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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第四章 最終決戦月面戦争 新帝都
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ラプラスの魔物 18 蓬壷の泉

今回は少し短めかな?という訳で、前回のあらすじ。緑珠を攫った倶利伽羅。序幕は終わり、月面戦争が本番戦へ!イブキの秘密を知った緑珠、その時彼女は?そして光遷院 伊吹の本領が発揮される……!

「いや!帰して!私を地上へ帰してよ!帰してったら!」


「はいはい、暴れない暴れない。この離宮では貴女は自由なんですからねぇ。この上ない物でしょう?」


「帰して!」


駄々を捏ねる緑珠を半ば呆れた様子で見ながら、冷泉帝は言い放った。


「帰ってるじゃありませんか。貴女の故郷へ。」


「違う!私は、皆が居る地上に帰りたいの!お願い、帰してよ……!」


ひっくひっくと嗚咽を上げながら泣きじゃくる緑珠を放っておいて冷泉帝はばたんと扉を閉める。


「えぐっ……ひっく、……みんなに、みんなに会いたい……誰か助けて……。」


涙を拭いながら、緑珠は何とか思考を巡らせる。


(泣くだけじゃ駄目だわ……何か、連絡を取れる方法を……水鏡があれば……。)


思い立ったが吉日、緑珠はチェストの中身を全部投げ出すと、花瓶の中の水を空になったチェストの引き出しに注ぐ。


相手の姿が見えやすい様に、レターセットの白い紙を入れて、さぁ!


「水鏡、水鏡。全てをありのままに写す水鏡よ。願いを通して!」


冷たい水面に波紋が起こって、水同士が擦れ合ってーーー


『ん……んー!!!!』


「大丈夫よ、真理。パンをちゃんと食べてから話したら良いから。」


もぐもぐとタルトを頬張っていた真理に、緑珠は優しく言った。だが、その声も少し潤んでは居たが。


「良かった、良かった、真理……鏡越しだけど、こうしてまた会えた……。」


緑珠の目からは耐えきれなくなった雫がぽたぽたと零れ落ちていく。


『緑珠!大丈夫?変な事されてない?』


「大丈夫。……えぐっ、う、真理、真理……。」


『ちょっと待って、今伊吹君を、ぐぶっ!』


イブキは呼ばれる前に真理を蹴り倒すと、


『緑珠様!大丈夫ですか!?』


「う、えぐっ、えぐ……真理、イブキ……良かった、また会えた。良かった、本当に良かった……!」


イブキは苦い顔をしながら緑珠へと微笑む。


「泣かないで下さい。お願いですから。あぁ、貴女の涙を拭えないのが心底疎ましい……貴女は笑ってる姿が一番良いんですから。泣かないで。」


『うぐっ、うん、泣かない、ひぐっ、うっ、私は、大丈、夫、だからね?心、配しない、で、』


「……貴女は、」


『ど、したの?ひっく、』


いえ、とイブキは目を細めて言った。緑珠。少し咎める様に。


『いえ、何でもありません。それよりも緑珠様は一体何処に幽閉されたのですか?』


「分からないの……。」


あ、でも、と緑珠は付け加えて言った。


「私達が住んでいた日栄とは、反対の方向へ行ったのは覚えているわ。幻想的でとても綺麗な桃源郷の様な離宮なのだけれど……。」


『絆されてはなりませんよ、緑珠様。冷泉帝は幻術の使い手ですから。』


しょんぼりとしながら緑珠は言った。


「分かってるわよ……でも、若しかしたら此処は牢屋なのかもしれないと思って生活するのは辛い事だわ……。」


『申し訳ありません……僕が不甲斐ないばかりに……。』


「貴方だけの失態では無いわ。油断していた私の責任でもあるのよ。」


イブキは目を見開いて緑珠を見つめた。


『緑珠様……それ、真理にも同じことを言われたんです。』


「で、貴方はカッコつけて『僕はそれで納得』してるやなんや言ったんでしょう?」


ぽかーんとしてあんぐりと口を開いたイブキに、緑珠は言い放つ。


『貴方は少し背負いすぎだわ。私にも分けて頂戴。』


「けれど、そんな重荷は」


『貴女には渡させない?冗談も程々になさい。大丈夫。私は貴方の主なのだから、ね?私にも、少しくらい分けたって良いでしょう?』


「……はい。」


『泣かない泣かない。男でしょ?……人が来てるわ。それじゃあね。』


ぷつんと水鏡の通信が切れて、蹴り倒された真理がぐぐっと身体を起こした。


「痛い……蹴り倒すって、君ねぇ……僕も緑珠と話しても良かったんじゃない?」


「駄目です。貴方が話すには勿体ない方ですので。」


イブキは俯いて、


「その……あ、有難う、御座いました。」


カクカクした言葉をイブキは呟く。


「水鏡が繋がったのも、真理のお陰ですし……え、っと、一応は僕を気遣ってくれて、本当に……う、あ、有難う、御座いました……。」


「嫌々って感じが凄く否めないんだけど。」


「煩い!僕だって『仕方無く』言って差し上げてるんです!」


「その恩着せがましい敬語は嫌だなぁ。にしてもいきなりだね。緑珠に何か言われた?」


「別に、何も。」


でもほら、とイブキは調子が悪そうに続ける。


「な、仲間ですし……それだけのコトは、してくれたので……。」


真理は耐えきれなくなった様子で、くすくすと笑った。


「あはは!面白いね、人間は!素直に礼を言って恥ずかしいのかい?」


「煩い煩い!それ以上喋るとトリカブト口の中に突っ込みますよ!」


「えっ……それはご遠慮したいな……ね、それよりも緑珠の居所は分かったの?」


イブキは少し考え込んだあと、たどたどしく答えた。


「分かり、ました……多分。それにしても、何故?とは思いますが。」


「何が?」


眉をひそめたままイブキは言った。


「……まだ、確証が無いのではっきりとは。出発は明日の明朝です。長い戦いになりますよ。」











「はっくしゅん!」


緑珠は夜空を見上げながらくしゃみをした。窓は、有るには有るが鉄格子が嵌められていて、逃げるに逃げられない。


「……寂しい。昔の日栄でも、こんなに寂しいことなんて無かったのに……。」


巡回の見張りが居ないのを見計らって、緑珠は外へと出た。幽閉されたばかりで離宮がどの様な環境に有るか分からない。


「軽く探検ね。」


庭にある見慣れない草木に緑珠は触れた。どうやらこの離宮は盆地に作られたらしく、辺りを見回しても淡い紫色の崖しか見えない。


「こんな植物、日栄にあったかしら。」


その瞬間、ズキン、と胸が痛む。


(こんな問いかけをしたら、イブキは答えてくれて、真理はどんな時に使うかを教えてくれたりして……。)


豪奢な東屋の先には、とろんとした色合いの水があった。


(……いえ、私がどうにかしなくちゃ。助けてなんて言っちゃ駄目だわ。私は元皇女なのだから。)


それでもぽたぽた涙が零れて、在りし日の思い出を掴もうとする。そんな事をすれば虚しいだけなのに。心が張り裂けるだけなのに。


「……ぐすっ。」


私と宮廷は根本的に合わないのだわ、と心の片隅でこの状況から逃げ出しながら、緑珠は来た道を引き返す。通りかかった道に、ふと気になる字が見える。


「『資料室』……?」


緑珠が居るからだろうか。宮廷にもありそうな巨大な文書室が見える。鍵はかかっていない。見張りも居ない。


「……。」


多大なる違和感の結晶が、緑珠の心を蝕んでいく。幽閉されたばかりなのにこれはおかしい。冷泉帝がここまで甘い訳がない。それでも、


「……見たい。」


純粋な好奇心が緑珠を動かすと、埃の臭いで溢れる資料室が顔を出す。がちゃりと扉を閉めると、緑珠は呪文を唱えた。それは炎の魔法。


「光を届け、美しき名。我等を導きし灯火よ。」


ふんわりと暖かい光が緑珠の頭上に現れて、誰も居ない資料室を照らし上げる。


そう言えば、誰かいるかもしれないなんて警戒心すら薄れてしまったのかもしれない。足音をなるべく立てずに、奥へ奥へと進んでいく。そして、


「文書……文書……めぼしいもの……あら、これは……?」


緑珠が触れた文書から、誰かの写真がするりと抜ける。そして、待っていた様に数枚の紙が落ちる。


「これ、王家の血筋が記された家系図よね……。何でこんな物がこんな所に?」


初代からの名前を、緑珠は懇切丁寧になぞって行く。


戚岑せきしんがお祖父様じいさまで……李烏山、お父様の名前ね。その隣はーーー」


少しの間、それを凝視して出した結論は、


「無い、無いわ。お母様の名前が無い……。」


『李烏山』と記された隣に、配偶者は居らず何かが捲られた跡が残っていた。その下に申し訳程度に『緑珠李雅』と書かれている。


「私は……誰の子なの?」


緑珠は家系図と写真を胸元へと仕舞うと、一番目星を付けていた物を探す。


「か……き、き、……あった、❛鬼門の多聞天❜……。」


それはずっと、イブキが隠し続けていたもの。『御耳に入れたく無い』、と拒否し続けてきたモノ。ゆっくりと頁に触れて、書類を開いた。一年程前の報告書に、


北狄ほくてきの捕獲、処刑は順調。今年度は前年度に比べて捕獲数が激増。』


「北狄……?」


緑珠はペラペラと紙を捲っていくと、『北狄』と言うのが北の異民族の蔑称だという事が判った。其処からまた数ヶ月。


『北狄の尋問に、❛鬼門の羅刹❜と言う供述が相次ぐ。だが、尋問すると少し羅刹と言うのは違うらしい。恐怖のあまりその後の供述は掴めず。❛鬼門の多聞天❜とも呼ばれている。以後はこの名で呼ぶ事に決定。正体の究明に尽力する。』


訝しげに緑珠はどんどん頁を捲る。急ぎ過ぎて指に擦り傷を作った。


『❛鬼門の多聞天❜の正体が判明。名は『光遷院 伊吹』。言わずもがな光遷院家の跡取りである。蓬泉院家にはこの内情を伝える予定は無し。』


そして、❛鬼門の多聞天❜の最後の記述、即ち最新の記述には、こう書かれていた。


『❛鬼門の多聞天❜の周りで不審死が相次ぐ。』


「不審死……。」


緑珠は兎にも角にも書類を掻っ攫ってその場を離れる。部屋へと一直線だ。誰も居ないのが不安だが、元より嵌められたのは分かっていたはずだ。


「とにかく、バレない場所に……。」


そんな場所は緑珠の部屋に無い。だが、この情報群も抱いて寝れば問題ないだろう。


「寒い、寒い……。」


緑珠はぽたりと涙を落として、そう呟いた。










同刻。


「それでは、行くとしましょうか。」


「華幻ちゃんには言わなくて良いの?」


「昨日の内に伝えておきましたから大丈夫です。さて、と。」


イブキは軽く書いた地図を広げて真理へ見せた。


「真理は日栄帝国には入れないんですよね?」


「ソウデス……。」


なら、とイブキは砂漠を指さした。


「この北の砂漠ならどうでしょうか。一応、日栄帝国の領土ですが。」


少し、考え込みながら真理は答えた。


「結界は一番外側の方が薄い傾向にあるなら……無理、じゃ無いかも。」


「それじゃあ其処で良いです。早く参りましょう。」


真理がふんふーん、と魔法陣を描いているあいだ、イブキはぼんやりと考えていた。


「昨日から何か考え込んで居るよね。何か気になる事でも?」


「……いえ、全て行けば分かることですので、お気になさらず。」


庭に描きあげた魔法陣を見て、真理は歓喜の声を上げた。


「よし!描けた!ほらほら、魔法陣の中に入ってー!」


イブキは言われるがままに入ると、ふぉん、と音がして直ぐに砂漠の砂が頬に当たる。


「……帰って来た……やっぱり真夜中の砂漠は寒いです。」


「えっ!?これ真夜中なの!?向こうは夜明けだったじゃん!」


「向こうと此方とでは時間が真反対なんですよ。……こんなに寒いと、城兵時代を思い出します。」


感慨に耽っているイブキに、真理は問うた。


「君……分かってただろ。こうなること。」


ゆっくりとイブキは真理へと目を合わせた。


「分かっていましたよ。勿論。」


「!!」


「でも……見たくなかった。そんな現実が来るのは、どうしても認めたくなかった……。」


軽い砂嵐の向こう側から、兵士が幾人と現れる。イブキは真理を押し付ける。


「真理、ちょっと誑かして何とかしてきて下さい。」


「そんな抽象的で適当な……君が行けば良いじゃないか。」


「断固拒否します。良いから早く。」


真理は渋々兵士達に声をかける。しかし、朗らかな雰囲気を纏って。


「今日は。」


「何者だ?此処は亡国領だぞ!」


「すいません……地上の者でして。偶々転送魔法で此処に辿り着いたのです。」


兵士は少し話し合った後、真理へと尋ねる。


「お前の状態は分かった。お前一人か?」


「いや、もう一人居ます。来てよ!」


深くマントを被って、イブキは無言で出

来た。兵士の一人がイブキへと問う。


「おい、お前。マントを取れ。怪しまれるぞ。」


イブキはかなり諦めきった諦観の声を出す。


「別に構いませんが……取ったあと、あーだこーだ言われるのは嫌なんですよねぇ。」


その声を聞いた瞬間、兵士は猫っ飛びをする。


「な、な、その声は……。」


「おや、僕の事をご存知ですか?北狄ほくてき……北の砂漠の部族さん。」


「し、白々しいぞ!」


「……何がです?」


イブキは少し訝しげに、そしてちょっと態とらしく問う。


「ちょちょちょ、これどうなってんの!?」


「んー……?まぁ、それ相応に面倒臭い状況という事で片付けてくれませんかねぇ。」


「お、お前は……!❛鬼門の多聞天❜!何故こんなところに居る!?地上に逃げたのでは無かったのか!?」


「まぁそうですね。そう捉えて頂いて構いません。」


ぞろぞろと他の兵士が現れて、二人を囲む。


「これは戦闘かい?」


「いえ、こんな雑魚どもは……僕一人で充分です。」


「軽く小さい軍隊だけど?」


「僕の名前は光遷院 伊吹。二言はありません。という訳でちょっと黙ってて下さい。」


「はいはい。」


ふわん、と周りの空気が暖かくなる。と言うか高温の熱気だ。


「八十二……五、南、秒……。」


「何してるの?というかあっつ!何これ!?え!?も、もしかして、僕が知るに、これは……。」


「八、七……五……南西の風……。」


「おい、何をぼおっとしている!捕らえろ!」


「……煩いです。黙って下さい。」


イブキがそう告げた瞬間には、小軍隊はばったりと倒れていた。イブキはだらんと上半身を下半身で支える。鼻血が止まらない。


「大丈夫?水飲む?」


「黙って下さい……『脳が酔った』……。」


「!?そ、それは、あの子と同じ……!」


「はぁ?」


「いや、何でも無い……。」


「僕、昔言いましたよね。『人間が駒に見える』と。」


「確かに、言ったけど……それは比喩表現なんじゃ……。」


「違います。……城兵時代の癖で、基本的に小軍隊は駒の様に見えるんです。その癖が、日常生活でも感染うつって……僕は人間が、駒に見える。と言うか駒に見ないと小軍隊なんて脳がキャパオーバーを起こす。簡易な物に置きかけないと……。」


真理が何とかイブキの言葉を反芻して問うた。


「え、じゃあ、君のアレは……周りの熱が熱くなってたのは……。」


「スペックの低いスーパーコンピューターの演算だと言えばわかりやすいかと。」


ゆっくりとイブキは上半身を起こして鼻血を拭く。


「君の脳のスペックは低いの?鬼なのに?」


イブキは深呼吸しながら答えた。


「鬼とは五感が人よりも異常に優れているくらいしか、これだけ血が薄まった今ではそれぐらいの能力しか無いんです。霊力も無いし……後は人よりも身体が頑丈、再生能力の異常さだとか。あ、やり過ぎた……。」


何か肌色の物が鼻からほんの少し溢れる。


「僕の勘違いだったら良いんだけど……それ、……『脳味噌』?」


「御名答です。……だから、普通の人間はこれが出来ない。多分途中の方から演算処理で脳がドロドロに溶けます。僕でもかなりギリギリなんです。それに、今日は少し使いすぎた……脳が痛い……。話す度、呼吸をする度、生きている間が辛い……。」


「ね、辛い所悪いんだけど……。」


「さっきのでまた呼んでしまいましたか。さて、どうしますかねぇ……?」


イブキと真理の周りには、またもや小軍隊が取り巻いていた。

次回も少し短いです!それでは次回予告!相変わらず真理とイブキは仲が悪いわ、真理は美少女?に変身するのか?だったり緑珠の『目』に関わるお話だったり、そんなこんなの千年怪奇譚!

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