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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第四章 最終決戦月面戦争 新帝都
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 20 真の理

次回予告。イブキがキャラ崩壊したり彼の闇が見えたり真理が大活躍したりと、相変わらずのどんでん返しが楽しい千年怪奇譚!

彼は、一つ夢を見ていた。


「ねぇ。」


誰かが彼を呼ぶ。


「何ですか。」


彼は、振り向いた。


「ねぇ、忘れちゃった?」


彼は振り向くと、血の大地が広がっていた。ありとあらゆる小動物の死体の山だ。彼は尻餅を付いて、顔を手で覆う。


「忘れてなんか、忘れてなんか、居ません、忘れる、」








「はずが無い!」


イブキは飛び起きると、慌てて辺りを見回す。


「何も、無い、か。」


廃墟となった日栄帝国の光遷院邸でイブキは目を覚ました。紺色の光と風がカーテンをばさばさと鳴らしている。


「……朱雀。ねぇ、どうでもいい時は直ぐに出て来てくれるのに、どうしてこんな大切な時には出て来てくれないんですか……。」


それに答える様に、ふわん、部屋を暖かくした。どたどたと足音が来て、半壊した扉を真理は荒々しく開けた。


「大丈夫!?悲鳴が聞こえたから、何かあったのかと……。」


「もう大丈夫です。今は……。」


「夜の八時くらい。また明日出発しようか。」


「……じゃ僕は半日寝てたんですか。」


「まぁ、そうだねぇ。あ、そうだ。食糧も手に入ったよ。賞味期限が十年後だったし。ご飯作ってあげるね。」


「どうも。」


何かねぇ、と真理は付け加えて食事の準備を始める。


「とんでもない寝言言ってたよ。『佐川〇政……ソ〇ー・ビーン……〇原王……カニバリズム……』って。何なの?」


「……何でまたそんな事を。全員犯罪者ですが。」


「自分でも分からないんだ……あ、でも緑珠はよく『竹取の翁という者あり……けりと言うとでも思ったー?残念、居ませんでしたー』ってスラスラ言ってた。」


「あの人の寝言は基本的に古典から始まるんですよねぇ……。」


はい、と真理はイブキにスープを渡す。


「頂きます。」


「で、このあとどうするの?」


ごく、とスープを音速で飲み干したあと、イブキは言った。


「国を陥落させます。」


「えぇ……。」


イブキはそのまま説明を続ける。


「段取りとしては……まず北狄に捕まる→仲間を捕まえる→新日栄のインフラを全滅させる→緑珠様奪還、ですかね。」


「ツッコミどころ満載なんだけど?インフラ全滅とか出来るの?」


「んなもん根気ですよ、根気。」


「根気でいいの……?」


イブキは持って来た酒を鞄から出して飲もうとする。


「それに僕は❛鬼門の多聞天❜と呼ばれた男です。これくらい出来なくてどうします。」


「それ言いつつ酒を呑まない!」


「あっ、クソっ!返せ!てめぇ返さねぇと闇鍋にしますよ!」


「疲れてるよね絶対。時折汚い言葉も混じってるんだけど。」


「僕の、僕の、お酒……もうむり、生きていけません……。」


イブキはベッドに頭を伏せてしょげている。


「しょげ方が閻魔大王とおんなじ……やっぱり鬼は酒好きだねぇ……。」


「……寝ます、酒呑めないなら寝ます。生きてる意味が無い……。」


「そこまで言わなくても良いでしょ。……てか寝るのはやっ!」


「すー……すー……。」


光速で爆睡しているイブキを見ながら、真理はその場を離れた。


「まぁまぁ、疲れてたんだね。そうだ、前から思ってたんだけど、日栄帝国探索したかったんだよなぁ……。」


真理はイブキが寝ている部屋を閉めると、光遷院邸から出る。その刹那だった。


「やーやーきみー。」


「っ!?」


背後から声が聞こえる。


(何故!?気配を感じなかっただって……?この僕が?)


「やーやーきみー。聞こえてるかーい。」


「誰だい?」


「んーんー……まー……鵺の君の現状を伝えに参った次第さ。」


真理が辺りを見回しても、姿一つ見えない。即座に全知全能の力を使っても、該当する気配も無い。


「んー……意味無いよ、全知全能の力を使っても。私は今『存在』を消しているからね。」


「何者だ?」


「今は言えない。と言うか言わない。とにかく鵺の君の現状を教えてあげよう。」


「見返りは?」


「要らない。だって君達の味方だもん。」


「……そう。それじゃあ鵺の君……冷泉帝君の現状を。」


中性的な声は更に続ける。男か女か分からない。


「大したことは知らないんだけど……冷泉帝君はね、死ぬ気で伊吹君を殺そうとしてる。それだけ。それじゃあ、私は此処で!また会おう!」


声は聞こえなくなり、真理は其処に一人佇んでいた。寒色の風が、吹き抜けていった。











「……お早う御座います。」


イブキは一通りの準備を終えたあと、部屋にやって来ていた真理へと言った。


「おはよ。良く眠れた?」


「実家ですからね。それなりには。」


イブキは自分の部屋を見回すと、ベッドから降りて勉強机の前に立ちすくむ。


「捜し物があるんです。」


「何を探してるの?」


イブキは振り向いて真理へと懐しそうに言った。


「父が、誕生日に僕にくれた銀製の断紙刃ペーパーナイフです。とても大切にしていたので……。この部屋にカラクリ箱を使って隠したんですが……もしかしたら他の部屋にもあるかも。」


「それじゃあ僕が探してくるよ。君はこの部屋を探してて!」


意気揚々と断紙刃を真理は冒険でもするかのように探し始める。その様子をイブキは見届けると、机の下へと潜る。目的の物はすぐに見つかって、カラクリを解いた。


「カラクリ箱だったのもありましたし、隠していたのも幸を成しましたね。盗られてないです。」


薄らと埃がついた机にカラクリ箱を置いて、開く。空いていた窓から鳥が入ってくるのと同時に、銀製の断紙刃が顔を出して、


「あ……鳥だ、可愛いですね。」


イブキは笑った。そして、それに手を伸ばした。


そして。








「見つかりましたよ!真理!」


イブキの宝物を発見した冒険者の様な声に真理は近付いていく。


「そうか、なら良かったよって、お、」


「すいません、ぶつかりそうになりました。でも、無事で何よりです!」


(……伊吹君、やたら上機嫌だな。まぁ、見つけたかった物が見つけられたから当然と言えば当然か……。)


「それじゃあ僕、先行ってますね!」


びゅん、と走り去って行ったイブキを見届けて、真理はイブキが開けっぱなしにした扉を覗く。


「なるほど、上機嫌ってのはこんな理由があったからだねぇ。」


薄らと白いくらいには埃が積もった机に、小鳥の惨殺死体があった。御丁寧にも近くには血を拭き取った跡がある。断紙刃の血を拭いたのだろう。


「……もう、きっとこれで終わりだよ、伊吹君。伊吹君の、もうこうやって物を壊すという事は、この場所で終わりなんだよ。」


真理は苦く笑いながら、最後の『罪』へと扉を閉めた。









「それじゃあ、行きましょうか。」


「捕まりに行くんだよね……。」


「とにもかくにも行かなくては。」


さて、とイブキは旧日栄帝国の城壁を超えて辺りを見回す。もう北狄の兵士達が走って来ていた。


「ちょっと暴れなくてはなりませんね。面倒臭い……。」


その言葉に合わせて、真理が容赦なく弾幕を繰り広げる。


「そうそう、その調子です。それでは僕も、よっと!」


峰打ちで無謀にも向かって来る全員倒して行くと、いつの間にか囲まれる。しかも霞んだ向こうには軍隊の姿も見える。


「いやぁ……これは無理ですね。」


イブキは態とらしく武器を落として手を上げた。降参の証だ。


「気をつけろ!相手は❛鬼門の多聞天❜だぞ!」


恐る恐る近寄る兵士をまどろっこしく感じたのか、イブキは逆に兵士に近付く。


「ほら、どうぞ。」


そうだ、と手を出してイブキは不思議そうに問うた。


「僕の処刑命令は出てないですか?あの塵芥虫ごみむしなら出しそうですが。」


(散々な言いようだなこれ……。)


真理は手に手錠をかけられながら呑気にそんな事を思っていた。


「塵芥虫とは失礼だぞ!」


「別にアレには失礼では無いでしょう。」


「お、お前……っ!あの方は我等の王なのだぞ!」


「……王?」


殴りかかろうとした男に一人の兵士が言葉で止める。


「まぁまぁ、❛鬼門の多聞天❜もご乱心なんだ。自分の不甲斐なさに。」


帽子を深くかぶって、相手は誰だか分からない。声の快活さから男というという事は分かる。イブキは訝しげに片眉を上げた。


「貴方……。」


「ほら、さっさと歩け!鞭で叩かれたいのか!」


「嫌ですよ。何でそんな何処ぞの看守みたいな趣味持ってんですか。」


収監される前に、イブキは確認する様に問うた。


「……そうだ。以前この北の城門を管理していた看守長は?」


「処刑されたぞ。基本的に北の城門の関係者は処刑された。貴様も時間の問題だな。」


「ちょ、痛い痛い!もうちょっと優しく扱ってよね!」


そうですか、とイブキが答える前に真理が悲鳴をあげる。


「ほら!入ってろ!」


「屈辱の極みですね……。」


そう忌々しく呟いたイブキに、真理は宥めるように言う。


「まぁまぁ、そういう事もあるって事で。」


薄暗い廊下に面している牢屋で、イブキは呟いた。


「僕は何時だって『閉じ込める側』の人間だったので。……ああ、緑珠様を監禁したい。」


「ちょっと黙ってたら?」


「だって緑珠様に会ってないんですよ。身が引き裂かれそうな思いです。断腸の念を極めてます。」


「断腸の念を極めると言うパワーワード。」


「何か悪いですか。と言うか何で野郎と牢屋に入らなくちゃ駄目なんですか。綺麗な女の人が良いです。」


「伊吹君って爽やかな好青年の顔してるけど、時たま見せる独占欲の濃さで全て終わるよね。」


「お前らちょっと黙ってろ!連絡が来たからな!」


「連絡……?」


真理が不思議そうに呟くと、イブキは拘束されていた鎖を全て外す。じゃらんじゃらんと鎖が下へと落ちた。


「これが『拘束』?『収監』?……されていた側の人が何も学ばないなんて、ちゃんちゃらおかしいですね。」


「鍵を解きやがった!直ぐに拘束しろ!」


かしましい!」


イブキは檻を蹴りあげると、見事に粉砕して見せた。


「な、な、な、け、拳銃をっ!発砲しろ!」


イブキは腰が抜けて歩けもしない目の前の兵士へ、どんどん近付いていく。からん、からんと鳴る下駄が幻想的で。


「はぁ?」


とんでもなく人を莫迦にした嗤い方で、イブキはあとを続けた。


「ただの人間様が、『鬼様(この僕)』に勝てるとでも?」


「伊吹くーん、脅してる暇あるなら僕の鎖も取ってくれない?」


「嫌です。自分の物は自分で取って下さい。」


イブキは兵士から取り上げた鍵を真理へと投げた。


「はいはい……よし、取れた。僕も力を貸すよ。何して欲しい?」


イブキは間髪入れずに返した。


「此処に居る兵士と戦うのが面倒だったので助かります。そうですね、眠らせて下さい。」


真理はそれを易々と承諾する。


「了解了解。よし、それでは……毒林檎の眠りを。何時かまた、君が世界を覗くまで。」


そう言うと、駆けつけてきていた兵士がバタバタと倒れていく。


「ナイスです、真理。それでは……行きましょうか。」


「え?何処に?」


はあ、とイブキは振り返らずに薄暗い階段を登りながら真理へと言った。


「管制室です。連絡の遮断をしなくては。」


仄暗い階段が、何処までも続いていた。

次回予告。新キャラが登場したり、倶利伽羅とイブキがはもったり、その二人の逸話が登場したり、人が死んだ話を聞かされたりと、相変わらずの千年怪奇譚!

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