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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第四章 最終決戦月面戦争 新帝都
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 25 姫君の奪還

とうとう月面戦争もフィナーレに近づき、動き出す各々の思惑。彼らは何を思い、何を行動に移すのか?そして驚愕の新キャラ登場!誰もが聞いたことのあるあの人と、聞いたこともないあの人が現れる……!

「僕のこと、舐めない方が良いですよ。」


男は机が倒れた衝撃で尻餅をつく。余りの殺気に、男はがたがたと震えている。


「一度❛鬼門の多聞天(僕)❜に痛い目にあったのでしょう?ならば学ぶというのが筋というもの。……いや……北狄の貴方には無理なことでしたね。」


しん、と静寂を縫いながらイブキは微笑みながら話していく。


「風呂の毒も、毒針も。言わないでおいてあげたのに。残念です、とても。」


真理はイブキの言うことなどお構い無しにお腹をさすった。


「いった……青酸カリの煙って痛い……こう、気管支が溶けた……。」


完全復活した真理を見ながら、イブキは、


「残念ながら僕達は死ぬに死ねないので。人外ですから。出来ることが人間の規格外なんですよ。」


申し訳なさそうに言った。そして、台所の方へと視線を動かす。


「先程から耳障りなこのカタカタという音は、固定電話ですね?僕達を通報しようとしている。……ああほら、今宮廷から密偵が出た。足音が煩い。」


イブキはポケットに入っていた飴を子供へと与えた。されるがままに子供は飴を舐める。直ぐにバタン、と倒れた。


「大丈夫ですよ。ただの睡眠薬です。」


にこっ、と好青年の笑みで『鬼』は笑った。


「ですが、小さな子供に睡眠薬なんか与えて、生きてるもんですかねぇ?……真理、行きますよ。」


「はいはいっと。お邪魔しました。」


男の妻に、真理は優しく微笑んで忠告する。


「スープ、とっても美味しかったよ。だけどスパイスが死だなんて、ちょっと酷いなぁ。」


北狄の家族は、閉まる冷たいドアの音を聞いた。











「さて、お風呂も入れましたし、」


「ねぇ伊吹君。」


「はい?」


イブキの言うことを、真理は少しのところで止めた。少し茶化すように笑う。


「君……結局は脅すのが楽しかっただけだろ?」


須臾しゅゆ、イブキは振り向くと酷く驚いた顔をして、ゆっくりと笑っていく。


「……青酸カリの味は美味しかったですか?」


(これはそれ以上聞くなって事だな……。あぁでも、)


真理は自分自身と話し合いながら、その中で選んだ言葉を使う。


「睡眠薬は死んじゃわない?子供だよ?」


カン、カン、カン、と艶やかに下駄は鳴る。これ程までも酩酊させる様な音を、私達は知らない。


「これは、ただの戯れに調べた話なのですが……。」


イブキは振り返らずに、指をくるくる回す。周りの北狄達は異質な二人を避けながら通っていった。


「最近の睡眠薬は、死なないそうですよ。昔みたいに作家が飲んで『わー死んじゃった』なんてありえないらしいです。」


「『わー死んじゃった』って、軽い……。」


余りにも無情な王宮の城門の影が現れる。


「考えても見て下さいよ。人なんて一日に何人とも産まれてくる。世界中の人々と親密でも無いというのに、どうして知らない作家本人の事なぞに興味がもてます?」


「淡白だね。」


僕は、とイブキは歩みを止めた。近くに兵士が立ち並んでいる


「僕は、僕の世界に、僕の視界に、僕が息をして、触れられる所に緑珠様が居れば、もう後は……。」


真理に顔を見せずに、面倒臭そうにイブキは首を曲げる。


「生きてようが死んでようが、何でもいいです。」


イブキは向かって来る北狄を眺めながら、真理へと問うた。


「楓さんとアリアさんは?今どうなってますか?」


真理の目が一瞬だけ金色に光ると、人の雑踏、ズレたタイル、虫が巣食う地を超えて、結界水晶の前で交戦している二人を視る。それももう少しで決着がつきそうだ。と言うか……。


ゴーン……!ドゴーン……!


鈍い音がして、城門にはぽっかり穴が開く。真理の手には淡い魔力の結晶が出来ていた。


「魔法が使える!行くよ!」


「えっ、行くって、うわぁぁぁぁぁぁ!」


イブキはらしからぬ大声を出す。と言うのも、真理がイブキを担いで空へ飛び立ったからだ。茫然とイブキは下の兵士を見ていた。












同刻、と言うよりかはちょっと前。


無事に侵入が完了し、がちゃん、と結界水晶を作動するレバーを楓は下ろした。緊急用のエラー音が響く。


「私は天井に超高性能爆弾を仕掛ける。お前は爆風から身を避けてくれ。」


「……お前は?」


「何とかする。まぁ、安心しろ。」


楓はバタバタと走って行く北狄兵を見ながら、天井に爆弾を取り付けている幼馴染を見る。幼馴染だけが良いところを持っていく。ちょっと悔しい。


「楓!楓!やるぞ!」


楓は振り返るよりも早く、アリアは起爆スイッチを押した。荒々しい音がして、天井が崩れた。


「あ、アリア!」


落石で頭を打ったのだろうか。意識が無いらしく、天井から瓦礫と共に落ちて来る。


「あのバカ!」


楓は上手くアリアを抱き抱えると、瓦礫と瓦礫の間を縫うようにして滑り込んでは逃げる。地鳴りも全て収まって、楓はアリアを揺らした。


「おい起きろ!死んでないよな?死ぬなよ?起きろ!」


煩そうにアリアは目を覚ますと、楓の顔を覗いた。


「なに……変な顔してるんだ……?」


楓は歯を食いしばって泣くのを我慢している。アリアの頭から流れ出る血を止血しながら。


「……馬鹿だ。お前、本当馬鹿。」


「泣いてるのか……?何で泣く……?私が死んでも、誰も泣かないだろう?だって、私は皆に嫌われてて……。」


「るっさい!黙れ!」


涙を混じらせながら、楓は金切り声で叫んだ。


「お前ホントバカ!お前が死んだら俺が泣くわ!世界中、誰もがお前のことを嫌ってたって、絶対に俺が泣いてやる!だから、だからさぁ?」


顔を伏せながら、くぐもった声を上げて楓は言った。


「そんなこと、まだ先にしてくんねぇ?」


アリアは痛む身体をゆっくりと起き上がらせた。


「ごめんなさい。私、考えてなかった。顔を上げて、泣かないで?」


楓が泣き腫らした酷い顔を上げると、アリアは涙を零しながら少しだけ笑っていた。そして、楓はまた続けた。


「……こんな時にちゃんと泣けねぇお前って、ホントバカ。」










「あーもー、野郎に担がれて飛ぶとかどんだけツイて無いんでしょうか……。」


「おーっと君、僕が手を離せば君は死ぬってこと分かって言ってる?」


「死ぬかどうか分かりませんけど……毒突く事が出来ないのが悲しい……。」


いつの間にか王城の一番上の屋根に立つと、二人は辺りを見回す。群がる兵士などお構い無しだ。


「うーん……見当たらないな。さっきから結界の反応も無いし。」


「離宮っぽい建物もありませんね。」


真理は暫く考え込むと、手を伸ばして叫んだ。


「境界の歪曲、『世界反転』!」


指先から全ての色の反対色が出されると、イブキは叫んだ。


「これは……何なんだ……?」


王都、王城にぴったりと大きな鏡を合わせたように、二人の頭上にも、王都、王城と全く同じ造りの建物群が現れる。ただ、王城は今ある王城とは全く違う、幻想的な造りだったが。


「えっ、うわ、ちょっと!死ぬ死ぬ!」


「貴方が死ぬって言ってたら僕は論外なんですけど!?」


その建物の存在に気付いた瞬間、王城へと飲み込まれる。びゅうびゅうと落ちていくなか、真理がギリギリのタイミングで魔法を使う。イブキの額が床とスレスレだ。


「……貴方。」


「ごめん、まじごめんいやこれ本当にまさかこんなことになるなんて本当にまじ」


「はぁ……まぁ、命あっての物種……ですかね……。」


イブキは体制を元に戻すと、辺りを見回す。正に其処は理想郷であった。


桃源郷、華胥、アルカディア、アヴァロンという、古今東西の理想郷を集めて煮ても、それでも事足りない程の美しさを誇る離宮が、其処にあった。


離宮の外廊下には大きな扉が一つ付いていた。冷泉帝はバレないと驕っているらしく、見張りは誰一人として居ない。


「あれって……緑珠様の部屋ですよね?」


「罠も仕掛けられてない。どうやらそうみたいだね。中に誰か居るよ。生体反応がある。」


イブキは真理の言葉を最後まで聞かずに走り出した。


「緑珠様!」


叫びながら荒々しく扉を開けると、黒髪を持った淑女が宇宙そらを眺めていた。振り向いた翠緑の瞳に飲み込まれそうだ。


輝く装飾と相まって、美しさは幾万の星よりも美しい。一瞬、瞳孔が小さくなる。そして、彼の人は笑った。


「……あらイブキ。どうしてそんな変な顔を、」


「良かった、良かった、また会えた、良かった……。」


イブキは苦しいくらいに緑珠を抱きしめる。


「ちょ、苦しい、苦しいわ。」


「ぐすっ……。」


「……もしかして、泣いてるの?」


「泣いでまぜぇん、ひっぐ……。」


「泣かないで、イブキ。ちゃんと私は此処に居るわ。」


少しだけ、緑珠を抱き締める手が緩まる。涙声が消えていく。


「違うんです、緑珠様、僕は、僕は、緑珠様に……。」


「侵入者だ!」


「伊吹君、急ごう。」


真理が急かすのを見て、イブキは緑珠の手を引いて部屋から出る。しかし、時既に遅しで、周りには兵士が三人を囲んでいた。


「此処は僕が、」


イブキが神器『神鳳冷艶鋸』を構えた時だった。


「待ってーや、うちもおるからな?それにもう一人居るし。」


「こ、こ、こ、こ、こ、この声は……。」


イブキが声を震わせると、大きな人影と小さな人影が見える。


「え……何故こんな所に……職務は……?ぼ、僕、結構今回頑張ったはずなんですけど……地獄送りにはしませんよね……?」


「匈奴は殺戮を以て耕作と為す


古来 唯だ見る 


白骨黄沙はっこつこうさでん


秦家しんか 城を築いて


に備えしところ


漢家かんかた烽火の燃ゆる有り


烽火 燃えてまず


征戦 むの時無し


……全く、困るんだよねぇ。私は一生懸命頑張っている人間は好きだが、人の努力を踏み躙る人間は嫌いなんだ。ねぇ緑珠。」


その声に緑珠も叫ぶ。声が聞いた瞬間、恭しく膝をついた。


「あ、貴方様は……何故この様な場所に!?こんな、下賎な場所に……!貴方様はこの様な場所に居られるべき方ではありません!」


「え、ちょっと待って、二人共あの人達と知り合いなの?」


「えぇ、だって、ですね……。」


「そうね、あの方々は……。」


緑珠とイブキは顔を見合わせると、銀髪赤目幼女が居た。白い白磁の二本の角が美しい。そして、白いマントを着、大剣を持ち合わせた男とも女とも判別がつかぬ人間?が現れる。口元のギザ歯だけが見えていた。


「あの方は、もう何千年とも生きている宙竜様よ。」


「もう片方は、地獄に御座す閻魔大王です。」


「よ、久々やな、伊吹童子!」


「何度もその呼び方やめて下さいって言ってるじゃないですか……。」


緑珠は立っている宙竜こと、蓬泉院ほうぜんいん 七風ななしを夢心地で見ていた。口元が優しく笑うと、緑珠はもう殆ど反射的に七風を抱き締めていた。


「な、七風様!ずっとお会いしたいと思っておりました!」


七風は『存在滅却』の魔法を使うと、向かって来ていた兵士は消え失せる。


「やぁ緑珠。済まないね、元より生まれた日に君の元へ行く予定だったんだ。だけど少し予定が重なってね……。」


「全くだよ、宙竜!どうして僕の前なんかで自分自身の『存在』を消したのさ!お陰で誰か全く分からなかったんだけど?」


真理は少し苛立ち、咎めながら七風へと言った。しかし、当の本人はへらりとして答えた。


「あぁ、済まないね神様。……だってそっちの方が面白いだろう?」


「……あーもう、これだから龍やら神やらは変人揃いで嫌なんだ。」


「こんな大きな世界馬鹿みたいに作った神様の方が変人だと思うけどねぇ。」


「クソッ、消してやる!」


「ハイハイ『存在滅却』〜!」


「あぁもう!名前が呼べない!」


暴れ回っている真理を置いて、七風は緑珠の頭を撫でた。


「良いかい緑珠。君の出生を話せる人はちゃんと用意しておいた。その人にちゃんと聞くんだよ?優しい人だから、大丈夫。」


「あの、その方の名前は……?」


七風はギザ歯を見せながら、優しく笑った。


「いずれ知ることになる……と言うか知ってるはず。国を作ろうとしているのだろう?」


「ええ、確かにそうですが……。」


その瞬間、爆音が耳を劈く。兵器までが総動員されでいた。


「行きや、緑珠ちゃん。此処はうちらで止めるさかい。一人で逃げた方がええわ。」


「僕もですか!?」


当然緑珠と逃げると思っていたイブキを、閻魔大王は容赦なく咎める。


「当たり前やろ。こんな武器共々総動員されてるんやったら、お前一人行ったって変わらんやろ。」


「ぐっ……反論出来ない。……分かりました。」


イブキは軽く緑珠を睨むようにして言った。心から心配する様に。


「……必ず追い付きます。それまでどうか。」


「ええ、持ち堪えるわ。……こんなに皆が私の為に頑張ってくれているのだもの。」


緑珠は重い髪飾りや装飾品を全てその場で取ると、走り出した。元の黒髪が緋毛氈に踊る。そして、走って、走って、走りまくって。


「王城から出なくちゃ!裏口からなら、地上への召喚式もあるはず……!」


「緑珠李雅様。」


このタイミングで、一番聞きたくない声が聞こえる。緑珠は相手を睨みつけると、七仙女の力を借りて武器を創った。


……しかしそれは、何時もの様な『飾り刀』では無かった。人を殺す為の、『いくさ刀』である。銀の刀身の苗刀が美しい。



『鵺』が姿を現した。

次回予告。自分の思いを抱えた緑珠。そしてそれを支える伊吹。関係を眺める真理。緑珠は一行と合流するが、またもや大波乱の幕開けが起こる……!

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