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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第四章 最終決戦月面戦争 新帝都
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 23 妖怪名家

アリアと楓のぐだぐだ会話を聞けたり、倶利伽羅とイブキが殺しあったり地味に仲が良いのか分からなかったりと、これからが正念場、千年怪奇譚!

前回のハンドサインの続きである。


『それで?どうしたと言うんだ?』


「どうしたと言うんだじゃねぇ!助けてくれよ!死ぬじゃんか俺!会ったら五人は処刑されるような奴等だぞ!電車半壊するわ!」


最早ハンドサインも忘れて楓は叫んだ。それに釣られてアリアもハンドサインを忘れて叫ぶ。


「飛べ!ワイヤーなら届くだろう?」


「無理!怖い!死んだらどーすんだよ!」


「男だろお前!」


イブキの視界の中には冷泉帝が入っているが、下の気の抜けた会話に笑いを禁じ得ない。


「なら私が其方へ行こう。それなら大丈夫だろう?」


「駄目だ!たった一人の大事な幼馴染を死に晒せって言うのか!?おばさんに顔向け出来ねぇよ!」


「馬鹿言え!お前が飛べないからだろうが!この臆病者!」


「あー!るっせ!黙れ黙れ!アリアの身を案じて言ってやってんだからな!」


アリアは叫び倒している楓を白い目で見ている。冷泉帝が恐る恐るイブキへと聞いた。


「あの……闘っても良いですかね?」


「別に良いですけど下の会話が面白いので聞いてた方が良いですよ。」


真理は二人の会話を聞きながらしみじみと言った。


「これが出鼻をくじかれるって事か……。」


「「外野煩い。」」


イブキと冷泉帝が声を合わせて真理を冷ややかな目で見た。


「えっ、ひど……。」


「じゃあ私がお前を抱き締めてやるから!それなら怖くないだろ!?」


アリアのとんでもワードにイブキは笑う。


「ふふっ……面白いな……。」


「はぁ!?誰得なんだよそれ!」


「誰得でも無いわ!私だってしたくてしてる訳じゃない!」


「俺だって嫌だわ!」


「じゃーどうするんだ!お前が飛ぶのか!?」


「飛ぶわ!飛ばせて頂きます!」


楓は窓をぶっ壊すと、アリアのいる方の電車へ突っ込む。


「あはは、やっぱり面白いですね、僕の友達は……っ!?」


イブキは近くに居た冷泉帝を見ると、瞬く間に果ての車両まで飛ぶ。


「何故冷泉帝がこんなに近くにいたのに気付かなかったんだ……!?」


「え、いや、あの、今さっき勝負しかけても良いですかって聞いたんですけどねぇ……ちゃんと会話もしたじゃ無いですか……。」


「敵ながら大層哀れなり……。」


真理は壊れた窓から二人の会話を聞く。背を低くしたイブキの周りからは、轟々と焔が蠢き出す。そして、だった。


「うえっ!?凄い!カッコイイなぁ、銀髪。しかも紅い目って最強にコンディションじゃーん。」


呑気な真理の声に、やれやれと肩を竦めるアリア。楓に至ってはまだワイヤーの恐怖に打ちひしがれていた。何しろ、彼等の前には似ても似つかぬ『伊吹』の姿があったからだ。楓は恐怖を脱却して『伊吹』の様子を眺める。


「あちゃー……こりゃクレーター出来るかな……ガチの鬼じゃんか。」


『伊吹』の髪は銀に煌めき、目は紅い。その目の奥には『相手を絶対に殺す』と言う意思しかなかった。アリアは楓の続きの言葉を紡ぐ。


「クレーターで終わればいいが、相手も本気だぞ?見ろよ、あの冷泉帝の髪色。黄色だぞ?それに目は青紫の目だ。」


姿が変わった二人を、真理はぼぉっと見ていた。


「本当に殺し合うつもりなんだねぇ。でもね、時間が無いんだよ。あと数十分しか。」


さて、と真理はニヤリと笑った。その笑みは、人を見るのが好きな神の笑みだった。


「さぁ、どうなるのかな?誇り高き騎士達よ。」











緑珠はベッドから重い身体を起こした。どうやら泣いていたらしい。酷く目が腫れぼったい。


「……此処……は……。」


喉が乾いて掠れた声しか出ない。部屋は薄暗く、少しずつ虚無が緑珠を蝕んでいく。


「おかあさま……おとうさま……。」


うわ言の様に緑珠は呟くと、緑珠は立ち上がった。酷く部屋が冷たい。


「さむい……そうだ、霊力を……。」


ふわん、と暖かくなるはずだった部屋は、益々冷たくなっていく。家具が白くなっていく。霜が降りてきているのだ。


「何で、何で、出来てるでしょ……?暖かくなってよ、寒いのは何でなの。」


この寒さが、緑珠の心を表わしているのなぞ知るよしも無い。もう、自分の心は見たくないのだ。


「寒いよ、寒いよ、誰か来てよ、お話しましょう、もう嫌なの、誰か、イブキ、真理、お願い、早く……。」


震える足を何とか動かす。暫くの間、ずっと歩かずに寝ていたのだ。足腰が弱くなっているのを感じる。扉に手をかけるが、何度押しても開かない。


「……あかないの?どうしてあいてくれないの?出して、出してよ……。」


緑珠の望んでいない戴冠式は明日だ。こうやって悲しみの海に浸ろうとすることも、今日で最後なのだ。


「う、うぅ……マグノーリエに戻りたい……あの家に、温かいあの家に……。」


息はどんどん白くなり、手は赤くかじかんでいく。暖かく、暖かく、と願うたびに、部屋は比例して寒くなっていく。


「さむい、さむいわ……。」


それが自分の心など知らずに。











「お久しぶりです、冷泉帝殿。」


「お久しぶりですねぇ、伊吹殿。」


「ありゃ二人とも姿が変わってないの気付いてないなぁ……。」


嫌厭な挨拶している二人を、真理は和やかに見つめる。


「緑珠様に……何があったのかを話して下されば『今此処限り』で見逃して差し上げます。どうでしょう?良い案だと思うのですが?」


「それはそれは面白い提案ですねぇ。しかし、この先を通す訳にはいきませんねぇ。」


一拍あと、冷泉帝は鉄扇を使って優雅に嗤う。


「要するに、今此処で貴方は死ぬという事です。」


イブキも武器を構えて目を細めて嗤う。


「 笑止千万傍腹痛しとは正にこの事です。……❛鬼門の多聞天❜と呼ばれて幾星霜いくせいそう、この力、見せてご覧に入れましょう!」


その言葉を合図として、戦闘が始まる。


「『鵺の声 暮六ツ』!」


びゅんびゅんと霊弾がイブキに向かって飛んで来る。それを軽やかにイブキはかわした。


「『焔 狂い咲きの舞い』!」


華を模した炎が、繰り出された霊弾とぶち当たる。


「やりますねぇ。それではこれは?『鵺の声 宵五ツ』」


冷泉帝の鉄扇の中骨がバラバラに別れる。一つ一つが意志を持ってイブキを追撃していく。


「……っ!」


爆発させると追撃は終わるが、それがイブキに当たるかどうか。安直で疎ましい攻撃なのである。


「『獄炎 紅花の炎陣』!」


イブキの周りには円陣が起こり、其処へ追撃弾を集中させて爆発させた。上手く着地すると、


「『黒炎 猛火の陣』!」


黒い炎が容赦なく冷泉帝を襲ってーー?


「よっしゃ!当たったぞ!」


それを眺めていた楓が歓喜の声を上げた。その攻撃をぬってイブキは冷泉帝へと跳躍する。


「そのまま永遠の眠りにつけ、死性愛タナトフィリア!」


「黙れ 泣哭愛好ダクライフィリア!」


殺気剥き出しの殺し合いに真理が心情を吐露する。


「どっちもおんなじようなもんだと思うんだけどなぁ……。」


と言うと、後方の車両が吹っ飛んだ。


「あははー冗談冗談ー!冗談だよー!もう嫌だなー!」


真理は棒読みでびゅんびゅんと風が吹き抜けていく車両で呟いた。そんな中、業を煮やした神器『神鳳冷艶鋸』が淡く光る。


「神器『神鳳冷艶鋸』!『鳳凰獄炎』! 」


「神器『芭蕉扇』!『雷雲召喚』!」


火を噴いたイブキの神器が僅かに力負けして、後方車両へ吹っ飛ぶ。神器を刺して落ちるのを免れたが、


「それではこれで最後です。『鵺の声 丑三つ時』!」


イブキがそれを何とか避け終わった時だった。


「うふふ、ざまぁみろ。」


何処かで酷く病んだ緑珠の声が聞こえた気がして……


「ぐっ……は、何故……!?まさか、召喚式を不安定なモノしたのかっ……!」


ざっくりと、美しいくらいに冷泉帝の腹にはぽっかりと穴が空いている。目を細めて体制を立て直したイブキを睨んだ。


「今日は此処で退散しますねぇ……それでは帝都でまたお会いしましょう……。」


それっきり冷泉帝の姿が見えなくなると、イブキの髪色と瞳は元の透き通った茶髪に戻る。しかしアリアが叫んだ。


「もう帝都まで時間が無いぞ!どうするんだ!このままだと駅に衝突する!」


イブキは苦く頭を掻く。思い当たる作戦が無い。


「真理は何とか出来ませんか!?」


「無理!帝都も結界が張ってある!神様の状態なら出来るけど、この魔法使いの状態じゃあ……!」


「やーやー、お困りの様だね、少年少女諸君よ。機械仕掛けの神様デウスエクスマキナの御登場だよ?」


イブキの前に、『誰か』が現れた。その者の姿を形容することは出来よう。しかし、その者を形容する要素を示す言葉が見つからないのだ。


「んーんー?私のことが分からないって?別に構わないじゃないか。私は君の仲間。それで良いんじゃないのかい?閻魔大王の王子様?」


「……僕はそんな大層な者でありませんよ、名も知れぬ人よ。」


「果てさて、私達に『人』という概念が当てはまるかどうか……だね?」


「話しが合いますね、貴方。」


イブキは名前も知れぬ『人』?に笑顔で言った。


「それは勿論そうだよ。合わなきゃおかしい。でなければ君でない。さて、其処の神様よりもお役に立って見せようか。」


「誰だか知らないけど、酷い言い様だね、君。」


それはもちろん、と姿が見えて入るが不可視状態の何かは笑った。


「今の私は其処の神様よりも随分と有能だからね。哀れな魔法使い『役』よりかは強いさ。さて、これから私がする仕事は、君達を救うわざさ。」


イブキは肩を竦めてくすくすと心底愉しそうに笑った。


「そういったごうは誰の手に?」


「そういったごうは君の手だよ。閻魔大王。」


アリアがその会話を聞きながら、しみじみと言った。


「彼奴等、何を言っているかよく分からないな。」


「天才の会話ってやつだろ。」


楓は大きすぎるライフルを直しながら返答する。


「そのワードが楽だからって終わらすのやめろよ、お前の悪い癖だ。」


「そりゃ善処しますよ、幼馴染。」


うーん、と真理は苦く笑いながら言った。


「イブキくんと名も知れぬ子、話してる会話が神々の業務連絡みたいなもんだから多分人間には意味わかんないだろうな……要するに『貴方への恩返しはどうすれば良いですか?』って問いに対して、『君が閻魔大王になったら恩返しなどは要らないよ』って言ってるんだけど……分かんないだろうな……。」


「それでは、アルスマグナ(偉大なる術)をご覧入れよう!さぁ、『存在滅却』のお時間だ!」


今まで笑っていたような声が、きらん、と冷たくなる。


「『存在滅却 速度』。」


ぴた、と電車は止まり、更に駅へと溢れんばかりに居た軍隊に対しても言い放つ。


「『存在滅却 軍隊』。」


ぽん、と軍隊は消えて、何者かは地下のホームへと飛び降りる。アリアと楓は壊れた窓から、イブキは飛び降りて、真理は移動魔法を使った。


「『存在滅却』の魔法は難しいからねぇ。しかも大世帯と来た。軍隊と速度の二つ連続だろう?」


うーん、と何者かは唸り、そしてまた笑っているような中性的な声に戻る。


「もって三十分かな。これから君達にも『存在滅却』の魔法をかけるから、二時間のうちに何とかしないとだね……それに日も落ちてきたし。人間達はどうだろう、もうちょっと持つかな……。」


楓は何者かに食ってかかる。


「お前、勝手に話を進めんなよ!なんだよ『存在滅却』って!しかもお前は誰なんだ!」


「あーあー、ごめんねぇ、説明して無かった。私が誰なのかは置いておいて……『存在滅却』、という魔法はね、それ自体の『存在』を消す魔法だ。私の『存在』が認知出来ないのも、それのせいだよ。無論、逆も出来る。大人数の人間から、君達の『存在』を消す。うーんとね!『記憶』を消す、と言った方がわかりやすいかな!」


何者かは真剣味を帯びてそのまま言葉を紡ぐ。


「良いかい?さっきも言った通り、この魔法はもって二時間だ。そのうちに城へ潜入するんだよ。さて、君達はどちらを選ぶ?そのまま城に突っ込んで不審者扱いで投獄、それともゆっくりし過ぎて捕まる?」


「どうしてそんな最悪な選択肢しか無いんだい……?」


真理は訝しげに何者かへと言い放った。しかし、何者かは自分の頭を叩いた。


「選択肢は何時も最悪でなければ、ねぇ。マシだった選択肢で喜ぶ事が出来ない。それに、君達には頭があるだろう?」










「ぐっ……はっ……。」


冷泉帝は腹を抑え、自身の部屋で何とか止血をしている。どうやら跳躍した時にズレた右の義足が、じんじんと痛む。


「存外死なないのね、お腹に穴が空いてるわ。」


緑珠がにっこりと笑った。召喚用の魔法弾は彼女の手によって酷く荒らされている。


「あはは、あはは!ホント無様だわ!たったこれだけのものが荒らされて、それでお腹に穴が空くだなんて!ばっかみたい!」


腹を抱えて狂ったように嗤う緑珠を、冷泉帝は冷ややかな目をしながら見る。


「貴女は……人を殺すのを厭わないんですか?」


ぴた、と笑い声が止まって、黒々とした隈を見せながら緑珠は心底小莫迦にして言った。


「はぁ?」


「!?」


その目線に、冷泉帝は身構える。


「人を殺すのを厭わないんですかって?……ふふふ、うふふふ!アハハハハ!貴女って心底面白い話をするのね!大好きだわ!アハハハハ!」


緑珠は狂い笑いながら続ける。


「別に人を殺すこと自体、抵抗は無いわ。ただモノに刃を突き立てるだけじゃない。いっつも私たちはやってる事でしょ?お料理をする様なもの。それを厭わないんですか、ですって!面白いわね!貴方!恐ろしく莫迦だわ!」


(狂ってる……。)


冷泉帝が珍しく相手に恐れを感じながら、緑珠は冷たく言い放った。


「そのまま潔く死になさい、芋虫。」


冷泉帝は濁った瞳を向けられながらも、持ち前の胡散臭さで盛り返す。


「別に私が死ぬのは構いませんが……貴女の『目』のこと、お仲間さんたちに伝えても良いんですか?」


カチン、と緑珠は固まった。そしてすんなりと座る。


「いや、いやなの、めの、めのはなしはしないで!」


(狂ってる上に情緒不安定なのか……。手に負えないな……。)


ただ、と冷泉帝は俯く。狂っているのも、情緒不安定なのも、手に負えないのも全てがこの人だけのせいでは無いのだ。


(あの環境が、全てを狂わせた。旧日栄の貴族達は、皆狂っていた……今に始まった事では無いか……。)


緑珠の慟哭が冷泉帝の耳を劈くと、慌てて顔を上げる。そして、緑珠は心底怯えながら自分の部屋へと戻って行く。入れ替わり立ち代わり、隊長が部屋へと入った。


「大丈夫ですか、倶利伽羅様。」


「お気になさらず。義足が少しズレただけですからねぇ。」


苦く笑った冷泉帝を、隊長は視界に入れなかった。今回は報告があるのだ。


「❛鬼門の多聞天❜が、国内に侵入とのお話を伺いました。真でしょうか。」


「ええ、真実ですねぇ。まさか緑珠李雅様の飛び込みがあるとは思ってもみませんでしたねぇ。」


しかし、冷泉帝はにこやかに笑った。これから放つ言葉を連想させない様な笑みで。


「良いですか。見つけ次第殺しなさい、と私は言いましたが……今回は市街地であっても殺しなさい。周りの住民なぞ死んでも構いませんねぇ。」


陶器の美しい義足が、ぴたりと嵌った。

次回予告!アリアと楓がぐだぐだ話したり、イブキと真理が暴れ倒したり緑珠が久しぶりに笑ったりと、ほっこり?千年怪奇譚!

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