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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第四章 最終決戦月面戦争 新帝都
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 19 光還る処

今回のあらすじ。相変わらず真理とイブキは仲が悪いわ、真理は美少女?に変身するのか?だったり緑珠の『目』に関わるお話だったり、そんなこんなの千年怪奇譚!

「で、どうするの?」


間髪入れずにイブキは返した。


「逃げます。今の僕に戦闘は無理です。」


「僕に頼っても良いんだよ?」


「断固拒否します。僕は貴方に頼るほど落ちぶれては居ません。」


それに、とイブキは付け加えて走り出した。


「何時魔力が必要になるか分からないんです。大人しくしてて下さい。ま、そーいう訳でー!」


きらきらと美しい笑顔を見せてイブキは言った。


「後ろの小軍隊の足止めを宜しくお願いしますね!」


「今の話の流れと反してない!?」


ばたばたと二人は旧『日栄帝国』へ走り出す。城壁が彼方へ見えていた。


「くっそう……よし、結界を貼れば……壁よ、興れ!」


透明な壁が興ったが、


「あ、そう言えば。多分あれは北狄ですから魔法通じないですよ。北狄は何故か魔法が通じないんです。」


「君の事一生労わってやんないからな!そういう事は先に言いなよ!」


「いや、何にも知らずに労力しか費やしてない姿が滑稽で……爆笑出来るので……。」


「性格ひん曲がってるでしょ!」


イブキは走りながら言い放った。


「魔法は通じませんが……魔法で作った物は通じます!」


「オーケー!了解!ようし、行くぞ!氷の壁(パレッドイャロウー!)」


二人の背後にかなりの長さの氷の壁が出来る。小軍隊はばらばらと止まり、それを見届けて二人は走り続ける。


「よし、上手くいきましたね。」


「大半やったの僕なんだけどね。」


「このまま根気で走り続けますよ!」


「無理!僕一応人間の身だから!飛ぶねー!」


「てっめぇ一人だけ走れるとか思ってんじゃねぇですよ!」


「掴むなぁー!!離してよ!」


ぶわん、とイブキの周りには焔が溢れる。


「無間地獄の底まで引き摺り堕としてご覧に入れましょう、黒炎こくえん、猛火のじ……あ。」


イブキはゆるりと振り返って、笑いながら手を合わせた。


「忘れていました……次に貴方が見る景色が、閻魔大王の御前であらんことを。」


「それ……良く言うよね。どうして?供養?」


イブキがとんでもなく面倒臭い表情を作って見せた。


「供養も有りますが……僕がこれ言わないと、あの人はどーにもこーにも仕事をしないので……何でもかんでも地獄逝きにするんですよ、あの人は。」


「え?何でそんな閻魔大王と親密な仲なの?」


イブキは至極当然の様に返答した。


「だって考えれば分かるじゃないですか。僕の家の始祖だからです。」


「は?でも、閻魔大王って人間じゃなかったっけ?」


「昔は人間だったらしいですが、生まれ変わるのが面倒なので鬼に変えたそうです。酒乱ですよ、あの女傑は。」


「……会ったことあるんだっけ。あの訛のキッつい閻魔大王に。」


「はい。『将来閻魔になってなー!』って言われたのでハッキリ嫌ですって応えたら『は?じゃあジブン今ここで死んでエエの?まだやり残したことあるんとちゃうん?』って言われました。もう泣きそうで……兎に角嫌って言って……もう兎に角面倒臭かったので……。」


イブキは何処か遠くを睨みながら呟いた。


「持てる独占欲を全て解き放って、『じゃあ好きな人を永遠に閉じ込めて良いんですね?』って聞いたら多大なもてなしのあと、早急に地上へ還されました。」


「絶対地獄中の全員が君のオーラで殺られただろ……。」


「別に僕の独占欲なんてそんな強い方ではありませんよ。」


「いや、この世の全員が死んで生まれ変わっても君の独占欲には遠く及ばないと思うよ?」


「どうでも良い話をしていたら着きましたね。」


「どうでも良いって自覚あったんだ……。」


二人の背後には太陽色の砂漠が鈍色に染まり、二人の前には白亜の巨大な壁があった。旧『日栄帝国』の城壁である。


「入れます?国の中に。」


「多分、僕じゃ無ければ入れる筈だから……僕じゃ無いようにすればいいんだよね?」


イブキがきょとんとしている中、真理は唸りながら呟いた。


「うーん……ま、之で良いか。よし、変身っと。」


何も変わらない。ただ風が吹くだけだ。


「……え、変身したんですか。」


「したよ?」


イブキは頭を掻きながら苦く真理へと言う。


「こう言うのって、ほら……『美少女♡に変身☆』とかじゃないんですか……?」


「そっちの方が良い?」


「いや、僕は人外に興味が無いので良いです。」


「因みに何処を変身したかって言うと身体に黒子ほくろ増やしただけなんだよね。」


「其れで良いんですか!?まぁそれで入れるなら良いですけど!」


「因みに何に変身して欲しかったの?」


イブキと真理は崩れ去ることない城壁へと足を進めていく。真理も難なく入れた。


「砂とか。」


「砂!?」


「イヤだってほら……風に巻かれて消えるじゃないですか。それで緑珠様が泣いて下されば万事OKです。可愛い泣き姿を見る事が出来ます……けれど……。」


むう、と少しだけ、ほんの少しだけ可愛い顔をして、爆弾発言を巻き起こす。この発言のお陰で周りが消し飛びそうな程だった。


「別の男の事で泣かれるのは嫌ですねぇ。腹が立つ。あの人の中心は僕じゃないと。心も、何もかも。」


「相変わらず日栄帝国の男性貴族は狂ってるというか……。」


「キメラの死体愛好家よりは何千倍とマシだと思います。」


「おんなじようなもんだと思うけどなぁって言ったら?」


「貴方に明日は来ません。」


「だよねぇ。」


白亜の城壁の中は、建物が崩れ落ちているだけで他は何も変わらなかった。恐らく内乱のせいだろう。そんな事を露知らず、空には星が瞬いている。


「今から何処へ行くの?」


荒れ果てた街の中、冷たい風が吹き抜けていく。ざくん、と耳と頬を切り裂いていく。


「光遷院邸に向かいます。彼処にならまだ食糧はあるので。多分腐って無いと思いますが。缶詰ですし。」


「まぁ、腐るはず無いもんね。時間止まってるし。」


「は?」


イブキは訝しげに眉を潜めた。


「伊吹君、感じないの?今さっきからこの辺りには風が吹いてない。吹いていたのは城門付近だ。」


でも、と口答えするイブキを見かねた真理が、傍にあった鳥を指さす。


「じゃああの飛んでいる鳥は?動いてないよね。」


「……ええ。」


「あの崩れかけた木片。地面に落ちてないよね。」


「……。」


「あの風に舞ってるゴミ。動いてないよね。……もういいかな?」


イブキは真理の説明を受けてやっと間に受ける。


「理解しました。しかし……時間が止まっているというのは、何か問題があるんですか?」


真理はぷんすこ怒りながら答えた。


「もう!分かんないの!?これだから魔力や霊力を持たない奴は……。」


「その続きを言えば可及的速やかに無間地獄まで引き摺り堕としてご覧に入れますよ。」


「分かった、分かったから、ほらね?」


真理は自分の首スレスレに当てられた『神鳳冷艶鋸』の柄を指さす。


「下げてくんない?」


「……分かりました。」


「疑問なんだけどさ。」


「何でしょうか。」


冷艶鋸を下げたイブキに、真理は尋ねる。


「どうしてその鋭利な刃を首につけないの?」


「……言ったら多分ドン引きするかと。」


「自覚あるの?」


「……ええ。」


「大体予想は付くよね。好きな人の最後を貰うと……か……?」


「!!」


「うっわー……極めてるわー……。」


イブキは深くため息を付いて答えた。


「はぁぁぁぁぁぁ……。」


「ため息なっが!というかこんなこと言ってる場合じゃないんだよ!何とか解除しなくちゃ……一生此処から出られない!」


「えー……めんどくさ……。」


「その投げやりは何なんだよ!」


「そう言われましてもね……僕には……。」


イブキは頭上を見上げながら言った。風が吹かなくとも外が寒いのは分かる。夜明けは直ぐそこだ。


「なぁんにも、見えないんですよねぇ……でも何で結界なんて張ってあるんでしょうか。一体、誰が、何時……。」


真理は頭を掻きながら苦虫を噛み潰したように答えた。


「何時?入った時ぐらいにかけられたみたいだね。要するに罠だ。で……誰が、って言うのは……分かるよね?伊吹君。」


「……冷泉帝ですか。」


「そうだね。あの子妖術使えたんだね。使えないと思ってた。」


イブキは目を細めて真理を見つめて言った。その瞳の奥には、悲しみが漂っている。


「それは、僕が使えないからですか。」


「違うよ、そういう意味で言ったんじゃなく、」


「良いんです。気にしないで下さい。……ずっとずっと、そうやって言われて続けて来たんです。さぁ、やらなくては駄目な事があるんでしょう?時間を止めていると言うのは、要するに結界。結界は『揺らぎ』があれば破れるもの。僕だって力添えぐらいはしてやりますとも。」


そうだ、とイブキは付け加えた。


「これを使えば、きっと僕は倒れます。一度行ったでしょ、光遷院邸。彼処に運んで下さいね。月面上は霊力が通りやすいから、霊力が無い僕でも、これが使えるんです。」


くすくすとイブキは笑って、神器を構えた。


「黒炎、猛火の陣!」


イブキの周りから黒い炎が巻き起こる。地獄の炎だ。黒い炎は、結界の中央へと集まっていく。


「ねぇ、伊吹君。」


「何でしょうか。」


掠れた声で、イブキは答えた。黒炎に塗れて、姿は見えない。


「君は妖術なんか使えなくても、充分評価に値する人間だよ。」


黒い炎の隙間から、酷く目を見開いたイブキの表情が見えた。そして、優しく、屈託無く笑った。


「有難う、御座います……!」


黒炎が、集まって集まってーー?


「それじゃあ僕も、頑張らなくちゃ。……開け結界、飛び出せ時の唄。僕の固有魔法『境界の歪曲』。」


がしゃんがしゃんと硝子が割れていく音が聞こえて、結界は崩れ去った。鳥は飛び、物はバサバサと落ち、風は吹き、砂は風化を促す。


「伊吹く……あ、寝てる……。」


ばたりと倒れているイブキに、真理は面倒臭そうに言い放った。


「つーか、何で僕が野郎運ばなくちゃなんないの?運ぶなら良い匂いのする女の子が良い!もう、嫌だし……移動魔法使っちゃお……。」


そんな様子を、『誰か』が高い城壁の上から眺めていた。姿は良く見えず、中性的な声だ。


「んー……どうやらお二人とも到着した様だね。私はもぉーっちょっと見ておこうかな。」


紅い瞳と煌めき、にやりと笑ったギザ歯が揺らめいた。










「見付けたわ!冷泉帝!」


緑珠は冷泉帝を呼び止めた。少し不思議そうに鵺の君は振り向いた。


「どうされましたか、緑珠李雅様。」


緑珠は手を固く握りしめて、王家の家系図を突き出した。


「これ、どういう事なの……教えなさい。」


「何が、ですかねぇ。」


態とらしく冷艶鋸は笑いながら、緑珠から無理矢理質問を引き出そうとする。


「私の、こと。……私の母親が誰なのか、教えて頂戴。」


「何故私が知っていると?私は王族ではありませんよ?」


ぎりりと歯を食いしばって緑珠は冷泉帝を睨みつけた。こんな奴に質問を投げかけると言うことが屈辱極まりない。


「分かっているんでしょ!私に見張りを付けなかったのも、資料室に鍵をかけなかったのも、全部全部、私にこれを見せるためなのよね!?それで、質問させるため!教えなさい!知っているからこんな事をしたのでしょう!?」


冷泉帝は臆さない緑珠にかつん、かつん、と靴を鳴らしながら近付く。


「知りたいんですよねぇ?私、知ってるんですよねぇ。」


冷泉帝は緑珠の目の部分を触った。余りの事態に緑珠は動くことも出来ない。


「な、にを……。」


「貴女の『目』に、何が見えているのか。それと、貴女の出生について。」


緑珠は触られていた目の部分の手を払い除けると、冷泉帝から離れる。


「は、なして!何で、何で『目』の事を、貴方が知ってるの!?お父様にもお母様にも言ってないのに!誰にも、何にも言ってないのに……!」


「見ていたら分かることですよ。貴女は、自分の絵画が描かれるのを過剰に嫌がりましたよねぇ。」


「そ、れは、座ってる時間が長いから!長くて退屈だから嫌だったのよ!」


冷泉帝はそれを無視して続ける。


「貴女は……。」


「やめて!言わないで!話すつもりが無いなら部屋に戻るわ!」


緑珠は部屋へと駆け出すなか、思考はもう滅茶苦茶だ。ばたんと扉を閉めて椅子に座る。


「何でっ、何で知ってるの?何で……見ていたら分かるって、そんなこと……。」


緑珠はそっと、自分自身の目に触れた。いっその事ならもう、抉り取ってしまおうか。こんな目なら、人と同じ様に見えない目なんて要らない。


「そうだ、抉り取るのだったらイブキにして貰えば良いじゃない。きっとあの子なら上手くやってくれるわ、痛くないわ。嬉嬉としてやってくれるわ。そう、そうよ。」


目から涙が溢れる。出しっぱなしの水道の様だ。


「こわ、い、何で、しってるのよぉ……痛いの、いやだ……わたしの、め、め、めが……。」


緑珠は嗚咽を上げて泣き始めた。













「あの狼狽えている様子は本当だった様ですね。」


冷泉帝は一拍置いたあと、冷静に呟いた。


「緑珠李雅様が『相貌失認』、と言う人の顔を判別出来ない病気だと言うのが。ただ……あの人の場合、人の顔を認知出来ない、と言うよりかは絵画や壁のシミなどが認知出来ない様ですが。人の顔は認知出来る様ですねぇ。」


冷泉帝は醜く口を歪める。


「何にせよ、これを利用しない手は無い。本人は誰にも相談せず、あの狼狽えようだ。上手く利用すれば、タダのからくり人形に……。」


「冷泉帝様!」


冷泉帝はゆっくりと後ろを振り向くと、兵士は傍にひざまづく。


「冷泉帝様。❛鬼門の多聞天❜が発見されたとの報告が。」


「殺しましたか?」


「いえ、逃げられました。捕えられる事自体が難しいかと。」


まぁ、何にせよと冷泉帝はにやりと笑う。とてつもなく楽しそうに。


「とにかく見つけ次第殺せ。必ず殺せ。あれを殺せば、もう敵の心配は無くなる。」


兵士は己の疑問を冷泉帝へと投げかけた。


「恐れながらお聞きしますに、どうして冷泉帝様は光遷院と敵対なされるのですか。」


上機嫌だった冷泉帝の顔が一気に失せて、一気に不機嫌になる。


「まぁ、元より因縁があるのは確かですが……あの❛バケモノ❜は、国一つ陥落させるなど朝飯前なのですよ。自分の手で人を殺させない奸智を持つ❛バケモノ❜です。とにかく、見つけ次第早急に殺せ。」


殺気が、廊下へと溢れた。

次回予告。イブキがキャラ崩壊したり彼の闇が見えたり真理が大活躍したりと、相変わらずのどんでん返しが楽しい千年怪奇譚!

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