはねる。その間に逃げて頂戴。』


(そんなこと、言われても……。私はずっと、決められないままでいる……。)


花ノ宮は心の中にぐるぐると渦巻く何か、をずっとずっと掴みきれずにいた。


「やっぱり敵が沢山いるわね……。」


船着場には兵士が溢れかえっている。しかし、其処を通らねばならない。


「……行かなくちゃ。」


緑珠はなるべくバレない様に近付くも、


「見つけたぞ!捕らえろ!」


緑珠はその声に立ち上がると、花ノ宮を背後へと押しやる。


「大人しく捕まれ!」


「嫌よ。どうして捕まれと言われて捕まえられなくちゃならないの?」


売り言葉に買い言葉。緑珠は吐き捨てるように言い放つ。


「ならばその背後にいる『仮初の王』でも出すが良い。」


緑珠は泣きそうになっている花ノ宮の耳を抑えて言った。


「目を塞いで。何も言わないで。……貴方達、仮にも自分の王になってくれた人になんて事を言うの?」


「ならばお前の首を出せ。でなければ我々は帰ることが出来ん。」


「……それで、花ノ宮公女は助かるの?普通の生活が出来るの?」


そんなのはきっと嘘だ。だけど、今はこの手で。遅かれ早かれ死ぬのなら、人の手にかかって死ぬのなら、今、自ら、この手で。


「あぁ。」


無機質な兵士の声を聞きながら、緑珠はそっと、『それ』、に手を伸ばす。


「……まぁ、元より貴方達の話なんて信じてなんていないわ。……でも、そうね。処刑されるなら、自分で自害する方が良いもの。」


花ノ宮公女の耳を塞いでいた手を、自害する手へと緑珠は変えた。


「や、やめて下さい緑珠李雅様!貴方の服を、血で汚さないで!私は何もできないけど、それでも!」


緑珠は花ノ宮の決死の言葉聞いて、優しく、そして寂しく笑う。


「……最後に貴女の『本当の言葉』を聞けて、本当に良かった……。」


「やめて!お願い!誰か、助けて!お願い!ねぇ助けてったら!」


花ノ宮は前の兵士へと叫ぶ。だが、誰も何も返さない。誰も、何も。緑珠の首が飛ぶのを、ただただ待っているだけだ。


(そんな、そんな、私は、無実の、何もしていない、人を、私なんかの為に……。)


「さようなら、花ノ宮公女。私、今度生まれ変わったら……。」


にこっ、と緑珠は笑った。本当に、何時も通りの笑顔だった。一筋の涙は違ったが。


「私と、伊吹と、冷泉帝と、天ノ宮と、貴女。……お友達になれたら良いわね!きっと、とっても楽しいはずだわ!伊吹と冷泉帝はきっと喧嘩ばっかりしてるでしょうけど、それを私と貴女と天ノ宮で止めるの。うふふ、きっと楽しいわ!」


鋭利な刃物を震える手で、緑珠は首筋に当てる。どれだけ心を強く持っても、死ぬのは怖いのだ。


「私の首は高いのよ。ちゃんとその代償は払って頂戴ね?……でも……あぁ、きっと伊吹と真理に怒られてしまうわ……。」


「やめて、やめて、お願い!」


「……さようなら。」


緑珠はそっ、と目を伏せて、花ノ宮の遠い慟哭を聞く。


「いやぁぁぁぁぁぁ!」


ダン。


「きゃあっ!」


悲鳴を上げる緑珠。彼女が持っていた、首を刎ねるはずの剣は、からんからん、と美しい音を立てて落ちる。


「いやいや、間に合って良かったぞ……自害寸前だったしな。」


「お前が私の手当なんかしていたからだろう!」


「お前も充分死にかけだったけどな。」


「何を!」


何が起こったのか分からない緑珠と花ノ宮は、何とか状況を読もうとする。


目の前兵士は全て倒されていて、男女ペアが言い合いをしている。


「あ、貴方達は……?」


緑珠の一言に、女は膝をついた。男が遅れて膝をつく。


「お怪我が無くて何よりです、緑珠李雅様。」


「お怪我というか、死ぬ寸前でしたけどね。」


「余計なことを言うな、楓。」


「お前こそだろ、アリア。」


余りにも仲が良さそうに会話をする二人に、緑珠はもう一度問うた。


「えっと、それで貴方達は……?」


緑珠は名も名乗らない二人をきょとんとした表情で見る。今度は男が先に答えた。


「そうですね。申し遅れました。俺の名前は楓・クロサワード=バルチュって言います。」


「私の名前はアリシャーア・フォン・アーベントロートと申します。……光遷院 伊吹様の友人です。……俗っぽい言い方をすると、上司と部下というのか。」


「緑珠様!ご無事ですか!」


イブキが息も絶え絶えに緑珠へと走りよった。そして、友人へと問う。


「間に合ったんですか?二人とも?」


「とてつもなく危なかったんだぞ?自害寸前で……。」


かちん、とイブキの表情が冷える。


「『自害寸前』?」


「かーえーでー……!それを言ったらイブキが怒ることが分かるだろう!?このアホ!バカ!しっかりしろ!」


口を滑らすことに定評がある楓が、またもや偉業を成し遂げた。


「あっ……。」


いかにもやっちまったという声を楓は出したが、時既に遅しである。


「……へぇ。自害、ですか。」


イブキの冷えた笑顔。因みに目は全く笑っていない。


「う、あ、それ以外方法が無かったのよ!」


緑珠は決死の弁明を行う。とにかく目の前の激昂を極めている伊吹を刺激してはならない。


「それで自害と?」


「あ、あ、あ、ご、ごめんな」


取り敢えず謝ろう!と思う緑珠の気概を、ぽっきりと、容赦なく伊吹はへし折る。


「僕は別に謝りが欲しい訳じゃないんですよね。」


緑珠はアリアに助けて欲しいと言う懇願の眼差しと声を向ける。しかしアリアは、


「無理ですよ、緑珠李雅様。キレたそいつは誰も止められません。自分自身で止められたら良い方ですよ。」


「人の説教聞きながら他人に助けを求めるって随分と良い度胸してるじゃないですか。……そういう生意気なの、すっごく唆られます。屈服させたくなる。」


アリアからの視線を戻した緑珠は……やってしまった。どうすれば良いのか。


「ひぃぃぃぃぃ!あ、あ、ちょっと待って!怒らないで!花ノ宮公女に言いたい事があるのよ!」


「……ふうん……。」


イブキは絶対に離さないと言わんばかりに緑珠の手首に一瞬だけ力を込めると、そっと手を離した。緑珠はほっ、と胸をなで下ろす。


「ねぇ、花ノ宮公女。決めた?貴女の心のうちにある……もやもやしたもの。」


花ノ宮は胸に手を当てると、顔を上げた。


「はい。……姉が言ったのもありますが、私は……この国の王になります。建前でも、仮初でも。私は、この国の王になります。私が私で背負いきれる量をちゃんと背負って。」


花ノ宮はそのまま緑珠へと、深々と頭を下げた。


「緑珠李雅様。ご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ありません。……これからは、貴女方あなたがたを追わないと言うことを、来仙 花ノ宮の名にかけてお約束致しましょう。」


朝日が国を滑っていく。宇宙の星々は薄く消えていく。そして、緑珠は。


「今度は嬉しい笑顔で帰れるわ。さぁ、帰りましょうか。地上は今、夜だわ。……い、伊吹、お、怒るのは、地上でね……?」


「ええ、『じっくり、ゆっくり、ねっとり』、教えて差し上げます。」


意味深極まりない事をさらりと笑いながらイブキは言い放った。


「ヒエッ……。」


緑珠はびくん、と身体震わせる。それを見ながら真理はくすくすと笑って言った。


「さ、地上に帰ろっか。」


「えぇ、帰りましょうね。」


「じゃあな!イブキ!また顔見せろよ!」


「また皆で話そうか。伊吹と、楓と、私で。」


「ええ。また逢う日まで。楓さん、アリアさん。」


各々の別れを告げたあと、楓が緑珠へと言った。……いや、彼等からしてみれば『緑珠李雅』、だが。


「緑珠李雅様。国を造っていると言うお話を伺いました。もし、お造りになった暁には……。」


「我々もまた、貴女の夢を見たいのです。」


緑珠は二人の言葉を聞くと、慈愛の笑みを零す。


「……ふふ、嬉しいわ。有難う。またいつか、逢う日まで。それと……私を助けてくれて有難う。それじゃあね!」


ふぉん、と移動魔法が発動して、三人は地上に居た。縁側には眠たい眼を擦りながら帰りを待って座っている華幻が居る。


「りょ、緑珠様!良くぞごぶぶっ!」


「華幻ちゃん!会いたかったわ!」


華幻は最後まで言葉を言いきれずに、緑珠に抱きつかれて倒れる。驚きつつも、華幻は言葉を紡ぐ。


「よ、良くぞお帰り下さいました……お兄ちゃんも、真理さんも、お疲れ様でした。」


「うん。有難うね、華幻ちゃん。」


「……。」


黙ってキレ続けている伊吹を横目で見ながら、真理はフォローした。


「あー、あー、ほら。華幻ちゃん。疲れたからお風呂入りたいな、なんて……。」


緑珠はぱっと華幻から手を離すと、華幻は思い出した様に笑った。


「ごめんなさい。そうですよね、気が利かなくて……直ぐに沸かして来ます!お兄ちゃん、ご飯は?どうする?」


「……作ります。」


激昂している兄は何か理由があるのだろう。触らぬ神に祟りなし。華幻は笑顔で応答した。


「そっか。じゃあ私はお風呂沸かしたら寝るから……おやすみなさい。」


とたとたと縁側を伝って走っていく華幻を緑珠は最後の景色だの雑念を漂わせて眺めている。


(これは……今此処で殺されるか、それとも監禁コースね……どうしましょう、これ。何とか上手く言い訳して……。)


「俺が怒っているのに『上手く言い訳』だの何だの考えるなんて本当に良い度胸してますね。本当に監禁してやりましょうか。一生出して遣りませんよ。」


これ程怒っているのを、一体どう対処すれば良いのだろうか。


「うひゃあ!」


(やばいやばいやばい)


伊吹は神器『神鳳冷艶鋸』を緑珠の額へと当てた。それに合わせて緑珠は逆匍匐ほふく前身する。そして、


「さァ、之で逃げられません。……俺に何か言うことは?」


「う、う、あ……。」


緑珠には背後の壁が絶対零度に感じる。さぁ、上手い逃げ方をお披露目する時間だ。


「ご、ごめんなさい?」


「そうですね。それで?」


「ただいま……。」


「随分と今更ですが。」


「お腹空いた……。」


「それは後で作って差し上げます。で?……それ以上戯けた言葉しか出ないのなら、」


伊吹は緑珠の首筋ぎりぎりに刃を当てる。


「首、本当に斬っちゃいますよ。」


「め、迷惑をかけて申し訳ございませんでした!」


「迷惑だと思っていません。……出て来ないのなら良いです。」


呆れながら伊吹は肩をすくめると、刃を下へと下ろす。


「僕には謝りました。さて、もう一人謝るべき人が居るでしょう?」


「真理!」


「はい、御名答です。行って謝って来なさい。」


「はい……。」


イブキの言葉に従って、緑珠は真理が居るであろう部屋へと向かう。イブキは深くため息を付いた。


「はぁ……緑珠様。僕が望んでる言葉は、そんな言葉じゃないんですよ……。」












「真理!」


「わっ、びっくりした!……どうしたの?」


紫髪をなびかせて、優しい笑顔で真理は緑珠を見る。


「あ、あのね……心配かけて、ごめんなさい。」


ぺこりと頭を下げると、真理はよしよしと緑珠の頭を撫でる。


「うんうん。素直で良い事だよ。僕はそんなに怒ってないから、伊吹君みたくね。いやまぁ、ちょっとは怒ってるけど……。うん、無事で何よりだ。」


真理は座っていた縁側に、ぱんぱん、と、叩いて緑珠を誘う。その誘いに乗って緑珠は縁側へと座った。


「真理にはどうして伊吹があんなに怒ってるのか分かるの?」


「んー……そうだな、緑珠にはちょっと分からない感情かも。」


月の上と地上の時間の流れは違う。もう地上の空には深淵が巣喰っていた。


「そうなの……?明らかに呆れられちゃって……。」


真理はイブキの心底にある思いを馳せながら、緑珠へと教える。


「そうだねぇ……伊吹君はね、頼って欲しかったんだよ。君に。『助けて』と言って欲しかったんだ。だって、彼は君の守り人なんだからね。『助けて』、って言われることは、何より彼にとっては嬉しいはずだよ。」


緑珠は真理の言葉を反芻する。


「そっか……私ね、伊吹や真理に頼っちゃだめだって思ってたの。私だけで何とかしなくちゃって……。結局、皆に助けて貰ったけど……。」


「うんうん。でもそれは緑珠が頑張ろう!って思った行動なんでしょう?」


真理が自責の念に駆られている緑珠を優しく慰める。


「そうなの、そうなのよ!分かってくれる?」


緑珠の思いを上手く掬った真理に、彼女は歓喜の声を上げた。


「分かるよ。きっと伊吹君も分かってくれてると思うけど……やっぱり心配なんだよ、きっと。言ってほしいんだよ。」


緑珠は真理の言葉を頭に浮かべて回しながら、立ち上がった。


「私、行くわ。もう一回伊吹に言ってくる!今日は……ううん。何時も有難う、真理!」


「うんうん、行ってらっしゃい。」


緑珠が走り去る様子を真理は優しい眼差しで見ていた。そして、冷たい空を眺める。秋風が身体に痛い。


「人間を学ぶ、か。……そうだね、宙竜。僕も学ばなくちゃ。『全知全能』なんて、寂しくて、凍てた心みたいだ。……不完全でも、僕は人間が良い。暖かい。」












伊吹が味噌汁を作っている最中、緑珠は背後から声をかける。


「伊吹。」


「何ですか。お味噌汁ならまだ」


伊吹が酷く冷たい声で緑珠へと返す。どうやらまだ怒っているらしい。そういう部分は子供っぽい。


「あのね。ごめんなさい。」


ぴた、と味噌汁を作っている手を伊吹は止めた。振り返りはしない。


「僕は謝りが欲しい訳では」


「ごめんね。貴方の気持ちに気付なかった。私にとって、『助けて』と言うのは怠慢の様に感じてしまったの。……でもね、」


「僕は、『助けて』と、救済を頼む声が聞きたかったんです。」


表情は見えないが、声はくぐもっている。涙が伊吹の頬をつたうのが、緑珠には見えた。


「だって、僕は貴女を守る為に居るんです。なら、なら、貴女に『助けて』と言われない僕は、何の意味があるって言うんですか……。」


緑珠は、これ以上言葉を続けても埒が明かないと悟ると、そのまま伊吹に抱き着く。


「えいっ!」


「わっ!何ですかいきなり!」


「……泣いてるの?」


緑珠はイブキの顔を覗き込む。涙の膜が貼って、今にも零れ落ちそうだ。


「泣いてません。ずびっ……。」


そんな雰囲気をブチ壊すかの様に、緑珠は鍋を覗き込んだ。


「ねぇイブキ。一つ言ってもいいかしら。」


「どうぞ、御心のままに……ぐすっ……。」


緑珠は鍋の中の『豆腐だったもの』、白いかすを指す。


「イブキ。考え事しながら作ってたでしょ。ボロボロよ?豆腐。」


「へっ……?う、うわぁ!作り直します!」


慌てて我に戻ったイブキを、緑珠は宥める。


「作り直さなくても良いわよ。それだけ疲れてるんでしょ?有難う。ごめんなさいね。私の、貴方の気持ちを分かってあげられなかったの。でも、貴方の事を信用していない訳では無いわ。」


「……はい。」


緑珠はイブキの最後の涙を拭った。


「さぁ、泣くのはお仕舞い!仲良く食べましょ?」







お☆ま☆け 〜就寝前〜

(台詞のみでお楽しみ下さい……)


「ちゃんと暖かくして寝るんですよ!もう秋なんですからね!あったかいお布団出しておきましたから!お腹壊すので気をつけて下さいね!」


「イブキうるさーい。それくらい分かってるわよ。」


「伊吹君、緑珠が居なかった反動で過保護になってるな……。」


「あとそれと、そうだ。」


「どうしたの?イブキ。」


「もう二度と、居なくならないで下さいね?」


「……ええ、勿論よ。」

月面戦争も終幕に向かい、さぁ旅を……と思った緑珠だったが、疲れからか身体を壊してしまう。其処でめくるめく起こる、新たな出会い。そして夢に囚われた緑珠の為に、イブキがとった行動とは……!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ