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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第四章 最終決戦月面戦争 新帝都
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 24 ❛鬼門の多聞天❜

アリアと楓がぐだぐだ話したり、イブキと真理が暴れ倒したり緑珠が久しぶりに笑ったりと、ほっこり?千年怪奇譚!

「緑珠李雅様。」


開かない窓を眺めていた緑珠は、囁くような女官の声でふと振り向く。


「……どうしたの?また幽閉?ずっと外に出てないわ。約束は守ってるはずよ。」


「いいえ、違いますよ。」


優しく笑った女官の背後から、小さな少女が花を持っている姿が見える。


「最近ずっと周りに当たり散らしていられたでしょう?ちょっとくらい華やかな物も飾らった方が良いと思いまして。気分が晴れますよ。」


緑珠はとたとたと傍に駆けてきた少女から、可愛らしい黄色の花を受け取る。くるくると辺りを見回す目が可愛らしくて、自然と笑みが零れた。


「……ふふ、有難う。」


緑珠の姿を見納めた、女官と少女はそのまま下がってばたん、と扉を閉めた。緑珠は笑みを零しながら花瓶に花を添える。そして、一つ思案した。


(にしても……見ない女官だったわね……。)










「ふぅー……バレなかった!うちもう無理かと思ったわー……。」


「銀朱お姉様!私が言った通りにすれば良かったものを!」


隠された離宮の庭の、その端の端に、七仙女達は居た。


「で、でも、ほら、銀朱お姉様。緑珠様も元気を出されたことですし……花紺青も良くやったし……。」


杏が言い合いをしている花紺青と銀朱を宥める。まぁ、何にせよ、と柚ノ葉が言葉を続けた。


「緑珠様が元気出されたのだし、良い事じゃない?」


七仙女達は満足気にこくりと頷いて、元の飾り刀の形へと戻った。











「さてーっと!ここからどーすんだ?」


軍隊も消えて、誰の足音も息遣いもしない新帝都の地下で、楓は頭上で手を組みながら言った。


「多分……城には結界が張ってあるはずです。それの解除をしなければなりません。『結界水晶』の破壊です。」


「それなら私と楓に任せろ。」


「アリア!?お前何言ってんだ!?城に潜入して暴れんなら、俺達が居た方がいーだろ!」


アリアは莫迦みたいな主張を、莫迦でかい声で繰り広げる楓を軽くあしらった。


「お前の目の前に居るのは過去に『鬼』と呼ばれた男と創造神だぞ?それに人間だったら、役に立つ方は一択だろう。目の前に居る二人は一騎当千の力がある。」


真理は肩を竦めて苦く呟いた。


「その期待に応えるよう尽力するよ。」


アリアはイブキへと向き直って真剣味を帯びて言う。


「安心しろ。必ず結界水晶を破壊してみせる。必ず戻って来る。……出撃命令を。❛多聞天❜。」


アリアは少し頭を下げて、手を胸に当てる。楓も渋々それを真似した。


「早く命令を寄越せ、❛多聞天❜。早くしねーとあの名前も知れない奴に煩く言われるぞ?」


イブキは一瞬酷く驚くと、直ぐに平静を取り戻して命令する。その顔は、上に立つ者の顔。


「……分かりました。貴方達に結界水晶の破壊を命じます。可及的速やかに終わらせるよう、お願いします。」


「了解。」


「合点承知!」


イブキは態とらしく肩を竦めて言った。


「……全く、僕は酷い部下しんゆうを持ちました。」


「全く、私は酷い上司しんゆうを持ったものだな、楓?」


「ああ、冷酷無慙な上司しんゆうだ。」


アリアと楓が去る際に、イブキは思い出した様に付け加えた。


「そうだ、これも命令です。必ず遂行するように。」


「何だ?」


楓は帽子に手を当てて、視線を低くしてイブキへと問う。その返答が、まるで何か分かっているように。


「必ず、生きて帰ってくること。……これです。前者の命令は別に遂行出来なくても構いません。ですが必ず。必ず後者の命令は遂行して下さい。」


「「御意!」」


楓とアリアは声を合わせて走り去って行った。真理がひょっこりとイブキの側から顔を出す。


「仲良いんだね、お友達と。」


走り去って行く背中を眺めながら、イブキは昔日の日々を覗き見る。


「あの人達は……僕が光遷院家の次期当主だと知っても、全く気にしなかった。いつも通りに接してくれた。それが、とっても嬉しかったんですよ。」


しみじみと呟きながら、イブキは真理へと振り返った。


「あの人達に言われた通りに、出来ることをしましょう。でなければ敵陣に乗り込んだあの人達に報いる事が出来ない。」


口角を上げてイブキはにたりと嗤った。


「暴れますよ。」














「うげっ、暗いな……。」


「怖いのか?」


「んな訳あるか!こーいうところにはさ、ほら、居るじゃん。あの黒くてカサカサ動くアレ。」


「あー……なるほど、ゴキブリだな?」


「何で俺がオブラートで包んだのにオブラートから出すんだよ!」


薄暗い地下、楓とアリアの声が響く。アリアは歩きながら口を開く。ヒカリゴケが生えているらしく、緑の光が少しだけ地下を照らしていた。


「あぁ、そうだ。……ほら、お前言ってただろ?『大事な幼馴染を死に晒せって言うのか?』って言葉。」


「言ったけど……どうした?」


「少し……嬉しかった。有難う。」


アリアはにこっと笑うと、楓も釣られて笑顔になる。


「そうか。それは良かった。お前さ、表情筋死んでるから何言って喜んでるのかわかんねーんだよな。もっとこう、笑え!」


「笑う……笑う、か。」


「そう難しい物じゃねぇだろ?昔はもっと笑ってたじゃねぇか。」


アリアは置いて来た昔の日々を思い出しながら言った。


「作り笑いは疲れるんだ。こう、ほら……頬の筋肉が鍛えられる。」


「作り笑い……?んなもんしなくても良いじゃねぇか。」


はぁ、と呆れながらアリアは話し続ける。


「お前は本当に駄目だな。女子の世界はそんなんじゃ済まないんだよ。笑わなかったらノリ悪いとか言われるんだ。これは個人的見解だが、」


と、アリアは、


「そういう女子の部分こそ死に晒せば良いと思う。」


「お前女子に何か恨みでもあんの?」


「特に無い。確かにいい子も居た。だけど……私は男子といる方が楽しいな。楽だし。何言っても直ぐに反抗するし。嫉妬とかも無いし。陰口叩かれることないし。」


楓も昔の日々を思い出しながら指をくるくる回す。


「お前さ、イブキとかと仲良かったし結構いびられたんじゃね?」


「いびられたぞ。荷物とか捨てられたこともあった。」


「え!?そんなの俺達に一言、言ってくれれば何とかしたのに……。」


アリアは少し俯きながら言った。


「心配させるのが嫌だったし……それに、手を借りたらまた面倒な事になる。報復はちゃんとした。安心しろ。」


「安心出来ねぇ……。」


「荷物を捨てられたから、首謀者達を炙り出して、『ごめんね♡私が悪かったのぉ☆』とか言って、そいつらの荷物全部ゴキブリが大量に入ってる袋に入れて……。」


「そんなスラスラ言われても……つか、お前ゴキブリ怖くねぇの!?」


楓の主張を無視してアリアは続ける。


「袋に入れたあと、それをグチャグチャのペースト状にして、『ごめんなさい許して下さい』って言ったのを聞き届けてそいつ等のロッカーぎゅうぎゅうにムカデを詰め込んだ。いや、あれは大変だったぞ。何せ砂漠だからな。なかなかゴキブリやらムカデやら見つからなかったからな。蠍は良く出てきた。」


「どうげぇ……想像するだけで吐きそう。」


「吐くなら下水道にしろよ。」


冷たくあしらったアリアを他所に、そんなことよりも、と楓は話を転換させる。かなりの距離を歩いていた。


「ほら、結界水晶探さなくちゃヤバいだろ。」


「一応場所は知ってる。だから安心しろ。そして……此処だ。」


二人の眼前には、大きく開いたホールの様な物があった。扉もある。『存在滅却』の魔法のお陰で、誰一人として二人の存在には気付かない。


「この奥にあるのか。何となく雰囲気がびりびりするな……。」


「この雰囲気を常人で感じられてなかったらお前北の城塞に入れてないぞ。」


「ま、それもそうか。」


大きな扉の上側には、人一人入れるような通気口がある。アリアが目を細めてそれを見た。


「彼処から入ろう。私なら入れる。内側から鍵を開けるから入ってくれ。」


楓は言っても聞かない幼馴染に言い放った。


「ヘマはするなよ?」


くすくすと楽しそうに、無邪気にアリアは笑った。


「……ふふ、勿論さ。」













「暴れるって、暴れるって、」


「あっはっはっはっ!」


「マジで暴れるほうだったのー!?」


「暴れる以外に意味ありますかー?」


イブキは元の若草の衣を纏って、市場を荒らし回っている。北狄からしてみれば、悪名高い❛鬼門の多聞天❜なので、誰も逆らおうとはしない。


「いやぁ!いいストレス発散ですね!最近全く動いて無かったので!」


イブキは全く悪びれもせずに嬉しそうに叫んだ。


「冷泉帝君とも戦ったの忘れたのかい?」


イブキが暴れ回るのに合わせて真理も暴れる。しかし、北狄達も黙っては居ない。


「お、おいお前!もうやめろ!❛鬼門の多聞天❜だからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!」


「煩い黙れ!調子に乗ってんのはお前だ!耳に劈く姦しいわ!僕はいま、モーレツに風呂に入りたい!とてもお腹が空きました!ご飯も食べたい!」


突っかかって来た男の北狄を、何時もの口調とは似ても似つかない口調でイブキは叫んだ。それを見ながら真理は呟く。


「疲れからか伊吹君、口調おかしくなってんな……。」


イブキに突っかかった北狄は、先程の威勢の良さを忘れておののいた。


「ひぃぃぃぃぃ!お命を!お助けを!風呂なら貸しますうぅぅぅうううう!ご飯も出しますうぅぅ!」


イブキはにっこりと笑った。悪魔的笑みで。


「良くわかってるじゃないですか。」













「ふう……すっきりした。汗塗れだったからスッキリしました。」


イブキは頭を拭きながら風呂から上がる。真理は訝しげにイブキへと問うた。


「……お風呂、どうだったの?何か仕込まれてなかった?」


イブキは洗われた自身の衣の裾を掴んだ。手にはきらきらと輝く針がある。


「んー……そうですねぇ。風呂の水に毒薬が仕込まれていたのと、服の裾に毒針が刺さっていること以外は特に普通でしたよ。」


「絶対お風呂入らない……。」


イブキは腰のサッシュベルトをきつくしめると、真理と共に案内された場所で食事をする。暖かなスープだ。


「わぁ……とっても美味しそうです。」


もう家の住人は訳が分からないのである。考えても見るが良い。風呂に毒を仕込み服に毒針さえも仕込んだのだ。何故死なない!?


「あー……美味しかったー……ずっと食べてませんでしたからね。青酸カリ入ってたのは置いといて……。」


「ぐっ……ちょ、それ早く言って……。」


真理はその場で泡を吹いて倒れている。口からは煙が漏れた。


「あ、死んだ。」


もう何が何やら分からなくなっている住人は、目の前で暴れ倒している二人を放心状態で見詰めている。


「まぁ……多分生きてると思いますよ。ほっといたら起き上がります。」


さて、とイブキは先程までの朗らかな雰囲気を消し去って、ガン!と荒々しく机を叩く。


「ひぃっ!」


「さて、教えて貰いましょうか。」


「な、な、な、何も教えてやることは……!」


イブキは胸元から断紙刃ペーパーナイフを取り出す。


「別に教えたくなかったら教えなくても良いです。ですが、」


柱の側から覗いている少女と視線が合う。


「其処の可愛らしいお嬢さんの顔が爛れるのを目の前で見るか、貴方達がのたうち回るのをお嬢さんの前で晒すか、」


目を細めてイブキは笑った。


「どっちが良いですかね。」


(脅すのは世界一……)


真理は死にながら思うという、矛盾を貫いた。


「教える、教えるから、娘だけは!娘だけは……た、助けてくれ……。」


「別に教えてくれたら手は出しませんよ。それでは質問一つ目、です。」


胸元に断紙刃をしまったイブキはまるで茶化すように問い始める。


「ええっと……そうだ、ずっと聞きたかったんです。倶利伽羅は北狄なんですか?」


真理がむくりと起き上がるのを男の妻が茫然自失と言った風で見ている。


「北狄だ。あの方は我等の希望だ。」


「え、彼奴ネクロフィリアですよ。夜な夜な死体かっさらってるの知らないんですか?」


「……ネクロフィリアって何だ?」


イブキは真理が起き上がるのを横目で見ながら答えた。


「……知らなければ別に良いです。それでは質問二つ目。現在この国はどういう風になっていて、誰が王なんですか?」


男は当たり前だと言う風に即答する。


「この国は元々小さな集落だったんだ。❛鬼門の多聞天(お前)❜が壊した集落が、今の南の城門。王は来仙 花ノ宮が居る。冷泉帝様が来たことにより、発展したんだ。ものの数ヶ月でな。」


「……花ノ宮公女はまだ子供ではないですか。それでは……冷泉帝が実権を握っていると?」


「そうだ。花ノ宮王は少し『素振り』があってな。何だ、あの人には姉がいるんだろ?自分よりも出来る姉が。姉の方が期待されてるから、その度に『絶対的な権威』を欲しがる素振りをするらしいんだよ。」


それでな、と男は続ける。


「どうやら無意識的にその考えが出て来るらしくてな、対人関係はどうしてもギクシャクするらしい。で、今冷泉帝様は補佐官なんだけど、何かと居ないと出来ないことが多くてな……。」


「ま、腐っても子供ですからねぇ。」


イブキは花ノ宮の姿を頭に浮かべて呟く。


「だからだ。新『日栄帝国』の王になった時、嬉嬉として喜んだらしいぞ。」


男の手が机の下に伸びるのを、イブキは見逃さなかった。すくりと立ち上がって机を蹴りあげる。がたん、と重力に逆らうことなく地面へと机は落ちた。音が、しない。


「お話、有難う御座いました。……鉛玉が無ければ百点満点だったんですけどねぇ。」


机の下には小さな連射式のライフルが装填されている。真理は青酸カリを吐いて口元を吹いた。


「……僕のこと、舐めない方が良いですよ。」


『鬼』が牙を剥いた。

次回予告!とうとう月面戦争もフィナーレに近づき、動き出す各々の思惑。彼らは何を思い、何を行動に移すのか?そして驚愕の新キャラ登場!誰もが聞いたことのあるあの人と、聞いたこともないあの人が現れる……!

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